世界一『かわいい』ウマ娘によるトレセン学園侵略計画☆   作:それおすとろ

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かわいい私とプールトレーニング:中編

「来ました()()()! ここがマイ()()()! 私はここでかわいいを()()()()!」

 

「黙れフールバカ、声がでけぇ。入り口ではしゃぐな」

 

 とある日曜日。その先週の未勝利戦で見事勝利したケベックタンゴは、約束通り大型プール施設を訪れていた。

 

「やはり屋内のここで正解でしたね。今日みたいに日差しが強い日に外のプールで遊んでいたらこんがり焼けてしまいます。小麦色肌のケベたんもアリっちゃアリですが……変な跡がつくのも肌が痛くなるのもお断りですから」

 

「おい、ほざいてないでさっさと行くぞ」

 

「痛い痛い引っ張らないでください!? うわ全然抵抗できないどうなってるんですかこれ」

 

 トレーナーに引っ張られながら施設へ入場する2人。こうして、案の定大波乱になる一日の幕が開くのだった。

 

 

────────

 

 

「ふふ……じゃーん! どうですか、この私の水着姿は!」

 

 一応濡れてもいい格好に着替えてから更衣室を出たトレーナーを待ち構えていたのは、そんな言葉と共に得意げな顔をして仁王立ちしていたケベックタンゴだった。

 その身に纏っているのは淡いピンク色のフレアビキニ。トップ、ボトムの両方にフリフリとした装飾が付いている、非常にかわいらしいタイプの水着だ。肩や腹部を露出したスタイルで、ケベックタンゴの白い肌が健康的に晒されている。

 

「ふふん、見惚れて声も出ませんか。まあ無理もないですね。今の私はまさにこの地に舞い降りた天使! プールの妖精さんなのですから!」

 

「……いや、一応今日来たの名目上はトレーニングなんだが? なんだそのクソみたいに邪魔な飾りだらけの水着。学園指定のやつでよかったろ」

 

「はー? 何もわかってませんね、トレーナーさんは。確かに私は何を着ても似合いますが、だからこそ一番適したものを着るべきなのです! ほら、よく言いますよね? タイム、プレイス、あと……じょ、状況」

 

「オケージョンな。あと細かいこと言うと、それを言うなら場合だ」

 

「そうそれ! 公共の場でスク水着てたら恥ですよ! まあそれもかわいいことに変わりはないんですけど!」

 

 ケベックタンゴの平常運転っぷりに呆れるトレーナー。もはや何を言っても無駄なような気がして、結局出たのはため息一つだけ。一応休養も兼ねているのは事実なのでそれ以上言及しないことにした。というか、いつまでも付き合っていたらトレーナー側の精神がどんどん削れていくので適当なところで切り上げるしかないのだ。

 

「はぁ……で、どうする? 先にトレーニングをするか、自由時間の後にトレーニングをするか。好きな方を選べ」

 

「あ、じゃあ先にトレーニングしましょう! どんなメニューでもドンとこいです!」

 

「わかった。なんだ、珍しくやる気だな」

 

 普段のケベックタンゴなら存分に遊んだ後、結局なんだかんだゴネてトレーニングを拒否しそうなものだが。少なくとも、トレーナーの知る限りではこんなに意欲に満ち溢れているのはめったなことではない。

 

「ええ。この前の未勝利戦で私気づいちゃったんですよ」

 

「何に?」

 

「ウイニングライブをセンターで踊るの、めっちゃ気持ちいいってことに!」

 

 まるで世紀の大発見のように薄い胸を張って答えるケベックタンゴ。ただ、トレーナーは全くピンと来ていない。

 

「トレーナーさんにはわからないでしょう? 会場中の視線が全て私に集まり、私の歌と踊りで歓声が湧くあの感覚! それこそまさに私の求めていたものです!」

 

「ああ……なるほど。目立ちたがりのお前らしい」

 

「故に! 私は決めました! もっともっと1着を取って、もっとも〜っとセンターで踊ることを! そして──」

 

 ケベックタンゴはそこで一度言葉を区切ると、改めてトレーナーの方へ向き直り一際大きな声で続ける。

 

「──私の新なる目標! それは、トゥインクル・シリーズにある全種類のウイニングライブをセンターで踊ることです!」

 

「は? 冗談……じゃ、なさそうだな……。何も考えてないだけか……」

 

 現在トゥインクル・シリーズの基本的なウイニングライブは8種類。未勝利戦にてそのうちの一つである『Make debut!』は達成したので、残りはあと7種類。しかし、その目標とは、すなわち……

 

「言っとくが、とんでもなく難しいぞ? というか、普通に考えたら無謀としか思えん。距離もバ場も違うG1を最低でも7勝しないといけないんだからな」

 

 そう。先の『Make debut!』以外の楽曲は全て、それぞれ指定のG1レースに勝つことでのみ歌唱を許される。G1とは中央にいる同世代、約7000人の中でもほんの一握りのウマ娘しか挑めないトップレースだ。1着を取るにはその選ばれし者の、さらに頂点に立つ他ない。

 

「それに、距離やバ場が変われば当然求められる能力も変わってくる。いくらお前が冗談みたいな適性を持ってたとしても、一つ一つのレースに限っていえばそんなものアドバンテージになりもしない。出走するのはそもそも適性のあるやつだけだからな。その上、その距離に特化した練習を積んだウマ娘も多くいるだろう。比喩でもなんでもなく、そのレースに人生を賭けてるウマ娘もな。そんなやつらを、あっちこっちのレースにフラフラしているお前が打ち破るとなると……」

 

「ぐっ、耳が痛い……! でも私、変える気ありませんからね! どれだけ困難だろうと、『かわいい』のためには努力を惜しみません!」

 

「んなこと言うなら遊んでる暇ないんだけどな」

 

「それはそれ、これはこれです! 練習ばかりじゃ身が入らなくなっちゃいますよ! てことで適度に遊びつつまずは練習です! 何やるんですか?」

 

「調子のいいやつめ……まあいい、まずはだな……」

 

 

────────

 

 

「つっ……かれたぁ〜! 結局ほとんど休みナシで泳ぎっぱなしだったじゃないですかぁ! おかげでヘトヘトですよ」

 

「何言ってんだ。あんな大それた目標掲げたんだ、この程度でへばってるようでは足をかけることすらできないぞ」

 

「……なんかまた変なスイッチ入ってません?」

 

 あれから数時間後。午前中いっぱいを練習に費やしたケベックタンゴは、施設内にあるフードスペースにて休憩していた。

 

「それにしてもすごかったですね! ウマ娘が本気で泳ぐ用のプール! 泳いでたウマ娘さんに急に競走しようと持ちかけられたときは驚きましたが、おかげでアツい勝負を繰り広げられました! このままウマ娘水泳界の頂点を狙うのもアリですかね?」

 

「バカ言うな。まあ、お前が案外速く泳げるのは意外だったな」

 

「ちょっと!? 前々から思っていましたが、トレーナーさんは私のことをバカにしすぎです! 私、これでも運動も学力もトップレベルなんですから!」

 

「お前が……? いや、嘘だろ」

 

「嘘じゃないです!」

 

 全く信じていない様子のトレーナーに、ケベックタンゴは半分ムキになって言い返す。

 

「この前のテストだって、私全問正解だったんですから! ……表面は

 

「おい、今なんか聞こえたぞ」

 

「……いや、気のせいです。気のせい。きっとそう」

 

「いやばっちり聞こえたが。さてはお前両面刷りになってること気づかなかったんだろ。おいこら、何目ぇ逸らしてんだこっち見ろ! どうせ図星なんだろお前! おいおいどうした、なんとか言ってみろよアホ」

 

「んん〜〜! だ、だってぇ! 注意書きとか何もなかったんですもん! そりゃ、私も時間が余ってちょっとおかしいなーとは思いましたよ!? でもほら、私が優秀すぎて想定より早く終わっちゃったんだなーって思ってたんですよ!」

 

「教員もお前がそこまでバカだとは想定してなかったんだろうよ……」

 

 どれだけ肉体のスペックが高かろうと、前世からの知識の積み重ねがあろうと、それを全く活かしきることができないのがケベックタンゴというウマ娘である。長年美少女として生きてきたせいか、最近は前世の記憶すら危うい。

 

「マークミスで大幅減点食らってそう」

 

「な、なんのことでしょう……?」

 

「心当たりあるのバレバレだぞ。バカがよ」

 

「わーわーわー! そんなことより! さっさとお昼食べましょ? ね? 本番はこっからなんですから!」

 

「さっきヘトヘトって言ってなかったか……?」

 

 雑に話を逸らすケベックタンゴ。トレーナーもこれ以上話を続ける気もなかったので大人しく従うことにした。残念なことにバカの汚名を払拭することは出来なかったようだ。

 

「ん、このチキン美味しい! トレーナーさんは何食べてるんです?」

 

 視線をトレーナーの手元に移せば、そこにはコーラフロート。昼をそれだけで済ませるにはいささか力不足だろう。

 

「え、トレーナーさんそれだけですか? 足りなくないです?」

 

「だって俺、動かねぇもん。お前が遊んでる間に別のもんでも食うさ」

 

 そう言ってトレーナーがちらと見たのはパフェの看板。サンプルを見る限り、ボリューム満点のようだ。

 

「え、一緒に来ないんですか……ってのは置いといて。冷蔵庫にアイスいっぱい置いてたことと言い、甘いもの好きなんですか?」

 

「なんだよ。悪いか?」

 

「いえいえ。そういうわけでは。しかし、パフェ……トレーナーさん、後で私にも」

 

「やらねぇよ?」

 

 言い切る前にトレーナーに先読みされて断られた。これ以上餌付けをしてやるものか、という固い意志を感じる。

 

「え、なんで!? いいじゃないですかちょっとくらい! ほら、チキン一口あげますから!」

 

「いらないしもうそれほぼ食い切ってるじゃねぇか! やだよお前の食べかけ!」

 

 そうして、なにかと賑やかなお昼タイムは過ぎていった。

 

 その数十分後、トレーナーの説得虚しく1人で遊ぶことになったケベックタンゴは、何事もなくプールを満喫していた。押し寄せる波で頭から水を浴びたり、流れるプールにて仰向けに浮かんだまま流されたり。そして今、ケベックタンゴはウォータースライダーに挑戦しようとしていた。

 

「いやー、憧れだったんですよねウォータースライダー。これまでは結局行かずじまいでしたが……今こそ成就の時! いざ!」

 

 浮き輪に座り、意を決して穴の中に飛び込む。斜面方向への落下が始まり、数秒も経たないうちにかなりの速度が出る。

 

「うおおぉおぉおぉおおぁぁあぁ!? すごい! 速い! ちょっと怖い! ……でも楽しい!」

 

 そのまま加速と壁にぶつかっての減速を繰り返しながら高度を落としていき、ゴールとなる水面にスライディング。やがて推進力を失いぷかぷかと流されながら向こう岸にたどり着いた。

 

「はははっ! 結構おもしろいですね、これ。もっかい並ぼうかな」

 

 そう思い、また受付へと足を運ぼうとした、その時。不意に後ろから声をかけられた。

 

「ねぇねぇ、そこのかわいいウマ娘さん! 今1人?」

 

「……『かわいい』?」

 

 その言葉に反応し、ピクリと耳を動かす。振り向くとそこには、いかにも遊び人、といった風貌の男2人組。どちらもこんがりと日焼けしており、軽薄な笑みを浮かべている。

 

「よければ俺たちと遊ばない? 退屈はさせないからさ〜」

「そうそう、俺たち男2人で花が無くてさ。君みたいにかわいい子がいたら嬉しいな〜って。ね、どう?」

 

 それはいわゆるナンパと呼ばれるもの。その側から見れば怪しさしかない誘いに対して、ケベックタンゴの対応は。

 

「──私に声をかけるなんていいセンスしてますね! いいですよ、ご一緒します!」

 

 まさかの了承であった。

 

「人数は多い方が楽しいですからね! それが美少女ならばなおさらでしょう!」

 

 なにしろこのケベックタンゴというウマ娘、人の悪意にかなり疎い。故に、人を疑うことを知らず、騙されやすいのだ。

 

「さてさて、そうと決まればどこに行きます!? 私今からもう一度ウォータースライダー乗ろうとしてたとこなんですけど!」

 

「おお! ノリいいじゃん、最高だよ! でもそうだなぁ、そしたらこっち側で……」

 

 片方の男がケベックタンゴの肩を抱きよせながら、人気のない方へと誘導しようとする。引っかかっている本人は未だにその意図に気づいていない。

 

「ん? そっちですか? 私もその辺りにはまだ行ってないです。何があるんですか?」

 

 純粋にただ遊ぶだけの誘いだと信じて疑わず、ホイホイと男達について行きそうになったその瞬間。

 

「あーっ! こんなところにいたの?」

 

 その場の空気を一瞬でそちらに向けるような、底抜けに明るい声。思わず、3人とも後ろから聞こえたその声に向き直る。

 

「もー、ダメじゃん勝手に一人で行っちゃ! ごめんなさい、この子、私の友達なんです。行こっ、()()()()()()()?」

 

「えっ? えっ、何で?」

 

 ケベックタンゴの困惑をよそに、突如現れた銀髪のウマ娘がその手を取り人の多い方へと引っ張っていく。

 

「ちょ、ちょっと待ってください! 状況が飲み込めてないんですけど! てかなんでここにいるんですか──」

 

 銀髪のウマ娘が振り返る。見るもの全てを魅了するかのごとき美貌。圧倒的な『カワイイ』オーラ。ケベックタンゴはこのウマ娘を知っている。なぜなら、入学初日からずっと対抗心を燃やし続けていた相手なのだから。

 

「──説明してくださいよ、カレンチャン!」




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