進撃の巨人〜ただ1人の為の力〜   作:ねみネム生活

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5話 隠される代償

 

「え?トワは1人で帰ったのかい!?」

 

 トロスト区へ帰還する中、ハンジはエルヴィンから話を聞いて驚きの声をあげる。

 

「あぁ、トワがトロスト区へ向かって既に1時間以上が経っている。そろそろ着く頃だろう」

「トワが万全な状態ならともかく、かなり力を使ってる筈だよ?いくらなんでも無茶じゃないかい?」

 

 元々、トワが1人帰還する前に、調査兵団が巨人と戦っていた市街地は、シガンシナ区までの補給拠点にする目的の他に、力を使って疲労しているトワを休ませる場所を作る目的もあった。

 

 しかし、その作戦の途中でトワがトロスト区の異変を予知し帰還したことで、ただ巨人を討伐して余計に疲弊するだけになってしまっていた。

 

「私が指示したわけでは無いのだが……」

 

 とは言え、別にエルヴィンがトワに帰還の指示をしたわけでは無い。

 

 と言うよりも、エルヴィンもハンジと同じ意見なのだ。

 しかし、エルヴィンがエムブラから話を聞いた時には、既にトワが帰って行った後なのだからどうしようも無い。

 

「だが、1人でもリヴァイやトワ並の戦力が居れば戦局は大きく変わる。被害を可能な限り少なくする事に限れば、トワの取った行動は正しいと言える」

「でも、それでトワが死んだら──」 

「黙れ、クソ眼鏡」

「……っ!リヴァイ……」

 

 その時、2人の会話を後ろで聞いていたリヴァイが苛ついた声で、ハンジの言葉を遮る。

 

「1人でもやる選択をしたのはあいつだ。その結果、あいつが死ぬとしても、それを俺達に止める権利はねぇ」

「それは、そうだけどさ……」

「それに……」

 

 そこでリヴァイは一度言葉を切って、ハンジに顔を向ける。

 

「例え、万全な状態で無かったとして……お前はあいつが死ぬ所を想像できるか?……少なくとも俺は出来ねぇな」

「……!!……くくっ……あははっ……!」

「……おい……何がおかしい?」

 

 リヴァイの言葉にハンジは声をあげて笑い出す。

 

「い、いや……何だかんだ言いつつ、トワの事を1番認めてるのは君なんだなぁって」

「……別にあいつの事を信用してるわけじゃねぇ……あいつの力を信用してるだけだ」

「素直じゃないねぇ……でも、まぁ、確かにトワが死ぬのは考えられないね」

 

 意見が一致する2人。

 先程で1人で帰ったトワを心配していたハンジも、今ではトワが死ぬわけが無いと安心した表情を浮べている。 

 

「だが、1つ問題がある」

「……代償だな」

「そうだ。使いすぎると気を失うと言った程度だが、巨人との戦いの場において、それは命取りになる。トワもそれは分かってると思うが……」

「トワの性格上、確実に倒れるまで使うだろうね……」

 

 エルヴィンの話に、リヴァイとハンジも一転して真剣な表情に変わる。 

 

「トワを失うのは避けたい」

「……なら、どうする?」

「……リヴァイ。何人か兵士を率いて先に帰還しろ」

 

 エルヴィンはリヴァイに何人かの精兵を連れて最短距離でトロスト区へと帰還する様に告げる。

 それはつまり、トロスト区へと向かう巨人達の中を駆け抜けろと言う事。

 リヴァイが居るとは言え、犠牲が出る可能性は少なからずある。

 

 それでもエルヴィンは、その犠牲とトワを天秤にかけて、調査兵団にとって、ひいては人類にとってトワを生かす方が有益だと判断した。

 

「……了解だ」

 

 リヴァイは了承の意を告げると、連れて行く兵士を選ぶために後方へと下がって行った。

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫?」

「は、はい……」

「なら下がる」

 

 ミーナとアルミンの2人と別れた後、トワは巨人に捕まりそうになっていた少年を救出していた。

 恐怖で座り込む少年を立ち上がらせて後方に下がらせる。

 

 トロスト区に帰還してから体感で凡そ1時間近く。

 時々、地面や屋根の上に転がっている兵士からガスとブレードを補給しながら街を飛び回っていた。

 

「リヴァイ達が帰ってくるまで早くて2時間ってとこか」

 

 1人で帰ってきたトワと違い、多くの人数で帰還する調査兵団は、その進行も遅くなる。

 更に言えば、巨人の間を突っ切って来たトワに比べて、巨人を避けるために迂回する調査兵団の帰りが遅くなるのは必然だろう。

 

「……っ……!」

 

 今までの様に、側に転がっている兵士からガスを交換して立ち上がろうとした時、突然トワは頭を抑えて膝をつく。

  

「はぁはぁ……せめて……本部を取り返すまで……は……」

 

 トワは痛む頭を抑えながら多くの巨人が群がる本部を見る。

 

 ユミルはトワが補給班の現状に気づくのか危惧していたが、トワは補給班の姿が見えないことや、本部に群がる巨人を見て、既に事態を把握していた。

 今は、本部を奪還するために、道中で巨人に襲われる訓練兵達を助けつつ、向かっている所だった。

 

「……っ!?」

 

 突如、襲う強烈な嫌な予感に、トワは跳ねる様に立ち上がる。

 ガスの消費も気にすること無く移動していくその速度は、今までよりも数段速いものだった。

 

 

 

 

 

 

 

「どこ……っ!?」

 

 焦った様子で、何かを探すように辺りを見渡しながら移動していたトワは、建物の崩れる音に視線を向ける。

 

「居た」 

 

 トワの視線の先には、巨人に襲われている3人の訓練兵。

 トワはその3人の中にクリスタの姿を見て、無理やり体の向きを変えて迫る。

 何か折れる様な音がしたが、今は気にしている暇は無い。

 

 先ずは手前の2体へと向かう。

 

「クリスタァァァァァァ!!」

 

 2体の巨人のうなじを削ぎ、勢いのまま一度地面に下りたトワ。

 

 それと同時に、屋根の下に居た小型の巨人が、2人の訓練兵を助けようと飛び出したクリスタへ襲いかかり、クリスタの名前を叫ぶ声が響く。

 

「大丈夫、間に合う……っ!?」

 

 直ぐにクリスタを助けようと動いたトワは、先程、クリスタの名前を叫んだ少女が手に持つブレードで自身の手を切り裂こうとしているのを見つける。

 

「やめて」

 

 トワは嫌な予感を覚え、少女の頭上を通り過ぎると同時に制止の声をかける。

 驚いたのか、少女は手を止め、トワの嫌な予感も消える。

 

「死ね」

 

 トワはクリスタを襲う巨人を討伐して、恐怖のせいか目を瞑っていたクリスタを、横抱き……所謂、お姫様抱っこの様な形で受け止める。

 

「無事?」

 

 屋根の上に下りたトワは、目を瞑るクリスタの顔を少しの間だけ愛おしそうに眺め、名残惜しそうに声をかけた。

 

「……トワ……?」

 

 ふわりと何か温かいものが体を包み込む感覚に、クリスタは瞑っていた目を開く。

 

「ん……大丈夫そうで……良かっ……た……」

「トワ……?どうし……」

 

 それと同時にトワの体から力が抜け、地に向けて倒れていく。

 

「トワ!?しっかりして!ねぇ!」 

 

 クリスタが咄嗟にトワの体を支える。

 完全に力の抜けたトワに、クリスタは慌てふためく。

 

「クリスタ!無事でよか……トワ分隊長!?」

「何があったんだ!?」

 

 ユミルとコニーの2人が立体機動で屋根を登り、クリスタの元へと駆け寄ってくる。

 クリスタの無事に安心した2人だが、倒れているトワの姿を見て驚く。

 

「分かんないの!突然倒れて……!ユミル!どうしよう!?トワが居なくなったら、私……私は……!」

「落ち着け、クリスタ!助けられるものも助けられなくなる!」

「っ……!ごめん……」

 

 ユミルは焦るクリスタを叱咤し、落ち着かせる。

 

「……大丈夫だ!息はしてる!気絶してるだけだ!」

「っ!良かった……!」

 

 ユミルがトワの呼吸を確認する。

 一先ず生きていることが分かると、クリスタは腰が抜けたように座り込んだ。

 

「だが、どうする?トワ分隊長を抱えては壁を登れねぇ」

 

 ユミルは自分達のガス残量を確認して、苦い表情になる。

 今のユミル達には人1人を抱えて登れるだけのガスは残っていない。 

 

「……トワは置いていけない。だから2人は──」

「まさかとは思うが……先に壁を登れとは言わないよな?」

「──っ!?」

 

 図星だったのか、ユミルの言葉にクリスタは固まる。

 

「まさか、私がクリスタを置いて逃げる薄情者だと思われてたとはな……」

「2人に迷惑はかけられないから……」

「なぁ……クリスタ。私は……私達は仲間じゃねぇのか?」

 

 ユミルはクリスタの肩を掴む。

 その顔には何処か悲しそうな表情を浮べている。

 

「仲間だよ!仲間に決まってるでしょ!」

「じゃあ!頼れよ!」

「そうだぜ、クリスタ!俺達は仲間なんだろ?迷惑をかけるからなんて言ってないでさ、仲間なら頼ってくれよ」

「っ……!……ユミル……コニー……私はトワを失いたくない

 

 2人の言葉にクリスタは顔を伏せる。

 震えて、掠れたような小さな声だったが、2人にはしっかりと聞こえた。

 

「……助けて……」

「初めからそう言や良いんだよ」

「おう、任せろ!」

 

 クリスタの願いに、ユミルとコニーは笑顔で受け入れる。

 

「よし!じゃあ、クリスタはトワ分隊長を……コニーと私は道を切り開く」

「クリスタが抱えるのか?俺かお前が抱えるべきじゃ?」

「大丈夫だよ。トワ……びっくりする程軽いから」

「それに、万が一の時に、私とコニーが自由に動ける方がいい」

「……成程な!」

 

 コニーはユミルの考えに納得する。

 

 確かにクリスタがトワを背負えるなら、クリスタより身体能力の高いコニーとユミルが自由に動ける方が、巨人に襲われた場合に対処しやすい。

 

「ん?あれは、ジャンか!?」

 

 コニーは視線の先にジャン達訓練兵が本部に向かって飛んでいくのを見つける。

 

「どうやら、本部に突っ込むみたいだな。私達もあれに続くぞ」

 

 

 

 

 

 

 リヴァイは選んだ兵士達と共にトロスト区へと向かっていた。

 

 そのメンバーは、トワ班の5人の内4人に加え、リヴァイが直に選んだ兵士である──

 ペトラ・ラル

 オルオ・ボザド

 エルド・ジン

 グンタ・シュルツ

の計8人。

 そこにリヴァイを入れて9人で行動していた。

 

 ここに居る9人が、調査兵団の中でも精鋭中の精鋭であるため、何とか死傷者は出ていないが、それでも巨人の中を突っ切って来た為、リヴァイ以外の8人は疲労の表情を隠せないでいた。

 

「死ぬ……」

「これをトワは1人でやったのよね……」

「おい、分隊長をつけろ。上司だぞ?」

「別に私達とトワの仲だから、いいんです~!」

 

 年下とは言え、上司である分隊長を呼び捨てにするペトラにエルドが苦言を呈する。

 この中でも、ペトラとオルオはトワと同じ時に調査兵団に入団した事もあり、トワの事を呼び捨てで呼ぶ仲でもあった。

 

「てめぇら……もうすぐトロスト区が見えてくる。気を引き締めろ」

「す、すいません!」

 

 リヴァイに叱られたペトラ達は、直ぐに気を引き締め、戦闘に備える。  

 

「エムブラ……あいつの力の代償を知ってるな?」

「え?は、はい……確か、使いすぎると気絶するでしたかと……」

 

 副隊長としてトワ班を纏めていたエムブラは、ペトラ達を叱り後ろへ下がってきたリヴァイに問いかけらる。

 

 エムブラは調査兵団に入ってまだ2年。

 人類最強であり、兵士長であるリヴァイは緊張する相手であり、エムブラは少し萎縮しながら答える。

  

「……恐らくだが、あいつは何か隠してやがる。あんな未来予知みてぇな人知を超えた力……代償がその程度な筈がねぇ……って言うのが、エルヴィンとハンジの考えだ」

「それはどんな……?」

「さぁな……あいつが話さねぇ以上、俺達に知る術はねぇ」

「兵長!前方から巨人3体が迫ってきます!」

 

 前を走るペトラが巨人の接近を叫ぶ。

 

「だから、お前はあいつをしっかり見ていろ」

「は、はい!」

 

 リヴァイはそう言うと、ブレードを抜き、前方から迫る巨人に向けてアンカーを射出した。 

 

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