「でも丁度良かったわね。あなたのことを探す手間が省けたわ」
いろはに近付くなのお話を沢山聞いた後やちよはそう切り出した
どこかぼう、としてしまった意識を取り戻す
「あなたには会いたい人に会える力があるって話よね?
いろはにそう教えてもらったわ」
曖昧な笑みを浮かべた。これでは言い逃れできそうにもない
派手に使ったのでいつかはバレるものとは覚悟していたがここまで早く伝わるものだったとは
「みふゆ。梓 みふゆ(あずさ みふゆ)に会わせてほしい
報酬は弾むわよ?」
わたしは今そこまでグリーフシードに困ってはいない
あまりメリットのない話で。なんだか面白くもない予感もあった
「……ここに呼び出してもいい?」
かといって断る理由はないのだった。両手で口を隠すみたまを一瞥する。こくこく、と頷いてくれていた
「受けてくれるのね?」
「恩知らずな奴は嫌いだから」
矢賀でさえ恩知らずな人ではなかった
わたしはあいつよりも良い人間でありたい。いつか友達が沢山できたらあいつに見せつけるのもいいだろう
「……良い心がけじゃない」
やちよは感心したようにそう溢して腰に片手をやった
わたしはそれを横目にして、魔法少女へと変身する
「ーー待って。わたしも変身するわ」
やちよはなにを思ったのか、瞬く間に変身をすると刃が両側についた鉾槍のような得物を向けた
青を基調とした姿だ。美しさより、そんな危ないものしまってほしいという思いが強まる。わたしは目を細めた
「大丈夫。念のためよ」
やちよは得意顔らしきものを浮かべた
どの辺りが大丈夫なのだろうか。そこまで考えてから頭を振り、ひとりでに頁をめくり続ける本を片手に出現させる
「……いた」
頁はぴたり、と止まった
「え?」
やちよは目を丸くした。本の先を狙ったり、わたしが立っている地面を狙ったりする
どの辺りから出てくるのかわからないのはわかるが、些か取り乱しすぎではないだろうか
「多分寝てるけど。どうする?」
「……出して」
わかった、と分かりやすくやちよの隣を指を指して念じた
そして問題なく出てきた
「うーん……もう食べられませんよぉ……」
ふぅ、とやちよは一息ついた
結構な勢いで地面に叩きつけられたにも関わらず幸せそうに眠るこの娘が、どうやらやちよの知り合いらしい
「起きなさいみふゆ!」
得物の柄の先端で地面を突いてからやちよは叫んだ
ひあぁ、とみふゆは飛び起きた。あまりに幸せそうに眠っていたのでややかわいそうだと思った
「や、やっちゃん……?」
目を擦りながら起き上がる。ここまでされてようやくみふゆとやらはやちよの存在を認識したらしい
「……久しぶりね。みふゆ
あなたのこと探していたのよ」
やちよの目が光る
いた、とか呻きながら当人は頬をつねったりしていた。よくのびるね
「ワタシのことを……?」
みふゆは当たり前のようにやちよに手を伸ばす
やちよは一度瞬きしたが、みふゆの手を取って起き上がらせた。当たり前だが見知った関係らしい
「よかった……みふゆ。あなたまで失ったかと思った」
「そ、そのやっちゃん。あっ……」
からん、とやちよの得物が落ちる。瞬間、みふゆを一方的に抱擁した
後ろでみたまさんがあらーと鳴いていた
「あなた、今どこにいるの?」
「そ、それは……」
両肩に手をおいてやちよは訊ねる
みふゆは気まずそうに視線を横に外した
丁度みふゆと目があったがいうことはない
わたしは手元の本に目を落とす。勝手に捲られる上になにも書いてない
「……マギウスの、翼」
「マギウス……!?」
わたしは雰囲気が変わったみふゆを見た
寝巻きから、魔法少女へと変身する
両側頭部から長いリボンが特徴的な黒を基調とした姿であった。右手には巨大な円月輪を持っている
わたしは本を持つ手をみふゆに向けるとやちよが目で制した
手を出すな、ということらしい。確かに野暮だなと思って手をおろした
「やっちゃん。ワタシはマギウスにすがるしかなかった
このことはいずれ話さなくちゃいけないとは思っていたし丁度良かったのかなって」
「あなた、何をいってるの!?
正気なの。あんなよくわからない組織なんかに!」
よくわからない、とみふゆは反芻した
みふゆの目には光がない。どこか迷子のようであった
「良いですね……やっちゃんは。そんなにつよくて
ワタシには、なにもかも耐えられなかった」
「つよいとかよわいとかの話じゃないでしょ!
目を覚ましなさいみふゆ!」
やちよに揺さぶられるままになるみふゆはどこか空っぽのように見える
これは平行線かも、と感じた
「目は覚めていますよ」
みふゆは屈むと素早くわたしに近付き首に刃を当てた
やちよと目があった。瞳が揺れている
「み、みふゆ! その人を離しなさい!」
やちよは得物を脚で踏んで拾い構え直す
一連の動きに淀みはなかったが、突き付けられたその刃は細かく揺れていた
分かりやすく動揺しているらしい
「……消去法ではありますがワタシの安眠を妨害したのはあなたですよね?」
一瞬、判断に迷った。一応みふゆはやちよの顔馴染みである。下手に傷付けるのはまずいかもしれない
「どうかな?」
試しに煽ってみると、首に刃が食い込む
まぁみふゆはこうしてわたしに対して人質めいたことをしているし敵と認識して構わないか。そう思ってしまえば対応は早かった
「ふふ、その通りだ。だがいいのか? おまえのそれではわたしは殺せない。そしてわたしはおまえを殺せる」
う、とみふゆは狼狽えた
凄んではみたが実際わたしはここまで近寄られると弱い。どうしたものかと内心思っていた
「みふゆ。いい加減にしないとーー!」
やちよは揺れる刃を強く握り直して正した
ひ、とみふゆは声にもならない声を発する。これではどちらが脅しているのかわからない
「やちよさん。いいよ」
は、とやちよは食い縛っていた口を開けて見つめてくる
なので、念押しするように頭を左右に振った。円月輪の刃に多少当たったがどうせ不死身だ。どうでもよかった
「い、いいってどういうーー?」
今度は後ろのみふゆがおずおず訊ねてきた
助け舟だと思ったのだろう。実際それらしきものだ
「おまえ、マギウスまで案内できるか?」
「え。えぇ……まぁ」
そうか、とわたしは目を落とす。円月輪はまだ首に食い込んでいる
すがるしかなかった、か。わたしはみふゆの言葉を思い出して微笑む
「興が乗った。連れていけ。そのマギウスとかいう奴等の顔拝んでやる」
「そ、そんな……あなたにそんなことさせる訳にはいかない!」
マギウスにはどの道興味があった。いい機会ではある
対してやちよの眉間に皺がよっていた。一触即発な雰囲気である
「やっちゃん……」
悲痛な声が後ろからした
おまえはどっちの味方なんだ
「何をしていようとどこにいようとやちよの指示1つでおまえは出現する。わたしを連れていくしか方法はないんじゃないか?」
「……困りましたね」
そうだろう、とわたしは返す
みふゆは心底困ったという様子であった。ある意味巻き込まれたといえなくもないので判断に迷うくらいは許すことができた
「単身乗り込むつもり……? 危険よ」
やちよは眉を下げている。困ったような表情だった
わたしのことを本気で心配してるらしい。会って間もないというのに。苦笑いを浮かべた
「やちよさん。報酬はあとで貰いにいくから
ちょっといってくる」
「まっ、待ってみふゆ! 連れていかないで!」
やちよがこちらに手を伸ばす
おろおろ、としていたみたまさんにも目を向けて礼を言い終わると意識が沈む
「《アサルトパラノイア》……」
みふゆの片手から霧が発生した。どうやらみふゆ固有の魔法らしい。わたしは抱えられる感覚と共に意識を手放した