世界一『かわいい』ウマ娘によるトレセン学園侵略計画☆   作:それおすとろ

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かわいい私とプールトレーニング:前編

 七月某日、季節は夏。既にクーラーなしではいられないほどの猛暑がトレセン学園を襲っていた。そのトレセン学園の一角、トレーナー室の一つに、魂の叫びが響きわたった。

 

「あ゛つ゛い゛で゛す゛〜゛!」

 

「……頭に響く。少し黙ってくれないか、余計暑くなるから。てかなんでトレーナー室ここにいるんだ……ケベック」

 

 制服姿のままソファに寝転びながらだらしなく足をおっぴろげている金髪のウマ娘……ケベックタンゴ。それに心底めんどくさそうに対応しているのは彼女のトレーナー。トレーナーはソファの方には一瞥もくれず、パソコンに向かって何やら作業をしている。

 

「えー? うーんと、トレーナーさんに会いたくなったから? なんちゃって」

 

「うっわ……」

 

「なんでドン引きしてるんですか!? こちとら美少女なんですけど! 美少女に会いたいなんて言われたら普通ときめくもんじゃないです!?」

 

「やめろこっちくるな暑苦しい! お前が居ると仕事が全く捗らないんだが! ……結局なんで居るんだ」

 

 ずずいと近づくケベックタンゴを押し退け、やむなく仕事の手を止める。そもそも、今日は日曜日だ。トレーニングももうすでに終わらせ、確かにその時解散したはずなのだが。そう思いながら、トレーナーは疎ましげな視線をケベックタンゴに送る。

 

「それが寮のクーラーが壊れちゃって。なにしろこっちの寮には、触れるだけで機械を故障させる破壊神がいるもんで」

 

「はぁ……だからってここにくる理由にはならないだろ。さっさと帰れ」

 

「いやー、それも考えたんですけどね。私的にはここが一番心地よいので。トレーナーさんも私が側にいて嬉しいでしょう?」

 

「いや全く」

 

 帰れ、とは言っているもののケベックタンゴが人の言うことをそう簡単に聞くウマ娘でないことはトレーナーもわかっている。ほどほどにして対応を諦め、ケベックタンゴのことは無視して仕事を再開した。

 しかし、そんなことをしても素直に仕事をさせてくれないのがケベックタンゴというウマ娘である。

 

「あーっ! トレーナーさん、何1人だけアイス食べてるんですか! 私にもくださいよー!」

 

「……いいから帰れ」

 

「えー、私もなんか食べたいです! あ、冷蔵庫あるじゃないですか。中には……おお! アイスいっぱいある! ねえねえトレーナーさん、一つ食べていいですか! いいですよね!」

 

「黙っててくれ……」

 

「おっ、これ新発売の高いやつじゃないですか! 私、これちょっと気になってたんですよねー! トレーナーさんトレーナーさん! これもらいますね!」

 

「頼むから大人しくしてて……」

 

「あ、しまった。すみませんトレーナーさん、スプーンとかどこにあります?」

 

「ああもううるせぇなさっきから! 全く集中できねぇじゃねえかクソッタレ! そもそもそこの冷蔵庫もアイスも俺の私物だよ! 何当然みたいな顔して取ってんだ! あとスプーンは付属のやつがそこにあるから勝手に食ってろ!」

 

 とうとう我慢の限界がきたようで、トレーナーはこめかみに血管を浮き上がらせながら怒鳴る。しかしケベックタンゴには効果が無いようだ……

 

「なんだかんだ食べるのは許してくれるんですね……いや、トレーナーさんのそういうところ大好きですよ」

 

「そうかよそりゃどうも! 食ったら大人しく出てけよ?」

 

「あー、うん。考えときます」

 

「絶対出る気ないなこいつ!?」

 

 ただアイスを食べてる間は幾分か大人しくなるのでとりあえず良しとするトレーナー。どうせ何を言っても聞かないのでどんどん譲歩するしかないのだ。そのせいでペースは乱されっぱなしであるが。

 

「ん〜! 美味しい〜! トレーナーさん、これすっごく美味しいですよ! 一口食べます? てかまた買ってきてください!」

 

 一口食べるなり、尻尾をブンブンと振りながら目を輝かせてトレーナーの方へ寄ってくるケベックタンゴ。その距離は顔が触れそうなほど近い。

 

「ちょっと、聞いてますかー? そんな仕事ばっかりしてたら過労で倒れちゃいますよー? ほらほら、もっと私を見て! 癒されて! あと暇なので構って!」

 

「黙れストレスの主な原因がよ!」

 

 トレーナーとその担当のウマ娘との間でのコミュニケーションは大事だと言われているが、それはあくまで円滑に指示を通すためのものであり、過度な干渉はかえって不和を招く。トレーナーはそう考える。故に、他人への対応は基本そっけないものだ。しかし、ケベックタンゴはそんなこと一切気にする様子はない。

 

「ほらほら、あなたのかわいい担当がこんなにも構って欲しそうにしてるんですよ? そんなつまんない仕事よりもこっちを優先するべきじゃないですか? てかそもそもさっきから何やってるんです?」

 

「やめろ勝手に覗くな。……まあ、これはいいけど。お前の練習メニューの印刷だよ、いつも月曜に渡してるだろ」

 

「ああ、なるほど。なーんだ、私のことでしたか。なら特別に許してあげなくも……って、これ外練習ばっかじゃないですかー! イヤです、こんな暑い中毎日走ってたらぶっ倒れちゃいますよ!?」

 

 画面に映っていた1週間の予定を見るなり、頭に響く声で文句を言うケベックタンゴ。真夏の練習というのは1日でも体力を多く消耗するものだ。トレーナーも流石に気温次第では映像を観てのレース研究に切り替える日が1日くらい作ってもいいかもしれない、と思ってのメニューだったが……確かに、拒否したい気持ちは頷けた。

 

「せっかくですしプール行きましょうよプール。スタミナ練習ってことで!」

 

「俺だってできれば炎天下は勘弁だが……どこも考えることは一緒みたいでな。予約が埋まってんだよ、屋内の施設」

 

 トレセン学園にはプールやスポーツジムなど、わざわざグラウンドに出ずとも練習を行える施設はいくつか存在するが……いかんせん生徒数も日本最大の中央。思いつきで場所が取れるほど空いてはいない。

 

「むー……あっ、そうだ! じゃあじゃあ、今度の日曜日にプール行きましょうよ!」

 

「は? え、普通に嫌だけど」

 

「なんでですか! ほら、ここですよここ! この有名な複合プール! ここならトレーニングも出来るじゃないですか!」

 

 ケベックタンゴはホームページが映し出されたスマホをトレーナーの前に突き出して力説する。しかし、その反応は好ましいものではなかった。

 

「あのな。いくら大きい施設でウマ娘にも使いやすいプールがあるとしても、そこは一般客も利用する施設だ。そんなところでガチガチにトレーニングが出来ると思うか?」

 

「ぐっ……でもほら、実際トゥインクル・シリーズのウマ娘たちもトレーニングに利用してるって」

 

「その話は俺も知ってるが、そりゃ療養だったり気晴らしのための軽いトレーニングだろ。未勝利戦だって近いんだ、今のお前にそれが必要とは思えない」

 

「そ、そうですけど……ほら、どうせ学園でやろうとしても埋まってますし!」

 

「妙に食い下がるなお前。……本音は?」

 

「プールでいっぱい遊びたいです!」

 

「そんなことだろうと思ったよ……」

 

 とてもいい笑顔で言い放つケベックタンゴにトレーナーは頭を抱える。だが、正直なのはいいことだ……せめてそう考えることにした。決してケベックタンゴも思慮が足りていないわけではないのだろう、きっと。そう思い込んだ。

 

「てなわけで行きましょうよー」

 

「さっきの聞いて『そうだな、よしじゃあ行こう』ってなると思ってんのか?」

 

 やっぱり何も考えてないだけかもしれない。トレーナーはそう思った。ケベックタンゴも知能が低いことはないのだが……。

 

「そもそも友達誘って勝手に行けばいいじゃねぇか。今日とかあっただろ」

 

「正直言ってクラスに誘える友達がいないのです」

 

「急に悲しいこと言うなよ……」

 

 小さい頃から自分のかわいさを磨くためだけに時間を費やしてきたケベックタンゴにとって、今さら同年代の友達を作るのはハードルが高かった。

 

「それにナンパとかあったらどうすんですか。ちゃんとトレーナーさんが守ってくれないと」

 

「ナンパぁ? お前がぁ?」

 

「うわーめちゃくちゃバカにした顔。え、言っときますけど私めちゃくちゃかわいいですからね?」

 

「いやナンパするのは相当な物好きだろ。お前自分のスタイル見たことあるか? 言い寄ってくるのヤバいロリコンだけだって」

 

「あっ……あーっ! 今言っちゃいけないこと言った! これでも私だって努力はしてるんですよ! よく食べよく寝て、牛乳飲んで! ついでに効果あるか怪しいストレッチとかもしてるんですから!」

 

 最近はカレンチャンという強敵の登場によりさらに悩みの深刻度が増した。そもそも中央には中等部とは思えないような発育をしたウマ娘がたくさんいるのだ。そのせいでケベックタンゴの小ささがさらに際立つ。そんなこともあって最近さらに身長やバストを成長させることに躍起になっている。尤も、その成果は芳しくないが。

 

「ともかく! 一人じゃ寂しいので一緒に行きましょう!」

 

「あーわかったわかった。わかったからシャツを引っ張るな……じゃああれだ。今度の未勝利戦で勝てたら連れてってやるよ」

 

「マジですか!? 言いましたね今! やっぱナシとかないですからね!」

 

「うん……いいけど、すごい食いつきだな……」

 

 ケベックタンゴのやる気は絶好調をキープしている。

 「よっしゃやったるぞー!」と勢いよく腕を天に突き出すケベックタンゴ。それを横目にトレーナーはため息を吐く。出会ってから彼女に振り回されっぱなしで、なんだか子供のお守りをしているような気になってきたトレーナーだった。

 

「よっしゃそうと決まれば早速自主練です! 行ってきまー……いや外あっつ! 無理!」

 

「はぁ……」

 

 思わず頭を押さえるトレーナー。頭痛の種は変わらず隣でやかましく騒いでいる。

 

「待ってろ未勝利戦! 待ってろプール! かわいい私が、堂々1着取ったりますよー! ……てなわけで本気は明日から出しまーす」

 

「絶対やらないやつのセリフだそれ!?」

 

 

────────

 

 

 そして数週間後。ケベックタンゴの未勝利戦にて。彼女はいつにも増してギラギラと闘志を燃やしていた。

 

「よぉーし! プールのためにも、全員置き去りに……あ、逃げ禁止なんでした……全員ぶち抜いて勝ってやりますよー!」

 

 気合いも十分に、全身からやる気をみなぎらせるケベックタンゴ。加えて、出走する他のウマ娘と比べてもその実力は完全に上位である。

 

 ゲートが開くとまず、ケベックタンゴは前方集団、前から3、4番目の位置についた。自分の前を逃げるウマ娘をしっかり見据え、自分より前に出て目立っていることに若干の不満を抱えつつも、ただじっと仕掛ける時を待つ。

 そして、最終コーナー。それまでのフラストレーションを解放し、ケベックタンゴは一気に速度を上げる。ぐんぐんと先頭と差を詰めるほどに、歓声が大きくなるのが聴こえる。

 

──さぁ、世界を私で塗りつぶそうか!

 

 そうして、ケベックタンゴにとっては心地よい観客たちの視線の中──人生二度目のレースにて、ケベックタンゴは初の勝利を納めたのだった。




お久しぶりの投稿です
これからも1ヶ月に1エピソードくらいを目処に更新続けたいと思ってます
感想・評価くださるととっても嬉しくなって執筆ペースが爆上がりするのでこのちょっと下にあるボタンからページに飛んでくだされば幸いです!ケベたんかわいいの一言だけでもいいのでぜひ!
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