世界一『かわいい』ウマ娘によるトレセン学園侵略計画☆ 作:それおすとろ
ゲームセンターでの一件の後、ケベックタンゴ、カレンチャン、マヤノトップガンの3人は一度休憩を入れるためにベンチに腰掛けていた。
「カレンチャン、次はどこに行くんです?」
ケベックタンゴが隣で自撮りをしているカレンチャンに聞く。
「んー? そうだね、カラオケでも行く?」
「カラオケ!? 行きたい行きたーい!」
カレンチャンの言葉にいち早く反応したのはマヤノトップガン。横並びのベンチにケベックタンゴを挟んでカレンチャンとは反対側にいるのだが、身を乗り出してぐいと顔を近づける。挟まれたケベックタンゴはのけぞった結果バランスが取れずに後ろにすっ転んだ。
「わわ、大丈夫!? ごめんね、マヤのせいで……」
「い、いや、大丈夫。ほんとに大丈夫だから、気にしないで……大声出さないで……目立つから……」
いくら承認欲求はあれど悪目立ちは望んでいない。ただでさえウマ娘3人、それも大人気ウマスタグラマーであるカレンチャンを含めているため目立つのに、これ以上恥ずかしい姿を晒したくはない。頼むからちょっと落ち着いてくれといくら言っても、罪悪感を感じているマヤノトップガンには届かない。
「じゃ、じゃあそろそろ行こっか。ケベたん、立てる?」
「はい……ね、マヤノちゃん、一回ここ離れよ……?」
すかさずカレンチャンがフォローを入れその場を後にする。助かった、と思ったケベックタンゴだが、冷静になるほど恥と屈辱が湧いてきてまたカレンチャンに噛み付いたのはいうまでも無い。
もちろん、それがカレンチャンに躱されたことも。
────────
カラオケに着いた一行はすかさずマイクとリモコンを取って席に座る。何を歌おうか、カレンチャンとマヤノトップガンが悩んでいると、ケベックタンゴが急に言い放つ。
「はっ! なるほど、カラオケで勝負ですか! ふふ、確かに私たちの本領と言ってもいい分野ですからね、受けてたちま──」
「うーん、でも、カレンたちに限らず、ライブにはみんなそれぞれに色があるわけでしょ? 歌にだって、単純な上手い下手で測れるものじゃないし、ましてやこんな機械なんかじゃ勝ち負けを決められないんじゃないかな?」
「そ、それは……そうですけど……」
「それよりほら、みんなで楽しく歌った方が絶対いいよ! ほら、ケベたんもマイク持って!」
「え、え、あ、はいどうも……」
本日二度目のはぐらかし。カレンチャンの言うことも一理あるとはいえ、2回連続で丸め込まれるのはどうなんだと思わなくも無いマヤノトップガンだったが別に何か言うべきことでもない気がした。
「ね、カレンもケベたんの歌声、聴きたいなぁ」
「ふ、ふふふ、やっぱそうですかね〜? まあ私の歌声が全人類を魅了するかんっぺきにかわいいものであるのは事実ですけど? まあそこまで言うなら? 今は仲良く歌ってあげますけど?」
マヤノトップガンが向き直るとそこにはすでにカレンチャンに煽てられて上機嫌に曲を入力し始めるケベックタンゴの姿が。
「ちょろすぎだよケベちゃん……」
……何も言うべきではないとは言ったが、つい口に出してしまったものは仕方ないだろう。
「ふふーん、せっかくですし今度のウイニングライブの練習でもしましょうかね! もちろん、センターの!」
「そういえばケベたん、次は何のレースに出るの? ジュニア級のG1といえば、『朝日杯フューチュリティステークス』、『阪神ジュベナイルフィリーズ』、『ホープフルステークス』……あとは、ダートの『全日本ジュニア優駿』。ケベたんは芝もダートも行けるって言ってたけど、どれにするの?」
「む? それがですね、トレーナーさんに出るのは一つにしろって言われちゃいまして……」
先日の話、ケベックタンゴは出来るだけ多くのレースに出たい! と自身のトレーナーに相談したが、帰ってきた返答は「ダメだ」の3文字。
ケベックタンゴの目的──全ウイニングライブのセンター制覇のためにはジュニア期のG1どれかで一着を取る必要があるため、チャンスは多い方がいいだろうと伝えたのだが、まだ体も出来上がっていないうちの連戦で故障してしまうリスクも考えてのことだと諭されてしまったのだ。
「ダートはまだトレーニングしてませんし、これから挑む距離を考えるとホープフルステークスですかね……?」
「え!? ケベちゃんもホープフル出走するの!?」
急に反応したマヤノトップガンにケベックタンゴは一瞬ビクッとする。ここまで大きく反応するのは意外だった。てっきりそうなんだー、くらいの反応だと思っていたのだが……
「あ、え? あ、もしかしてマヤノちゃんも?」
「うん! 次はホープフルだよ!」
「そうなの!?」
今度はケベックタンゴが驚く番だった。
「じゃあ、次はマヤノちゃんと戦うってことだ」
「うん! よろしくね、ケベちゃん!」
にこやかな顔つきのまま、両者の視線の間にバチバチと火花が散る。ケベックタンゴも一応はウマ娘、レースに対しては真面目なのだ。当然、マヤノトップガンも同様だ。お互い親友だと思っている、が──いや、だからこそ、負けたくない。
「……うおっ、もう曲始まっちゃう。マヤノちゃん、一緒に歌お?」
「うんっ! 本番の練習、だね!」
「そのときのセンターは私だけどね?」
「いーや、マヤだよ! 絶対負けないからね!」
「ふっ、宣戦布告、その意気や良し! だけど私は──」
「あっ、ほらほら、もう歌わないと!」
「えっ、ちょっ、今かっこいいこと言おうとしたのにー!」
不満を垂れていても始まってしまったものは仕方ない。むしろ歌い出しまでの時間を理解せずに喋っていたケベックタンゴが悪い。慌ててマイクを持ち直し、瞬時に気持ちを切り替える。
歌う曲は『ENDLESS DREAM!!』。ホープフルステークスでのウイニングライブ楽曲だ。
先ほどまで騒いでいたやかましいウマ娘と同一人物だとは思えないほど、とびきりかわいく澄んだ声が響く。ライブは幼い頃から死ぬほど練習してきたため、その出来は完璧だった。
「おおー、すごいすごい! すごいよケベたん! とーってもカワイかった!」
「ふふん、そうでしょうそうでしょう! さあさあまだまだ、どんどん歌いますよー!」
「「おー!」」
────────
「いやー! めちゃくちゃ歌いましたねー!」
「うんうん! にしても意外だったな、カレンチャンあんなかっこいい系の曲も歌うんだ」
「うん、あんまり歌う機会がないんだけどね。カレンもカワイイの可能性を広げてみようと思ったの」
2時間後。しっかり時間いっぱい歌った3人は歩きながら話に花を咲かせていた。
「デュエット楽しかったね、ケベちゃん!」
「うん! あ、でもうーん、なんか忘れてるような気がするんですよねー……」
「え、忘れ物? なら店員さんに言ってこないと」
「いや、そういうんじゃなくて……いや、なんでしたっけ……」
思い出せそうで思い出せない。ケベックタンゴはもどかしい気持ちになる。何か、重要なことを忘れている気がするのだ。ずっと前、この施設に入ってきたあたりのこと……
「あ。……あー! 思い出した、思い出しましたよ!」
「ん? 何を?」
「何を、じゃないですよ! 勝負です勝負! おのれカレンチャン、さっきからずっとはぐらかしやがってー!」
「あ、気づいちゃった? 残念」
カレンチャンは困ったように笑う。それを見て、ますますケベックタンゴの顔が怒りで赤く染まる。……残念ながら、あまり迫力はない。
「知っててやりましたね、このー!」
「だって、ケベたんとは勝負とか関係なく普通に遊んでみたかったんだもん。まぁでも、もうかなり遊んだし……いいよ、何しよっか」
「そりゃもちろん、ボウリングですよ!」
「あ、そういえばマヤここに来たこと何回かあるけどボウリングやったことないや……」
「あるあるだね。……いいよ、じゃあ行こっか、ボウリング」
「ふふーん、ギッタンギッタンにしてやりますよ!」
こうして、巡る3ヶ所目にしてやっと一度目の勝負──ボウリング対決が始まった。
「なんだかすごい自信だけど、経験あったりするの?」
「ありません! ですがこの前ゲームでやったので事前準備はバッチリです」
「う、うーん……?」
普通に考えて何も大丈夫ではないのだがこうも自信たっぷりに言われてしまうとなんとも言えない説得力が生まれる。
「ふふん、せっかくなら負けた方がクレープでも奢ってもらいましょうかね! まずは私のターンです! うおぉぉりゃぁ!」
ケベックタンゴが勢いよく放ったボールは滑らかにレーンを滑り、転がり、曲がり──
「あ、ダメダメ、そっち行っちゃダメぇ! うぁぁぁぁぁ! なんでぇ……」
──ガターにハマり暗闇に吸い込まれていった。
「あはは……そりゃゲームと実際は違うよね……」
「ぐっ……くぅっ! まだまだ、たかだか一回の失敗が何ですか! 私は諦めませんよ!」
「よーし、じゃあ次はカレンの番だね! ……実は、やったことあるんだけどっ」
勢いよく投げられたボールはまっすぐ1番ピンと3番ピンの間に当たる。倒されたピンは連鎖的に他のピンを倒していく。ボールが見えなくなる頃には、立っているピンは一つもなかった。
「やった、ストライク!」
「うぇぇぇぇええ!?」
「わっ、カレンチャン、すごーい!」
カレンチャンはマヤノトップガンとハイタッチ。未だ口を開けたままフリーズしたケベックタンゴを横目に、今度はマヤノトップガンがボールを持つ。
「よーし、じゃあマヤも! 今のカレンチャンので、多分わかっちゃったから!」
風を切るほどの勢いでボールが放たれる。そうして先ほどのカレンチャンの球と寸分違わず同じ位置に着弾し、やはり全てのピンが倒された。
「やった、マヤにも出来たー!」
「え、すごい! マヤちゃん、初めてなんだよね!?」
ワイワイと盛り上がる2人を見つめたまま、ケベックタンゴは完全に思考を停止する。今目の前で起きた出来事が信じられないようであった。
「ケベちゃん、次ケベちゃんの番だよ。……ケベちゃん?」
「……はっ! そ、そうですね。まだ一回目、試合は始まったばっかりです!」
なんとか自分を奮い立たせ放つ第2球。他2人に比べるとあまりにも鈍いボールは磁石でも入っているのかと思うほど急に方向を変え、またガターへ吸い込まれた。
「うわぁぁぁぁあ!? なんでですかぁぁあ!」
「ケベたん、無駄な回転がかかりすぎ……てか逆にどうやってやるのそれ。えいっ」
軽く投げられたボールはまたまたストライク。続くマヤノトップガンもストライク。
「う、まだ……まだありますから……」
投げる。ガター。
「えいっ」
ストライク。
「よっ」
ストライク。
「ふぬぅ!」
ガター。
ストライク。
ストライク。
ガター。
……結果、マヤノトップガン、300点。カレンチャン、300点。ケベックタンゴ──1点。
もうぐうの音も出ないほどの惨敗であった。
「あー、楽しかった! ……さて、ケベたん。クレープ、ご馳走様♡」
「ぐ……うわぁぁぁぁぁあ!!」
正直泣きそうだった。
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「うーん、おいし〜!」
「うう……くそぅ……」
あの後ボウリング場を出たケベックタンゴ達は、近くにあったクレープ屋の屋台へ。宣言通りカレンチャンに奢ることになっていた。
「ありがとね、ケベたん?」
「うう、美少女に二言はありませんけど……鬼! 小悪魔! 魔王!」
「あはは……じゃあケベたんにも一口あげるよ。はい、どうぞ」
カレンチャンはクレープをケベックタンゴの方へ差し出す。その一言を聞いた途端、ケベックタンゴは目を輝かせた。
「一口? いま一口って言いましたね? 取り消さないですよね!?」
「うん。言ったよ?」
「ふふふ、じゃあ遠慮なく……あ〜〜ん」
ケベックタンゴは大口を開け、一口で食い尽くさんとクレープにかぶりつく。そして、クレープを頬張った瞬間、カシャリ、と音がする。
「んぐ……ん!? ふぁっ、ふぁにふぉへふんへふは!?」
「ふっふっふ、引っかかった〜! 欲張ってクレープ頬張ってるケベたん、すっごいカワイイよ?」
ケベックタンゴがクレープから目を離し向き直ると、そこにはニヤニヤした顔のカレンチャンが。
「はむ……やめっ、消してくださいよー!」
「え〜? せっかくカワイイ写真撮れたのに……ウマスタに上げようかなって思ったんだけど」
「ダメです! ダメに決まってます!」
「ええー? でも、もったいなくない? ほんとに、すっごくカワイイのに」
「カワっ……むむむむむ……いや、ダメなもんはダメです!」
「本当にー? でも、ケベたんのカワイさをみんなに知ってもらいたいなーって思ったんだけど……」
「ぐぬ、ぐぬぬぬぬぬぬ…………こ、今回だけなら……」
「やったぁ!」
恥と知名度アップを自身の天秤にかけて悩んだ末に、カレンチャンの誘惑に屈した。一回だけ、一枚だけなら大丈夫だろう、と。
しかし、ケベックタンゴはカレンチャンの発信力を舐めていた。
カレンチャンの自撮りとその手のクレープにかぶりつくケベックタンゴのツーショットは信じられない速度でバズり続け、翌日には100万いいねを超えていたのだった……。
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喜びのあまりケベたんの知能が落ちます
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