ティーカップに映る自分の姿を見た
わたしは越えたんだ。あの絶望を越えた。正直、未だに現実感がない
「……おいしいね、ほむらちゃん」
対面に座るまどかにこくり、と頷く
有名な茶葉らしいが実は全く味がわからない
「その……ありがとうございます。用件が済みましたらすぐにお暇致しますので」
まどかの隣にはみふゆという人物が座っている
彼女はまどかに連れられてわざわざわたしの家にまで訪ねてきたのだ
巴マミや美樹さやかにも会ってきた、どうしても謝りたいと押されてはわたしも困りはててしまう
聞くだけ聞いてあげて、とまどかに後押しされなければわたしはこれを受け入れることはなかっただろう
本当にお人好しなんだから。わたしはまどかの優しさを再確認した
神浜を特別な街に仕立てていたドッペルシステムだが、驚くべきことにこれらはまだ残っているという
それもこれもエンブリオイブの副産物だというのだから二度驚かされた。神浜に残る災害の爪痕こそ大きいが魔法少女同士協力しあい、復興に向かっているそうだ
良かったら、と話の途中で纏まった量のグリーフシードを貰った。正直受けとる気はしなかったがまぁなくて損をするものでもない
調整屋にもいつ来ても良いらしい。そういえばわたしはついに利用することはなかった
まどかが気になって環いろはという娘の話題を出していた。多分二、三回しかあっていないが、妹を探していると耳にはしていた
環いろははワルプルギスの夜を葬った後に妹であるういと奇跡的に再会を果たしたらしい。素直に喜ばしい内容であった
わたしから“にけ”という娘の名を出すとみふゆは泣き出しそうになりながらも色々と答えてくれた
彼女についてはアリナという悪い魔法少女に変えられてしまった話だけは聞いていたのだが、そんな軽い気持ちで出す名前ではなかったとすぐに後悔することになった
元は誠実な魔法少女であったとか自分は助けられる立場だったがついに助けることは叶わなかった等と事細かに語られた
やがてわたしは本題はこれであったらしいと察することになる
彼女はあれで愛されていたということだ。正直羨ましいとすら感じた
死ぬにしても死なないにしてもあんな最後を目の前で見せ付けられれば部外者のわたしでさえ印象に残る。忘れようだなんてできるはずはなかったというのに
彼女がワルプルギスの夜という“天災”に立ち向かい退けた事実は拭い去りようもない事実なのだから
「……しかし、これはあくまで“無力化”なんです」
みふゆはそう切り出すとわかりやすく声を沈ませた
次にいつ来るのか、そもそも次があるのかがわからない。もしかしたらもしかするかもしれない。そういうことらしい
それはにけ自身から最後に聞いていた内容でもあった。だから覚悟はしていたつもりだ
ワルプルギスの夜がいつ来るのかわからない状態になってしまったのは確かに痛いが、来たらその時は戦うしかないのだ。やることなんて変わらない。そのようなことを口にするとみふゆは黙りこんでしまったが
言うだけ言って最後に土下座する勢いで謝ってみふゆは帰っていく。短いようで長い時間であった
なによりもその後ろ姿がどこか寂しそうで居たたまれない思いを覚えた。恐らくもう二度と会うことはないのだろうけれど
「もし、またワルプルギスの夜がやって来るとしたらーー」
「来ないよ」
まどかはティーカップを置いてからきっぱりと告げた
片手には指輪が光っている。それはまどかが魔法少女であるという証拠であり契約してしまった証だ。それを見るだけでもわたしは狂いそうになる。時を遡りたくなってしまう
「ええ、だから……もしもの話よ」
五人であの日をみてしまった影響は大きく、まどかに限らず巴マミや美樹さやかからは気持ちが悪いくらい優しく接してもらっている
こんなはずではなかった。今となっては殆どなにもできない自分を悔やんでそんな思いが膨らむばかりである
「わたしはそれでもあなたを護るわ。まどか」
「……ほむらちゃん」
決意を固めたわたしに少し口を開けて呆けたような顔をまどかは向ける
わたしは今まどかの盾にすらなれるかわからない。そんな状態でする告白のどこに説得力があったのだろう。わたしは今、どんな顔をしているのだろうか
「ありがとう。ほむらちゃん」
まどかは真っ直ぐとわたしを見て微笑みを向けた
最後にこの笑顔をわたしは自らの手でなかったことにすることができるのだろうか。またあの日に戻ってうまく挨拶することができるのだろうか?
「ーー難しいわね。信じるって」
少なくとも最後を見るまではわからない。そう思い直してわたしはまどかの微笑みに答えた
今という未来を無下にはしたくない。あなたもきっとそれを望んでいるのだろうから
にけさんがワルプルギスの夜と消えてから随分と経ちました。ワルプルギスの夜は恐らくにけさんが命を使ってやっつけてくれたものだと考えています
わたしや、やちよさん。他のみんなもこの事実を受け入れつつあります
魔法少女は最後を選べない。でもにけは最後を選び取ることができたのよ。やちよさんがそんなことを言ってました
厳しい中に暖かみの溢れるやちよさんらしい言葉です。落ち込むわたしを見かねてやちよさんなりにわたしを慰めてくれたのでしょう。やちよさんだって傷付いているのに思いやってくれたその気持ちだけでも嬉しく思います
鶴乃ちゃんはやちよさんやフェリシアちゃん、みふゆさんをところ構わず笑わせよう、場をなごませようと頑張ってくれています
でも鶴乃ちゃんが笑顔でいてさえくれればみんな笑えるのです。わたしも頑張らなくていいんだよ、と釘は刺しているのですが
フェリシアちゃんはういを巻き込んでデカゴンボールを集めて本気でにけさんを生き返らせるつもりらしいです
ずっとにけさんに構ってほしかったのかもしれません。フェリシアちゃんなりに現実を受け入れてますが立ち直るまでにはもう少し時間がかかりそうです
さなちゃんに至ってはアイちゃんやにけさんに笑われないような魔法少女にと魔女に飽きたらずタロットにも興味を出し始めて絶賛迷走中です。引っ込み思案がやや克服されたのは嬉しい変化なのですが、空回りしないか見守る必要がありそうです
黒羽根だった魔法少女達の中ではにけさんを惜しむ人もいたのだとか。そう仰ってるみふゆさんが一番悲しそうです。一人泣いているところを時折目にします
わたしでは相談相手にはならないと思うので、気にしてあげてとやちよさんや灯花ちゃんとねむちゃんにお願いしています
灯花ちゃんやねむちゃんはほとんど部屋に籠って作業しています。わたしを部屋に入れてはくれるのですが素っ気なくて必要な会話しかしてくれません
ういやみふゆさん、万年桜さんによると大丈夫、とのことなのですが少し心配です。当たり前ですがにけさんがいなくなった影響は未だに深そうに思います
残されたドッペルシステムも灯花ちゃん、ねむちゃん、みふゆさんらと話し合い、世界に広げるよりはわたしたちはわたしたちの手の届く範囲を助けようという風に落ち着きました
それでも魔女を呼び集めてしまった事実は拭えません。灯花ちゃん、ねむちゃんが重ねた罪はわたしたちの罪として一緒に向き合っていくつもりです
一緒に向き合うにあたっては、わたし、やちよさん、鶴乃ちゃん、フェリシアちゃん、さなちゃん、うい、みふゆさん、灯花ちゃん、ねむちゃんの九人で神浜マギアユニオンという組織名を着け小さいながらも活動してます
交渉には主にやちよさんとたまにみふゆさんがしてくれています。勉学に励みなさいとのことです。二人ともいつ倒れないか心配なので毎回百点取れるよう頑張っています
騒動中も東と西で別れて未だに荒れていた神浜ですがふと訪れた来訪者に救われた事実から内輪で揉めても、という方向に話が進んでうまくいきそうです
これらにはみたまさんの働きかけも大きかったようです。誰かさんの影響かしらね、と消え入りそうに笑っていた顔が印象に残ります
みたまさんは調整屋として神浜でなくてはならない存在です。ももこさんが気にしてくれているので大丈夫だとは思いますが、頑張りすぎないように支えていきたいと思います
神浜の復興は順調に進んでいます。黒羽根だったみなさんも協力的だった事は以外でしたし嬉しく思いました
みんな傷付きながらも支えあっていく強い意思と理想をもっています。彼女らに関してはわたしたちが刺激する事は野暮かもしれません
「どうしたの。おねぇちゃん?」
「ううん、うい。なんでもない」
最近はこうしてベッドに入っても眠れないことが多く妹には心配をかけています
環うい。ワルプルギスの夜をにけさんが追い出してしばらくしてエンブリオイブの宝石に閉じ込められているところを小さなQBの導きにより発見しました
うい。わたしの大切な妹。命よりも大切なかけがえのない存在。もう二度と離れ離れになりたくないです
にけさんはエンブリオイブにういが存在していたことを知っていたのでしょうか? そう思うと未だに胸が締め付けられそうになってしまいます
にけさんがエンブリオイブを奪おうとするアリナを懸命に阻止したことは灯花ちゃんやねむちゃんに聞いています。もしもあの時エンブリオイブがアリナの手に渡っていたらわたしたちは出会えていたとは思えないのです
真実はわかりません。もしもなんてわたしが考えてもしょうがないのですが、時折こうして考えてしまいます
にけさんの覚悟を無駄にしてはいけない。この街に住んでいる魔法少女で“雨多にけ”の名を知ってる魔法少女は極端に少ないです
それは悲しいことなのかもしれませんが、にけさんなら笑って許してくれそうな確信があります
彼女は何者だったのでしょうか? みたまさんに限らず灯花ちゃん、ねむちゃん、みふゆさんにもそれとなく聞いてみましたがついに口を開いてくれませんでした
悔しいです。頑張って解き明かしたいとすら思います
「眠れないの?」
「ううん。大丈夫だよ、うい。おねぇちゃんももう寝るね」
こんなに幸せでいいのかな
おやすみと言うとおやすみと返ってくるこの日常にわたしは時々たまらなくなります
「……ありがとう」
明日も明後日もこの平和な日常が続きますように
一度目元を拭ってからわたしは眠りに落ちるのでした
これで完結となります。ここまで読んでくださりありがとうございました
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もしまた機会がございましたら宜しくお願い致します