世界一『かわいい』ウマ娘によるトレセン学園侵略計画☆   作:それおすとろ

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かわいい私と模擬レース:中編

カレンチャンへ宣戦布告したその翌日。ケベックタンゴとトレーナーはトレセン学園のグラウンドに立っていた。

 

「さてさて、今日もいっちょやりますか! カレンチャンとの勝負に向けてレッツ、トレーニングです!」

 

「わかってると思うが、俺は特別なことはやらんぞ。通常のトレーニングだ」

 

「ええ、それは仕方ないと受け入れます。通常のトレーニングの中にも、何か見えてくるものがあるはずですから」

 

 そうして、トレーナーとのいつも通り……いや、いつも以上に結構ハードな練習が始まった。

 

 

────────

 

 

「うげぇぇぇぇぇ!!」

 

「おい、足止めんなあともう一周! ラストラスト!」

 

「それ、一周前も聞いたんですけど!?」

 

────

 

「ほらほら、速度落ちてるぞ! さっさとこっちまでこい!」

 

「な、んで……全力で走った後にタイヤ引きを……ぐぇっ」

 

────

 

「よし、次は休憩がてら体幹だな」

 

「休憩に、なって、ないんですけど……? あっ足が死ぬ……無理ぃ……」

 

「崩れたから最初っからな」

 

「鬼!」

 

────

 

「よし、じゃあ最後に走るか」

 

「正気かおのれ!? ちょっと待ってくださいよ! いくらなんでもキツすぎません!?」

 

「いや……G1取るんだろ? ならこの程度こなさなきゃだろ。安心しろ、この程度じゃ身体に不調はきたさない」

 

「いや現在進行形で割と不調です! 限界です! 関節とか筋肉とか諸々が! 頭バグってんです!?」

 

「安心しろ、仕様だ」

 

 

────────

 

 

「つ、疲れた……」

 

「安心しろ、毎日やりゃ慣れる」

 

「毎日やるんですか!?」

 

 ケベックタンゴの顔が絶望に染まる。

 

「な、なんで急にそんなやる気出てるんですか……もしかしてカレンチャンのレースで?」

 

「関係ない……とは言い難いか。トゥインクル・シリーズには手強い相手がいることがわかった以上、こちらも負けてはいられない」

 

「案外熱血なんですね……」

 

 その言葉を聞いたトレーナーは急に我に帰ったような表情を浮かべ、少し間を置いたあとに顔を背け小さく呟いた。

 

「……悪いか」

 

「いいえ全く。むしろいいじゃないですか、斜に構えてるよりよっぽど。……まあ、練習に関してはちょっと緩和して欲しい気もしますが……」

 

「それは無理だな」

 

「あっそうですか……」

 

 即答されて少し凹むケベックタンゴ。トレーナーは冷めたように見えてレースに対してはこだわりと熱い想いがあるようだ。

 

 

────────

 

 

「痛い痛い痛い痛い! 待ってマヤちゃん、ちょ、もうちょっとゆっくり……!」

 

「わわ、ごめん! 大丈夫!?」

 

「大丈夫大丈夫……。全く、筋肉痛の時の階段は地獄だよ……」

 

 案の定、翌日とんでもない筋肉痛になったケベックタンゴ。放課後、校舎を出るために階段を下るのさえマヤノトップガンに手伝ってもらわなければ厳しいほどであった。

 

「辛い……ですが、これもカレンチャンに勝つため。ひいては私のかわいさを世界中に広めるためです。頑張らねば……」

 

「むむっ! どうやらお困りのようですね!」

 

「うわぁ!?」

 

 歩きながら話していると、急に後ろから声をかけられた。ケベックタンゴは慌てて飛び跳ね、声のする方から距離を取る。急に動いたため全身が痛んだ。

 

「悩み事ならばこの学級委員長にお任せあれ!」

 

「学級……? え、違うクラスですよね……? え、誰……?」

 

「あなたからはバクシンの素質を感じます! さぁ、私と共にバクシンしましょう!」

 

 ずいずいと距離を詰めてくる謎の学級委員長。その勢いにケベックタンゴは困惑するしかない。

 

「なになにちょっと怖い離れてください! 助けてマヤちゃん……って、居ない!?」

 

 面倒な気配を感じ取ったのか、興味を無くしたのか、マヤノトップガンは既にその場を去っていた。ケベックタンゴを助けてくれる人は、もう居ない。

 

「待って押さないでください状況が飲み込めてないんですけど!?」

 

「さぁさぁ、学級委員長である私がトレーニングをしてあげましょう!」

 

「え、えぇ……? ちょ、ちょいちょい、力強い抵抗できない!? 誰かー! 助けてぇー!」

 

 

 そうして、半ば無理やりに連れてこられたグラウンドで、学級委員長とトレーナーが対面した。

 

「……なんで?」

 

「私にも分かりません……」

 

「いや、サクラバクシンオーって言ったら、短距離ほぼ負けなしのG1ウマ娘だぞ……? なんでそんなホイホイトレーニングにも呼べるんだよ……」

 

「私にも分かりません……!」

 

 大きなため息をつくトレーナー。幸せがとんでもない勢いで逃げ去っていく気がした。

 

「まあお似合いなんじゃねぇのかな……根拠のない自信とかうるさいところとか」

 

「おお! 私たちお似合いらしいですよ、ケベックタンゴさん!」

 

「うーん、なんかバカにされてる気がします」

 

「気のせいだろ」

 

 話を聞いていないのか全く気にしていないサクラバクシンオーと、しらばっくれるトレーナー。2人が合わさった結果、ケベックタンゴはそれ以上言及する気を無くした。簡単に丸め込まれたとも言う。

 

「まあいいです。そんなことより、トレーナーさんに併走の許可をお願いしたいんです。……じゃないと帰りそうにないので、この先輩」

 

「はぁ……まあ好きにしろ。怪我しなければどうだっていい」

 

「ありがとうございます、ケベックタンゴのトレーナーさん! さぁ早速行きましょう! バクシーン!!」

 

「え!? ああはい、ってちょっと待って! 切り替え速くない!?」

 

 トレーナーの最初の困惑とは裏腹にトントン拍子に話は進み、かなりハイテンポな中サクラバクシンオーとケベックタンゴはスタートラインに着いた。それまでの和やかな雰囲気から一転し、辺りを緊張感が包む。

 

 サクラバクシンオーはかなり強いスプリンターだ。ならば、この併走はカレンチャンを倒すための大きなヒントになるはずだ、とケベックタンゴは考える。

 

「では行きましょう! バクシンバクシーン!!」

 

 個性的なスタートの掛け声と共に、サクラバクシンオーがスタートする。それに一瞬出遅れ、ケベックタンゴが続いた。

 

「バクシンバクシンバクシンバクシン!! どんどん行きますよー!」

 

「待って最初から速すぎないですか!?」

 

 短距離王者の名は伊達ではなかった。最序盤から圧倒的な加速でケベックタンゴを置き去りにする。

 ケベックタンゴは思った。これがトゥインクル・シリーズなのか。自分がこれから進む道には、これほどの実力がありふれているのか、と。

 同時にこうも考えた。その圧倒的なスピードと、「バクシンバクシーン!」という大声により、彼女はかなり周りの目を引く。つまり……

 

──あの子、私よりめちゃくちゃ目立つんじゃね?

 

「うおおおおおおそうはいくかぁぁぁぁ!」

 

 意地でも自分の方が目立ちたい! その一心で、実力的にはかなり差があるはずのバクシンオーへ食らいつく。

 

「ちょわっ!? やりますねケベックタンゴさん! ですが、私も負けませんよー!」

 

 そう言って一瞬グッと地面を踏み込む。芝が爆ぜ、さらにサクラバクシンオーが加速する。

 

「んなっ!? さらに加速するの!? 負けるかぁぁぁぁ!」

 

 ケベックタンゴも必死でそれを追うも、流石にもう差は縮まらない。それどころかどんどんと離され、ゴールの位置へと辿り着くころには大差と呼べるほどの距離が開いていた。

 

「ゼェ、ゼェ、ゴホッゴホッ……ちょっ、水……」

 

「ふむ、なかなかいい走りでした! やはりあなたには学級委員長の才能があります!」

 

「いや、意味わかんないし要りませんけど……ゲホッ」

 

 水を飲み、むせながらもケベックタンゴはまだまだやる気だ。サクラバクシンオーに底知れぬ力を感じつつ、これならば何か学べるものがあると確信した。

 

「もう一回、併走をお願いします!」

 

「もちろんです! さぁ、私に着いてきてください!」

 

「はい! バクシンオー先輩!」

 

 もう一度スタートラインに立ち、同時にスタートを切る。次こそは追いつく、次こそは何かを掴む。その強い意志で、何度も何度も挑戦を続ける。次第にサクラバクシンオーをスタミナも切れはじめ、互角の勝負となる。

 

「うおおおおおおおおおおおお!」

「バクシンバクシンバクシーン!」

 

 サクラバクシンオーとの特訓はトレセン学園を飛び出し、気づけば河川敷にまでたどり着いていた。

 

「ゼェー、ゼェ……汗も滴るかわいい美少女とは言いますが……流石にもう……限界、です……」

 

「ふぅー! なかなかいい練習でした! ありがとうございます、ケベックタンゴさん!」

 

「おー……なんでそんな余裕あるんですか……? 短距離専門じゃなかったんですか……?」

 

「最近長距離のトレーニングもしているので! 少し休めばこの通りです!」

 

「嘘ぉ……こちとら筋肉痛が引いてないんですけど……」

 

 流石に足も限界を迎え、ケベックタンゴは土手に倒れ伏す。思えばほとんど休憩なしで走りっぱなしだった。昨日からの疲労もかなり溜まっているこの状態で、そんなことができたのは根性のおかげと言う他ない。

 

「おや……ならば受け身の練習をしましょう!」

 

「う、受け身? なんでです?」

 

「バクシン初心者にとっては大事なことです。自分の内のバクシンに体がついていかず、バランスを崩してしまうこともあるのです……」

 

 そう言って、どこか過去を懐かしむような視線を空へと向けるサクラバクシンオー。彼女にもそんな時期があったのだろう。

 

「いや……ふ、普通に危なくないです……?」

 

「私のトレーナーさんにも『自分の体のケアはしっかりとしろ』と言われましたから!」

 

「うーん、多分そういうことじゃないと思います!」

 

「さあさあ、これもバクシン! いざ、参りましょう!」

 

 ぐいぐいとものすごい力でケベックタンゴの手を引っ張るサクラバクシンオー。

 

「待って!? 私の自由意志は!?」

 

「大丈夫です! いざと言うときに役に立つものですよ!」

 

「何も大丈夫じゃない!? お願いだから話を聞いてくださいー!」

 

 必死の抵抗もむなしく、流されるままに受け身の練習に励むことになったケベックタンゴ。正直これはレースにおいてなにか意味があるのかと思いつつもそれなりに真面目に励むのだった。

 

 受け身の練習が終わった後もまたサクラバクシンオーとのトレーニングは続き、バクシンオーの急な思いつきを含む全てのメニューが終わった頃にはすでに夕日が半分も見えなくなっていた。

 

「つ、疲れました……。ですが……ふふふ。おかげで何か走るコツのようなものを掴めた気がします! ありがとうございます!」

 

「そうですか! ぜひこれからも、私と共にバクシンの道を広めて行きましょう!」

 

「はい! バクシンオー先輩!」

 

 

「「バクシン! バクシン!バクシーン!」」

 

 

─────

 

 

「で、何で俺を呼んだんだ?」

 

「ふふ……アドレナリンが切れた途端全身の痛みがヤバいです。何が言いたいのかと言うと、もう一歩も動けないので学園まで連れてってください」

 

「……帰るわ」

 

「ああ待っていったぁ! 痛い痛い身動きするだけで痛いでも置いてかないでぇ!」

 

 

─────

 

 

 そのまた翌日。

 

「おっはようごさいまーす! ハイパーかわいいケベたんがあなたのハートに光をもたらしに来ましたよー!」

 

 バァン! と扉が壊れそうなほどの勢いでトレーナー室に入ってくるケベックタンゴ。トレーナーはケベックタンゴと契約してから何かとスルースキルが上がったので特に反応しない。

 

「ケベック。筋肉痛は大丈夫なのか?」

 

「はい! 通りすがりの白衣のウマ娘さんにもらったなんかよくわかんない栄養ドリンクを飲んでから絶好調です!」

 

「それは飲んで大丈夫なやつなのか?」

 

 明らかに怪しい代物だったが、ケベックタンゴの筋肉痛は完全に解消されたためその効果は確かであった。本人も満足している様子なので、手のひらが淡く発光しているように見えるのは些細な問題であろう。

 

「ほらほら、時間は有限ですからさっさと練習しましょう! 善は急げ、私の好きな言葉です! バクシーン!」

 

「お前、変なものに影響されすぎだろ……」

 

 トレーナーが呟くもそんなの知ったことかと慌ただしくトレーナー室を出ていこうとするケベックタンゴをトレーナーが呼び止める。

 

「そうだ、伝え忘れてた」

 

「はい? なんですか? 私がかわいいってことですか?」

 

「そうじゃない。お前、次のレース逃げ禁止な」

 

「え」

 

 瞬間、時が止まる。逃げ、禁止。そのシンプルな言葉の情報をケベックタンゴが処理しきるまで、数秒ほどかかった。

 

「えええええ! ま、待ってくださいよ! なんでですか!?」

 

「落ち着け」

 

 大声で迫ってくるケベックタンゴを軽くいなしつつ、トレーナーは淡々と説明する。

 

「そもそもお前身体的には脚質なんでもいけるだろ」

 

「まあそりゃ、私の才能ですからね」

 

「ならなんで逃げにこだわる」

 

「最初っから最後まで先頭に立ってた方が目立つからです!」

 

 ケベックタンゴは堂々と答える。しかし、それを聞いたトレーナーの目は冷たいものだった。

 

「それでスタミナ持たなくて8位に沈んだのはどこのどいつだこのバ鹿!?」

 

「やめてやめて頭揺らさないで! ごめんなさい私ですぅ!」

 

 あまりに反省の様子が見えないケベックタンゴについイラッとしてしまったトレーナーだが、いくらか冷静になったのか手を離して咳払いを一つ。

 

「こほん……それでだな。お前は先頭にいると調子に乗るし、どうせ途中でスタミナ使い果たすだろ。だから当分は先行で様子を見ようと思う」

 

「……でもそれじゃ私が目立たないじゃないですか」

 

「……普通に走ってライブのセンター取るのとバカみたいに逃げで走った挙句に沈んでバックダンサーやるのどっちがいいんだ……!?」

 

「なっ……ぐぬぬ……センター取りたいです……」

 

「よし」

 

 割とあっさり承諾した。トレーナーもケベックタンゴの扱いがだんだんわかってきたのだろうか。

 

「でも……うーん、なんか忘れてるような……」

 

 承諾してからもしばらくうんうんと唸っていたケベックタンゴだが、何かを思い出すとまたトレーナーに食い下がった。

 

「あっそうだ、ちょっと待ってください! じゃあ昨日のバクシンオー先輩とのトレーニングはどうなるんですか!? せっかく手に入れたバクシン魂は!?」

 

「捨ててしまえそんなもん!」

 

「そんな!?」

 

 こうして、体の限界を迎えながらも昨日一日、やっとの思いで手に入れた逃げのコツは無意味と化した。ついでにバクシンを広めることもできなくなった。ケベックタンゴは少し残念だったが後者に関してはほぼノリで言ったことだしまあいいかとも思った。

 

 

 それからまたトレーナーの元で指導を受け数日。

 

 ──約束の日が、やってくる。




後編だと思った?ごめんね修行パートだ!
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