世界一『かわいい』ウマ娘によるトレセン学園侵略計画☆ 作:それおすとろ
「ふん、ふん、ふふーん♪」
その日、ケベックタンゴはご機嫌であった。
彼女の現在地はトレセン学園を離れ、街の中心部。数日前マヤノトップガンから聞きつけた、『おしゃれ街』として名高い都市である。学校もトレーニングも休みの日曜日、そこにケベックタンゴは遊びに来ていた。
まずケベックタンゴを出迎えたのは天を突くような高層ビル。そして所狭しと並ぶ、洋服店、アクセサリーショップ、ネイルサロン。この世の全てのおしゃれを凝縮したような様相に、ケベックタンゴのテンションはかなり上がっていた。
「うわぁー……! この人もおしゃれ、あの人もおしゃれ……このお店もなんだかよくわかんないけどおしゃれです!」
目を輝かせながら周りをキョロキョロと見回すケベックタンゴ。側から見てもその姿は都会に浮かれる田舎娘のそれでしかなかった。その明らかに「慣れていない」雰囲気は田舎娘をカモにしようとする客引きを多く引き寄せ、そして……
「いやー! 今日はなんだかいろんな人に話しかけられちゃいますね! やっぱ私のかわいいオーラが目を引いちゃうとか? ま、このおしゃれ空間の中でも私はダントツかわいいですからね!」
ケベックタンゴを調子に乗らせた。
声をかけた客引きは最初こそ、その営業スマイルで対応していくものの、しだいにケベックタンゴの面倒くさい性格に苦笑いになっては店に引き込むことも諦めどうにか会話を早めに切り上げる。そうなると、後に残るのは道すがらによくわからない人からとにかく褒められたというケベックタンゴにとって都合のいい結果だけである。
そうして過剰な自己肯定感を持ちつつ、うきうき気分で観光とショッピングを楽しんでいたケベックタンゴ。次はどこへ入ろうかと辺りをきょろきょろ見回していると、信号を挟んで向かいに見覚えのあるウマ娘を見つけた。
「おや? あそこにいるのは……マヤノちゃんだ! おーい!」
ケベックタンゴは横断歩道を渡りながらぶんぶんと大きく手を振ってマヤノトップガンの方へ小走りで向かう。マヤノトップガンの方もそれに気づいたのか、ぱあっと満面の笑みを浮かべて手を振りかえしてきた。
「あっ、ケベちゃん! 偶然だね! ケベックちゃんも買い物?」
「あっ、うん。この前マヤちゃんから話聞いたから。ここすっごいね、見たことないお店がいっぱいだよ」
「えへへ、だよね! なんか大人の街って感じ! そうだ、せっかくだし、この後──」
友達との偶然の出会いを喜び、談笑する。そんな和やかな時間は、ある人物の登場により突如崩れ去ることとなる。
「マヤちゃん、お待たせ──って、あれ? ケベたん?」
「へっ……あーっ! カレンチャン!? なんでこんなところに!? ってか、なんですかケベたんって! 呼ぶのを許した覚えはありませんよ!?」
「うーん、ダメ、かな……?」
「いや、別に……いいですけど! そんなことより、なんであなたまでここにいるんですか!」
いつものようにカレンチャンに突っかかるケベックタンゴに対して、答えたのはマヤノトップガンだった。
「今ね、カレンチャンとお買い物中なの! だから、よかったら──」
「うえぇぇぇぇ!? マヤノちゃんが、カレンチャンと!? そ、そんな……」
その返答を聞くなり、みるみるうちにケベックタンゴの顔が絶望に染まる。何かまずいことを言ってしまっただろうか……マヤノトップガンが、そうケベックタンゴの顔を覗き込む。
「ひ……」
「ひ?」
「ひどいですよマヤノちゃぁん! 私とは遊びだったって言うんですか!?」
「え……ん? 今はカレンチャンと遊んでるよー?」
「そ、そんな……もう私は過去のもの……? い、いや、カレンチャンとも遊びって……マヤノちゃん、恐ろしい子っ……!」
「え、え、何言ってるのケベちゃん、マヤわかんない……」
半分冗談を交えつつ、言ってることはカレンチャンと仲良くしてるのが気に食わないという至極身勝手な言い分であった。
「い、いや、気にしないで……ちょっと脳が破壊されただけだから……」
「ええ!? 大問題じゃん!」
ケベックタンゴはひとしきり落ち込んだ後、カレンチャンを見て立ち直る。いつまでもライバルに情けない姿を見せるわけにはいかないのだ。
「カレンチャンめ……人気のみならず、マヤノちゃんまで私から奪うとは……!」
「別に奪ってはないと思うんだけど……どっちも」
困惑ぎみに返すカレンチャン。そんな二人の様子を見ていたマヤノトップガンはニコニコ顔である提案を持ちかける。
「せっかくだしさ、ケベちゃんも一緒に遊ぼうよ! いいよね、カレンチャン?」
「うん、もちろん。ケベたんさえよければだけど……」
「む、いいの? それなら是非……いやでも私は別にカレンチャンと馴れ合うつもりは……でもマヤノちゃんのお誘いを断るわけには……!」
ケベックタンゴがぐぬぬと唸っていると。
「じゃあさ、勝負しようよ、ケベたん。内容はこれから遊ぶ中で決める、って感じで。ね、カレンのお願い、受けてくれるよね?」
「んなっ……!」
とびきり可憐に、けれどどこか挑発的に、カレンチャンは問いかける。まるでそのまま美術館の彫刻になっても違和感がないような完璧な仕草。その「カワイイ」の圧にケベックタンゴは一瞬言葉につまる。しかしここで気圧されてしまえば自分はカレンチャンに及ばないと認めてしまったも同然、ケベックタンゴはすぐにいつもの態度を取り戻す。
「ふ、ふんっ! 私に勝負を挑むとは良い度胸ですね! いいでしょう、今日こそ私はあなたに勝つ!」
「うんっ、じゃあ決まりだね! マヤちゃん、どこ行こっか?」
「あれっノリが軽い!? ちょっ、こっちは真面目なんですけどー!?」
2人に連れられケベックタンゴがやってきたのは、都市の中でも有数のアミューズメント施設。一応、名目上はボウリング施設なのだが、現在では様々な娯楽事業を含みちょっとした遊園地のような扱いだ。
「着いたよケベちゃん! この辺で遊び場と言ったらやっぱりここだよねー!」
早くもテンションが上がったマヤノトップガンが言う。
「さて……どうしよっか。いろいろあるけど、最初はやっぱり……」
カレンチャンの呟きに反応して、2人は目を見合わせた後に同時に声を出した。
「「ゲームセンター!」」
────────
「うおぉ……すごいです、クレーンゲームがこんなにいっぱい……」
「あれ、ケベたんこういうところは初めて?」
「はい! へぇー……こんなんなってるんだ……!」
ケベックタンゴは辺りを忙しなく見回してから、ハッとした表情でカレンチャンを見上げる。
「わかりましたよ、ここのクレーンゲームで勝負しようって訳ですね!? どっちが多く景品を取れるか、みたいな!」
「え? うーん、そうだなぁ……でもさ、こういうのってだいたいお金を入れたときによってアームの強さが変わったりするって言うじゃん? それで勝負ってのも、ちょっとフェアじゃないんじゃない? ね、どうせなら純粋に楽しんでみない?」
「……言われてみればそうですね! よし、じゃあとりあえず遊びましょうか!」
「うわぁ、ケベちゃん綺麗に丸め込まれてる……」
マヤノトップガンがつい漏らした独り言はケベックタンゴには聞こえなかった。すでに彼女は湧いて出る好奇心のままにふらふらと歩き出していたからだ。
左右に所狭しと並ぶクレーンゲームの景品を一つひとつ確認しては「ほぉー」だの「へぇー」だの間抜けな声を上げている。
「おぉ、やはりぱかぷちのコーナーが広いですね。うわ、ルドルフ会長の多すぎないです? いや、あの人もいずれ超えるべき相手ですね……」
しばらくあてもなくふらふらと歩いていたケベックタンゴだが、やがて一つの筐体の前に立ち止まる。
「んなっ……! これは……!」
「ん? どうしたのケベたん、何かいいものでもあった?」
そんな様子を見て、カレンチャンは何か見つけたのだろうかと声をかける。しかし、次の瞬間飛んできたのは非難……もとい、嫉妬の声だった。
「どうしたもこうしたもありませんよ! なんであなたのぱかぷちがもう置いてあるんですか!? 私たちデビューしてまだ数ヶ月ですよね!?」
「あ、うん。そうなんだけどね、ちょっと前にメーカーさんからオファーがあって作ってもらったの。なんでも、ファンからの要望が多かったーってことで」
「はぁー!? なんですかそれ羨まし、いや憎らしい!」
「でもでも、ケベちゃんのぱかぷちもきっとすぐ出るよ! レースに出てれば必ず!」
マヤノトップガンがフォローに入るもケベックタンゴの怒りが収まることはない。大事なのはカレンチャンが自分より先にグッズを出していたということなのだ。
まあ、トレセン学園に入学する前からSNSで活動していたカレンチャンとこの時点で人気を比べようとする時点で愚かなのだが。
「くっ……ニコニコ呑気な顔しやがって、なんだか気に入りませんね! 待ってやがれ、今引きずり下ろしてやりますよ!」
「あ、取ろうとしてくれるの? ありがとー!」
何故か燃やした対抗心のまま100円を筐体に投入。レバーを動かしカレンチャンのぱかぷちの真上にアームを配置し、勢いよくボタンを押すと共にゆっくりと降下させる。やがて最下点に到達し、ぱかぷちの頭をしっかりと掴んだ。
「ふっ、勝った……!」
ケベックタンゴは景品が落ちることを確信し微笑む。アームはカレンチャンの頭を掴んだまま、上昇し、そして──
頂点まで達したところでアームが大きく揺れ、無情にもぬいぐるみはアームから溢れほぼ元の位置に戻っていった。
「んなぁぁぁぁぁああ!? ちょっ、今の完璧でしたよね!? なんでぇ!?」
「あはは……やっぱり、何回かやんないとアームの強さが──」
「ふんっ!」
カレンチャンが何か言い終わる前にもう一度コインを投入する。
「あ、え、もっかいやるの?」
「当たり前でしょう!? ここでやめたらなんか負けた気がするじゃないですか! よりによってカレンチャンに!」
「あ〜……」
ケベックタンゴはもう誰の目にも明らかなほどムキになっていた。
彼女の負けず嫌いな性分に加え、今対峙しているのは本人ではないとはいえカレンチャンだ。ここで引くわけには行かない。
端的に換言すれば、取れなかったのが悔しい。
「よしよし! 今度こそ完璧でしょう、これ!」
アームは再びぬいぐるみの頭を掴み、ふよふよと上へ登っていく。先ほどの失敗からか、その様子をケベックタンゴはじっと見つめていた。
「ぐぬぬぬぬ……今度こそ……今度こそ……!」
しかし残念ながらそれで結果が変わることも無い。まるで先ほどの焼き直しのように、頂点に達すると重力に負け落ちてしまった。
「んがぁぁぁぁぁ! このっ、絶対おかしいでしょうこれ!? もしや店側も敵なのかー!?」
「ちょっ、ケベちゃん、機械揺らしちゃダメだって!」
「あはは……ケベたんの配信が人気な理由がちょっとわかったかも」
「うぐぐ……もう一回! こうなったら落ちるまでやってやりますよこのやろう!」
なおも諦めず、またもやコインを投入しようとしたケベックタンゴをマヤノトップガンが宥める。
「ちょっとケベちゃん、いま全部使っちゃったらもう遊べないよ!? マヤ、もっと別のところでもケベちゃんと遊びたいんだけど!?」
「むっ、それもそう……だけど……」
ケベックタンゴは迷う様子を見せる。
確かにマヤノトップガンの言う通りだし、自分も、もっと別の場所に行ってみたい。だがしかし、このままカレンチャンに背を向けるわけにもいかない。どうしようかと悩んでいたところ。
「じゃあ、一回だけマヤにもやらせて! 多分、わかっちゃったから」
「お、おお?」
ケベックタンゴはそれまでの執着っぷりからは考えられないほどあっさりと立ち位置を譲る。
何故か? 知っているからだ。マヤノトップガンの言う「わかっちゃった」がただ適当に言っただけではないことを。それは彼女の持つ天才的な感で物事の最適解を見つけ出した合図であるからだ。
ちなみにケベックタンゴはこれを心の中でひっそりと「勝ちフラグ」と呼んでいる。
「こういうのは……ここをこうして……この辺っ!」
操作されたアームはぬいぐるみの真横に降下。狙いが外れたのかと心配するも、次の瞬間すぐにその意図を理解する。
「あっ……タグにアームを引っ掛けて……?」
「わっ……すごい! あんな小さいところに通すなんて……!」
タグを使って吊るされたぬいぐるみはどれだけ動いても落ちる気配すらせず、そのまま穴に向かいアームが開くと同時に滑り落ちる。ケベックタンゴが悪戦苦闘したカレンチャンのぱかぷちはいとも簡単にゲットされた。
「はいこれ! 取ったよ!」
「わ、ありがと……でも、私別にいらないんですよね。マヤノちゃん、これいる?」
「え? うーん、実はマヤもこれ以上物増やさないでってテイオーちゃんに怒られちゃったんだよね。だから今は……」
「むぅ……え、じゃあカレンチャン……」
「え、いや、プレゼントは嬉しいけど自分のだし……そもそも実家の方に何個かあるからいいかな……」
「え、えー……いや、なんで宿敵のぬいぐるみを私が持ってなきゃいけないんですか……」
取ろうとしたからでは? 2人の間に当然の感想が浮かぶが特に何も言わないことにした。
結局、後で自身のトレーナーに押し付けることを決め、とりあえずバッグの中にぬいぐるみを詰め込むのだった。
「よーし、それじゃそろそろ、次のところへレッツゴー!」
──騒がしい休日は、まだまだ続く。
また前後編の2話だけになりそうです
誰だ3話で1エピソードにしますとか言ったやつ
自分なんだよなぁ……