「貴様は何者だ!」
運動場のような広い空間に一人の男の声が響き渡る。
男の名前はキース・シャーディス。
前調査兵団団長であり、第104期訓練兵団の教官。
クリスタは訓練兵として、この場に立っていた。
キースによって通過儀礼……名前と目的を言わせそれを強く否定する事を続けていく。
「オイ、貴様……何をやってる?」
キースが敬礼を左手でしてしまったコニー・スプリンガーの頭を締め付けていると、視界の端に一人の少女が芋を頬張っていた。
キースはその少女に問いかけるも、本人は気づいていないのか芋を頬張りながら周りを見渡す。
「貴様だ!貴様に言ってるんだ!何者なんだ、貴様は!」
「んぐっ……!」
驚いた少女は含んでいた芋を急いで飲み込むと、芋を持ったまま敬礼をする。
「ウォール・ローゼ南区、ダウパー村出身!サシャ・ブラウスです!」
「サシャ・ブラウス……貴様が右手に持っているものは何だ……?」
「蒸した芋です!調理場に丁度頃合いのものがあったので、つい!」
「貴様……盗んだのか?何故だ、何故芋を食べだした……?」
今まで多くの訓練兵を見てきたキースもサシャの行動に呆気にとられる。
「冷めてしまっては元も子もないので……今食べるべきだと判断しました」
「いや……分からないな。何故貴様は芋を食べた?」
「……それは何故人は芋を食べるのかと言う話でしょうか?」
キースの質問にサシャは少し考えて話す。
サシャの答えに周囲の空気が固まるのをクリスタは感じた。
「……はっ!……ちっ……半分、どうぞ」
黙ったままのキースに、何を思ったのかサシャは芋を割ってキースに渡す。
渡すときに少し考えたり、半分と言いながら4分の1程だったりと、サシャの食い意地が分かる。
「……半……分……?」
戸惑うキースの前でサシャは満足げな笑みを浮かべた。
その日の夕食の時間。食事の内容はパン1つと野菜が入ったスープだった。
適当に席に着き、同じテーブルのニーナと話をしながら食事を摂る。
たまに、下心丸出しで話しかけてくる男の子達にうんざりしつつも、それを表に出すこと無く笑顔で相手をしていた。
「それにしても巨人ってどんな姿をしてるんだろうね」
クリスタの前で食事を摂っていたニーナが呟く。
「あっちで巨人の話をしてるみたいだよ?」
「そうなの?ちょっと行って来るわ」
クリスタが指差す場所では、シガンシナ区出身だというエレンに、巨人について質問が投げかけられていた。
超大型の巨人、鎧の巨人について聞かれたエレンは見たままを答えていく。
「そう呼ばれているけど、俺には普通の巨人に見えたな」
「じゃ、じゃあ!普通の巨人は?」
鎧の巨人を普通の巨人に見えたと告げたエレンに、今度は普通の巨人について質問がされる。
「っ……!」
先程までの反応と違い、エレンは持っていたスプーンを落とし、口を手で塞いで言葉を失ってしまう。
「皆、もう質問はよそう。思い出したくないこともあるだろう」
「すまん!色々気になって……」
それを見て、察したマルコが話を終わらせる。
その後、食事の時間の終わりを告げる鐘の音が聞こえ、クリスタは戻ってきたニーナと一緒に片付けを始める。
「あれ?それ食べないの?」
「うん。これはあの子の為に取っておいたの。あんなに走らされてご飯抜きは辛いと思うから」
「(……なんて良い子なのっ……!)……ちょっと待ってね……」
食べずに残しておいたパンを抱えるクリスタに少女は何処からか革袋を取ってくると、その中に水を入れて渡す。
「バレないようにね」
「うん!ありがとう!」
片付けで騒がしくなる中、クリスタはお礼を告げると気づかれないようにそっと、食堂を出ていった。
「あいつ……」
それを見ていた1人の少女がクリスタの後を追って行った。
同じ頃、サシャは5時間以上にも及ぶ罰走を終え、疲れと空腹で倒れ込む。
「あ、居た。ねぇ、だい……」
「っ!?」
「きゃあ!」
そんなサシャにクリスタが近寄っていくと、突然サシャが起き上がって物凄い勢いでクリスタ目掛けて飛びかかる。
それに驚いたクリスタは悲鳴を上げて尻もちをついてしまう。
クリスタが顔をあげると、四つん這いになり、まるで獣のような声を上げるサシャ。
「これは……パン!?」
「それだけしか無いけど、取っておいたの」
「!?」
「や……でも、まず先に水を飲まないと!」
「神様ですか!貴方が!」
「え?ちょっ……!」
先程のサシャを見たからか少し引き気味のクリスタ。
そんなクリスタの肩を掴みサシャは崇めるかのように感謝を告げる。
「おい……何やってんだ、お前ら」
「「!?」」
後ろからやって来た少女に声をかけられ、驚く二人。
サシャはパンを没収されると思ったのか勢いよく頬張る。
「えっと……この子は今まで、ずっと走りっぱなしで……」
「違う、芋女じゃねぇ。お前だ。お前……良いことしようとしてるだろ?」
「え……」
「それは芋女の為にやったのか?お前の得た物はその労力に見合ったか?」
少女の質問にクリスタは顔を伏せる。
「労力に見合うとかは分からないけど……これは私がしてあげたいって思ったことだから……例え労力に見合わなくても、これからも私は同じ事をすると思う」
「へぇ……思ってたより芯があるのな……まあ、良い。とにかくこいつをベッドまで運ぶぞ」
少し途切れ度切れに答えるクリスタだったが、その目は力強い意志を宿していた。
それを見た少女は納得したのか、パンを食べ終え気絶したサシャを抱えあげる。
「貴方もいいことをするの?」
「こいつに貸しを作って恩を着せるためだ。こいつの馬鹿さには期待できる」
そんな少女の行動を見たクリスタの問いかけに、少女は恩を着せるためだと返した。
「ねぇ、貴方の名前は?」
そんな少女にクリスタは笑みを浮かべる。
「ユミル。それが私の名前だ」
「私はクリスタ……クリスタ・レンズ。よろしくね、ユミル」