世界一『かわいい』ウマ娘によるトレセン学園侵略計画☆   作:それおすとろ

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かわいい私と肝試し:前編

 トレセン学園のグラウンド。すでに電灯無しでは足元も不明瞭となり、日はじきに沈むであろうという時間帯。この時間でも、練習を続けるウマ娘たちは多い。そして、ケベックタンゴもその1人であった。

 

「ぜぇ、ぜぇ……トレーナーさぁん、筋トレメニュー、10セット……終わりました、よ……」

 

「あぁ、お疲れ。それじゃ、最後グラウンド5周な」

 

「まだやるんですかぁ!? トレーナーさんの鬼!」

 

「バカ、G1シーズンまでもう時間がないんだぞ? 追い込めるのはこの時期くらいなんだ。今のお前に必要なのはパワーだからな、限界まで筋肉に負荷をかけるしかない。レース直前にはこんなことやれないだろ?」

 

「うぅ〜、わかってますよ! やりますけど!」

 

 文句を垂れながらも、それが必要なことだとわかっていれば素直にやり遂げる。苦しくはあるが、そもそも生まれてからの人生を全て『かわいい』に注いできたケベックタンゴにとってはそこまで嫌なことでもないのだ。

 

「ゲフッ、ふぅ……終わった……つ゛か゛れ゛ま゛し゛た゛〜〜!」

 

「よくやった。今日はこれで終わりだ。暗くなる前に……は、無理そうだが。門限までには帰れよ」

 

「……ふぅ。わかってますよ。あ、でもその前にシャワー浴びてきますねー」

 

「それは好きにしろ。それじゃ今日はこれで終わりだ。また明日な」

 

「はーい、お疲れ様でしたー。ふふーん、シャワー、シャワーっと」

 

 トレーナーに一礼すると、ケベックタンゴはそそくさと帰り支度をしてグラウンドから出る。

 

「……あいつ、もう息整ってんのか。やっぱ、目を見張るほどの成長率だな……賢さ以外は」

 

「む!? なんか言いました!?」

 

「なんでもねーよバカ気のせいだろバカ。さっさと帰れよバカ」

 

「いちいちバカバカ言わないでください!」

 

 

────────

 

 

「……ふぅ。さっぱりした」

 

 シャワー室で汗を流したケベックタンゴは制服に着替え、鼻歌を歌いながら寮に戻る……と、しようとしたところで足を止めた。

 

「……しまった。教室にスマホを忘れてきました」

 

 現在時刻は門限の直前。最悪、一晩程度なら無くても困らないものだが、どうするべきか……

 

「……いや、私の足なら間に合うでしょう」

 

 幸い、トレセン学園では廊下を走ることは禁じられていない……というか、走ることを推奨しているまである。ましてや人も少ないであろう時間帯だ、多少スピードを出しても危険はない。そう判断し、くるっと踵を返して校舎の方へと走り出した。

 

 持ち前のスピードで階段を駆け上がり、自身の教室へ。暗い教室の中、速度を落とさず机の間を掻い潜って自分の机に。引き出しに手を突っ込んで手探りをすれば、くしゃくしゃになったプリントやテスト用紙に混じってお目当ての硬い感触があった。

 

「ふっ……ミッションコンプリート。チョロいもんです」

 

 気分はまるでスパイ映画。夜の校舎という非日常に少しテンションが上がりつつ、寮への帰路を急ぐ。しかし……

 

「……おや? そこにいるのはどなたです?」

 

 教室を出たその先。廊下の奥に、何者かの影が見えた。トレセン学園の制服を着てるからして、自分と同じく、忘れ物を取りにきたのだろうか。しかし、もう急がなければ門限を過ぎてしまう時間だというのに、その人影は焦る様子はない……どころか、立ち止まってこちらをじっと見つめているだけだ。不思議に思って、ケベックタンゴは人影に近づく。

 

「あの〜……聴こえてますか?」

 

 しかし、ケベックタンゴが足を踏み出したその瞬間、人影はふっと姿を消す。まるで、最初から何もなかったかのように。

 

「むむむ……? なんだったんでしょう? と、いけない、こんなところで立ち止まってる場合ではありません」

 

 思わぬところに時間を使ってしまったため、急ぎ足で昇降口へと向かう。しかしもう校内の灯りは最低限以外消されてしまっているため、階段は慎重に降りざるを得ない。

 

 暗い足元の中、踏み外さないように慎重に、しかし素早く階段を下る。その途中、ケベックタンゴは確かに自分以外の足音を聴いた。

 

「……やっぱり誰かいるんですか?」

 

かつん、かつんと音が鳴る。階段の吹き抜けに反響するせいで、それが上からか、下からかもわからない。ただ、一歩ずつこちらに近づいてきていることは確かだ。自然と身体が強張る。止まるわけにもいかないので階段を下り進めるが、足音に気を取られるせいで先ほどよりかなり速度が落ちている。

 

 一つ、また一つ、足音が近くなる。そして、ついに──

 

「みぃ……つ……けたぁ」

 

 聞こえたのは、この世のものとは思えぬおどろおどろしい声。

 

「ほんぎゃぁーーーー!?」

 

 それを聞いた瞬間、ケベックタンゴは後ろを振り向くこともなく全速力で走り出していた。

 

────────

 

「あばばばばばばぁぁぁぁ! トトトトレーナーさぁん!」

 

「うわっ! ……ケベック!? お前、帰ったはずじゃ!?」

 

 まだ仕事をしていたのだろう、パソコンに向かい座っていたトレーナーの驚く顔をよそに、ケベックタンゴはトレーナー室へと侵入する。

 

「んなことぁどうだっていいんですよ! 今それどころじゃないです!」

 

「いやどうだっていいことは無……待て、何かあったのか?」

 

 ケベックタンゴの並々ならぬ慌てように、トレーナーは途端に真剣な表情になる。それも、理由を聞いて一瞬で崩れたが。

 

「ゆゆゆ、幽霊が……! 幽霊が! 出たんです!!」

 

「……はぁ? なんだ、そんなことか……。バカめ、幽霊なんぞ存在するわけないだろ。なんかの見間違いだ」

 

 トレーナーは鼻で笑う。ケベックタンゴの話を信じる様子はないようだ。

 

「いやいや絶対いましたって! 私は死後の世界とか信じる質なんですよ! 生い立ち的に!」

 

「生い立ち……? お前の家系霊媒師とかなのかよ」

 

「違いますけど! ともかくいたんですって!」

 

「……じゃあ万が一、億が一にも幽霊だったとして、だからなんだって話だろ。ハッ、呪われたりでもすんのか?」

 

「またそうやってバカにして……トレーナーさんにはわからないかもしれないですけどね、私は超・絶美少女なわけですよ。この生気に満ち溢れた美貌、幽霊がほっとくとも思えません! そう、さながら街灯の光に群がる蛾のように!」

 

「お前の自己評価がよくわからん……そうだとして、何か実害があるのかよ。ファンが増えたーとか言って喜んでりゃいいだろ」

 

「はぁ〜、そういうところがわかってないんですよ! 生身の人間だろうがウマ娘だろうが、幽霊だろうが私を一目みただけでファンになってしまうのは当たり前のことですが! ファンが増えれば増えるほど、私のことを好きな気持ちを捻じ曲げてしまった厄介ファンが出てくるものなのです!」

 

「まずその当たり前の前提が間違ってるのは置いといて、それがどうした?」

 

「幽霊も同じです! 私がかわいいあまり、付きまとおうとして取り憑いたり、私のかわいい困り顔を拝みたいがために呪ってくる子とかもいるかも知れないじゃないですか!」

 

「いや、全然わからん」

 

「ああ、かわいいは茨の道であることは理解していますが……今日もまた、私の知らないインターネットの奥底で『ケベたんはバカ』だの『顔と身体と走り以外アホな女』だの謂れ無い悪意ある言葉が渦巻いてることでしょう……」

 

「一度『謂れ無い』の意味調べた方がいいんじゃないかな」

 

 ちなみに現在進行形で『ケベたんとかいうおばかわいいウマ娘ww』のスレッドで掲示板は大盛り上がりである。本人が知る由もないが。

 

「ハイハイじゃあ幽霊がいたとして、だ。どうすんだ? 除霊でもお願いすんのか?」

 

「もちろん一刻でも早くそうしたいところではありますが……しかしそこはこの美少女たる私、怖がるだけでは終わりません。まずは調査ですよ、調査」

 

「調査ぁ?」

 

「ふふーん、そう! すなわちは……『肝試し』です!」

 

 ケベックタンゴは得意げに言い放つ。対するトレーナーは「また始まった」と言わんばかりの表情だ。

 

「まずは幽霊を調査する。そしてその正体を見破り安全を確保した上で、カレンチャンを肝試しに誘ってやるんです。あやつの怖がる姿をこの目でしっかり見届けて弱みを握ってやりますよ!」

 

「カレンチャンが幽霊を怖がるタイプには見えないけどなぁ……そもそも、肝試しって言ったって、時間はどうすんだよ。昼に肝試しなんぞ、変だろう?」

 

「ん? そりゃあこっそり夜に寮を抜け出すしかないでしょう。門限破ったって、バレなけれりゃ……ん? 門限? …………あ」

 

 自身の放った門限という言葉で、ケベックタンゴは思い出す。自分が……たった今、門限を破っているという事実を。

 それを自覚した途端、背中に嫌な汗が流れる。

 門限に間に合うから、スマホを取りに行ったはずだった。つつがなくことが終われば、今ごろは部屋でくつろいでいるはずだったのに。

 

「幽霊が出て、パニックになって、気がついたらこっちに……ってアレ? そのまま部屋に帰ればいいのに、なんで私トレーナー室に来たんですかね?」

 

「俺が知るわけねぇだろ。おら、さっさと帰…………れないんだったな」

 

「くっ、トレーナー室に来たせいで門限に間に合わなかったんですよ! こんなの実質トレーナーさんのせいじゃないですか! 今日は責任とって泊めてください!」

 

「いや、その理屈はおかしいだろ。それにトレーナー寮に生徒泊めたりしたら大問題だぞ」

 

「全く、トレーナーさんはいつも文句ばっかり……じゃあここでいいですよ、仕方ありませんし」

 

「なんで俺がワガママでそっちが妥協してやったみたいな雰囲気出してんだよおかしいだろ。それ俺もトレーナー室に泊んなきゃじゃねぇか」

 

「ええ、その通りですけど? ……まさかトレーナーさん、こんなか弱い美少女に寒空の中1人で一夜を過ごせっていうんですか?」

 

「言ってねぇよ、てかそんなこと許さん。風邪ひいたらどうすんだ。……いや、そうか」

 

 トレーナーは何かに気づいたように、顔を上げ、そしてケベックタンゴに言い放つ。煽るような声の色合いを、多分に込めながら。

 

「はっはーん、さてはお前……1人で寝るのが嫌なんだな?」

 

「なっ……! なな何を言い出すんですかこの完璧美少女である私がそんな情けないわけないじゃないですかやだなぁ当てずっぽうにも程がありますよほんと」

 

「うっわ図星の反応。……ま、だったらここにこだわる必要もないだろう? 大人しく反省文でも書いて──」

 

「ま、待ってください! 嫌ですよ、同室の子今日は遠征で居ないんですもん! ……あ、えっと…………ぐっ、違うんですよ? 別に、1人じゃ寝れないとかそんな子供っぽいことじゃなくてですね? 1人で寝るなんて慣れっこですけどね? でも……でも、幽霊だけは別なんですよぉ!」

 

「よくそんなんで肝試しとか言えるよな……正体わからないとお前が怖いだけじゃねぇか。……ま、いい。その泣きそうな顔に免じて今日だけここに泊めてやる。どうせ仕事も片付かないしな」

 

 そう言いながら、トレーナーは部屋の奥から寝袋を取り出す。まさか使うとは思っていなかったのか、それはやや埃を被った箱の中に綺麗にしまわれていた。

 

「お前はソファ使えばいいだろ。布団は……まぁブランケットで我慢しろ」

 

「別に私泣いてないですけどね? それはそれとしてありがとうございます。……あ、でも私、枕が違うと寝付けないタイプで」

 

「ぶっ飛ばすぞ」

 

 その後、宣言に反しケベックタンゴは1分もかからず眠りについた。

 

 翌朝、ソファから転がり落ちてトレーナーに覆い被さるように寝ているところを、怒りの含んだ声で起こされたのだった。

 




久しぶりの投稿になってしまって申し訳ないです

関係ないけど名古屋ライブ行きました。カレンチャンがめちゃくちゃカワイイカレンチャンでしたね
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