「かえでちゃん、良くなると良いけど」
ももこから報酬をもらいわたしは元気を取り戻していた
みたまにかえでを渡してから暫く経つ。ウワサとやらにやられた影響なのかなんなのかはわからないが気に食わない
ももこは仲間らしいツインテールの娘と合流すると一目散にかえでの調整を見に行った
「あ、はい。わたしも少し心配です……でも、みたまさんとみんながいるなら大丈夫って信じてるから」
ふぅん、とわたしはいろはに返した
沈黙が続く。やはりこの娘と二人になってしまったのはまずかっただろうか、と思い始めた頃だった
「あの、にけさん! わたし。わたし……ういっていう妹を探していて……!」
いろははたまらず、といった風に溢した
……言うか言うまいか悩んでいた間だったのだろうか
「仲良かったんだ」
「よかった、なんてものじゃないと思うんです!」
は? とわたしは言わなかった。頑張ってその言葉を飲み込んだ
シスコンとかそういう類いだろうか。孤児同士で擬似姉妹なんて娘たちはいた。ギリギリ理解できなくはない
「ご、ごめんなさい。取り乱しちゃって……それに、変ですよね。かえでちゃんが大変な時に」
「そうだな」
こくり、とわたしが頷くといろはは頭を垂れた
彼女なりに反省しているようであった。付き合いはとても短いが、本当に取り乱してしまったんだとは察することはできる
「ーーわたしの魔法は、その人に対する絆とか記憶が大事なんだと思う。自信ある?」
「あ、あります! わたし、ういのためならなんだってできます! あ、あぁっ」
近っ。いや必死だとは思っていたけどそれは予想外だ
わたしが両手でいろはの肩をつかんで離すと切ない声を出す。これではわたしが虐めているみたいだ
「……ごめんなさい。ういのことになるとつい」
いろははふい、と目をそらして頬を染めた
そういうのは男の子にしなさい。男の子に
「呼び出すのは変身してえいとやるだけだから簡単だな……後で試そう」
「あ、ありがとうございます!」
感謝と共に丁寧に礼をしてきた
弱く。儚く。自分より他人の幸せを願う娘。勝手にそうだと思っていたいろはへの印象は変わりつつあった
そんな一悶着を終えてすぐももこ、かえで、レナと名乗った娘とみたまさんが出てきた
一方的な感謝を向けられたがわたしの行動でかえでを救えなかった可能性だってあったので、そこは謝っておく
ウワサとわたしが一対一だった場合に万が一があったかもしれなかった。わたしの力で無理矢理ではなく、レナを介して呼び出した方が良かったかもしれない、とも言っておいた
一刻を争う事態だったが、そういう時にこそ冷静になるべきであったと。わたしは続ける
「そもそもこれはわたし一人では解決できなかったことだから。絆を試す場でもあったかもしれないと思うと気が気でーー」
「あーっ! もういい! わかった! ありがとう!」
ももこの投げ槍かつ暖かな制止によってわたしの反省は終わった
なお一部始終を見ていろはの目は輝いていた。どうして?
いろはと二人で調整屋を出た。そろそろ夕刻だ
「ももこさん達、先、帰っちゃいましたね……」
「気を遣わせてしまったらしい」
いろはは答えなかった
地味に傷付いた
「その、にけさんって何事も全力なんだなって」
「そうかもしれん。やると決めたらがんばると決めている」
そうなんだ、といろはは曖昧な笑みを浮かべる
その顔やめて?
「わたしもそういうところあるから。なんだか可笑しくって」
「えー。いろはちゃんと一緒にされるのは心外だ」
「そ、そうですよね!」
ふふ、と噴き出してしまった
そこ肯定するところなんだ
「さ。とっとと始めよう」
「えっ!」
わたしは魔法少女に変身する
そんな様子をいろはは驚きながらも固唾を飲んで見守っていた
出てきた本はひとりでにパラパラと捲っていき、パタンと閉まってから片手に収まる
出てこい、などという必要は実はないのだ。気分の問題である
「なるほど……?」
「な、なにかわかったんですか……!?」
「わかった、というか……わからないというか」
説明が難しい、という風に感じた
環うい、という存在はいないが別のナニカはいる。そんな結果だった
「い、生きているんでしょうか!? ちゃんとごはんは食べれてるのかな……寂しい思い、してないのかな」
声が重くなるいろはを尻目に、わたしは自分の手で本を開けてみる。結果はやはり変わらなかった
存在しない、だと? 眉間にシワがよった。言うに事欠いてそんな結果を持ち出されては納得がいかない
「ご、ごめんなさい。わたし、にけさんにお礼言わないといけないのに」
「いや。良い。それはしょうがない
かけがえのない人なのは伝わるから」
わたしは変身を解除した
目の前には今にも泣き出しそうないろはがいた
「わたし、わたし……嬉しかったです
うい、て名前聞いてもみんなわからないって言われて。本当にわたしの想像上でしか生きてないのかなって思うこともあったから」
言葉を失った。いろはの精一杯の強がりをみた
これだけ絆が深ければかえでのように目の前にぽんと出せるとわたしも思っていたのだが
「ありがとうございました……」
ぺこり、と深く礼をして。駆け出すいろはをわたしには止めることは出来なかった
わたしはとりあえず、調整屋に戻ることにした
ホテルに泊まるにはまだ早いということもあるが、ひとつハッキリとさせたいことがあった
「にけちゃんどうしたのぉ? 血相変えて」
「ちょっと深く調べたいことがあって。倒れるかもしれないからどうせ倒れるならここかなって」
「え、えぇ……っ!」
面食らうみたまさんには後で謝ることはできる
わたしはすぐに魔法少女姿に変身する
「本人の名前を知っているだけでも効果はあるはず……なのにどうして?」
同時に、頁をひとりでに捲っていく本を片手に出現させた
みたまさんもわたしの奇行の先は気になるようで両手を口の前で合わせながらも見守ってくれた
理由を聞かないでいてくれる。ありがたいことだった
「……別のナニカって、なに?」
わたしは本がピタリと頁を捲るのをやめるのを見た
そんなことは始めてであった
まるで、なにかに怯えるような。そんな風にすら思える
「ーーイブ?」
本からの答えはエンブリオイブという環ういとは似ても似つかぬものであった
しかしこれでは逆に謎が深まってしまった。わたしは本を閉じて変身を解いた
「……大丈夫?」
「心配するほどじゃなかった」
そう、とみたまさんは心配そうな顔をこちらに向ける
わたしは胸の下で腕を組んで考えた
(エンブリオイブってなに……? なぜ環ういを調べてエンブリオイブなんて名前が出てくる……?)
考えれば考えるほどに深みにはまった
だから、近寄ってくる新手には気が付かなかった
「あなた。雨多にけね?」
「……なにか?」
目の先にはどこかで聞き覚えがあるような声を持つスレンダーで威厳を感じさせる女性がいた
「随分な態度じゃない。命の恩人に対して」
腰に片手を添えて立つその所作だけでも圧を感じた
もしかして、とは思ったがどうやらその予感は当たっていたらしい
「……その、グリーフシードいくつくらいで手を打ってくれる?」
「……。はぁ、それはもういいわ。別に」
全く顔を合わせてくれない。もういい、とは言われたがまさかこちらから話を振ることも出来ず二人の間の微妙な緊張感は消えなかった
「あなた。いろはになにかしたの?」
急にこちらを見たと思ったらこれである。びくり、とした
保護者の人だったらしい。それは悪いことをしてしまった
「……したのね?」
「頼まれたことをしたまででわたしはーー」
「は?」
ただならぬ雰囲気を帯びた。わたしはわたしが言葉選びを誤ったことを悟った
眉間にはシワが確認できる。皺ひとつない顔だから逆に目立った
「良い? いろはになにかしたらタダじゃおかないんだから」
「あ、はい」
まずい、殺されてしまう。わたしは矢賀を殺さなければならないのに。なくなった筈の寿命が縮まる思いをした
「あ、あのぅやちよさん?……そのくらいにした方が」
「みたまは黙ってて!」
はぐぅ、とみたまさんは呻いた
これ絶対長くなるヤツだ。わたしは覚悟を決めた