世界一『かわいい』ウマ娘によるトレセン学園侵略計画☆   作:それおすとろ

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かわいい私と模擬レース:後編

 トレセン学園のとある日曜日。昨日降った雨と打って変わり天気に恵まれたその日、芝のコースにて2人のウマ娘が対峙する。

 かたや金髪をたなびかせ、不敵に笑うウマ娘。名を、ケベックタンゴ。そしてもう一方、それを見上げながら、銀髪を揺らし微笑を浮かべるウマ娘、カレンチャン。

 

「ふっふっふ、よく来ましたね! 逃げずにここに来たことを褒めてやります!」

 

「うん。一度挑戦を受けた以上、逃げるなんてありえない、でしょ?」

 

 バチバチと視線がぶつかり合う。今ここに、宿敵同士の決戦が果たされる。……もっとも、宿敵だと思っているのはケベックタンゴの方だけだが。

 

 しばらく睨み合った後、カレンチャンの視線がケベックタンゴの目から足元へと動いた。

 

「……台からは降りた方がいいんじゃないかな」

 

「う、うるさい!」

 

 そう言いながらも渋々それまで乗っていた空き箱を降りるケベックタンゴ。お互い平地になると、ケベックタンゴはカレンチャンよりも10cm以上背が小さい。先ほどとは逆にカレンチャンを見上げる形となってしまった。

 

「ぐぬ……ち、小さいのがなんですかこの! 身長とスタイルが負けてても私の方がかわいいですけど!?」

 

「……カレン、何も言ってないよ?」

 

 聞かれてもいないことに言い返すケベックタンゴ。これでは気にしていると言っているようなものである。事実、カレンチャンのスタイルはかなりいい方であり、ケベックタンゴがそれに小さな敗北感を覚えているのは間違いない。

 

「ですがその余裕な態度ももはやこれまで。今日、私が勝ってあなたよりもかわいいことを証明してみせます!」

 

「ふーん……よろしくね、ケベックタンゴちゃん♪」

 

 微笑は崩さず、されどその目に確固たる闘志を燃やして、カレンチャンは応じる。その一挙一動に、『カワイイ』王者としてのオーラを感じた。

 

 ケベックタンゴはその圧に一瞬たじろぎそうになるもなんとか堪え、動揺を悟らせないようにカレンチャンの前に手を差し出して握手を求める。一見して友好の証にも見えるそれは、言外にお前など余裕だ、と見栄を張るためのものであった。対するカレンチャンも笑顔でそれに応じ、不自然なほど固い握手を交わす。その側から見ると和やかな雰囲気に、会場に集まった生徒たちは歓声を上げた。

 

「……というかさっきから思ってましたけど、なんか人多くないですか?」

 

「あ、カレンがウマスタに上げたからかな。ごめんね、緊張するようだったら……」

 

「し、しませんよ緊張なんか! ちょっとアウェーでやりづらいなって思っただけです!」

 

「それ緊張してるよね……?」

 

「いいえしてませんったらしてません! むしろ後悔するがいいです! あなたは今日、この大勢のファンの中で敗北することになるんですからね! ハーハッハッハ!」

 

 そう捨て台詞を残し、ケベックタンゴは準備運動のためにその場を離れた。

 

─────

 

「いっちにー、いっちにー……」

 

 その数分後。ストレッチを続けていたケベックタンゴの元にトレーナーがやってきた。

 

「おい、少しいいか」

 

「はい? ああ、トレーナーさん。いいですよ。何でしょう」

 

「今日の併走のことだ」

 

 そう言うとトレーナーはケベックタンゴの前に周り、鞄から小さなホワイトボードとマーカーを取り出した。

 

「それ、いつも持ち歩いてるんですか?」

 

「そこはいいだろ別に。そうじゃなくて、作戦会議だ」

 

 トレーナーはマーカーのキャップを取り、ホワイトボードの中に楕円を描き込む。これはコースを表しているのだろう。トレーナーはさらにその上にいくつかの点と線を増やしながらケベックタンゴにレースの説明をする。

 

「今回走る距離はここからここまで。短距離の区分だな。昨日も話したが、今回はなるべくカレンチャンの後ろにピッタリつけろ」

 

「先行の走り方を学ぶため、でしたっけ。むー……仕方ありませんね」

 

 渋々、といった感じで承諾するケベックタンゴ。

 

「ああ。お前がこの模擬レースを重要だと思ってるのは理解したが、本当に大事なのはその後。これからのトゥインクル・シリーズだからな」

 

「ま、私は天っ才なので? どんな走り方でも勝ってみせますけど?」

 

「そうか。……不安だな……」

 

 そう小さく零してしまうも、この期に及んでケベックタンゴのモチベーションを下げるような真似はするべきではないだろう。トレーナーはそれ以上何も言わない。

 

「まあ……なるべく頑張るといい」

 

「あ! さては全然期待してないですね!?」

 

「そんなことないぞ、めっちゃ応援してる。だからさっさとアップに戻れ」

 

「全然心がこもってないです!? くっ……必ず勝って、トレーナーさんも見返してやりますからね!」

 

 そう言ってさらにウォームアップに励むケベックタンゴ。偶然にも、トレーナーとのやりとりはその闘志にさらに火を着ける結果となったようだ。

 

「うおおおおおおお! 待っていろカレンチャン! 私は絶対、あなたを倒ぉす!」

 

 

────────

 

 

「ぜぇ……待たせましたねカレンチャン! さあ、勝負です!」

 

「……なんだか息切れてない? 大丈夫?」

 

「少し準備運動に本気になりすぎた感は否めませんが……問題ありません! 私、かわいいので!」

 

「そっか……」

 

 まだケベックタンゴのクセの強さに慣れてないカレンチャンはそんな微妙な反応しかできない。むしろこれが一般的な反応ではある。

 

「さあさあ! 勝負の時です! 終わったころにはあなたもここにいる観客たちもみんなまとめて私のファンにしてやりますよ!」

 

「そっか……うんっ。今までカレンと『お話し』してきた子は何人かいたけど……あなたみたいな子は初めてかも。お互い頑張ろうね、ケベックタンゴちゃん?」

 

「望むところです! 世界一かわいいケベたんの実力、見せてやりますよ!」

 

 両者共に気合を入れ、スタート位置へと着く。一瞬だけお互いに視線を交わし、行く先のターフに顔を戻す。

 

「じゃ、伝統にならってコインが落ちたらスタートだね。行くよ?」

 

 そう言ってカレンチャンがコインを投げ、天高く打ち上げる。数秒間空を舞ったコインはやがて重力に引かれて高度を下げ、地面に落ちる。ウマ娘の聴覚はその小さな音を聞き逃さない。

 

 足に力を込め地面を蹴り、2人はほぼ同時にスタートを切った。

 

 ケベックタンゴはトレーナーに言われた通り、先を行くカレンチャンのすぐ後ろにピッタリとつく。

 

「へぇ……てっきり逃げるかと想ったけど……そう来るんだ。だったら……!」

 

 カレンチャンが一瞬、ペースを上げる……フリをする。

 カレンチャンはケベックタンゴと同じく、自分がカワイイことを自覚し、それを高めてきたウマ娘だ。しかし、カレンチャンはそれだけではない。ケベックタンゴのかわいさを「かわいいの威力」とするならば、カレンチャンは「カワイイの技術」。相手のツボを素早く把握し、的確に突くことができるのだ。その技術を、レースに転用すればどうなるか。

 相手のツボを押さえる。それは裏を返せば、相手が嫌がることも的確に把握できるということ。それゆえ、カレンチャンは相手を惑わす、トリッキーな走り方を得意とするのだ。

 今も、小刻みにペースを変えることによって、相手の息を乱そうとする。相手がこちらをピッタリとマークしているのならば、その戦術はかなり効果的だ。特に、ケベックタンゴはカレンチャンに対して並々ならぬ対抗心を持っている。すぐに乗ってくるだろう。そう考えた。

 

 しかし、その予想は裏切られる。

 

「あれ……? 乗って、こない?」

 

 横目でケベックタンゴの方を見る。その表情は真剣そのもの。カレンチャンの小細工など気にも留めていないようであった。

 

 その理由は、レース直前のトレーナーの言葉であった。

 

─────

 

『いいか、よく聞け。……どうせ調子のるからあまり言いたくないが、今回だけは自分に自信を持て。カレンチャンよりも自分の方が上だと思い続けろ。ペースを乱すな、自分は間違っていないと思い込め』

 

『つ、つまり……トレーナーさんも、私が一番かわいいことを認めてくれたってわけですか!? そうですよね〜! 私かわいいんですよ! いやもう、カレンチャンなんて眼中にないっていうか?』

 

『うっざ……やっぱ言わなきゃよかったかな……でも油断とかするなよ? 実力だけで言えばカレンチャンの方が上かもしれないからな?』

 

『大丈夫大丈夫! いや〜トレーナーさんもついに気づいちゃいましたかぁ〜、私のかわいさ! 仕方ないですね、ほらもっと見てもいいんですよ、このかわいいかわいいケベたんを!』

 

『引っ叩くぞ』

 

─────

 

 そんなやりとりがあって、今のケベックタンゴにはいつも以上に自尊心が高かった。カレンチャンの策に引っかからないのは、ムキになり張り合うまでもなく自分の方がかわいいと本気で信じているから。かわいい自分の走りが絶対に正しいのだ。

 

 対するカレンチャンも、それだけで無策にはならない。今度はかなり速度を落とし、ケベックタンゴを前に出させた。

 

 ケベックタンゴは一瞬スタミナが切れたのではと考えるも、すぐにその考えを払拭する。これは短距離レースで、ましてや相手はカレンチャンだ。そんな甘い考えが通用するはずがない。

 ただ、そこまで考えられたとしてもケベックタンゴの乏しいレース知識では意図を理解することなど出来ず。

 

「何のつもりでしょう……? いいえ、なんであれ私の勝利は目前、このまま行きます!」

 

 自分が先頭に立ったことを理解した瞬間、捨て去ったはずのバクシン魂がケベックタンゴの身体を急かす。何もかもを振り切って、圧倒的な速度で目立ちたい! そんな衝動が内から湧き出てくる。

 

 現在レースは半分を少し過ぎたところ。今からならバクシン的なスパートをかけてももしかしたらスタミナも足りるかもしれない。グッと地面を踏み込み、加速しようとして……やめた。

 

 ケベックタンゴにはレースがわからぬ。しかし目立つことに関しては、人一倍敏感であった。

 

 ケベックタンゴの脳裏に浮かんだのは1週間前、カレンチャンのメイクデビューの様子。その時に感じた鮮烈な印象──最終直線でのスパート。あの時、観客全ての目がカレンチャンに集中していた。

 

 ならば、今はどうか。カレンチャンはケベックタンゴの後ろ、付かず離れずの位置をキープしている。

 

「ふっふっふ……なるほど……わかっちゃいましたよ……?」

 

 カレンチャンはわざとケベックタンゴに前を行かせ、最終直線でそれを抜き去ることで目立とうとしているのだ、と。

 ならばケベックタンゴもそうはさせない。今すぐにでもバクシン気持ちを抑え、カレンチャンがスパートするのを待つ。同じタイミングで全速力を出すのだ。

 

 その決意を胸に、レースの中盤を走り抜ける。まだ、カレンチャンに動きはない。

 

 そして終盤へとレースは進み、ついにその時がやってくる。

 最終コーナーに差し掛かった瞬間、後ろに感じていたカレンチャンの気配が一気に広がる。

 

──来た!

 

 カレンチャンのスパートを感じ取ったケベックタンゴは、自身も同じく足に力を込める。

 

「さあさあ、ここからが本当の勝負ですよ!」

 

 ケベックタンゴが若干リードを残したまま、最終直線に入る。こちら側には大勢の観客が。しかしそのほとんどが、カレンチャンを応援する声を上げていた。ケベックタンゴにとってはそれがおもしろくない。ついついそちらに意識が向いてしまう。そんな中。

 

「頑張れー!! ケベちゃーん!!」

 

 1人だとしても、応援してくれるクラスメイトが居たらどうなるか。その──マヤノトップガンの声は、しっかりとケベックタンゴの耳に届いた。

 

 たった1人でも、自分に声援を送ってくれる人がいる。その事実は、ケベックタンゴに力をみなぎらせた。同時に確信した。今なら、カレンチャンを超えられる。

 

 応援が力となる。かなりドラマチックな展開だ。しかし……運が悪いと言うべきか、注意力が散漫になっていたと言うべきか。

 使いきれないほどに有り余ったやる気が、前日の雨で少し滑りやすくなっていた芝を踏む。

 

「あっ」

 

 足が滑る。

 

「あ゛っっっ!」

 

 バランスを崩し、大きく脇へとよろける。

 

「う゛わ゛あ゛ぁ゛ぁ゛〜っ!!」

 

 内ラチへと激突する。

 

 柵が壊れるバキッという嫌な音と共に、盛大にケベックタンゴはずっこけた。

 その想像もしてなかった事態に、観客たちから悲鳴が上がる。当然、ケベックタンゴからも。しかしその悲鳴の質は少々異なるものだった。

 

「わ゛た゛し゛の゛し゛ょ゛う゛り゛か゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!」

 

 そんなになってまで勝ちにこだわる姿勢を褒めればいいのか、ラチに突っ込んでも大した損傷もなくみっともない叫び声を上げているのに驚愕すればいいのか、それとももうちょっと落ち着けと叱るべきなのか。なんであれ、ケベックタンゴが喚いている間に、カレンチャンは既にゴール板を通過していた。

 こうして、レースは決着した。

 

「えっと……大丈夫?」

 

 軽くファンサービスを終えたカレンチャンが、未だコースの中で寝転びじたばたしているケベックタンゴに手を差し伸べる。

 

「く゛や゛し゛い゛ぃ゛ぃ゛! 私が負けるなんてあり得ませんー!」

 

「ちょっと、落ち着いて……。急に転んだみたいだから、びっくりしちゃった」

 

「これが落ち着いていられるか! どーすんですかこのレース!」

 

「えっと……一応、カレンの勝ち……かな?」

 

 少しだけ言葉を選んでそう伝える。その時ちょうど、ケベックタンゴのトレーナーが救急箱を片手に飛んできた。

 

「おい、ケベック!? 大丈夫か、怪我は!?」

 

「あ、それは全然大丈夫です。私昔っから頑丈なので。この天性の肉体には傷ひとつたりともついていませんとも! ……まさか本当に受け身が役に立つとは思わなかったですが」

 

「そ、そうなのか……いや、それならいいが……」

 

 ホッと胸を撫で下ろすトレーナー。それと反対に、ケベックタンゴは激昂していた。

 

「って、よくないですよ! やり直しを要求します! 今回はちょっと運が悪かっただけなんですけど! ちょー不満なんですけど! 地面がぬかるんでさえなければ……!」

 

「おいケベック、その辺にしとけ。……正直言って、見苦しいぞ」

 

「トレーナーさんまで!? ……ぐぬぬぬぬぬぬ……こっ、これで勝ったと思わないでくださいよー! こんちきしょー!!」

 

「あっおい待てどこ行くんだ!? 念のため保健室に……!」

 

「おのれカレンチャンー! 覚えてろー!」

 

 ケベックタンゴはそう言って逃げるようにその場を離れる。

 

 ケベックタンゴVSカレンチャン。その最初の勝負は、ケベックタンゴの惨敗で幕を閉じたのだった。




これからもこんな感じで2〜3話くらいを1エピソードとして区切りのいいとこまで書き溜めして出来上がったら1日ずつ投稿していきたいと思います。基本的にはそんな感じで、たまに掲示板とかその他を挟んでいくかもしれません。
あと感想・評価・お気に入りをしてくださるととってもモチベが上がるので少し下に画面スクロールして評価などおねがいします!

それでは、今後ともかわいいケベたんをよろしくおねがいします!
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