世界一『かわいい』ウマ娘によるトレセン学園侵略計画☆ 作:それおすとろ
「トレ〜ナ〜さ〜ん! 明けましておめでとうございま〜す!」
1月4日──年が明け、トレセン学園での仕事始めの日。新年早々、騒々しい声がトレーナー室に響く。
「年末年始、かわいい私に会えなくて寂しかったですか!? 寂しかったですよね!? そぉんなトレーナーさんのた・め・にぃ! 練習の日よりも早く、私の姿をお届けしにきましたよ!」
「クソッ、自室でやるべきだったか……」
「ちょっとちょっと顔合わせるなりなんですかまるで私と会うのが嫌みたいな言い方! 年明けからこんな美少女に出会えるとか、鷹と富士と茄子がジャックポットレベルですよ!? 今年もいい年になりそうな気が溢れ出して止まらないでしょう!?」
「知るか! そもそもこっちは本当に初夢にお前が出てきたんだぞ! 責任とれ!」
年末、トレーニングが無くなってからの数日間トレーナーに会えなかった反動で、ケベックタンゴはいつもより饒舌になってトレーナーに絡む。
「で……結局なんで来たの?」
「ですから、トレーナーさんがかわいい欠乏症に悩まされているところを救ってあげようと」
「聞いたことない病気を作るんじゃねぇよ。で、本当のとこは?」
トレーナーが聞くと、ケベックタンゴは急にもじもじし始める。そして、猫撫で声で答えた。
「えっとぉ……その……トレーナーさんに会えないのが、寂しくて……? えへ☆」
「あっそ」
「ちょおい!? 私のめちゃくちゃかわいい美少女ムーブを見て感想それだけですか!? もうちょっと照れたりとかしませんか!?」
「そんな作りものなのがバレバレの受け答えされてもときめかねぇよ! 諦めろ、清楚キャラはお前には無理だ! そもそもなんだよ、俺に会えなくて寂しいって」
「それは本心です!」
「はぁ? ……いやいや、俺に会わなくたって年末年始なんて忙しいし退屈することないだろ?」
「……一緒に過ごす友だちがいないと案外暇になるもんなんですよ」
「あっ……」
一瞬で部屋に気まずい沈黙が流れる。まずいことを言ったと思ったトレーナーはケベックタンゴから目を逸らし続け、その気まずさに耐えきれなくなったケベックタンゴが吠えた。
「お、おかしくないですか!? 私G1ウマ娘ですよ!? そして世界一、いやもはや銀河一かわいいんですよ!? そんな私がちやほやされないとかありえませんよね!? 何者かの陰謀ですよこれ!」
「そんなわけあるかバカ。誰が得すんだよバカ」
「バカバカ言わないでくださいよ! 誰が得するって、それは……はっ! まさか、カレンチャンが!?」
「バカだなぁ」
「シンプルに罵倒!? ……でもなんかカレンチャンのこと考えてたらだんだん許せなくなってきましたね」
「当たり屋か?」
「あっそうだ! そんなことよりカレンチャンですよカレンチャン! 今年こそカレンチャンを倒さなければ! そうすれば私の評価は今度こそ爆上がり間違いなし! 友達だってでき放題ですよ! くふふ、そうなりゃ一気にスター街道爆走! 夢が広がりますねぇ……!」
「取らぬ狸の皮算用って言葉知……らないか」
今後ありえるかもしれない未来に想いを馳せニヤニヤするケベックタンゴにため息を吐くも、完全に自分の世界に入り込んだケベックタンゴには届かなかった。
「そうだ! せっかくのお正月です、カレンチャンを倒すための方針を決める手助けにも、今年の運勢を占ってもらいましょう! なにやらトレセン学園に最近噂になってる占い師さんがいるらしいので!」
突然、ケベックタンゴがそう提案する。
「占いだぁ? あんなん気休め程度にしかならないだろう、そんなことより……」
「さぁそうと決まれば出発です! ほら、トレーナーさんも占ってもらいましょう!」
「あっおいバカ引っ張るな! ちょっ、俺まだ仕事中なんだけど!」
トレーナーの抵抗虚しく、ケベックタンゴの手によってトレーナー室から連行される。ケベックタンゴはウキウキ気分で中庭を通り、校舎の裏へと向かった。
「……おい、そろそろ手ぇ離せ。いいよ、ついてくから」
「うーん、この辺りのはずなんですが……あっ、ありました!」
トレーナーはケベックタンゴの視線の方へ目を向け……絶句した。
綺麗に揃えられた芝の上に異様な存在感を放つ青いテント。入口の上には『表はあっても占い』と書かれた看板が掲げられている。
その様相を見て、トレーナーは噂は噂でもひそひそと囁かれる類の良くない噂であろうことを察した。同時に友達がいないケベックタンゴには正確な情報が巡ってこないんだろうな、とも思った。
「さあさあ、入りましょう! あれ、どうしたんですか、頑なに動こうとしませんけど」
「い、いやいや。さすがに怪しすぎるだろ!」
「そうですか? なんか雰囲気あって良いじゃないですか」
「感性が分かんねえ……まあついてくって言っちまったしな……」
ため息混じりについてくるトレーナーを背中で感じながら、ケベックタンゴはテントの入り口をくぐった。
「たのもー!」
「お邪魔しまー……うわっ、暗いな……」
テントの中は陽の光が入らないようになっており薄暗く、至る所に設置されている置物がぼんやりと薄暗い光を放って狭い室内を照らしていた。
「わかってないですね、こういうのは雰囲気が大事なんですよ。……で、店主さんはどこにいらっしゃるんでしょうか?」
ケベックタンゴはそう言いながら部屋の真ん中に設置された机に座る。すると、部屋の奥、暗く見通しが悪い中から声が聞こえてきた。
「むっふっふっ……よくぞお越しくださいました!」
その声を聞いた途端、トレーナーが頭を抱える。
「……あーなんか、すっげぇ嫌な予感がしてきた」
「ええ!? どうしたんですかトレーナーさん!?」
「いや、なんというか……ものすごく、お前と似た雰囲気を感じるというか……」
「つまり……美少女ということですね!? すみませーん、私たち占いを希望してるんですけどー!」
ケベックタンゴが奥へ呼びかけると、テントの主がぬっと現れた。
トレセン学園の制服を身に纏った、明るい髪色のウマ娘。右耳にトリコロール・カラーのカバー、そして反対側にはダルマの髪飾りを装着している、目に星を宿した──
「よくぞお越しくださいましたぁ! 私、マチカネフクキタルの占いをご所望ですかぁ!?」
──マチカネフクキタルと名乗った彼女は、特徴的な声で2人を出迎えた。
「むむむっ!? あなたからはなんだかものすごいオーラを感じます!?」
「おっ!? やはりわかっちゃいますか!? いやー、私のスターの中のスターのオーラというものは隠しきれないものなんでしょうかねぇ〜!?」
「スターとはちょっと違う気もしますけど……ともかく! シラオキ様のお告げは万事間違いなし! なんだって占えますよ!」
「シ、シラオキ様!? 聞いたことない、強そう! ね、トレーナーさん、なんかすごい気がしてきましたよ!」
「お、おお!? あなたもシラオキ様に興味がおありで!? シラオキ様に祈ればハッピーラッキーバッチグー、ですよ! さぁ! あなたも共にシラオキ様に祈りを捧げましょう!」
「なるほど! ふふ、私ほどの美少女ならばシラオキ様とやらも喜んで幸運を貢いでくれるに違いありませんからね!」
「シラオキ様〜シラオキ様〜!」
「シラオキ様〜シラオキ様〜!」
「ああ、やっぱりか……」
2人のやりとりを聞いたトレーナーは自身の悪い予感が的中してしまったことを悔やんだ。やはり、このウマ娘はケベックタンゴと同じタイプだと。
「あ、そうでした、占いに来てくださったんですよね? さて、何を占いましょうか? 健康? レース? それとも恋愛?」
「ああ、そういえばそうでしたね。私は今年こそ、あのにっくきカレンチャンに勝ちたいのです! そのためにも運を味方につけたいのです!」
「ほほう、なるほど……では! 占ってしんぜましょう」
マチカネフクキタルは机の上に置いた水晶玉に手をかざす。すると、水晶玉の内部にぼやけた煙のようなものが見え始め……
「ふんにゃか〜、はんにゃか〜」
「お、おぉ? なんかすごそうです!」
しばらくそうしていたかと思うと、マチカネフクキタルが突然目を大きく開き、告げる。
「……出ました!」
「おお! それで、そのシラオキ様とやらはなんと言ってましたか? 私はカレンチャンに勝つ……のは決定事項ですが! お告げによるアドバイスなんかは!?」
「ずばり! 今日、中央広場、三女神像の前であなたの助けになる者が現れるでしょう! ……だそうです」
「ほぉ〜……! トレーナーさん! 今すぐ行きましょう!」
「いやいや、今すぐって……そもそも信じていいのかこんなやつの占い?」
トレーナーは疑わしげな目をマチカネフクキタルに向ける。すると、すぐさまマチカネフクキタルが吠える。
「シラオキ様のお告げは絶対です! 占いによると今日行かなければ! あなたは一生! 芸人と同じひな壇にしか登れませんよ!」
「ぶふっ……」
「んなっ……!?」
ケベックタンゴはその言葉に強く反応する。反面、トレーナーは笑いが堪えきれず吹き出していた。
「ちょっとトレーナーさん!? なに笑ってんですか!?」
「いや……似合うなぁって……ぷっ」
バラエティー番組でひな壇に座っているケベックタンゴを想像し、コメントを振られてはトンチキなことを言いだす姿が容易に浮かんでくる。
「笑い事じゃないですよー! 私が望むのはもっとこう……キラキラしたやつです! そもそも私は面白芸人じゃないですから!」
「えっ?」
「えっ?ってなんですか私のこと芸人だと思ってたんですか!? 全然違うでしょーが! 全く、後でまた私のかわいさを徹底的に教えてあげないとダメですね! それでは、占い、ありがとうございました!」
ケベックタンゴはマチカネフクキタルにお辞儀をしながら席を立ち、とりあえずアドバイス通りに中庭へ向かおうとする。
「ええ! またどこかでお会いしましょう! 何やらあなたとは気が合う気がしますから!」
「もちろんです! その時はフクキタルさんにも美少女の極意をお教えしますよ!」
「はいはい、バカなこと言ってないでいくぞー。それじゃ、君も頑張ってな」
「はい! またのお越しをお待ちしております!」
2人はマチカネフクキタルに見送られ、テントの外に出た。
そのまま三女神像の前まで来た2人だったが、今はまだ学園での授業も始まっていない年始。トレーニング場にこそ人影はあれ、こちら側に来る人はほとんどいない。数分ほど経って、トレーナーが口を開いた。
「なぁ……本当に信じるのか? この調子だと誰も来ないぞ? 寒いし」
「とか言って帰ってチャンスを逃したらどうするんですか! 私の輝かしい未来が閉ざされてもいいって言うんですか!? とはいえ、私も不安になってきました……」
2人が帰ろうかと迷っていると、ふいに後ろから声をかけられた。
「もしもし。カメラを持っていてもらえませんか〜?」
「うわぁ! びっくりした、急に後ろから話しかけないでくださいよぉ! で……えっと、あなたは……うーん、どこかで見たような……?」
現れたのはほわほわした雰囲気を纏った、掴みどころのない不思議なウマ娘。ケベックタンゴはその姿に見覚えがある気がしたが、どこの誰だかが思い出せない。
「……では、自己紹介をしましょう」
ウマ娘が一歩退き、視界に全身が入るようにする。そして大きく息を吸い込み、柔和な笑みで言った。
「こんにちは、アストンマーチャンです。……よろしくね」
明けましておめでとうございます投稿です。今年もケベたんをよろしくお願いします
あと匿名投稿をやめましたが特に意味はないです。
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