世界一『かわいい』ウマ娘によるトレセン学園侵略計画☆ 作:それおすとろ
「あー、あー。『初めまして! 世界一かわいいケベたんです!』……うーん、ちょっと普通すぎますかね……えっと、じゃあ『はーい☆みんなのアイドル! ケベたんでぇーす☆』みたいな……いや、狙いすぎか……? うーん、全てが似合ってしまう美少女フェイスがかえって恨めしい……!」
練習終わりのトレーナー室。勝手に作った専用スペースで、勝手に持ってきた姿見を前に、ケベックタンゴはいくつかのポーズと共に自己紹介を繰り返していた。
「いつまでも何やってんだ? 練習終わったんだから帰ればいいじゃねぇか」
「あ、トレーナーさん。これはですね、ほら、この前アストンマーチャンにあったじゃないですか。それで、やっぱり名前を覚えてもらうのって重要だと思ったんですよ」
「ふーん……それで、自己紹介の練習をねぇ」
「はい! ほら、私って一度見たら誰しも惚れて忘れられなくなっちゃうくらいの美少女じゃないですか。それでもって印象的な自己紹介で顔と名前を一致させられたら最強だと思うんですよ!」
いつものごとく、ケベックタンゴは自信満々に答える。自分が美少女だということを一切疑わないながらも、さらなる研鑽を積もうとする姿勢に関しては、もしかしたら優等生と言えるのかもしれない……トレーナーは一瞬だけそう思ったが、優秀という言葉とは程遠い目の前のウマ娘を見てすぐに思い直した。
「……とまぁ、これは後々の課題としときましょう。次のG1でお披露目できるようにしなければ」
ケベックタンゴはポージングの研究を早々に切り上げ、ソファにどかっと腰掛ける。このソファも、元々の配置からケベックタンゴの手によってスペースに勝手に運ばれたものだ。
「あー……そうだ、トレーナーさん。トレーナーさんは、女子力ってなんだと思います?」
「女子力ぅ? どうした、藪から棒に。……あー、なんだ、少なくとも、スカート履いたまま足を広げないことじゃないかな」
「へっ? ……あっ!」
トレーナーの指摘を受けて、ケベックタンゴは慌てて足を閉じる。しかしその言い方があまりにも興味無さそうだったので、ケベックタンゴは少しむっとした。
「ちょっとー。事故とはいえ美少女のドキドキシーンを見たんですから、それなりの反応してくれませんかー?」
「フッ……『女子力』のわからないやつに何言われてもなぁ。いや、俺もわかんねえけど。そもそも、俺に聞くことじゃなくない? お前一応女子だろ?」
「一応とはなんですか! 今の私は完璧に美少女です!」
「じゃあ女子力について聞く必要もないだろ」
「確かに……」
「納得しちゃったよ」
ケベックタンゴはそのまま考え込むポーズを見せると、なにやら独り言を言い始める。
「いや……じゃあ女子力は既に私の中に? じゃあ女子力とは……むしろ私が女子力だった……? 女子力が女子力で、私が……あれ?」
しだいに訳の分からないことを言い出した。なんだかほっとくと頭が爆発しそうだったので、トレーナーが声をかけて少し話を逸らすことにした。
「なぁ、そもそもなんで急に女子力なんて言い出したんだ?」
「うぇ? あー、それがですね、なんだか最近クラスの子たちがこぞって女子力がどうのーって言ってまして。流行ってるんですかね?」
「ふーん……あぁ、なるほど。そういや、もう2月だもんな。そろそろバレン……」
「なんだかよくは分かりませんが、これは私がかわいいの更なる高みへと至るチャンスですよ! 女子力、なんとしても手に入れてみせようじゃありませんか!」
「……まぁ、いいか」
トレーナーの言葉を遮り、ケベックタンゴはテンション高めに言う。かわいいの探究は彼女にとって全てにおいて優先されるべき事柄なのだ。単に、周りが見えていないだけかもしれないが。
「女子力って言うからには、要は女子っぽいことですよね? うーん、そしたら……あ、家事とかどうです!? 洗濯とか、料理とか!」
「ん? あー、確かに……言われてみれば、女子力って感じするな。よく知らないけど」
「ですよねですよね! 実は私、掃除とかは大得意でして」
「俺のトレーナー室半分くらい占領してるくせに……いや、綺麗と言われれば綺麗だけどさ」
かわいくデコられた部屋の一角を横目にトレーナーが答える。
「そうでしょう? ですから、次は……うん、料理です! 料理を極めましょう!」
「はぁ、料理ねぇ……えっと、ちなみに、なんだが……2月ってなんのイベントがあるか知ってる?」
「え、節分ですか? でももう終わっちゃいましたよね。恵方巻き作るにしても、ちょっと遅れちゃいましたし……」
「あぁ、うん……そうだな……」
「それよりも、ですよ。女子力高い料理ってなんですかねぇ? 女子力……だから、家庭的で、なおかつ皆が好きそうなものですよね」
「ふーん、例えば?」
ケベックタンゴは難しい顔をしたのち、何かを思いついたようで一気に顔が明るくなる。相変わらず顔に出やすいウマ娘である。
「うーん……あ、わかりました! ずばり、カレーです!」
「カレー!?」
「はい! カレー、嫌いな人はあんまりいないでしょう!? それに、なんだか家庭的な感じがするじゃないですか!」
「まぁ、確かに……?」
「そうです! そうと決まれば早速……あっもしもしカレンチャン? この電話に出たと言うことは勝負ですね勝負! 3日後くらいに料理で対決するので食材持って学校の調理室で! 詳細はまた連絡しますが首を洗って待っていてくださいね! ……ヨシ!」
「……その思いつきで即行動するのやめない?」
瞬く間にカレンチャンに電話をかけ勝負を挑んだケベックタンゴ。もちろん料理の修行もこれからなので現段階での勝算などない。……否、ケベックタンゴだけが自身の勝利を確信していた。
「はぁ……まあいいや。で、どうすんの。レシピ載ってるサイトでも見て勉強するか?」
「チッチッチ、甘いですよトレーナーさん。チョコのように甘い!」
「なんでその喩えが出てくるのにこいつ……」
「まぁまぁ見ててくださいよ。私も学校で何もしてないわけじゃないですから。とっても頼りになる助っ人を呼びます!」
はーっはっは、と高笑いを決めるケベックタンゴ。
今日は2月11日。決戦の3日後は、2月14日である。
────────
その翌日。ケベックタンゴは昼休み、調理室にトレーナーを呼び出していた。
「来てやったぞ。で、誰なんだよその助っ人ってのは」
「おお! 待ってましたよトレーナーさん! そして……じゃじゃーん! この方こそ! 私の頼れる助っ人です!」
「え、えっと……ニシノフラワーです。よろしくお願いします」
ケベックタンゴの紹介を受けて、ニシノフラワーはトレーナーに向かいぺこりとお辞儀をする。
小柄なケベックタンゴよりも小さい、身長135cm。ボブヘアを綺麗に切りそろえた、可愛らしいウマ娘だ。しかしながら、ケベックタンゴよりもよほどしっかりしてるように見える。
「ニシノフラワーって……飛び級でトレセンに入ったっていう、将来有望なウマ娘じゃねぇか。そんなのが、どうして?」
「それだけじゃありませんよ! なんと言ってもこのニシノフラワー、現在SNSでお弁当界の妖精として大バズり中なんです!」
「い、いいえ! そんな、大げさなものじゃないですよ」
慌てて顔を赤くし、首を振って否定するニシノフラワー。謙虚……というよりは、自分に自信がないのかもしれない。
「いや、それはいいんだけど……おいケベック、こんな子にどうやって取り入ったんだ」
「取り入ったとは失礼な、前々から目をつけてお話してたんですよ! 今回だって、頼んだらすぐにオッケーしてくれましたし!」
「ニシノ、本当にいいのか? こいつに料理教えるなんて……」
「あ、はい。私がお役に立てることなら、なんでも喜んでお手伝いさせていただきますっ」
「いい子だなぁ……こいつにはもったいないくらいに」
そう言ってトレーナーはケベックタンゴの方を見やる。
「むっ! 私だってやるときはやりますからね! 見ててくださいよトレーナーさん、今からニシノフラワーさんに教わって、腰が抜けるくらい美味しいカレーを作ってやりますからね!」
「はいはい。楽しみにしてるぞー」
「すっごい棒読み! 絶対どうでもいいと思ってるやつだ! もういいです、さっさと始めてしまいましょう!」
「はい、分かりました。まず、食材は買ってきてくれましたか?」
「もちろんです! えっと、玉ねぎ、にんじん、豚肉、カレールー……」
一つひとつ確認しながら、近くのスーパーで買ってきた食材を取り出す。場所も相まって、さながら調理実習の授業だ。
「そういえば、市販のルーでよかったんですか? てっきり、スパイスだったり粉だったりを使うと思ったんですけど」
「うーん……確かにそれでも作れますけど、ちょっと難しいですから。それに、せっかくなら好き嫌いが分かれにくいものの方がいいと思ったので。市販のものを使ったからって、味が劣るなんてことはないですよ」
「ほほーう。まぁ、楽ならそれに越したことはないですからね! 頼りにしてますよ!」
「えへへ……では、早速始めましょうか!まずは野菜を洗って……切るところからですね! 今回はにんじんは斜めにおっきめに切って、玉ねぎは半分に切ってからスライスに。じゃがいもも切っちゃいましょう」
「まっかせてください!」
元々、簡単な料理程度ならば作れるケベックタンゴ。慣れた手つきで野菜をカットしていく。
「わぁ、すごい、お上手です!」
「むふー! それほどでも……あるかもしれませんねぇ!」
「ただ野菜切っただけだろうが。ニシノも、あんまり褒めるとすぐ調子乗るからなこいつ。気をつけた方がいい」
「あはは……でも、お上手なのは本当ですよ」
「そうでしょうそうでしょう! フラワー先生、次は何をしたらいいですか!?」
「せ、先生だなんて、そんな!? 大層なものじゃないです、ただお力になれたらと思ってるだけで! えっと、そうですね、じゃあ次は野菜を炒めていきましょう!」
その後も、ニシノフラワーの教えで、テキパキと調理を進めるケベックタンゴ。時々メモを取りながら、熱心に話を聞いている。こと『かわいい』を極めるためのことについては、ケベックタンゴはとても熱心だ。
「この辺で隠し味、入れましょうか。確かコーヒー牛乳がありましたよね? 入れると味がまろやかになるんです!」
「ほぉー! なるほど!」
「あっでも、量には気をつけてくださいね? コーヒー牛乳はお砂糖が多いですから。このカレーの量だと……大さじ一杯程度で大丈夫だと思います」
「なるほど、わっかりましたぁ! 大さじ一杯ですね! 大さじ一杯、大さじ一杯……あああああああ!!」
「ああ!? 溢しっ……! って、カレーの鍋に注がれちゃってます!?」
「うわぁぁぁぁ!? どどどどうすればいいんでしょうか!?」
「まず注ぐのをやめてください!?」
ケベックタンゴのやらかしで、あわや台無しにもなりかけたが、ニシノフラワーの尽力もあり、どうにか完成までこぎつけることができた。
「いやー、完成してよかったですね!」
「ほんとにな。あのままだとカレーのコーヒー牛乳割りになってたぞ」
「あはは……でも、なんとかカレーと調味料の量を足したりするだけで調整できてよかったです。その分量は多くなっちゃいましたが……」
「ともあれ、レシピは完璧にメモしましたから! ありがとうございました、ニシノフラワーさん!」
ケベックタンゴはにこやかに頭を下げる。
「そ、そんな! 私でお役に立てたのならよかったです。私も楽しかったですから。よければまた一緒にお料理しましょう! 今度はスイーツとかどうですか?」
「おおー! いいですね、スイーツ! それではその時はよろしくお願いしますね!」
「はい! えへへっ」
こうして、和やかな雰囲気でケベックタンゴのカレー修行は一旦の終了を迎えた。出来上がった、少し甘すぎるカレーを食べ、ケベックタンゴはあらためて決意を胸に抱く。
「よーし! フラワーさんのこのレシピがあれば、カレンチャンなんぞ敵ではありません!」
「またそうやって調子に乗る……本番で失敗しても知らないからな」
「だーいじょうぶですよ! それに、フラワーさんにさらに美味しく作れるコツをいくつか教えていただきましたし!」
そう言うとケベックタンゴは急に椅子から立ち上がり、拳を高く突き上げる。
「今度こそ! 私はカレンチャンに勝つ! そして、私の最強女子力、最強かわいいを証明するのです!」
こうして、決戦に向けての準備を始めていたケベックタンゴ。
決戦の2月14日……女子力女子力と言うくせに、当日がバレンタインデーだなどとは全く気付かないケベックタンゴだった。