世界一『かわいい』ウマ娘によるトレセン学園侵略計画☆ 作:それおすとろ
「さぁーて、始まりました! どうも、世界一かわいいウマ娘! みんなの女神! ケベたんです☆」
2月14日。カレンチャンとの対決を約束した日。トレセン学園の調理室にて、ケベックタンゴはカメラに向かって決めポーズと自己紹介を行う。
始まった
なんだその自己紹介
かわいいけどそれを上回るほどウザい
「ウ、ウザい!? この自己紹介、1週間くらいずっと考えてたんですけど!? かわいくないですか!?」
パソコンの画面に流れるコメント。
ケベックタンゴは、ウマチューブにて配信を行なっていた。
先日ニシノフラワーの元で料理を教わった後、気を大きくしたケベックタンゴは「カレンチャンが私に負ける決定的瞬間、どうせなら大勢に見てもらった方がいいですよね!」と自身のチャンネルにて対決の様子を配信することを決めたのだ。ちなみに、当然カレンチャン側の許可は得ている。
「さてさてー、今回はカレンチャンとお料理対決です! 私がカレンチャンに勝つ歴史的瞬間を見逃さないでくださいね!」
またカレンチャンに突っかかってるよ……
カレンチャンもよう付き合ってくれるわ
仲良しかよ
ケベたんの敗北期待してます!
「あれっ!? 私への応援コメントは!?」
がんばえー
ふぁいとー
「雑!? もういいです、進めましょうか。さて、そんなわけで……対戦相手のカレンチャンです! どうぞ!」
「はーい! カレンチャンです!」
きたぁぁぁぁぁ!
今日もカワイイ……
おっ天使かな?
カワイすぎて失明した
カワイイカレンチャン!カワイイカレンチャン!
「ちょっ、私の時より露骨にコメント流れるスピード速いじゃないですか!? え、私のチャンネルですよね!? 私のファンは!?」
ケベックタンゴが配信を始めてからおよそ半年。もはや視聴者はいじり方を熟知していた。
そもそも、チャンネルのスタートダッシュがカレンチャンの宣伝だったので、視聴者の半分以上が元々カレンチャンのファンだということもあるだろうが。
「はいはい! 次行きますからね! 次は勝敗をジャッジしてくれる審査員を紹介しましょう!」
ケベックタンゴがカメラを回転させ、審査員席と書かれたテーブルを向ける。そこには3人のウマ娘が座っていた。
「では1人ずつ自己紹介をどうぞ!」
「はい! スペシャルウィークです!」
「ハウディ! タイキシャトルデース!」
「オグリキャップだ。よろしく頼む」
オイオイオイ
草
ほんとに人選それで合ってる?
無駄に豪華すぎるのやめろ
「トレセン学園で食に関することと言えばこの3人と聞きまして!」
「ったく……お前のその人脈どこからくるんだよ……」
画面外からため息を漏らすのはケベックタンゴのトレーナー。声を出したのをいいことに、ケベックタンゴはそちらの方にカメラを回した。
「そしてぇ! 今回の対決の実況、トレーナーさんでーす!」
「え、実況!? 聞いてないぞ!?」
トレーナーさんきちゃあああ!!
トレーナーは俺の嫁
おいトレーナーそこ代わ……らなくていいや、そのままでいろ
「まぁまぁトレーナーさん、今度パフェ奢ってあげますから」
「年下の、しかも担当に奢られる趣味はねぇ。……しゃーない、やってやるよ。ま、期待するなよ」
渋々、と言った雰囲気を隠そうともせずトレーナーが了承する。対してその答えを聞いたケベックタンゴはニコニコ顔だ。
「ふふーん、そうこなくては! では最後に解説! ニシノフラワーさん!」
「ニ、ニシノフラワーです! 一生懸命頑張ります!」
ニシノ神!?
妖精さんが来た……!
ばぶばぶ
メンツだけなら公式の企画にも劣らないの何なんだよ
「というわけで、今回はこのメンバーでお届けしますよー! それでは、これ以降の進行はトレーナーさんに任せます!」
そう言って持っていたマイクをトレーナーに渡す。渡されたトレーナーは困惑しながらも、言われた通りに進行を務めることにした。
「えーと、じゃあ……対決する2人、1人ずつ意気込みをどうぞ。まずはケベックから」
「ふっふーん、そりゃもちろん打倒カレンチャンですよ! 吠え面かく姿が今から楽しみですね!」
「はいどうも。じゃあ、次はカレンチャン。意気込みをどうぞ」
「カレンチャンです! 本当は、画面の前のお兄ちゃん達にもカレンの手料理、食べさせてあげたかったけど……カレンのこと、応援してね!」
カレンチャンの言葉で、コメント欄が『カワイイ』で埋め尽くされる。
「ほい、それじゃ意気込みも終わったところで、早速始めようか。2人とも、配置についてくれ」
「わかりました!」
「はーい!」
「よし、じゃあ始めるか。よーい……開始!」
トレーナーが勢いよく宣言すると同時に、両者ともテキパキと準備を始める。それを見届けてから、トレーナーは少し離れた実況席へと移動する。
「さて。ニシノ、よろしく頼む」
「あ、はい! よろしくお願いします。えへへ」
「しかし急に実況って言われてもなぁ……あいつ、無茶言いやがって」
副音声かよ
むしろ一生駄弁っててくれ
癒し枠
「ま、多少は真面目にやらないと後であいつに何言われるかわかんねぇからな……えっと、ケベックが作ってるのはやっぱりカレーだな」
「そうですねっ。でも、この前教えた時からずっと手際がよくなってます」
「対するカレンチャンは……これは、チョコレートか」
「そうみたいですね。カレンチャンさんらしいです」
「というか、普通そうなんだよ。あのバカ、今日がバレンタインデーだって気づいてすらないからな」
「えっ、そうだったんですか!?」
「信じられないだろ?」
バレン……タイン……?
……? 今日はただの休日だが……?
「いや、勝敗どうやってつけるんだこれ……」
トレーナーの不安をよそに、両者の料理は着々と完成へと近づいていた。どうやら調理に集中していて、選手たちでは何を喋っているかまでは聞き取れないようだ。
「そういえば、ニシノが教えていたレシピだと、カレーのじゃがいもは別に温めていたものを最後に入れるんだったな。どうしてだ?」
「えっと、一緒に煮込んじゃうとどうしてもじゃがいもが溶けて味の比率が変わっちゃいますから。もちろん、それでも美味しいんですけど、今回は具のじゃがいもをそのまま味わってほしいなって」
「なるほどな。対するカレンチャンのは……ほう、ミルクチョコレートとビターを混ぜてるのか」
「あー……例えば、アレンジするときにさらに甘いものを加えたりすると甘すぎちゃいますからね。その対策だと思います」
「ほう、なるほど……やはりよく知ってるな。機会があれば俺もニシノにスイーツの作り方を教わりたいもんだ」
「はいっ! ぜひ!」
「いいのか? それなら、その時はよろしく頼もう」
「ちょっとちょっと! 何私の知らないとこで和やかな雰囲気になってるんですか! ちゃんと私を見ててくださいよ!?」
「分かってるよ。お前、よそ見しないで集中した方がいいんじゃないか? また分量間違っても知らないぞ」
料理中のケベックタンゴから非難が飛んできたが、適当にあしらって続ける。というより、両者ともカレーを煮込んだり、チョコを冷やしていて動きが少ないので会話で場を繋ぐ他なかったのである。
「場を繋ぎたいなら私の超かわいい自主制作ビデオとかありますけど!?」
「やめろ、そんなことしたら同接が光の速さで減るぞ」
────────
「……さて、なんだかんだでそろそろどちらも完成しそうだな」
「うう〜! もう食べるの待ちきれませ〜ん!」
審査員のスペシャルウィークが盛大にお腹を鳴らす。タイキシャトル、オグリキャップの2人も同じような反応をしていた。
「審査員の方も、1時間くらい待たせちゃいましたからね……」
「いや、あいつら途中でいろいろ食ってなかったか……?」
山盛りのお菓子をバクバク食って10分足らずで皿を空にしていたのは気のせいだったのだろうか。トレーナーは自分では彼女らの底なしの胃袋を理解することはできないのだと悟った。
「出来ましたぁー!」
「カレンも完成だよ!」
「お、言ってる間に出来たみたいだな。それじゃ、順番に発表だ。まずはケベック」
「はい! 私からはこの『妖精さん直伝まろやかカレーケベたんスペシャル』です!」
名前が長え!
なんて?
相変わらず知能を感じられない名前で安心した
でも美味しそうだな……
勢いよく差し出されたのはごくごく一般的な見た目のカレー。香る匂いも食欲をそそる。想定通りのものでもあり、トレーナーからすれば予想外に出来がいいものだった。
「調理する上でのポイントとかはあるか?」
「はい! レシピをもらってから、分量を少しづつ変えてみたり、火加減や野菜の炒め方、切り方に至るまで、完璧なものを追求しました! もはやオリジナルを超えたと言っても過言ではありません!」
「なるほど。では、審査員の方々、実食お願いします」
「はい! いただきまーす!」
「イタダキマース!」
「あぁ。いただこう」
三者とも手を合わせ、カレーをよそったスプーンを口へ運ぶ。はたして、感想は……
「んん! 美味しいですぅ〜!」
「グッド! ワタシはもう少しスパイシーなのが好みデスが……デリシャスデス!」
「…………」
一名、何も言わずに一心不乱に食べ続けているが、おおむね好評のようであった。ケベックタンゴは自慢げに胸を張る。
「……おかわりはないか?」
「オグリ、食い終わるのはっやいな……ええと、カレンチャンの番が終わった後にしてくれ」
「む……わかった」
「気を取り直して、次はカレンチャン。作ったものをどうぞ」
「はーい! カレンが作ったのは〜、これ!」
カレンチャンは呼ばれると、カメラの画角に飛び出すように前に出る。そのままカメラ目線を一切崩さず、審査員の前に皿を差し出した。
「これは……トリュフチョコレートか?」
「はいっ! ポイントは〜、画面の向こうのお兄ちゃんお姉ちゃんへの愛情、だよ♡」
カワイイィィィィィィィィ!!!!
心臓止まった
魂抜けた
昇天した
↑あまりにも速い除霊、カレンチャンはやはり天使なのでは?
「……えーと、とりあえず、実食を」
「ん〜! こっちも美味しいです!」
「イエス! ベリーグッドデス!」
「……美味い。……美味い。……美味い」
「オグリがまた食い尽くしてる……あ、せっかくだし俺も一つ貰おうか。……うん、美味しいじゃないか。中のガナッシュがよく出来てる」
「本当!? 喜んでもらえたなら、カレンも嬉しいな!」
その後、足りない足りないと主張する審査員達におかわりをよそうこと早くも10回ほど。
「えー、流石にそろそろいいか? 最終的な審査をお願いしたいんだが」
「あっ、そうでした! でも、どっちも美味しくて決められないです〜!?」
スペシャルウィークが頭を抱える。その言葉を聞いて、トレーナーがやれやれと口を開く。
「えー、そうだな。まぁそんなことだろうとは思ったが……ここで一つお知らせだ。この勝負、確かに料理対決なんだが……その本質は、女子力対決、らしいぞ」
「なっ……トレーナーさん!? いきなり何を!?」
流れ変わったな
ん?
ねぇそういえば今日バレンタイン……
バレンタイン……チョコ……うっ頭が
「おっ。どうやら視聴者の方は意見が固まってるみたいだなぁ」
まさか……
ざわ……ざわ……
確 定 演 出
「あはは……えっと、そうですね、そういうことなら……」
「オウ! 分かりマシタ!」
「……? どちらも優劣などつけられないと思うのだが……?」
「それじゃ、一斉にジャッジを。どうぞ」
結果。
スペシャルウィーク──カレンチャン。
タイキシャトル──カレンチャン。
オグリキャップ──未投票。
「はい。0対2でカレンチャンの勝利だ」
知ってた
888888888
これを見に来た
予定調和
会場に拍手が響く。……ただ1人のものを除いて。
「えっ? えっ!? どういうことです!? 納得いってないんですけど!?」
そう。ケベックタンゴだ。トレーナーの目の前でわたわたと慌ただしく動きながら不服の意を示している。
どうも結果が気に入らないというよりも、そもそもこの状況を理解していないようだ。
「まだ気づいてないのかこっちのガナッシュは……」
「えっえっ、なに怖いんですけど!?」
「あのなぁ。2月14日に心当たりが本当にないのか? よく思い出してみろ、ケベック。なぜ学園の生徒たちが女子力だどうのと騒ぎ出したのか。なぜカレーの材料を買いに行ったときにチョコレートが店頭に大きく置かれていたのか。なぜ手作りチョコを作ったカレンチャンが審査で選ばれたのか」
淡々と述べるトレーナー。さすがのケベックタンゴもその答えに気がついたようで、みるみるうちに顔が青ざめていく。
「まさか……バレン……タイン……!?」
「その通り。な? 女子力の塊みたいなイベントだろ?」
「なっ……そんな……バカなぁぁぁぁぁ!? 私が……絶好のかわいいアピールの機会を見逃すなんてぇぇ!」
ケベックタンゴがショックのあまり膝をつく。ひとしきり絶叫したかと思うと、カレンチャンの方をキッと睨みつけてこう言い放った。
「お、おのれカレンチャン……! これで勝ったと思わないでくださいよー!」
「あっ、逃げた!?」
ウマ娘の身体能力をフルに活かして、その場を風のように逃げ去っていく。残されたのは呆然と佇む6人と、流れていくコメントのみ。
ケベたんおばかわいい
うーんこのクソザコ だがそれがいい
ケベたんかわいいよケベたん
泣いてる顔もっと見たい
「えっ……どうすんのこれ。終わって良いの? え、えー……? ご視聴、ありがとうございましたー……?」
おつおつ
トレーナーさんも頑張ってな
これからも応援してます
困惑したまま配信を終わらせ、トレーナーはパソコンを閉じる。そしてその場にいるウマ娘たちに一言ずつお礼を言って解散の宣言をかけてから、深いため息を一つついてからケベックタンゴを追った。
────────
トレーナーが部屋を飛び出してすぐに、ケベックタンゴは近くの階段に座り込んでいるところを見つけられた。
もしかして、落ち込んでいるのだろうか……小刻みに震える背中を見ながら、トレーナーはゆっくりと近づく。
「おい、ケベック……?」
「く……」
「く?」
「く゛や゛し゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!」
「うおっびっくりしたぁ! え、大丈夫……うん、大丈夫そうだな」
落ち込んでいるのかとも思ったが、いつもの様子のケベックタンゴを見てトレーナーは安心した。
「くぅぅぅぅぅ! 今度こそ勝ったと思ったのにぃ! てか勝ちみたいなもんでしょ!? 日にちさえ違えば私が勝ってたに決まってますよね!?」
「いやそれは……どうだろうな」
「そして何より私のミスってことが1番悔しいです!」
「それはいつもでは……?」
「ええ!?」
いつまでもブツブツと不満を垂れるケベックタンゴ。その背後から足音が聴こえて、2人は振り返る。
「あっ! カレンチャン! ……どうしたんです、煽りにでも来たんですか!?」
「そんなことしないよ。……はい、これ」
カレンチャンはケベックタンゴに小さな包みを渡す。カワイくラッピングされたその中には、ひと口サイズに丸められたチョコレートが。
「これ……さっきお前が作ってたやつか?」
「はい! ケベたんにはまだ食べてもらってなかったでしょ?」
「なっ……? わざわざ私に……? ……ま、まぁありがたく受け取っておきますけど」
差し出されたものをわざわざ突っぱねる気にもなれず、困惑しながらもとりあえず受け取っておく。それを見届けて、カレンチャンはとても嬉しそうだ。
「受け取ってくれるの!? やったぁ!」
「ふん! そんなこと言って、どうせ……」
ケベックタンゴが何か言うより早く、カレンチャンが急激に距離を詰めてくる。突然の出来事に固まるケベックタンゴに向かって、身体が触れるほどに近づき、耳元で、甘く囁いた。
「じゃあ……お返し、期待してるからね……♡」
「っっ!?」
「じゃあまたね! トレーナーさんも!」
瞬間、先ほどの妖艶な雰囲気が嘘だったかのように明るく、天真爛漫に笑う。そのまま、カレンチャンは階段を下って去っていってしまった。
その様子を見えなくなるまで呆然と眺め、やっと再起動したケベックタンゴは──
「やっぱり、魔王……んんん〜! 私は! 絶対! いつか勝ってやりますからね〜!」
盛大に負け惜しみを始めるのだった。
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