訓練兵団入団から二日目。
「先ずは貴様らの適性を見る!これが出来ないやつは囮にも使えん!開拓地へ移ってもらう!」
キースが声を上げる。
立体機動の素質を見るための試験。
両側の腰にロープを繋いでぶら下がるだけ。
「ミカサ、凄い!私も頑張らないと!」
クリスタはまったくブレの無いミカサを見て両手を握りしめる。
ミカサの横ではコニーや、サシャ、ジャンも殆どブレが無くぶら下がっている。
「おい!何をやってる!?エレン・イェーガー!誰が上体を下にしろと言った?」
キースの怒鳴り声が聞こえ、その方向に視線を向けると、エレンが逆さまになって宙釣りになっていた。
「あはは!あいつへったくそだな!」
「ちょっと、ユミル!笑っちゃ駄目だよ!」
そんなエレンを見てユミルが腹を抱えて笑う。
その後も何度も挑戦するエレンだったが、結局、この日に試験をクリアする事は無かった。
「ハァハァ……ミカサみたいにブレないようにしないといけないのに……もう一回お願い!」
「……何でお前はそこまで頑張る?」
訓練時間の後、クリスタは残って立体機動の訓練をしていた。
クリスタに付き添って残っていたユミルはロープを引き上げながら問う。
「……追いつきたい人が居るから……その人は何時も私を守ってくれて……辛い時は寄り添ってくれて……」
クリスタの足が地面から離れていく。
「でも、その人は自分が苦しいときは……辛い時は隠しちゃうの……私には隠しちゃ駄目って言うのにね。私は、その子が私にしてくれた様に、その子を支えられる様になりたい。苦しんでる時に側に居てあげたい」
徐々にクリスタの体のブレが少なくなっていく。
「でも、その子は私の遥か前を進んでいるから、先ずは隣に立てるようにならなくちゃいけないの!だから、私は頑張るの!」
そう叫ぶクリスタの体は殆どブレが無くなっていた。
夜遅くまで訓練を続けるクリスタを見ていたキースは2年前の事を思い出す。
「トワ・ボルシエラ。貴様は何故、そこまで努力する?」
キースは既に夜が明け始め、薄っすらと明るくなってきた訓練場で、1人で立体機動の訓練をしていたトワに話しかける。
10歳で異例の入団を果たしたトワ。
しかし、入団したばかりのトワはロープを使った立体機動の素質を見るテストで、体勢を保つ事が出来なかった。
キースはそれを見て、適性無しと判断をした。
どれだけ努力した所で彼女は立体機動を使いこなす事は出来ないだろうと。
立体機動を使えなければ巨人とは戦えない。
無理して巨人に食われるよりかは、開拓地で慎ましく暮らす方がいいだろうと考えたキースは、トワを開拓地に送り戻す事に決めた。
「明日……もう一度……お願いします……」
トワに頭を下げてお願いされ、もう一度やらせて現実を見させた方が諦めがつくだろうと、それを了承した。
しかし……
「貴様ら、何をしている?」
次の日。
訓練場にやって来たキースは、人溜まりが出来ている事に不思議に思いながら近づいた。
キースを見て、訓練兵達が道を開けていきキースを通す。
「……貴様……何をした……?」
前に出たキースは、腰に付けたロープで宙に浮き、完璧とは言えないまでも体勢を保っているトワを見て驚愕する。
何せ、つい昨日までは姿勢を保つ事も出来ていなかったのだ。
新しく入団した訓練兵達の中で、最も才能が無いと言っても良かった。
しかし、現に目の前に居るトワはたった1日で訓練兵の誰よりも完璧に姿勢を保っていた。
「何も……ただ、頑張っただけ……です……」
「貴様……昨日はいつ寮へ戻った?」
キースは昨日の訓練の後、トワが同期の訓練兵に宙に上げて固定してもらっているのを見た。
今日は食事を抜いて、就眠時間の前に下ろして貰うのだろうと考えていた。
「……?戻ってない……です……」
さも当たり前の様に半日以上も続けていたと告げるトワに、キースは二の句を継げない。
何故そこまで努力が出来るのか、何がそこまで目の前の少女を駆り立てるのか。
「それで……どうですか……?」
「あ、あぁ……問題無い。修練に励め」
キースは合格を告げられたトワが、喜ぶでもなく安心するでもなく、ただ淡々とその事実をその事実を受けとめた事に言い様もない恐怖を覚える。
まるで、たかが半日休まずに努力した程度の事など、どうでもいいと……そう言っている様で。
それを証明するかの様に、トワの努力は異常とも言える程だった。
食事は1週間に一度は取っている様だが、睡眠は疲労で倒れた時だけ。
それも目が覚めたら直ぐに訓練を始めるため僅か3時間程度の休憩しか取っていない。
「キース教官!トワ・ボルシエラが倒れました!」
「またか……」
立体機動の訓練が始まってからは更に酷くなった。
食事も睡眠も取らなくなり、無茶な動きをするせいで何度も診療所送りになった。
そして、今日もまた目が覚めて直ぐに訓練を始めていた。
偶然通りかかり、トワの姿を見つけたキースが話しかける。
「トワ・ボルシエラ。貴様は何故、そこまで努力する?」
トワはゆっくりと顔を上げ、首を傾げる。
「意味が……分からない……です」
「貴様が行っているのは自殺行為だ!立体機動をそんな速さで扱えば人体が耐えきれん!貴様が一体何度死にかけたと思っている!?」
確かに、訓練兵達が行う訓練も少なからず死の危険がある。
しかし、トワがやっている事は傍から見ていても異常の一言。
血を吐き、体が壊れる程のスピードで立体機動を行うために、一体何度、診療所へ運び込まれたか。
「死なない事が約束された訓練なんて、何の意味があります?」
「なんだと!?」
トワは、表情こそ変わらないものの、何時もの眠たそうな声では無く、はっきりとした声で答える。
「私には立体機動の才能が無い」
それはキースも知っている。
適性試験では、ブレが大きい所では無く、ひっくり返る始末。
今までキースが見てきた中でも絶望的なまでに才能は無かった。
「だからと言って、それは私が弱いままでいい理由なんかにはなら無い。皆が私より何倍、何十倍の才能があるなら、私は皆より何百倍、何千倍、頑張ればいい」
だから、睡眠の時間も食事の時間も勿体無いし、皆と同じ死ぬ可能性が少しある程度の訓練は必要無い。
才能が足りないなら文字通り死ぬ気で頑張るだけ。
「後悔なんて一度でいい。私は、私の望む未来を掴むために強くならなくちゃいけない。その為には死ぬ程度の訓練でも生温い」
その後、トワは上層部へ直談判し、その実力を認められ異例の2年で訓練兵団を卒業することになる。
「エレン・イェーガー。覚悟はいいか?」
「はい!」
「始めろ!」
他の訓練兵が見守る中、エレンの二度目の試験が始まった。
ワグナーにより、ロープが巻き上げられエレンの体が徐々に地面から離れていく。
「おお!!」
歓声が上がる。
昨日までは全くと行ってバランスを取れなかったエレン。
今日は体が揺れさえすれ見事にバランスを取っていた。
「あぁ!!」
「降ろせ」
しかし次の瞬間、エレンの体がブレ、反転してしまう。
誰もがエレンの不合格を確信していた。
しかし……
「ワグナー。イェーガーとベルトの交換をしろ」
「は、はい!」
キースはエレンを降ろしたあと、エレンの後ろに居たワグナーにエレンとベルトを交換するように命令する。
ワグナーはその指示通りに腰からベルトを外すとエレンに手渡す。
「もう一度やってみろ」
言われるままにワグナーから受け取ったベルドを腰につけたエレンに、キースは命じる。
「今度こそ!」
皆が見守る中、再びエレンの足が地面から離れていく。
すると、今度はバランスを保てたまま宙に浮かぶことが出来ていた。
「装備の欠陥だ」
何が何だが分かっていないエレンに、キースはエレンが着けていたベルトを見せる。
「貴様が使用していたベルトの金具が破損していた。ここが破損するなど聞いたことないが……新たに整備項目に加える必要があるな」
つまり、エレンは壊れた装備で一時的とは言えバランスも保つことが出来ていた。
それを理解した訓練兵達はエレンに称賛の声をかける。
「で、では!適正判断は?」
「問題無い。修練に励め!」
それを聞いたエレンは両手を空に突き出し喜びを顕にする。
「何とかなったようだな」
「目で『どうだ』って言ってるよ」
「違う」
アルミンの言葉をミカサが否定する。
アルミン達は首を傾げてミカサを見る。
「これで私と離れずにすんだと思って……安心してる」
そんなミカサの発言にアルミン達は苦笑いを浮かべた。
「あいつどんだけエレンが好きなんだか……」
「でも、離れたくないっていうミカサの気持ちも分かるかな」
アルミン立ちから少し離れた場所で聞いていたユミルも苦笑いを浮かべる。
クリスタも同じく苦笑いを浮かべていたが、ミカサの気持ちも分かるとユミルに話し、ユミルに苦い顔を浮かべさせた。
そしてそれから3年後。
クリスタ達第104期生は訓練兵を卒業することになった。
「心臓を捧げよ」
「はっ!!」
「本日を持って訓練兵を卒業する諸君らには3つの選択肢がある」
男が話す3つの選択肢。
1つは壁の強化に努め、各街を守る駐屯兵団。
1つは犠牲を覚悟して壁外の巨人領域に挑む調査兵団。
そして、誰もがそれを目指してきた、王の元で民を統制、秩序を守る憲兵団。
「むろん、憲兵団を希望できるのは先程発表した成績上位10名だけだ!」
首席 ミカサ・アッカーマン
2番 ライナー・ブラウン
3番 ベルトルト・フーバー
4番 アニ・レオンハート
5番 エレン・イェーガー
6番 ジャン・キルシュタイン
7番 マルコ・ボット
8番 コニー・スプリンガー
9番 サシャ・ブラウス
10番 クリスタ・レンズ
「後日、希望する兵科を問う。本日はこれにて『第104期生訓練兵団』解散式を終える!以上!!」
「はっ!!」
「はっ!(やっとここまで来た!)」
「それで?クリスタは何処に行くんだ?やっぱ、憲兵団か?」
解散式が終わった後、クリスタ達は食堂に集まった。
卒業祝いと言う事で、肉は無いがかなり豪勢な食事になっている。
「ううん。私は調査兵団に行く」
「はぁ!?正気か?」
「うん」
「まさか、例の隣に立ちたいってやつの事か?私がそいつの立場だったら安全な所に居て欲しいって思うがな」
調査兵団に入ると話すクリスタに、何とか思い直す様に告げるユミル。
「それでも、私が一緒に居たいの。守られるだけなのは嫌」
「はぁ……分かった、分かった」
決意の固いクリスタに、ユミルは手を振りながらため息をつく。
「ねぇねぇ、何の話をしてるの?」
「ミーナ」
「おい、私のクリスタに近づきすぎだ!」
二人の元に同期であるミーナがやって来てクリスタの横に座る。
ユミルはクリスタとの距離が近いことに怒り、ミーナを無理やり引き剥がす。
「いたた……もう、分かったわよ。それで何の話しをしてたの?」
「こいつの想い人の話しさ」
「え!?クリスタ、好きな人が居たの!?」
「ちょっ、ちょっと!声が大きいよ!」
驚いたミーナはつい大きな声をあげてしまう。
慌ててクリスタが口を抑えるも、既に聞こえてしまったのか、少年訓練兵の多くが肩を落とす。
「それで!それで!?その人は誰なの!?」
「う、うん。トワ・ボルシエラ……その人が私の大切な人」
トワ・ボルシエラ。
何故か10歳で訓練兵団への入団が認められ、2年で特例として卒業を許可された人物。
更には卒業後、調査兵団に入団し、その能力を買われ僅か1年で分隊長の座についたと言う経歴を持つ。
幾つかの二つ名を持つ彼女だが、その中でも彼女の特徴も表し、最も有名なのが……
「『天啓の銀聖女』トワ・ボルシエラ」
「なるほどね。好きっていうのは親愛の方なのね。びっくりした」
クリスタの好きな人が女性だった事に友達として好きと言う事なのかと、肩を落としていた男達の顔に光が戻る。
「違うよ」
「え?」
「友達として好きなんじゃなくて、私はトワに恋をしてるの」
ミーナの言葉をクリスタが力強く否定する。
「トワはね、とても可愛いくて……口はちょっと悪いんだけど優しくて……自分のよりも他人を優先しちゃう人で……」
「うんうん……」
「死んだな……周りが……」
顔を赤らめながら話すクリスタをミーナが微笑ましそうに眺め、ユミルは周囲で倒れている男達を見て同情する。
「……それでね……それで……」
「クリスタ?」
「……一緒に居ると……とても、温かいの……」
「……ねぇ、ユミル」
「……何だ?」
「可愛すぎる……」
「分かる……」
その日、ユミルとミーナによって、クリスタ愛好会が設立されたのは言うまでも無い。
訓練はカット。
一応、ユミルが成績を操作していますが、原作と違ってかなり強くなっているクリスタ。
ユミルの次位には強いです。
11位くらい?
※ミーナがニーナになっていました。
誤字報告ありがとうございました。