世界一『かわいい』ウマ娘によるトレセン学園侵略計画☆   作:それおすとろ

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かわいい私とはじめてのG1:前編

時は12月後半。世間も年末に向け忙しなくなり始めるこの日──ケベックタンゴは初めてのG1レース、ホープフルステークスに臨もうとしていた。

 

「すぅー……ふぅー……」

 

 レース場の、その控え室にて。ケベックタンゴは鏡の前で一人、深く息を吸う。それを三度繰り返すと、不意に扉がノックされる。音に反応してそちらを向くと、ケベックタンゴが返事を返す間もなくトレーナーが入ってきた。

 

「入るぞー……って、なんだ、珍しく真面目な顔して。さすがのお前でもG1は緊張するか?」

 

「いえ……頑張って作ってます。油断すると顔が緩んじゃいそうで。にへへ」

 

「お前なぁ……。まあガチガチになるよりかはいいかもしれないけどさ。あー嘘、そういうのお前に期待する方が間違いだわ」

 

「うわぁ、果てしなく失礼! でもでも、考えてみてくださいよ! G1って一番おっきなレースなんですよね? つまり注目度も段違い! 勝てばファンを大量ゲット! ワクワクしない方が無理ってもんですよ!」

 

 目をキラキラと輝かせて語るケベックタンゴ。その頭の中では負ける未来など1ミリも考えていない。

 

「ま、いいけど。でも忘れんなよ、レースの格が高けりゃその分強いウマ娘が集まるんだ、このレースも例外じゃない。お前の能力はその中でも上位なのは確かだが……レースに絶対は無い。油断はするな」

 

 先日測ったタイムは過去のホープフルステークスで勝利したウマ娘のタイムの平均よりも速かったが、本番は一人で走るわけではない。出走するウマ娘の中には相手を揺さぶることに長けたウマ娘も存在するし、そうでなくても周りに他のウマ娘が走っているだけで少なからずその影響は受ける。加えて……

 

「それに、今回は相手にマヤノトップガンもいる。彼女が過去に出走したレースの記録を見たが……正直強いなんてもんじゃないな。ありゃ天才だ」

 

「ふふん、ですよね。さすが私の唯一の友達です」

 

「なんでお前が誇らしげなんだよ。分かってると思うけど敵だからな?」

 

「いきなり何言ってるんですか? そんなん分かってるに決まってるじゃないですか」

 

「なんでこっちがバカにされてるんだうっぜぇ……ともかく、あいつの実力は過去のレース含めてもトップクラスだ。まず思い通りの展開にはならないと思え」

 

 トレーナーは冷静に浮かれ気分のケベックタンゴを窘めながら即興のミーティングを始める。警戒すべきウマ娘とその走り方、対策を丁寧に教え込む。レースの時に半分も覚えてなくても、一度聴いておくだけでも効果はある、とトレーナーは思っている。……半分どころか1割も覚えてないかもしれない、という考えが一瞬だけよぎったが気づかないふりをした。なんだかんだ走りは優秀なケベックタンゴだ、さすがにそんなことはないだろう。きっと。多分。

 

「不安だ……」

 

「おや? 不安なことなんてありませんよ! 任せてください、絶対勝ちますから!」

 

「何その根拠のない自信。それが逆に不安なんだが」

 

「へーきですよへーき! トレーナーさんはただ私が勝った時のご褒美を用意しておくだけでいいんです! そうすれば、私が帰ってきたころにはG1ウマ娘のトレーナーですよ」

 

 薄い胸をどんと叩いて頼り甲斐をアピールする。効果はいまひとつのようだが。

 

「なんだか胡乱な表情をしていますが。それも全て始まればわかることです! ということで、そろそろ準備しましょうかね」

 

 そう言うと、ケベックタンゴは突然制服のボタンに手をかける。トレーナーがまだ部屋の中に居るのにもかかわらず、だ。

 

「うぉおいバカぁ! いきなり服脱ぎだすんじゃねぇ!」

 

「へ? あ、トレーナーさんまだ居るんでした。うっかりうっかり」

 

「うっかりって……お前には恥じらいとかいうものがねぇのか!」

 

「ふっ。私の完璧な美少女ボディに恥ずべき箇所が存在するとでも?」

 

 ドヤ顔を決めるケベックタンゴ。ちなみに下着姿のままなのでトレーナーにとっては非常に目のやり場に困る状況である。

 

「バカバカバカバカマジでバカ! 俺は出てるからな! 着替え終わったら呼べ!」

 

 トレーナーは勢いよく部屋から飛び出していく。残されたケベックタンゴは1人、呟く。

 

「ふっ……あの慌てよう、私のスタイルが直視できないほどに魅力的ということですね。あの無愛想なトレーナーさんも私の虜になる日は近いというわけですか……」

 

 トレーナーが慌てていた本当の理由が誰かに見つかったときに世間体がシャレにならないから、だったことなど、ケベックタンゴが知る由もなかった。

 

 

────────

 

 

「さて……着替えましたよ、トレーナーさーん!」

 

 トレーナーが部屋を出て数分、ケベックタンゴの声でトレーナーが部屋に戻ってきた。ケベックタンゴはトレーナーに向けてクルッと一回転すると、問いかけた。

 

「まずは聞きましょう。どうですか? かわいいですか? かわいいですよね、そりゃそうでしょうとも」

 

「質問じゃないのかよ」

 

「だって私どんな服でも似合いますし」

 

 あっけらかんと言い切るケベックタンゴ。すると、次の瞬間急に不機嫌そうになる。

 

「って、そんなことはどうでもいいんです! いやどうでもよくはないんですけど! なんで! 私だけ! ライブ衣装のまま走らないといけないんですかぁ!」

 

 その言葉の通り、ケベックタンゴが身に纏っているのは自身の勝負服ではない。『STARTING FUTURE』と呼ばれる衣装──ケベックタンゴも、これまでのウイニングライブで着用したことのあるものだ。

 

 このライブ衣装は確かに「ライブの時に着る衣装」ではあるのだが、それとは別に勝負服の代わりとしてG1レースに出ることも許可されている。これはとある事情──たとえば、勝負服の発注や到着が遅れていたり、何らかの理由で使用できなくなったときのための言わば救済処置だ。

 担当のウマ娘を持つことに慣れていない新人トレーナーのウマ娘などはこの服のお世話になることがちらほらある。

 

 その誰でも着られる性質を、一部の関係者やマニアなどは、これを着ることになる経緯の大半がトレーナー側の手違いやミスであることのからかいを込めて「汎用勝負服」と呼んでいる。

 

「なんでって……そりゃ、勝負服発注してないからだろ」

 

「だからそれがどうしてなんですか!? 私、ちゃんと案出しましたよ!?」

 

 確かに数ヶ月前、絵でも言葉でもいいから勝負服のイメージを書け、と渡された用紙にイラストを書いて提出した。したのだが……

 

「あー……却下したやつな。そりゃそうだろ、どこに自分の身長よりでけぇもん背負って走るウマ娘がいるんだバカ」

 

「ええ! だってそっちの方が目立つじゃないですか!」

 

「悪目立ちがすぎるわ! そもそもなんだ他の案も! 勝負服に電飾をつけようとするんじゃねぇ!」

 

「だってぇ! せっかくのオンリーワンなら目立たないと損じゃないですか!」

 

「バカのイメージがついて離れなくなるだけだろうが! いや、もう手遅れかもしれねぇけど……」

 

「手遅れ!? ちょ、どういう意味ですか!? 私が誰にバカだと思われてるってんです!?」

 

「全員」

 

「あっはっは、まさか」

 

「聴いてすらいねぇ……」

 

 呆れるトレーナー。もうこれ以上何を言っても無駄だろう。

 

「おっと、そろそろパドックへ向かわなければ。よく見といてくださいね? かわいいかわいい担当ウマ娘の晴れ舞台なんですから」

 

「はいはい、見てる見てる。ま、結果はどうあれ楽しんでこいよ」

 

「結果も私が勝つに決まってますよ! 勝利の女神とやらも私のかわいさで骨抜きですから!」

 

 「もちろんトレーナーさんも!」と付け加えながら、ケベックタンゴはパドックへと走ってゆく。

 歩いているだけで騒がしく感じるその背中を見送りながら、トレーナーは1人ため息をつく。その口元を、ほんの少しだけ緩ませながら。

 

 

────────

 

 

「青い空! 雲一つも無く! バ場も良好! 私の初のG1勝利にはふさわしい天気ですね! 少々寒すぎるのが難点ですが……ま、動いてればそのうち体もあったまるでしょう! まずはウォームアップです!」

 

 いっちに、いっちにと掛け声を出しながら若干オーバーな動きで準備運動を始める。無論、観客席からよく目立つためである。

 

 ケベックタンゴがちらちらとそちらの方を見ていると、その視界の隅に見覚えのあるウマ娘が映った。マヤノトップガンだ。ケベックタンゴはレース前に一言かましてやろうとマヤノトップガンに大股で近づき、ストレッチ中の彼女に話しかける。

 

「やぁやぁやぁマヤノちゃん。調子はどう? まぁ万全だとしても私には及びませんけどね!」

 

「あ、ケベちゃん。うん、今日は頑張ろーね!」

 

「あっ、やっぱりノリが軽い……。え、いいのそんな満面の笑みで? 一応大事な大一番じゃない?」

 

「そうだけど……それ以上に、ケベちゃんと走るのが楽しみだから、かな。もちろん、マヤだって負ける気はないよ!」

 

「ははーん、なるほど。ま、分からなくもないですよ。この完璧美少女たる私の走りを隣りで……いいえ、私の後ろで見ることが出来るんですからね!」

 

 バチバチと視線を交わす2人。どうやらマヤノトップガンもやる気は絶好調のようだ。その目をじっと見つめているうちに、ケベックタンゴはなんだか自分から目を逸らしたら負けな気がしてきたので視線を逸らすタイミングを見失っていると、マヤノトップガンが口を開いた。

 

「……ありがとね、ケベちゃん!」

 

「ふぇ? あぁ、どういたしまして……? え、何のこと? 急にどうしたの?」

 

「マヤね、メイクデビューのとき……なんていうか、ワクワク、キラキラできなかったの。『あれ? もう終わり?』って。いっぱいレースに出ても、なんか違うなーって。つまんないな、って思っちゃった」

 

 マヤノトップガンが語ったのは、自身の悩み。それは彼女の能力が同年代のウマ娘よりもはるかに優れている故のものだった。彼女にとって他のジュニア級のウマ娘はライバルとも言えないほどだ。それらとの戦いは味気なく、物足りないものであったのだろう。

 

「でもね。ケベちゃんのおかげで、もうちょっとやってみようって思ったんだ」

 

「えっ、私? 何、やっぱり私の輝きに憧れちゃいました?」

 

「いや違うけど。ケベちゃん、大人のウマ娘って感じはしないし」

 

「えぇ!? そんなことないでしょ! 私、大人の魅力に満ち溢れてるでしょ!」

 

「い、いやー、それはどうだろ……ケベちゃんはやっぱり面白いね」

 

「お、そう思う? かわいいだけじゃなくユーモアのセンスもあるとか、もう言うことなしだね! ……いやでも今は別に冗談を言った気なんてさらさら無くて」

 

「うん? あ、ごめん、ケベちゃんが言ったことをからかうつもりは無いんだけど。ケベちゃんの普段の行動もレースも、全く想像がつかないことばっかで、わかりたくて、でもわかんなくて。すっごい、ワクワクする!」

 

 そう言って、それまでうつむき加減だった顔を上げ、マヤノトップガンは目の前のケベックタンゴを見つめる。その目は今日の青空のように綺麗に澄んでおり、その内容が嘘やお世辞ではないことを示していた。

 

「だから、ケベちゃんとのレースはこれまでよりずっとキラキラできると思う! だから……全力で来てよね! ユー・コピー?」

 

「アイ・コピー! ふっ、私の圧倒的かわいさで捻り潰してあげましょう!」

 

 友達として、そして互いを認め合ったライバルとして言葉を交わす。先ほど以上に気合いの入った2人は、その熱い思いを胸に、どちらからともなくお互いに背を向け、反対方向に向かい歩き出した。

 

「あ、そういやケベちゃん、なんでもうライブ衣装着てるの?」

 

「私だってなんでなのか分かんないよっ!」

 

 ……何はともあれ、ゲートが開かれる時は、もうすぐ目の前に迫っていた。




10月投稿出来なくてごめんなさい!出来る限り毎月投稿するつもりだったのに……
アプリの方でアストンマーチャンが実装されましたが私が抱いた第一印象は「きれいなケベたん」でした。引けませんでしたが。そのかわり通常カレンと嫁カレンが来たのでなんらかの力が働いてた気がします
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