「この場でわたしがあんたたちと絶交して謝ればウワサが現れる、つまりそういうこと?」
ももこといろはに連れられ、わたしはかえでが消えたという空き地に到着した
「いや待て。それはおかしい」
「なんだ。わたしとは赤の他人だと?
心外。傷付いた」
実際赤の他人だと思ってる部分はわたしにはあるが。色々とうやむやにしようとした
わたしの好奇心はこんなことでは屈しないのだ
「いやそうじゃなくて! 仮に成功しても危険だろって!」
十咎(とがめ) ももこ。長く手入れされた髪を上で束ねる所謂ポニーテールと意思が強そうな眼が特徴的な娘……娘? なんだか、お母さんってこんな感じなのかなってしなくはない
そうですよ、といろはもももこに続く
いろはちゃんは普段は本当に腰巾着のようだが油断ならない存在である
「危険って、なに?」
え、と雰囲気を変えたわたしに二人は固まる
「わたしは知りたい。未知は嫌いだし好きじゃない。それにわたしたち、魔法少女でしょう?
本来なら敵同士。お互いの血肉を見る関係なはず」
わたしの敵といえば矢賀しか思い浮かばないが
それはそれとした
「あ、ああ」
二人とも圧倒されてしまったようだ
いや違うか。ももこだけ、なのか
「違います」
いろは。環いろは。髪を後ろで束ねたいつも困り顔で周りの様子を窺っているどこか気弱そうな少女
しかし、気弱そうだなんてとんでもない間違いだったと今では思う
「わたしたちは魔法少女だからこそ、同じ痛みを抱えてるからこそわかりあえる。わたしはそう信じてます
だから、そんなこと言わないで」
「でもこれしか方法思い付かない」
「他の方法を考えましょうよ。それじゃあダメですか?」
あ、こいつきっと矢賀と同じくらいやべーやつだ。わたしは改めてそう思った
「……どうだろう」
「そこをなんとか!」
押しが強い。この娘どうしよう
わたしは助けを求めるようにももこままを見た
「……やってみてくれ」
「ももこさん!」
「いろはちゃんごめん。わたしはにけちゃんに賭けて良いと思う
情けないけど、レナはあんな感じだし。今はにけちゃんにしか頼れない」
そんな、といろはは顔を伏せる
優しい。いろはとも、ももこにともいわずそう思った
なんでも魔法少女同士で協力しあう文化がこの神浜の街にはあるんだとか。ほかの魔法少女が知ったらひっくり返るのではないだろうか
「そもそもそう悲壮な話ではないと思う」
え、といろはが顔をこちらに向けたので微笑んでおく
いろはちゃんが不安そうな顔すると面白い
「だって来るとわかってる怪異ほど怖くないものはないから」
できの悪い生徒にするようにわたしは人差し指を真っ直ぐ上にたてた
「わたしは一人でもそれを退ける自信がある。覚悟がある。手こずるようであればあなたたちからの報酬が増える」
なおグリーフシードはたんまり貰うことになっている
やる気はアゲアゲである
「それに誰かに一生会えないというのは悲しいことだと思うから」
「にけちゃんさん……」
いろははいつの間にかちゃんにさんを付けだしていた
「全力は尽くす」
言いながらわたしは変身した
とはいえ、そこまで服装は変わらない。わたしは変身してるんだか変身してないんだかわからないそんなアドバンテージも大事にしたいのだ
「わたしたちもやれることをやろう。いろはちゃん」
「……大丈夫でしょうか」
二人も魔法少女姿になる
魔法少女が向かい合ってすることが友達を助けるために絶交するだなんていっそ笑えてしまえそうだ
「うん?」
ただでさえ軽い体がさらに軽くなった気がする
包まれるようなぬくもりも感じた
「ああ。それはわたしの魔法。気休めになるかはわからないけどね」
ももこの魔法らしい。これはすごぉい。常にかけてほしい
「わたしも、なにかーー」
「大丈夫。なんだか負ける気がしない」
笑顔を見せていろはちゃんを嗜める
さっきからずっと困り顔でこちらが困ってしまいそうだ
「いろはちゃん。今、てっとり早い方法を思い付いた」
「えっーー」
わたしは笑みにいたずらなものを含めて、それを言った
「戻ってこい、秋野かえで!」
わたしは本を開き、叫ぶ。共に変わる場の雰囲気に思わず打ち震えた
「なっ……!」
「これって!」
二人は周囲の変化に気が付くと得物を構えた
「釣れた……!」
ーーギ吾8ァ!
わたしは南京錠を模した傀儡を指差し一瞬で燃やした
喜びのあまり、いささか火力の加減がいい加減である
「成功だ。どうやらバラバラにならずに済んだみたいだし」
「みたいですね。本当に良かったです!」
「二人も一緒か。早く終わりそうだ」
ごーん、ごーん、と鐘がなる
大きな鐘の下はすべて階段。これで直立してるのだからとんでもない異物だ
これが、ウワサ。件の少女らしき人物は天辺の鐘の下に横たわっている
なるほどわかりやすく人質というわけらしい。わたしにはあまり関係ないが
「あれが件のお姫様?」
「えっ。ああ! かえでだ!」
ももこの声だ。上々。わたしは早速かえでを取り戻すよう本を開いた。開かれた本はひとりでに頁を捲っていく
「ふふ。おまえはわたしの前に出現したその時点で詰みだ」
本をもつ片手を向ける。そうすることで頁数枚が足元までかえでを連れてきた
わたしの魔法は本来、会いたい人に会う際に効果を強める。つまりーー
「貴様との相性は最悪だということだこのバケモノ」
ーーラ、ラ、ラ
かーん、ともごーん、とも表現できぬ騒音により頭が痛い。痛いはずなのに心地よい音な気がしてくる
手下であろう錠前からの鎖を伸ばす攻撃もいろはやももこが対応してなければ危うい瞬間がある
長期戦は不利だ
わたしの脚は地面を離れて宙に浮かぶ
「かえで!」
「かえでちゃん!」
かえでとやらは二人に任せよう。ごーん、ともかーんとも表現できぬ不協和音が耳を再び襲う
大丈夫。矢賀の寝相よりはマシ
「真なる魔女の焔にて灰になるがいい。《フィオリ・オルテンシア》」
そういや試し打ちしてなかったななどと呑気に思ったが、それは後の祭りであった
本から発射された紫色の焔の玉は勢いよく鐘に着火すると多数の小規模な爆発を引き起こし、一瞬にして燃え広がった
ーーラ、ラら
悲しげな音を奏でて、それはバランスを崩したのか大きく後ろに倒れた
しかし焔はそれでも消えない。詰みだな、とわたしは一息ついた
「わ、わたしだって!《ストラーダ・フトゥーロ》!」
死体蹴りならぬ死体矢浴び。ダメ押しであった
ぷっ、とわたしは吹き出してしまう
「かわいそう」
「……か、確実に仕留めるべきです!」
困り顔で恐いことをいう。その割りには自分の手の内を他人に晒してしまう危険も考えない
こいつは計算より先に手が出てしまうタイプだろう。それでいて自分がこうだといったら曲げない頑固者だろう
「そうだな」
こういう娘は長くはなさそうだとわたしは残念に思った
かえでの身柄はとりあえずみたまに渡そうと話が纏まり、行って帰ってくる形となった
みたまはあら、と驚いた反応だったがももこが姫のように抱えたかえでを見て察したようでももこから彼女を受け取り、奥へ入っていった
「本当に、どう感謝して良いか、わからない……!」
「いたいいたい。とてもいたい」
えんえん、と強く抱き締められながら泣かれわたしはされるがままになっていた
ちょっと張り切りすぎた。次はもっと冷静にスマートに。色々と反省が浮かんでは消えた
「よかったですね、ももこさん」
「ああ。よかった。本当によかった……!」
みたまが失敗するとかはやはり考えないらしい
あの距離感といい、一をいったら百はわかりそうな会話といいやはりただならぬ関係であるらしい
「くるしい」
「も、ももこさん! にけちゃん本当にくるしそう!」
いろはからの呼び名はにけちゃんに落ち着いたらしいがそれはいい。主に胸の辺りが苦しい
あわててももこはわたしから離れた
「ご、ごめん!つい、な」
ももこは後ろに片手を回してはにかんだ
うーん。今ならイケメンさんに見えなくはない
「……うん」
わたしは今どんな顔をしてるだろう。多分死んだような顔をしてるんじゃないかな、と思った
わかりやすくガス欠である。モンブラン食べたいな……