トロスト区の門が超大型巨人に破壊される数時間前。
トワ達、調査兵団はトロスト区から離れた南にある市街地で巨人達との戦いを繰り広げていた。
「……っ!これは……」
「どうかしましたか?トワ分隊長」
そんな中、退屈そうに巨人を討伐していたトワが急に動きを止める。
トワ率いる第七分隊特殊部隊に所属し、副隊長を務める黒髪の少女が、その様子を不思議に思い尋ねた。
「エムブラ……エルヴィンは何処?」
「エルヴィン団長なら、ここから少し先に行った所に居ますが……何かありましたか?」
何時もは眠たそうなトワが、真剣な表情を浮かべているのを見て、エムブラと呼ばれた黒髪の少女は気を引き締める。
「……エルヴィンに伝えて。嫌な予感がする。トロスト区の壁が破られる可能性がある」
「トロスト区が!?分かりました!直ぐに伝えます!」
トワから告げられた言葉に、エムブラは驚く。
「私は先に帰るから、この隊は任せる。ソフィ、急いで」
「え!?トワ分隊長!?」
急いで馬を走らせようとしたエムブラは次に聞こえてきたトワの言葉に驚いて振り返る。
しかし、その時には既にトワはソフィに乗って走り出していた。
「はぁ……まぁ、あの人なら大丈夫か」
1人駆けていくトワの背中を見ながら、エムブラは溜息をつくも、直ぐに気持ちを切り替え、エルヴィンの元に向かった。
トワがトロスト区まで戻ってくると、既に門には大きな穴が空いており、多くの巨人が壁内に侵入していた。
「これは……」
立体機動で壁の上に登ったトワは悲惨な光景を目にする。
あちこちから悲鳴が聞こえ、門の駐屯兵団の兵士だと思われる死体が幾つも転がっている。
壁上から飛び降り、立体機動に移ったトワは、ある人物を探しつつ巨人を討伐しながら真っ直ぐに本部へ向かって進んでいく。
5体目の巨人を討伐した時、トワの耳に少年の叫び声が聞こえた。
「うわぁぁぁぁ!!止めて!止めてください!!」
「っ……!」
急いでその場所へ向かうと、丁度中型の巨人が訓練兵と思われる少年を握りつぶしていた。
更にその近くでは小型の巨人が同じく訓練兵と思われる少女を両手で握りしめ口へ運んでいる。
「死ね」
少年はもう助からないと判断したトワは直ぐに小型の巨人へと目標を定める。
中型を避けながら小型へと迫り、少女の頭が噛みちぎられる前にうなじを削ぎ落とす。
「無事?」
地面に落ちる寸前で少女を掴み、立体機動で屋根の上に登って少女を下ろす。
外傷も殆ど無く呼吸もしている為、生きているのは分かるが、声をかけても反応が無い。
「気絶してる……それにしても何でこんな前線に訓練兵が?駐屯兵団は何をして……」
そこまで言ったところでトワは気づく。
ここに来るまでに未だに生きている駐屯兵団の兵士を見かけていない事に。
「ん……」
「起きた?」
「……え……トワ、分隊長……?」
トワが顔を顰めていると、気絶していた少女が意識を取り戻す。
目を覚ました少女は、トワの姿を見て安心したのか涙を溢す。
「泣いてる暇があるなら、下がって他の隊と合流して」
「隊……あ、ま、待ってください!まだ仲間が居るんです!」
少女は気絶する前に3人の仲間が死んだのは目にしている。
しかし、残りの2人の死は見ていない。
だから、まだ生きている可能性がある。
少女は立ち去ろうとしたトワを引き止め、仲間を助けて欲しいと告げる。
「場所は……」
「エレン!早く!!」
「……っ!?」
トワが、少女から仲間の居場所を聞こうと声をかけた時、離れた所から少年の叫ぶ声が聞こえる。
急いで向かったトワだったが、その場に着いた時には、既に巨人の口が閉じられ、噛みちぎられた腕が地面に向けて落ちていく。
トワは巨人の前で、現実を受け止められずに呆けてしまっている少年を抱えて移動する。
討伐しても良かったのだが、周囲から巨人が集まって来ており、2人に怪我をさせてしまう可能性があった。
「名前は?」
「わ、私はミーナです!この子はアルミンです!」
「そう、ミーナね。アルミンを連れて下がって」
「は、はい!」
ミーナは呆然としたままのアルミンを抱えて後方へ下がっていく。
「次は……あそこか」
トワは2人が離れていくのを確認すると、周囲を見渡し、訓練兵が巨人に襲われるであろう場所へと向かった。
「リヴァイ」
トワが1人トロスト区へと向かっている時、巨人を討伐したリヴァイの元に、馬に乗ったエルヴィンが駆け寄ってくる。
「何だ?」
「撤退だ」
「撤退?まだ、限界まで進んでねぇぞ……仲間は犬死にか!」
リヴァイはこの作戦の為に死んだいった仲間達の犠牲を無駄にするのかと、撤退に反対する。
「トワの勘だ……トロスト区が破られるらしい」
「ちっ……!あいつの勘はくそみてぇに当たりやがるからな。あいつがそう言うならそうなんだろうよ」
まるで予知の様な異常なまでの勘の良さ。
調査兵団の死亡率が大幅に下がったのも、エルヴィンの考えた新戦術だけで無く、トワの勘も大きく関わっている。
何度も仲間を救ってきたトワの勘は一部の兵士からは神のお告げとも言われている。
故に……『天啓』
だからこそ、リヴァイもトワの勘は信じている。
「撤退の準備が完了次第、トロスト区へ帰還する。リヴァイも補給をしておいてくれ」
「……了解だ」
それから1時間後。
全ての撤退準備を終えた事を確認したエルヴィンは陣形の先頭で兵士たちに号令をかける。
「総員、早急にトロスト区へ帰還せよ!群がる巨人を排除しつつ、外門を目指す!」
そして、帰還する途中、巨人が自分達の事を無視して北上して行くのを見て、エルヴィンはトワの勘が当たった……つまり、トロスト区の壁が破壊された事を確信した。
「ミーナ!アルミン!」
「クリスタ……」
「え!?どうしたの!?」
トワと別れた後、呆然としたままのアルミンを抱えて移動していたミーナは、クリスタ達の姿を見つけて安堵のあまり泣き出してしまう。
突然の涙に、クリスタは慌ててミーナを抱きしめ背中を擦る。
「なぁ……エレン達は……どこに居るんだ……?」
アルミンとミーナの2人しか居ないことに気づいたコニーが恐る恐ると言った様子で聞く。
「ここに居ないって事は巨人にでも食われたんだろうよ」
「なっ!?まだ、分かんねぇだろうが!なぁ、ミーナ!」
「っ……」
「嘘だろ……あいつらが……」
コニーは一握りの可能性に賭けてミーナを見るも、ミーナの表情からエレン達が死んだことを悟る。
「それよりも……」
ユミルはアルミンに近づいて行き、その胸ぐらを掴み上げて殴り飛ばす。
「っ……!」
「ユミル!?」
「何してんだ!?」
突然のユミルの行動にクリスタとコニーは驚きながらもユミルを止める。
「お前は一体何してんだ?人1人を抱えて移動するのがどれだけ危険なことか、知らねぇ訳じゃ無いだろ!仲間の死を受け入れられねぇ気持は分かるけどな……生きる気がねぇなら1人で死ねよ!」
「……ごめん……」
「謝る相手は私じゃ無いだろ」
「ごめん、ミーナ」
「ううん、気にしないで……私は気絶してて皆が食べられる所を見てなかったから何とか動けてるだけで、見てたら私も動けなかったと思うから」
ユミルの言葉にアルミンもやっと正気を取り戻したのか、ミーナに向けて謝罪をする。
アルミンに返したミーナの言葉に、ユミルはふと疑問に思う。
「ん?気絶してたのか?よく生き残れたな」
「運が良かったんだと思うよ。トワ分隊長が居なかったら私はここに居ないと思う」
「トワ分隊長?」
「うん。私とアルミンは巨人に殺されそうだった所をトワ分隊長に助けられたの」
「トワが居るの!?」
「まじか!じゃあ、調査兵団が帰ってきてるのか!?」
トワが居ると言うことを聞いて歓喜するクリスタ達。
「いや……それはねぇな」
コニーの言葉をユミルが否定する。
「は?現にミーナがトワ分隊長見たって言ってるだろうが」
「別にトワ分隊長居るってことは疑ってねぇが、多分調査兵団は帰ってきて無い。帰ってきてたら私達に撤退の合図が出るはずだ」
巨人殺しの達人である調査兵団が帰ってきているなら、わざわざ実戦経験も無く、足手まといになるだけの訓練兵を戦い続けさせる必要は無い。
さっさと撤退させた方が調査兵団にとっても良いだろう。
しかし、未だに撤退の合図が出るどころか、門から入ってくる巨人の数は増える一方。
「状況を見るに、トワ分隊長は1人で先に帰ってきたみたいだな」
「で、でもよ!トワ分隊長が居るならこの状況も何とかなるよな!?」
「さぁな……」
「さぁなって何だよ!」
曖昧な返答を返すユミルにコニーは苛立ちを隠しきれない。
「気づかないのか?かなり前から補給班の奴らを見てねぇ。何があったかは知らねぇが、補給出来ずにガスが切れちまえばいくらトワ分隊長と言えど、巨人に太刀打ち出来ないだろ」
ユミルは防衛戦が始まった直後は居た補給班が、今は何処にも居ないことに気づいていた。
ユミルに指摘され、クリスタやコニー達もその事実に気づく。
「全滅したのか、それとも逃げたのか……どっちにしろ状況は最悪だ……トワ分隊長がそれに気づかないまま補給を当てにしてたら……」
「そんな……」
「っと……悪いな、ちょっと悲観的になっちまった。まぁ、仮にも『天啓』なんて言われてるんだ。気づいて無い訳は無いな!」
「あ、あぁ!そうだな!」
雰囲気が重くなるのに気づいたユミルは、わざと明るく振る舞う。
「皆、前進の指示だ」
「……っ!……あ、あぁ……」
「クリスタ、行くぞ」
「う、うん……」
そんな中、クリスタ達の班に前進の指示が出る。
「ごめん、迷惑をかけた。僕とミーナは一度後衛と合流する」
「クリスタ……死なないで」
「……ミーナも……また後でね」
アルミンにとミーナの2人と別れたクリスタ達は、指示に従って前へと進んでいく。
「何だ……これ……」
そこでコニー達が見たのは、巨人によって次々と食べられていく同期の姿。
「うわぁぁぁ!!いやだぁぁぁ!!だれかぁぁぁぁ!!」
「っ!助けないと!」
「待て、クリスタ!間に合わねぇ!」
「っ!」
同期が食べられそうになっているのを見て、クリスタが助けに向かおうとするのをユミルが止める。
巨人に上半身を噛み千切られ、血が撒き散らかされる光景にクリスタは思わず口を塞ぐ。
「こんなの……どうすりゃいいんだよ……」
クリスタ、ユミルの2人が立つ家から道を挟んだ反対の家の屋根に立ったコニーは、周囲の光景に呆然と立ち尽くす。
「馬鹿!ぼうっとしてんじゃねぇ!」
いつの間にか屋根の上に登ってきていた10メートル級の巨人が、コニーに向けて飛びかかる。
間一髪の所でユミルがコニーを抱えて避けるも、勢いの余り屋根の上から転がり落ちていく。
「無事か!?」
「す、すまねぇ!助かっ……!?」
「ユミル!コニー!後ろ!」
クリスタの声にユミルが振り向くと、2体の巨人がユミルとコニーの2人を見下ろしていた。
巨人が2人に手を伸ばすのを見て、クリスタが討伐しようと巨人にアンカーを刺して飛び出す。
「駄目だ!クリスタ!」
「……え?」
ユミルが焦ったように叫ぶ。
飛び出したクリスタに向かって、下から巨人が飛びかかる。
「っ……!」
「クリスタァァァァ!!」
咄嗟にユミルは手に持つブレードで手を切ろうとする。
「やめて」
「っ!?」
手を切る寸前で聞こえた声に、ユミルは勢いよく顔をあげる。
すると、クリスタを食べようと飛びかかっていた巨人は、そのうなじを削がれ重力に従って落ちていく。
更に自身を覆っていた影も無くなっていた。
「あれは……自由の翼……」
側に居るコニーが呟く。
2人の視線の先には、自由の翼を意味するマントを羽織り、銀色の髪をたなびかせ、クリスタを横抱きに抱えるトワの姿があった。
トワのお陰で原作より調査兵団が撤退し始めるのが早い。
なので、原作でリヴァイが巨人を絶滅させると誓った兵士は生存中。(特に登場することは無い)