「あなた、趣味が悪いですよ。人を巻き込んだりして」
みふゆから責められる。覚醒事態は早かった
わたしの魔法にも霧が関係していることがよかったのか、それはわからないが
「就寝中に呼んでしまったことか」
「そういう意味ではなくて!」
へぇ、と返す。かなりご立腹にみえたのだが
まぁ気にしないで良いなら忘れるだけであった
「あなた、どうしてマギウスなんかに?」
「それをおまえに言われるとはな」
う、とみふゆは呻く
へんなところ抜けてるなと感じた
「だ、大体! あなたがその気になったらやっちゃんを呼び出したりできるんじゃないですか!?」
「わたしの魔法には絆の力が必要だ
だから余程接点がないでもない限り呼び出すことは出来ない。この場合みふゆ。おまえの願いが必要なんだ」
ワタシの……? とみふゆは呟く
逆に言えばやちよとみふゆの関係は深かったということだろう。そうでなければわたしの力で呼び出すことはできなかった
「つ、つべこべ言ってないで降りてください!
重いです!」
「言うに事欠いて重い、だと……?」
わたしは少しショックだった
最近食べ過ぎちゃったかな
「えい!」
「ぐふっ」
わたしは強制的にみふゆの肩から降ろされた
地面に叩きつけられたが、まぁお相子ということにしておく
「……どうしてマギウスにと言ったな?」
みふゆから慌てて差しださられた片手を無視してゆっくりと起き上がる
肩が凝ったので、少し揉んでからみふゆを見た
「わたしは知りたいんだ。いかに魔法少女をその運命から解き放つのか
本当にそれが可能なのか。この目で」
「……そう、ですか」
お怪我は、と恐る恐るみふゆに聞かれたので、問題ないと答えておく
へんなところで律儀だなと思った
「……はっ。それでパーフェクツボディを拉致したワケ? やり方がクレイジーなんですケド
ーーただで済むと思わないでヨネ?」
みふゆと遊んでいると前から、新手が現れた
アクセサリーがついた帽子を被り、黒い軍服にカラフルなスカート、憲兵のような姿。片手に浮かべる緑色に輝く六面体で魔法少女であるということがすぐにわかった
「……アリナ。わたしはこの通り無事ですよ?」
「アイシー?」
みふゆは迷うことなくわたしの前で庇うように手を広げた
わたしはみふゆごしにアリナと呼ばれた娘を見た。眼光が強い。意思が強そうとも違うその光には覚えがあった
「わたしはマギウスに入ろうと志願した」
「あなた……!」
進むわたしをみふゆが制しようと肩に手を置くがそれは払った
アリナは自らの人差し指をくわえてわたしを見つめる
「にけ。雨多にけだ」
そういえば、みふゆにも名乗ってなかったと大きく名乗る
アリナが目の前に迫る。やはりこの目は矢賀に似ている。目を離してはいけないとそんな予感がした
「ふゥン。アリナはアリナなワケ
マギウスに入りたいんなら勝手にしたらと思うんですケド」
「随分と他人事だな?」
ふぅ、とアリナは息をはく。緑色の六面体を回転させてから笑みを浮かべた
「興味ナッシング。黒羽からスタートのカスなんて最初カラ」
アリナはわたしの脇を通るとみふゆの元まで歩いた
「アリナ……わたしを心配してくれたのですか?」
「全然そんなことはないケド。まぁ宛が外れたヨネ」
アリナはそう言いながらみふゆを一周する
オーケーと満足そうに頷いた。心配、とは質が違うものな気はするがアリナにしかわからない執着は感じた
「黒羽、というのは一番下ということか?」
「イエス」
アリナはみふゆの方を向きながら端的に答える
もはや対話が面倒臭そうだ。早急に済まさなければならない
「……それでは困る
わたしの力を見てから判断してみないか?」
「アーハン? おまえ、バカなワケ?
アリナはおまえには興味ないって言ったばかりなんですケド」
アリナは不機嫌そうに目を細めた顔をこちらに向けた
わたしは胸の下で腕を組む
「にけさん……」
みふゆを見ると胸の前で両手を重ねている
あまりアリナを刺激するな、と言外にいいたいのだろう。しかしわたしはアリナに向き直った
「絶交階段のウワサとやらはわたしが倒した」
「……はぁ?」
アリナは不機嫌そうに声を出してわたしに近付いた
地雷だったかもしれない。しかし興味を引くことはできた
「今後、ウワサと人の縁が繋がる限りわたしはウワサを探す作業を繰り返す
思うにそれで困るのはおまえたちマギウスなんじゃないか?」
「ウワサを見付けられる……?」
アリナがみふゆに目を向けるとみふゆはゆっくり頷いていた
信じられない、という顔をアリナはしていた
「そんなことをしなくともマギウスの総大将の誰かと神浜の誰かが繋がれば、もうそれだけでわたしは呼び出せる
人によっては袋叩きに合ったりしてな?」
ふふ、と笑ってみるとはっ、とアリナは鼻で笑った
よく表情の変わる娘である
「今、おまえをデリートすればそんな心配しなくて済むヨネ?」
「……サシで倒せると本気で思っているのか?
わたしをなめるなよ」
わたしは即座に魔法少女姿に変身して
常に頁を捲り続ける本を片手に乗せそのままアリナに向けた
「跡形もなく消し飛ばしてやる!」
「……アッハ」
アリナはそれでも笑っていた
彼女には余裕があった。その余裕が無尽蔵にあるんじゃないかとすら錯覚する
「にけ。覚えたカラ」
な、と一言いう間にわたしは視界のすべてが緑色になった
けたけた、とアリナは笑う
「アハハ。アーッハッハハ! そうなったらもうなにが出来ようと関係ないカラ
ゲームオーバーだヨネ?」
アリナは笑いで顔を歪ませる
狂気の中に喜びがある。まさにそんな顔であった
「あ、アリナ! 殺してはダメですからね!?」
今まで黙っていたみふゆだがここにきてそう叫ぶ
なるほど。彼女も苦労をしているらしい
「あーハイハイ。シラケること口にしないでヨネ。アリナをなんだと思ってるワケ?」
アリナは片手の小指を耳に突っ込むと面倒臭そうにそう告げた
とにかくここから出なくてはならない。わたしは本をとりあえず上の空間に向けた
「《フィオリ・オルテンシア》」
わお、とアリナは両手を広げる。ど、とわりと近くで爆発した
加減をして良かった。危うくソウルジェムをも砕いてしまうところだった
「……死にたいワケ?」
「殺すつもりはあっても死ぬつもりは全くない。ここから出せ!」
両手で空間を叩いて舌打ちをした。堅すぎる
とにかく、わたしの魔法とは相性が悪いことがわかった。アリナは口元に片手を添えて口を歪ませる
「ノー。おまえをエスケープさせる気はゼロだカラ」
「あ、アリナ。やりすぎです! やめてあげて下さい!」
みふゆがこちらに駆け寄り抗議している
わたしは目を細めた
なぜ気がつかなかったのだろう。ただならぬ雰囲気を持つアリナに口答えできるみふゆはマギウスでもそれなりの地位に違いない
判断を誤ったかもしれない。少し後悔した
「シャーラップみふゆ。こいつはアリナのベストアートにするのは決定だカラ
邪魔しないでヨネ」
「そ、そんな……!」
みふゆがこちらを見る
わたしのミスだ。首を左右に振った
「くっ……」
みふゆは悔しそうに唇を噛んだ
アリナの様子を窺ってはいるが、なにか行動することは諦めたようだ
「アマタ、ニケ。おまえナニになりたい?
ラストオーダーに相応しいグレイトな提案をしてヨネ」
発音をややなまらせながら、そいつは命の取引をした
アリナの目は限界まで開かれ、興奮しているようだった。インスピレーションの海にトリップしていそうだ
何になりたい、ときたか。美しいやちよ、可憐ないろは、妖艶なみたまとまで思考をとばし。最後にヒヒ、という特徴のある高笑いが残った
「……そうだな、強いていうなら魔女か?」
「アハッ……魔女? 魔法少女なのに魔女に憧れてるワケ? 皮肉がキいてる……アリナのセンスが擽られるんですケド」
アリナはわなわなと震えた。悦びで更に盛り上がっているらしい
魔法少女の真実を知っていると告げる野暮はしないことにした
「本当にそんなことができるのか?
あまりにも酷かったら落第だからな」
少し煽ってみるとアリナは満面の笑みを浮かべてこう言い放った
「ノープログレム。オーダー通りのベストカラーに染めてあげる。感謝してヨネ?」