世界一『かわいい』ウマ娘によるトレセン学園侵略計画☆   作:それおすとろ

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かわいい私と動画配信:前編

「──うぎゃあああああああ!」

 

 夜のトレーナー室に絶叫が響き渡る。

 

 悲鳴の主はケベックタンゴ。このトレーナー室を割り当てられたトレーナーの担当ウマ娘である。

 悲鳴を上げるケベックタンゴの目の前には、モニターに映るゲーム画面があった。内容は最近巷で流行っている、FPSと呼ばれる種類のゲームのもの。そして──

 

『草』

『うるせぇ!』

『鼓膜破れたんですが責任とってもらえますか?』

 

 ゲーム画面とは別に、繋いであるパソコンから流れる文字の羅列。それらは全て、先ほどのケベックタンゴの悲鳴についての反応である。

 

 ……そう。今、ケベックタンゴは一人でただゲームをしているわけではない。そのゲームの様子をネットに流し、それを生放送。誰でも簡単に動画を投稿、視聴できることで人気を博したSNS、ウマチューブを利用したライブ配信だ。

 

「うおおおおお! やった、一人で3人も倒しちゃいましたよ! やっぱ私てんさ……はぁー!? ちょっと待ってくださいよ! ずる、それずるじゃないですか!? あっあっ、ちょ、やめっ、撃たないで! ちょっ、助けてください! お願いします! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」

 

『こいついっつも負けてんな』

『うるせぇ!(n回目)』

『調子に乗ってボコられる、もはや様式美』

『期待を裏切らない女、ケベックタンゴ』

『初見です! ミュートしてるとかわいいですね!』

 

 ……どうして、ケベックタンゴは配信者となっているのか。その理由は、2週間ほど前まで遡る──

 

 

────────

 

 

『──ケベックタンゴ、快進撃! 見事、怒涛の三連勝でレースを制しました!』

 

 その日。ケベックタンゴは、12月に控える朝日杯フューチュリティステークスのために勝ちを重ねる日々を続けていた。

 

「ただいま帰りましたよトレーナーさん! どうでした!? 見ましたか私の勇姿! やはり私、世界一かわいいですよねー!」

 

「はいはいそーだな、えらいえらい。レースの結果とかわいさに何の関係があるんだがさっぱりだが」

 

 レースが終わるなり、控え室に飛び込んで来るケベックタンゴと、それを適当にいなすトレーナー。レースに勝利する度に行われるこの風景は、三度目にしてお決まりのものとなりつつあった。

 

「むっ、反応悪いですよトレーナーさん! もっと! もっと私を褒めて! さぁほら、早く!」

 

「待て、今は近寄ってくるんじゃねぇ」

 

 ずずいとトレーナーに近づいてくるケベックタンゴをぶっきらぼうな態度で拒否する。だがレース終わりで若干ハイになっているケベックタンゴは素直に従わない。

 

「えー? 何ですかトレーナーさん、もしかして私の魅力にたじたじなんですかぁー?」

 

「ちげぇよバカ。レース後すぐに近寄られると……その、なんだ、汗もかいてるし……な?」

 

 いちおうトレーナーとしても言葉を選んだつもりではあったが、ケベックタンゴにはそれでもお気に召さなかったらしい。数秒間考えて言葉の意味を理解した瞬間、大声で抗議の声を上げる。

 

「はぁー!? ちょっと何ですかそれ、もしかして汗臭いって言ってます!? 聞き捨てなりませんよトレーナーさん、この私が! この美少女が! 臭いわけないじゃないですかぁー!」

 

「いや美少女だろうが何だろうが臭いもんは臭いわ! さっさとシャワー浴びてこい」

 

「臭くないですぅー! 美少女の体はいつだってフローラルな香りなんですぅー! 疑うなら嗅いでみてくださいよ! ほら! ほらぁ!」

 

「よせバカ、くっついてくるな! 離れろ、シャツがシワになる、だろう、がぁ……!」

 

「いやですー! もうこうなった以上、トレーナーさんにいーっぱい褒めてもらえるまで、絶対に離しませんからね!」

 

 そう言いながらケベックタンゴはトレーナーに引っ付く。汗の湿気と高い体温のせいでかなり息苦しい。

 

「やめろって……言ってんだろうが!」

 

「あ痛ぁ!?」

 

 デコピンで無理やり引っぺがす。軽めにしたつもりだったが、ケベックタンゴに対して積もったイライラが乗って予想以上に威力が出た。

 

「バカなことやってないで、さっさとシャワー浴びてこいっつーの」

 

「むぅ……次こそはかわいいって言わせて見せますから!」

 

「はいはい、さっさと行ってこい」

 

 そう言って送り出した、その数分後。

 

「ちょっとトレーナーさん、大事件ですよ! これ見てください!」

 

 唐突に扉が勢いよく開かれ、髪をぐしょぐしょに濡らしたままのケベックタンゴが入ってきた。

 

「のわっ!? どうした急に……ってバカ! せめて髪乾かしてから来い!」

 

「そんなことよりこれですよ! 早くみてくださいー!」

 

「だから濡れたまま近づいてくるなって! このっ……ああもう、髪拭いてやるからここ座れ!」

 

 床に水滴を垂らしながら歩いてくるケベックタンゴを放っておくことも出来ないので、仕方なく鏡の前の椅子に座らせる。とりあえず背後からタオルで水を拭き取りつつ、気だるそうな口調で要件を聞く。

 

「それで? どうしたんだ?」

 

「そうです! 見てくださいよこれ!」

 

 そう言ってケベックタンゴが差し出したのは自身のスマホ。その画面はウマスタと並ぶメジャーなSNS「ウマッター」のものだ。

 

「何……トレンド一位、カレンチャン……見せたかったのってこれか?」

 

「そうですよ! 私がウマッターを始めた途端にこれです! もはや私に対する宣戦布告と言っても過言ではないでしょう!?」

 

「違うと思うが……何があったんだ?」

 

「どうやらカレンチャンがウマチューブでライブ配信を始めるらしいんですよ! ぐっ、私が勢力を伸ばし始めたからと言って、対抗してくるなど……!」

 

「それも違うと思うが……」

 

 これまでカレンチャンはウマスタでしか活動してこなかったはず。それがウマチューブ……動画配信を中心としたSNSに新しく参入する、というだけでどちらでもないウマッターにここまでの影響を及ぼすとは。改めてカレンチャンの影響力に驚かされるトレーナーだった。

 

「はぁ……それで? だから何だってんだ?」

 

「なっ!? 話聞いてました!? これは私に対する宣戦布告です! つまり向こうから勝負をふっかけてきたわけです! これはもう、こちらだって反撃するしかないでしょう!?」

 

「いやだから、あっちにその気はないだろ……てか、もしそうだとしてどうするつもりなんだ?」

 

「決まってます! ──こちらだって、ウマチューブ参入ですよおらぁ!」

 

 

────────

 

 

「というわけで、これからここのトレーナー室が配信場所です!」

 

「いや待て待て待て待て」

 

 学園のトレーナー室に戻ってくるなりそんなことを言い出したケベックタンゴ。当然トレーナーのツッコミが入る。

 

「何がというわけなのか全くわからないんだが」

 

「だってほら、配信って基本夜の方が人多いじゃないですか」

 

「……まあ、そうだな」

 

「そうは言っても、私の部屋でやったら同室の子に迷惑かけちゃいます。でも夜になると外出できませんし……でも、ここならトレーナーさんの目があるから大丈夫だって、理事長さんが言ってました!」

 

「あ、俺の迷惑は一切考えてない感じ?」

 

 日頃からトレーニング関係なくトレーナー室に入り浸っているケベックタンゴには、もうここが自分の部屋と同じくらいの感覚になっているのかもしれない。

 

「もう話つけてんのかよ……てかさらっと俺も配信に立ち会えって言ってるな……?」

 

 トレーナーはため息を吐いて頭を抱える。それでもすんなりと受け入れているのは諦めからだろうか。

 

「んで、配信って言ったって何やるつもりなんだ」

 

「これから考えます!」

 

「は?」

 

「これから考えます!」

 

「行動力と思慮が釣り合ってない……」

 

 基本思いつきで行動し、なんとかなるだろうと根拠のない自信を持っているため、ケベックタンゴの計画はそのほとんどが行き当たりばったりであった。

 

「まずは情報収集ですね! ウマチューブは私もまだよくわかってないので!」

 

「前向きなのは認めるよ、プラス5点。でもなんも考えてないうちから俺を巻き込むのはどうかと思うよ、マイナス100点」

 

 ケベックタンゴはスマホでウマチューブのアプリを起動し、人気のライブ配信動画を検索する。

 

「カレンチャンがやるのは美容系……同じ土俵で戦っても後発の私が不利なだけですね」

 

「だろうな。知名度もカリスマも魅力もあっちの方が上だ」

 

「はい!? 魅力は勝ってるんですけど!?」

 

「はいはい」

 

 適当に流されたのを不満に思いつつも、検索する手は止めない。画面を少しスクロールしていくと、ちらほらと他のトレセン学園生徒の動画が見え始めた。

 

「なるほど……料理系にお悩み相談……おもしろ企画をやってるものもありますね」

 

「ふーむ、デカい肉焼くだけで画面映えするもんなんだな……悩み相談は論外として、お前料理とかできるのか?」

 

「なんで論外だと思ったのか問いただしたいところですが……そうですね。料理は人並みにできますよ? パスタとかチャーハンとかラーメンとか」

 

「ラインナップが完全に一人暮らしの男子」

 

「でも独自のレシピとかはないので確かに弱いかもですね。となると……」

 

 動いていた指が止まる。ケベックタンゴは一つのジャンルに目をつけると、意気揚々とスマホを天に掲げ叫んだ。

 

「これだー!!」

 

「うっさ……どれだよ」

 

 トレーナーがスマホを覗き込む。ケベックタンゴは得意げに語り始めた。

 

「これですこれ! ゲーム配信!」

 

「ゲーム……お前、そんなに得意だったのか?」

 

「いいえ、あんまりやったことないです! ですが! ゲーム配信というのはスーパープレイだけにあらず、私のかわいさを存分に活かすこともできます! それに、ゲーム自体の知名度もあるので視聴者が稼ぎやすい!」

 

「なるほど……確かにこういう、やらかしプレイにも需要はあるのか。お前得意そうだもんな、こういうの」

 

「ちょっと!? どういう意味です!?」

 

 トレーナーの言葉に頬を膨らませながら、続けてウマチューブでの配信方法などを調べた結果、どうやら機材は今日中に調達できそうなことがわかった。

 

「えっ……今日いきなりやるのか?」

 

「もちろんです! 思い立ったが吉日、考えたら即・行動です!」

 

「そりゃいいけど……今さらぽっと出の配信者が1人増えたところで見向きもされないんじゃないか?」

 

 トレーナーの疑問に、ケベックタンゴは不敵に笑う。そして彼女なりの計画を喋り出した。

 

「ふっふっふ、そこら辺は抜かりありませんとも。まず私のウマスタとウマッターで元手となる視聴者を用意するじゃないですか。そしてひとたび動画を見れば、私のあまりのかわいさに感動の涙を流しながら周囲に広めたくなることは必然! そうしてどんどんケベたんかわいいの輪が繋がっていくってわけですよ!」

 

「洗脳かよ」

 

「要は私ほどのかわいさがあれば視聴者を増やすのはよゆーってことですよ!」

 

「……ま、いいけど。俺はその場にいるだけでなんも言わないからな」

 

 

────────

 

 

 その後も配信の知識を詰め込みながら機材を準備し、気付けば時刻は8時。トレーニングコースに残っていた生徒たちもその全員が寮に帰る時刻となった。

 

「さてさて! そろそろ私の記念すべき最初の配信を始める時ですよ! もう枠も作ってありますからね!」

 

「はぁ。まあ……っておい! ちょっとこっちこいお前!」

 

「はい? どうかしました?」

 

「どうかしましたじゃねぇよ! どうなってんだこれ!」

 

 ケベックタンゴの前に突き出されたのは自身の配信画面。サムネイルには白背景にでかでかと『世界一かわいい私の配信!』とだけ書かれた画像が貼られている。

 

「いや……シンプルでいいじゃないですか。時間もなかったんですし」

 

「そうだな、このどうしようもないセンスについても言いたいことはめちゃくちゃあるが……そうじゃねぇ。どうして既に視聴者が1万人もいるんだ!?」

 

「へっ……え!? いちまんにん!?」

 

 トレーナーのスマホをひったくり確認するも、そこには変わらず『1万人が視聴中』の文字。まだ待機画面なのにも関わらず、だ。

 

「お前……なんかやらかしたんじゃないだろうな?」

 

「い、いやいや! なんもやってないですよ! ってかなんで最初に出てくる可能性がそれなんですか!」

 

「だってお前やらかしそうだし……お前じゃ普通こんな人数集められないだろ」

 

「それは……確かにそうですけど。一体何が起きたんでしょう……?」

 

 ケベックタンゴは自身のスマホを取り出してウマスタとウマッターを確認する。炎上ではないにしろ、何かの拍子にバズったのだろうか……そう考えた。

 実際、そう単純なものではなかったのだが。

 

「……あっ」

 

「どうした? まさか、やっぱり……」

 

「ち、違いますよ! 私は何もやらかしてないですって! え、えーっとですね……」

 

 ケベックタンゴは言い淀む。やがてトレーナーの嫌疑の目に耐えられなくなったのか、観念したように口を開いた。

 

「なんか……カレンチャンに宣伝されてました……」

 

「ええ……」

 

 カレンチャンに宣伝される。すなわち、300万いるカレンチャンのフォロワーにケベックタンゴの配信の存在が知らされたということ。そう考えると、むしろ1万人は少ない方ではないだろうか。

 

「むぅー! 敵に塩を送るとは何事か! カレンチャンめ、余裕ぶりやがって〜! いいです、それでもあの子よりも人気になれば私の勝ちですからね!」

 

「ん……? でも、ここから知名度がどれだけ広がっても、元を辿ればカレンチャンの宣伝になるんだよな……。なぁ、これ実質すでに敗北してるだろ」

 

「ええい、うるさいですね! そうだとしても相手の過失なんだからいいじゃないですか! 勝てりゃいいんですよ勝てりゃ!」

 

「とうとう手段を選ばなくなってきたな……」

 

「そんなことはどうでもいいとして! さっさと配信始めますよ! もう時間なのに、視聴者を待たせるわけにはいきません!」

 

 ずんずんと大股でパソコンに向かい、用意していた椅子に座る。そして意気揚々と第一声を発しようとして……

 

『ミ ュ ー ト っ て 知 っ て る ?』

『俺は何を聴かされているんだ』

『漫才配信はここですか』

 

「えっ……ええええええええええ!? もしかして今までの話全部入ってました!?」

 

『うーんポンコツの匂い』

『お気付きになられましたか』

『キャラ固まったな』

 

「くっ……ま、まあまあ! 起きてしまったことを悔やんでも仕方がありません、ミスは誰にでもありますからね! 気を取り直して初配信、刮目せよ、世界一かわいい私の姿を!」

 

 多少強引に話を打ち切ると、キーボードを勢いよく叩いて画面を切り替え、自分の姿を画面に映し出す……つもりだったのだが。

 

「あ、え? おかしいな、変わらないんですけど。ちょ、これどうなってるんですか!? あれ!?」

 

『初手トラブル草』

『おのれ仇! 面を見せい!』

 

「待って! 画面切り替わんないんですけど!? あと別にあなたの仇でもなんでもないんですけど!?」

 

 いくらカメラの映像を表示しようとしても、なぜか反映されることはない。ケベックタンゴの困惑と焦りに合わせるように、みるみるうちに視聴者数の数字が減っていく。

 

『爆速で視聴者減ってて草』

『最高のスタートダッシュを最速で台無しにしていく女』

『ポンすぎておもろい』

『ははーん、さてはこの子アホだな?』

 

「ぐっ、好き勝手言いおって……! 別に、私はポンコツでもアホでもないんですけど!? ……あ、カメラ点いた」

 

 半ばヤケクソにガチャガチャとキーボードを叩いていると、カメラは唐突に正常な機能を取り戻した。フッと、画面にケベックタンゴの顔が表示される。

 

「よしよし! ふふん、どうですか私の美少女フェイスは!」

 

『なんだこの美少女!?』

『!?』

『は?』

『あれで美少女とか詐欺だろ』

『なんか納得いかない』

 

「なんでぇぇぇぇぇ!?」

 

 こうして、ケベックタンゴの初配信は大盛況(?)で幕を閉じたのだった……。




1ヶ月一回更新とか言ったのどこのどいつだよ(自戒)
いや……今年はいろいろ忙しくて……出来る限り更新しようとは思うから気長に待っててください……
あと今回は前後編の2話構成になる予定なのでよろしくお願いします

あと感想・評価はどんどん送ってね!待ってるからね!
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