いろは、やちよ、鶴乃、フェリシア、さなは車椅子に座り一点を見つめて沈黙するにけにただただ衝撃を隠しきれなかった
「にけさん……?」
「にけ……!」
あら、とみたまは近づくいろはとやちよを邪魔するように立った
「気持ちはわかるけど話したいなら一人一人にしてもらえない?
にけちゃんをびっくりさせちゃうかもしれないから」
いろはとやちよはにけを見て顔を沈ませた
反応が全くない。目を開きながら死んでいると言われても頷けるような状態だった
「くっそぉ。こんなんじゃ、仕返しもできないじゃんか」
「フェリシア……」
鶴乃はフェリシアの肩に手を置く
フェリシアはごしごしと腕で目元を擦っていた
「その、わたしからで良いでしょうか?」
最初に声をあげたのはさなだった
ずんずんと前を進みいろはややちよ、みたますらも道を譲る
「……にけさん」
しゃがむとさなは両手でにけの片手を掴んだ
やや躊躇いがちに掴んではいるが、しっかりと引き寄せた
「あなたのことはみふゆさんから色々と聞いたんですけど……実はその、言いそびれたことがありまして」
さなの視線はにけに負けず劣らず定まらない
なんとか気持ちを伝えよう、というその思いだけで立っていた
「……ありがとうございました」
握った片手はそのままに深く礼をした
天井をみるか地面をみるかだったにけの視線がさなの両手を捉える
「わたし、実は知ってたんです。アリナさんを丸こげにするあなたを。わたしは見ていました」
さなは真っ直ぐとにけを見た
だから、とさなは続ける
「どうしても一言お礼が、言いたくって……それで」
さなはにけの表情をまともにみた。あの時の印象どころか生気すらももうなかった
みたまはやちよと目を合わせてから、さなに近付いて肩を抱いた
「ありがとう、さなちゃん。にけちゃんもとっても喜んでると思うわ」
「うっ、うっ。あぁぁっ……!」
にけはゆっくりと離れ落ちるさなの手をみていた
ありがとう、とみたまはさなを撫でて慰めている
「あっ、フェリシア! 待って!」
うるせぇ、とフェリシアは鶴乃の制止を降りきった
にけに駆け寄り襟元を掴む
「てめぇ、きたねーぞ! そりゃかわいそーだとは思うけどさぁ! おまえだけそんな、置物みてーになっちまったら! 責められるものも責められねーじゃん!」
フェリシアはにけの顔を引き寄せる
やはり、その目にはなにかを映す機能がないようであった
「てめぇ、嘗められるのが嫌いだったんじゃなかったのかよ! やり返してこいよ! なぁっ!」
フェリシアはぐわんぐわんとにけを揺すった
されるがままであった
「くそ。まるで張り合いがねぇ」
畜生、と言い捨てて掴む力が弱まっていく
鶴乃がフェリシアに近付いた
「やり過ぎ」
「うるせぇ」
鶴乃は両手でフェリシアの脇を掴みにけから引き離した
なんだよ、とフェリシアは不貞腐れたように床に胡座をかいて座った
「あーあ。折角のお洋服がヨレヨレに……なってない!
そうか。これ魔法少女服!?」
鶴乃は大げさに狼狽えた
にけの視線は、目を擦っているフェリシアにある
「……そう。ずっとそのままなのよ」
「ええっ!? だ、大丈夫なの?」
さなの背中を擦りながらみたまは鶴乃に首を横に振った
鶴乃は顔を俯かせる
「……。にけちゃんはさ、その、頑張りすぎたんだよね
あたしなんかには真似、できないや」
鶴乃はにけに近付いて肩に片手を置いた
瞳は潤んでいるがその表情は明るく、熱意の籠ったものであった
「元気になったら、万々歳に来てね!」
「結局宣伝じゃない鶴乃。代わりなさい」
最後に親指を立てると笑顔を見せた
酷いよししょー、と鶴乃はやちよに押し退けられる
「久し振り、にけ。いえ、あなたにとっては久し振りでもないのかしらね……」
にけの脚の先から頭の天辺までゆっくりと見た
そうして、小さく溜め息をつく
「本当。あなたに会ってから事件が多いわね
なんだか倍くらい疲れた気がするわ」
ふふ、と笑うやちよの表情には余裕は見えなかった
むしろそのまま沈んでしまいそうでいて
「みんなが揃って。みふゆもいろはも取り戻して。あとは貴方が元気になったら……よかったんだけど」
片手を伸ばしてにけの頬を触る
やちよは目を細めて、微笑みを浮かべた
「あなたへの報酬、貯まっていく一方じゃない。にけ」
にけは鶴乃の方に向けていた視線をやちよにゆっくりと移動させた
「……動いた?」
「あら、流石やちよさん鋭いわねぇ。にけちゃんはきちんと反応もするのよ?
でも、珍しい。意識してる時に目を合わせてくれるなんて」
一瞬みたまの方を向くと得心がいったように頷いた
興味深くにけの瞳を覗く。やちよの瞳に吸い込まれるように覗き返しているようであった
「……あなたも頑張っているのね
それなら、わたしから言えることはないわ」
養正なさい、とやちよはにけに背を向けて離れた
いろははやちよに片手で肩を叩かれる
「……その」
いろはは周りをみた。さな、フェリシア、鶴乃、やちよ。既に言葉は尽くされているといえる。しかしいろはは進んだ
にけの前まで行って、口を開く
「ごめんなさい、わたしーー」
いろはが深く一礼する。にけはここで突然頁を開き続ける本を片手に出現させた
「あっーー!」
「待って! やちよさん!」
やちよがいろはを庇おうと動くがこれをいろはは制止した
口こそ開いているがにけの視線は未だに定まらない
「ーーフィオリ、オルテンシ、ア」
本から放たれた紫色に輝く魔弾はいろはの肩口を通る
透明化した熊型のウワサに穴が開いてぽん、と間抜けな音を出して消え失せた
「……ウワサを、撃ち抜いた?」
やちよがにけに目を向ける
本が手からこぼれ落ちて消えていた
「にけさん……?」
いろはが言葉を溢すとみたまが駆け寄る
にけは車椅子の上でぐったりとして目を開かなかった
「……待ってください。待って!
わたし、まだあなたになにも返せてません! にけさんっ!」
いろはが呼び掛け続ける中みたまは車椅子の背に回り込む
にけの額に片手を当てて神妙な顔になっていた
「……どう? みたま」
やちよが祈るような顔で見る
みたまをもってしても首を捻る事態だった
「ーーわからない」
「そんな……!」
やちよは瞳を震わせる
いろはは涙を溜めながらにけの片手を掴みとり魔法少女姿に変身した
「わたし、役立たずですけど……! にけさん。あなたを助けたい!」
「いろは……」
やちよは回復に勤しむいろはを黙って見続けた
はぁ、とフェリシアが溜め息をつく
「やっぱあいつ、気に入らねぇ」
「……フェリシア」
悔しそうに顔を歪めてフェリシアは涙を流した
そんなフェリシアを背中から抱き寄せ、鶴乃は慰めた
「にけさん……」
さなは両手を胸元で重ねる
そして祈るように目をつむった
「みたま。どう?」
「ーー待って。捕まえられそう」
やちよは固唾を飲んでみたまを見つめた
無力感かまたは不安からか白むまで衣服を掴みしわを作っていた
「いろはちゃん。ファインプレーだったわ」
「本当ですか!?」
ええ、とみたまはいろはに笑顔を見せた
にけは未だに車椅子の上でぐったりとしているが肩はゆっくりと上下していた
「……にけはどうなったの?」
「元からにけちゃんの魂はバラバラだったのよねぇ。できうる限りは元の状態に戻したけどーー」
やちよが深刻そうな顔でみたまに近付く
肩を竦めるみたまの表情は晴れない
「祈るしかないんですか?」
おずおずと訊ねるいろはにみたまは大きく頷いた
いろはの表情が曇る。そんな折、神浜中にサイレンが響き渡った
「くっ、こんな時に!」
やちよが警報装置を睨む
みたまも慌ててにけを調整屋の奥へ運ぼうと車椅子を押した