世界一『かわいい』ウマ娘によるトレセン学園侵略計画☆ 作:それおすとろ
美少女ウマ娘の朝は早い。
起床は5:00ぴったり。トレセン学園寮の一室で、ケベックタンゴは目を覚ました。
同室の子を起こさないように、そっと洗面台へ向かう。そして、鏡に向き直ると……
「うーん、やっぱ私めちゃくちゃかわいい……! 毎朝思うことだが、寝ぼけている姿ですらかわいいなんてもはや反則じゃないか? 私のかわいさをもってすれば寝ぐせすらもキュートでお茶目なアピールポイントに早変わりとは……やはり素晴らしい、私」
鏡の中の自分に向かい、満足げな表情を浮かべながら思いつく限りの褒め言葉を投げかける。これが彼女の毎朝のルーティーンであり、毎朝早く起きる理由の半分がこれであった。
「いやー本当にかわいいな私。世界一かも。いや世界一でしょ。んふふふふふ、まさに向かうとこ敵なし……敵な、し……敵……うごご」
それまでのにへらとしただらしない笑みから一転、途端に顔を歪める。ちょうどその時、同室のウマ娘、クレイモアロードが目を覚ました。
「おはよ〜、ケベたん……って、どしたの、そんな顔して」
「ぐぎぎぎ……カレン……カレンチャン……!」
「カレンチャンがどうかしたの?」
ケベックタンゴが悩んでいる理由。それは、先日目にしたカワイイウマ娘、カレンチャンの存在であった。ケベックタンゴと同じように、自分のカワイイに絶対の自信を持っているウマ娘。それを目の当たりにした日以降、その存在は彼女の心の中に魚の小骨のごとく引っかかっていた。
「知ってるの!? あの子、なんであんなに人気なの……? 彼女、まだデビュー前だった気がするんだけど……」
「そりゃ、カレンチャンってあの@Currenでしょ? ウマスタで有名じゃん」
「ウマスタ……? ウマスタって何?」
聞きなれない言葉に、怪訝な表情を浮かべ首を傾げる。自分が一番かわいいと思える首の角度は織り込み済みである。
「……え、知らないの? 本当に?」
「うーん、ちょっと流行りには疎くて」
「ええ……そういうレベルじゃないと思うんだけどなぁ……」
ウマスタといえば、ウマッター、ウマチューブと並び、もはや若者の間に知らぬ者はいないほどの大人気SNSである。ましてやかわいいを自称するケベックタンゴが知らないとは思わず、クレイモアロードは衝撃を受けた。
「だってスマホ見るより鏡見てたほうが良くない?」
「ブレないね……」
「でも……そのウマスタってのが、あの子の人気の秘密なんだな!? ならクレちゃん! 私にウマスタを教えてくれぇい!」
「ちょっ……落ち着いて! てかそんなに時間ないじゃん!?」
とは言っても、せがんでくる同室を邪険にするわけにも行かず、簡単にだが説明を始める。次第に「ほぉ〜」だの「へぇ〜」だのいちいち感心したように大げさなリアクションをとるケベックタンゴが楽しくなって、結局遅刻寸前になるまで説明は続くのだった。
────────
「ふんふんふふーん、ふんふふーん」
「ケベちゃん、なんだか機嫌よさそうだね?」
放課後。ご機嫌に鼻歌を歌いながら椅子に座り足をバタバタさせているケベックタンゴの元に、マヤノトップガンが声をかけてきた。残念なことに、他にケベックタンゴに近づこうとするクラスメイトはいない。ケベックタンゴはその声に気づくとそちらに向き直り、自信満々の声で応えた。
「よくぞ聞いてくれた! 私はあのカレンチャンを超える方法をずっと考えてて……でもやっと、今朝その方法を知ったのだ」
「あー……ケベちゃん一時期、カレンチャンカレンチャン〜ってずっとブツブツ呟いてたもんね」
「え、そうなの!? 全然気づかなかった……」
カレンチャンと会った日から数日の間、確かに頭の中がカレンチャンのことでいっぱいになってはいた。その思考が独り言として漏れていたのであろう。その独り言も周りを遠ざける原因になっていたことをケベックタンゴは知る由もない。
「それはともかく! どうやらカレンチャンの人気はウマスタってのにあるらしい。ならば私も! このかわいさをもって、そこで人気になってみせる!」
「おお〜……?」
「って訳で、マヤちゃん。……ウマスタの使い方、知ってたら教えてくれない?」
「知らないんだ……」
ウマスタ講座、2時間目。応援はしたいが、本当にこんな調子で大丈夫なのかな、と思うマヤノトップガンだった。
「これで……こう? おっ、アカウント作れた! マヤちゃんありがと! ふふ、これであの子と同じ土俵に立てたぞ……!」
まるで新しいおもちゃを買ってもらったように目を輝かせるケベックタンゴ。しかしそのウマスタの画面には、「フォロワー 0」の数字。当たり前だが、彼女はまだスタートラインに立ったに過ぎない。
「ねぇマヤちゃん。フォロワーってどうすりゃ増えるの?」
「え? うーん、考えたことなかったかな〜。マヤはマヤが『イイ!』って思ったことを投稿してるだけだし〜?」
「この天才め……そしたらやっぱり、レースでファンを増やすしかないかなぁ……結局、元の目標に戻ってきちゃった」
いくら自分に自信があるとはいえ、見てくれる人がいなければそれは伝わらないということをケベックタンゴは知っている。いくらかわいさを広めようと発信したところで、そもそもそれを拡散してくれる元手がいなければゼロのままだ。
「あっ、そういえば確か選抜レース今日からだよね? 早いとこトレーナー見つけないと」
「うん、そうだね! マヤも、レースでワクワクを探すんだ!」
「うん。お互い頑張ろうね」
────────
マヤノトップガンと話した後。選抜レースのエントリーを済ませたケベックタンゴは、自分の出走するレースまでまだ時間があることを確認し、それならば他の子のレースを見ようと中距離レースの観客席へと足を運んだ。
「うわっ、人多いなぁ……」
観客席は既に今年のウマ娘を見定めんとするトレーナーや、友人を応援するウマ娘達でいっぱいだった。
「ったく……もう少し身長が高ければ見えるんですが」
残念なことに、ケベックタンゴはあまり発育がよくない。毎日飲んでいた牛乳も虚しく、今でもその体格はお子様体型と揶揄されても言い返せないほどだ。果たして摂取したカルシウムはどこへ行ってしまったのか。少なくとも骨と腹は強くなったのではないかとケベックタンゴは思っている。
もちろん今はこの低身長を最大限かわいいに活かしているが、それでも少し、隣のクラスのダイワスカーレットを羨ましいな、とは思ってしまうのだ。
しかし、ないものをねだったところで仕方がない。むしろ、こういう時にこそかわいさが役に立つのだ。
ケベックタンゴは出来るだけトレーナーの多い方へ流れ、そこで……
「ねぇねぇ、そこのトレーナーさんっ。ちょ〜っとだけ、通してくれないかな? お願い♪」
角度、表情、声色。その全て、毎朝ケベックタンゴが練習し習得した、最高にかわいい上目遣いでのお願い。それによって、真っ二つに割れた人の海を渡り、難なく最前列へたどり着くことができた。
「あっ、お隣失礼しま〜す☆ ……って、この前のトレーナーさんじゃないですか」
「あ? お前、この前のクソガキか」
「だからクソガキじゃないです! 私の名前はケベックタンゴ! こんな美少女の名前を忘れるとか、正気ですか!?」
繰り返される、先日の……カレンチャンと出会った日のやりとり。ケベックタンゴの隣に陣取っていたのは、あの時ぶつかったトレーナーだった。
「やはり担当を見つけにきましたか? 態度悪いけど一応トレーナーなんですね」
「別に……そろそろ担当を持てって急かされただけだ。ここに来たのも形だけだ」
「それにしては、最前列なんて取っちゃって熱心に見えますけど?」
「……うるさい」
トレーナーは目を逸らす。トラックに目を向けると、今はちょうど一走目に走るウマ娘たちがゲートインしているところであった。
「そうだ。これも何かの縁ですし、せっかくなら私のレースも見てくださいよ」
「は? なんで」
「なんでって……私も新入生ですから。トレーナー募集中なんですよ」
「トレーナーなんて他にもいるだろ」
2人の視界の先で、ガコン、と音がして今年度の選抜レースが幕を開ける。何人かのウマ娘は綺麗にスタートを切り、また何人かは出遅れる。
「おお〜、あの4番の子かわいい〜……っと、まぁまぁ。私の走り、見て損は無いと思いますけどねぇ〜?」
「……はぁ。どうしてそう思う」
「ふふん、これ見てくださいよ。昨日教官にもらったんです」
ケベックタンゴがスクールバッグから取り出したのはとある一枚の紙。俗に「適性検査」と呼ばれるそれは、選抜レース前に自分がどのコースを走ったらいいか分からないウマ娘のために行われる、自分にどこが向いているかを調べるための検査だ。
通常、G〜Aの間で評価され、アルファベットの順番が若いほど適性があるとされる。
「その紙……距離適性のやつか。まあいい、見るだけだぞ……」
「ふっふっふ、刮目せよ、私の才能を! です」
「芝、A。ダート、A!? 珍しいな……んで、短距離A。マイルA。中距離、長距離A……おいおい、待て! え!? これ本物……だよなぁ」
トレーナーは自分の目を疑い、また偽物を疑ったが、右端に押印された教官の印章がその紙が正式なものであることを証明する。
──バ場、距離適性: オールA。
それが、ケベックタンゴの才能であった。
「お前……すげぇな」
「ふふん、でしょう? これだけは産んでくれた親に感謝ですね……顔も知りませんけど」
「なるほどな……おい。お前、どこ走る」
トレーナーは用紙をケベックタンゴに返しつつ、彼女に詰め寄る。
「なんの話ですか?」
「選抜レース。どの距離走るんだって聞いてるんだよ」
その言葉を聞いたケベックタンゴは、途端に笑顔を……というより、にんまりとした表情を浮かべる。
「ん〜? なになに、そんなに知りたいんですか〜? 仕方ないなぁ〜」
「……やっぱいいわ」
「ああ待って!? 冗談ですよ冗談! 私が走るのは今日これから! 芝1800mです!」
その言葉を聞いて、トレーナーはピクリと眉を動かす。それから手元にあった選抜レースの日程表を確認する。
「……おい。だったら急げ、もう集合時間やばいぞ」
日程を指さしながら、ケベックタンゴに突きつける。そこに書かれていた集合予定時刻は、現在からあと10分ほどだ。
「あれ? ……『から』、じゃなくて?」
「『まで』、だバ鹿! 早く行ってこい!」
「うわぁぁぁやらかした! ちょっ、絶対見に来てくださいよ、トレーナーさん!」
それだけ言い残して、ケベックタンゴは来た時とは対照的に、強引に人混みをかき分けながら慌ただしくその場を離れる。
「……マジでなんだったんだ、あいつ」
ケベックタンゴが去ったあと、トレーナーはやっと落ち着いたと思ってレースの方へ向き直る。しかし、時はすでに全員がゴール済み。あいつのせいで見逃した……と、ケベックタンゴにわずかな恨めしさを向けると共に、マイルコースの観客席へと移動するのだった。
────────
「あっっぶなー! 間に合ったぁ〜!」
集合締め切り1分前。本当にギリギリのタイミングで滑り込みセーフを決めたケベックタンゴは、口調を取り繕うのも忘れて安堵のため息をついた。
周りを見れば、既に出走する他のメンバーたちはウォーミングアップを済ませているようだ。ギリギリに来たケベックタンゴには、そのための時間が与えられない。もっとも、先ほどまで全力疾走していたために体は十分温まっているのだが。
来て間もなく、ゲートに入るように指示が出る。自分の失態とはいえ、ロクに時間を与えられず走ることになったケベックタンゴだが、その心の中は意外にも落ち着いていた。普段から落ち着きのない彼女ではあるが、緊張という言葉からは無縁なのだ。
彼女の考えることはただ一つ、どうやって勝つか──否、どうやって目立つか。1着を取ることすら、彼女にとっては目立つための手段でしかない。
「よっし……んじゃ、いっちょやりますかぁ!」
あくまでも自然体。かわいい私が負けるわけないだろう? と言わんばかりに自信に満ち溢れた表情で始まりの時を待つ。
「──さぁ、世界を私で塗りつぶそうか!」
ガコン。
重々しい機械音を合図に、運命の選抜レースが始まった。
変態は適性が多い傾向でもあるのか?
ルーキー日刊8位に居ました!ありがとうございます!あと2回ほど連日投稿する予定なのでこれからもケベたんことケベックタンゴちゃんをよろしく!あと感想と評価もよろしく!(強欲)