世界一『かわいい』ウマ娘によるトレセン学園侵略計画☆ 作:それおすとろ
『誰をも魅了し、心を奪う希望の星が誕生する! ホープフルステークス! 18人のウマ娘がゲートへ入ります!』
マヤノトップガンとの会話の後、パドックでのお披露目を終えたケベックタンゴはレース場に移動し、ゲートの開くそのときをじっと待っていた。
「すぅー……ふぅー……よっし、準備完了! いつでも来ーい!」
『全てのウマ娘がゲートイン完了、出走の準備が整いました』
出走する誰もが、その一瞬のために神経を研ぎ澄ます。集まった大観衆もその緊張を共有し、静寂が訪れる。
『中山レース場、G1、ホープフルステークス──』
まだか。そろそろか。緊張は期待に変わり、観客の気持ちをはやらせる。そこにいる者たちにとっては長く感じられたであろう一瞬の後、重い音と共にゲートが開かれる。
『──スタートしました!』
そして、場の静寂は一気に爆ぜる。
観客の大歓声。ウマ娘たちは観客が送るエールを、人々の思いを背負って走る。自身のプライドと共に。
『各ウマ娘、そろって綺麗なスタートを切りました』
ほとんど出遅れも発生せずに始まったレースは、まず各々のポジション争いから始まる。逃げウマ娘は誰よりも前へ。先行集団は少し後ろから付かず離れずの位置で自分のペースを保つ。そして差しと追い込みは後方にいながら戦況を把握し、仕掛けるその機を伺う。ケベックタンゴは先行だ。
『熾烈な先頭争いを制したのはマヤノトップガン! 快調に飛ばしていきます』
「うおっ。マヤノちゃん、はっやぁ……」
どうやらマヤノトップガンは今回逃げを選んだようだ。その圧倒的な実力で単身、他のウマ娘をどんどん置き去りにしていく。ただの一度も、先頭は譲らないとでも言うかのような走り。それはケベックタンゴの闘争心を刺激した。
「む、むむ……センターは私のものなのに……!」
もしこれがデビュー間もない頃のケベックタンゴならば、マヤノトップガンに対抗して後先考えず全力で突っ走ってスタミナを使い果たしていただろう。だが今は違う。トレーナーにこっぴどく怒られたのでさすがに学習した。
『第1コーナーまわって第2コーナー、先頭は未だマヤノトップガン!』
急勾配を越えコーナーへ。何も知らない人から見れば掛かっているのではないかと思うほどの速さで走るマヤノトップガンだが、あれが彼女の実力なのだ。このレースにはもう1人、逃げのウマ娘がいたはずだが、それは既に先行集団に呑まれている。このハイペースについていけなかったのだろう。
レースも中盤に差し掛かり、それぞれがお互いの仕掛け方を窺い始める。そんな中、駆け引きなんぞ知ったことかと飛び出すウマ娘が1人。
「ああもう我慢できない! そろそろセンターは譲ってもらうよ、マヤノちゃん!」
牽制の目などなんのその。大胆に……あるいは短慮なだけか、ケベックタンゴが勢いよくスピードを上げる。その行動は図らずも他のウマ娘の意表を突いたようで、ケベックタンゴはするりと前に抜け出せた。そのまま1バ身ほど前を走るマヤノトップガンに接近する。
じわり、じわりと距離を詰める。マヤノトップガンもそれに気がつき、ペースを上げる。ケベックタンゴが追いつきそうになり、マヤノトップガンがまた離す。まさに一進一退の攻防。
「まだまだまだぁ! 私の強さはこんなもんじゃあないってとこ、見せたりますよおぉ!」
「やっぱりケベちゃん、強いっ……! でも! アタシも負けない! 負けたくない!」
後ろのウマ娘を置き去りにしながら、2人は一歩も譲らぬ戦いを繰り広げる。しかし、それも永遠に続くわけではない。目の前にはもう最終コーナー。決着の時は着実に迫っていた。
────────
負けたくない。それはマヤノトップガンにとって初めての感覚であった。幼い頃から天才的なカンを持ち合わせていた彼女にとって、苦戦という言葉は縁のないものだった。けれど今、自分を追い抜かさんとする気配はすぐそばまで迫っている。早く突き放さねばと思っていても、脚が思うように動かない。嫌だ。抜かされてなるものか。既に限界に近い体を、意地で動かし続ける。速く、もっと速く! 次第に大きくなる感情は、脚を緩めることを許さず──やがて、限界を超えた力になる。
マヤノトップガンは加速する。勝ちたい。勝ちたい。勝ちたい! 一つの思いだけを燃料に、大空へ飛び立つほどに大地を駆ける。
もはや目の前には一人の影もない。それどころか、後ろから迫る足音も、観客席からの歓声も、自分が切り裂く風の音すら聴こえない、真っ白な世界に彼女は居た。
そして、マヤノトップガンは理解した。この景色こそが、憧れていたキラキラの正体なのだと。脚は軽く、思考も冴える。
「ありがとう、ケベちゃん」
マヤノトップガンは勝利を確信した。この景色に到達するきっかけをくれた親友への感謝を胸に、ゴール板に向かって走り──
その景色に、黒が混じる。
無遠慮に、無神経に。一人だけの世界にそれが入り込む。走れば走るほど、焦れば焦るほど、後ろから引かれる気迫によって白い世界が壊れていく。すぐ近くに感じられたゴールは遠くなり、鮮明に見えていたはずの勝利への道は閉ざされる。
──さぁ、世界を私で塗りつぶそうか!
頭の中に声が響く。その瞬間、マヤノトップガンは視界に1人のウマ娘を捉えた。
もはや黒一色となった景色に、その金色の髪は流れ星のように輝いて見えた。
────────
『ケベックタンゴ、今1着でゴールイン! 一等星の輝きを見せ、クラシックへと繋がる道へ第1歩を踏みだした!』
瞬間、万雷の喝采が降り注ぐ。ケベックタンゴに、そして出走した全てのウマ娘に対して。そしてそんな中、レースの勝者が観客に向けて大きく手を振ると、祝福の声がよりいっそう大きくなる。
ひとしきり観客席へのアピールを済ませ、自分に向けられる賞賛をひとしきり浴びて気持ちよくなったあと、ケベックタンゴはマヤノトップガンの元へ向かう。マヤノトップガンは膝に手をつき、必死に息を整えているようだった。
「はぁ……ひゅっ……! けほっ、ぜぇ……はあ……っ!」
「ふふん、今回は私の……って、ちょっ、マヤノちゃん!? 大丈夫!?」
「あ……ケベちゃん。うん……。酸欠、かぁ……」
マヤノトップガンが到達した、極度の集中状態。それは体力を大きく消耗するものだ。本来ならばスタミナが切れていることすら気づかないようなものだが、その最中にケベックタンゴの影響もあってペースを乱してしまえば、しっぺ返しのように体に負担がかかってしまうのだ。
「えぇ……めちゃくちゃ辛そう……すぐ休んだ方が……」
「……ううん、大丈夫。それより、今ね……!」
マヤノトップガンはガバッと顔を上げる。その顔には満面の笑みが浮かんでいた。
「マヤ、楽しくなっちゃったから!」
「え? あっ、マヤノちゃん!?」
言うが早いか、マヤノトップガンはダッシュでその場を去っていく。どうやら自身のトレーナーの元へ向かったようだ。
「あっ、行っちゃった……。はぁ、私もトレーナーさんのとこに戻るとしましょう。ふふ、私勝っちゃいましたからね、トレーナーさんはどんな反応をしてくれるでしょう。うん、これは存分に褒めてもらわねば」
ウキウキ気分で控え室に戻り、いつものトレーナー室のごとく大きく音を立てながら扉を開く。
「トレーナーさーん! 最強かわいいあなたの担当、ケベックタンゴの凱旋ですよー!」
扉を開けた先にあったのは目を丸くさせていたトレーナーの姿。ケベックタンゴに気づくといつもの起伏の少ない表情で、しかしながら珍しく隠しきれないほどの興奮を滲ませた声色でケベックタンゴに応じた。
「ケベック……お前、すごいな……!?」
「へっ!?」
「今回のレース、マヤノトップガンは間違いなくトップクラスの実力だった。それこそ、このままトレーニングを積めば歴代の三冠ウマ娘にも引けを取らないだろう。見てる限り、今日のパフォーマンスもかなり高かったしな。まさかそれに勝つとは……正直、想像以上だった」
「お? おお? うおぉぉぉ!? えっ、トレ、トレーナーさんが褒めてくれた!?」
「はぁ……ま、テンションが上がってんのは認めるけどな。そりゃ俺だって褒めるときは褒めるさ。良くやった、ケベック」
「ふ、ふひっ。でへへへへへへへ。やっと褒めてくれた……! トレーナーさんトレーナーさぁん! もっと! もっと褒めて! ほら! かわいいって言ってみてくださいよ!」
ケベックタンゴは腕を大きく広げてトレーナーへ擦り寄ってくる。トレーナーも後退りをして距離を保つも、そうかからないうちに壁に到達してしまった。
「さぁ! セイ! カモォン!」
「調子に乗んな!」
「あだぁ!?」
無防備だったケベックタンゴの額にデコピンが直撃する。のけぞった隙にトレーナーはケベックタンゴの包囲から抜け出した。
「むぅ〜。どうしてかわいいって言ってくれないんですか〜!」
「言えるか、んな恥ずかしいこと!」
「恥ずかしくなんてありませんよぉ! 雪は白い、地球は回る、私はかわいい! 当たり前のことの何を恥ずかしがるって言うんです!?」
「ちょっと褒めたらすぐこれかよ……。あー、なんだ、そんなことよりそろそろ勝利者インタビューだぞ。んでその後は」
「ウイニングライブ! ですよね! 私の目標の第一歩! ふふん、そうと決まれば行きましょう、トレーナーさん! まずはインタビューでも、みんなの視線を集めて見せますから!」
「……単純で助かる」
せわしなく移動するケベックタンゴを目で追いながら、トレーナーはひとりごちる。インタビュー会場に着くまでの間も、ケベックタンゴとトレーナーの会話が途切れることはなかった。
────────
「おい……本当に大丈夫だろうな? ちゃんと受け答えできるよな?」
「任せてくださいよ! 私を誰だと思ってるんです?」
「バカ」
「うわあ、即答。ここまで言い切られるともう本当にそうなんじゃないかって思えてきちゃいますね」
「そうだよ?」
「いやいや。なーに言ってるんですかー」
「あ、あの〜……そろそろ始めてもらっても……」
「「あっ、すみません」」
ついいつもの調子で話していたところ、おずおずと尋ねてくる司会によって我に帰る2人。ちなみにカメラはもう回っているのでトレーナーとの漫才が全国放送されたことになる。ケベックタンゴの配信を見ているファンからすれば今更だが。
その後はトレーナーが思っていたよりかは普通に受け答えをするケベックタンゴと、たまに訊かれるトレーナーに対しての質問に答えるトレーナーによって、勝利者インタビューはつつがなく進んでいった。そして、それも終盤に差し掛かったとき。
「ケベちゃーん!」
「え……え!? マヤノちゃん!? 今インタビュー中なんだけど!?」
突如報道陣の中から乱入してきたマヤノトップガンに、会場の視線が集まる。
「あ、はいはい! 質問!」
「あ、え、うーん……? えっと、ではマヤノトップガンさん、どうぞ……?」
「ケベちゃん、次は──」
「あー! ちょっと、マヤちゃん! ダメだよ、こっちの方来ちゃ!」
「えっ……はぁ!? カレンチャン!? なんであなたまでここにいるんですか!」
マヤノトップガンに続いて現れたのは、ケベックタンゴの宿敵、カレンチャン。どうやら先ほどまで一緒にいて、マヤノトップガンを連れ戻しにやってきたようだ。
「あ、ケベたん! 今日のレース、カワイかったよ!」
「ええい、あなたに褒められても嬉しくないです! てか今私のインタビューなんですから!」
思わぬ乱入者2人に加えて、それがケベックタンゴと同年代にして友人、今をときめく次世代の注目ウマ娘となれば、記者たちの目の色も変わるというもの。その結果、カメラは一斉にカレンチャンたちの方へ向き……
「マヤノトップガンさん! 今回のレースについて一言!」
「カレンチャンさん! 来年はクラシック級に突入ですが、マヤノトップガンさんとケベックタンゴさんについてどういったお気持ちでいらっしゃいますか!?」
「マヤノトップガンさん! ……」
「カレンチャンさん! ……」
記者たちの興味の対象は一瞬にしてケベックタンゴからマヤノトップガンとカレンチャンの方へ移る。トレーナーがやれやれといった顔をする隣で、ケベックタンゴは体を震わせる。
「ぐぬぬぬぬぬぬ……! ちょっとぉー! 主役は私なんですけどぉー!」
ケベックタンゴはそう叫ぶも、その声はすぐに群がるマスメディアの質問攻めによる喧騒にかき消されてしまう。司会がなんとか場を収めようとするも効果は無く、もはやケベックタンゴの方を向いている者はほとんどいなかった。
「ぐぉぉぉぉ! おのれ、カレンチャンめ〜! 私から人気を奪うなぁー!」
ケベックタンゴの恨み言は、誰にも届かずに虚空へと消えていった。
今回でケベックタンゴのジュニア級が終了しました。次回からはクラシック級になります。果たしてケベたんは来年こそカレンチャンに勝てるのか!?
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☆ジュニア級編終了記念 簡単な登場人物紹介☆
トレーナー
ケベックタンゴのトレーナー。いつもケベックタンゴに振り回されてる苦労人。口が悪いのはあくまでケベックタンゴに対してだけ。甘党。
「私のトレーナーさんです! 最近お疲れ気味みたいですが私が癒してあげようとしてもすっごい勢いで拒否するんですよね……遠慮しなくていいのに」
カレンチャン
ウマスタグラムで人気のカワイイウマ娘。ケベックタンゴにライバル視されているが本人は危なっかしくてほっとけない仲のいい友達だと思っている。
「カレンチャンめ、今度こそ勝ってやりますから! いや、負けたことなんてありませんけどね!?」
マヤノトップガン
ケベックタンゴの同級生、天才肌のウマ娘。ケベックタンゴという同年代のライバルが現れたことで早くもレースにやる気を出した。
「私の親友、マヤノちゃん! 確かに強くてかわいいですが、私にはあと一歩及びませんね! これからも高めあっていきましょう!」
ケベックタンゴ
主人公。バカ。身長142cm。スリーサイズは72-52-89
「雑!?」