時間的にはトワが分隊長に任命されて間もない頃なので、クリスタ達が訓練兵として2年目の時期ですね。
それはトワがまだ分隊長に任命されて間もない頃。
「トワ~!居るかい?」
「……ハンジさん……?」
トワが1人、立体機動を使った訓練をしていると、突然、自身を呼ぶハンジの声が聞こえる。
トワは何かあったのかと、訓練を切り上げハンジの元へと向かう。
「……ハンジさん……何かあった……?」
「ハンジでいいって!それより、これを見てくれ!」
そう言って、ハンジは抱えていた物をトワに見せる。
「……笹……?」
「そう!昨日、取ってきたんだ!立派だろ?」
「はぁ……それで……?」
確かに大きくて立派な笹だが、トワとしてはそれがどうしたのかと疑問に思う。
「今日がなんの日か忘れたのかい?年に一度の七夕の日だよ!だから、今日は皆でこの短冊に願い事を書こうって話になったんだけど……」
「お疲れ様……」
「って、何処行くんだい!?」
「……嫌な予感がするから……私はいい……」
ふと、嫌な予感を覚えたトワは、話の途中でハンジに背を向けて立ち去ろうとする。
それに気づいたハンジが慌ててトワを止める。
「ふふふ……流石に勘がいいね。実は、願い事を書くにあたってちょっとした宴会をしようって話にもなってて……あぁ、って言ってもそんなに豪華なものじゃないんだけど……そこで、流石に華が無いんじゃないかって話になってね」
「まさか……」
「そのまさかだよ!私達で着物を着ようって事になったんだ!」
「私達って……」
「調査兵団幹部……つまりは分隊長以上のメンバーだね!」
ハンジの言葉に、トワはとても嫌そうな表情を浮かべる。
「……リヴァイも……やるの?」
「リヴァイは呼び捨てで呼ぶ事は置いといて……もちろんだとも!」
「そんな性格じゃ無いと思うけど……」
「エルヴィンが命令したら渋々だったけど、了承してくれたよ」
「くっ……」
リヴァイがやらないなら、自分もやらなくて済む理由が出来ると考えたが、当てが外れる。
「……そもそも……着物はどうやって用意するの?」
分隊長以上のメンバーとなると、調査兵団には9人存在する。
その全員に着物を用意する余裕は財源的に無いはず。
「それは大丈夫!エレノアちゃんが宣伝の為に町中を歩く事を条件に無償で貸してくれたよ」
エレノア・コレクト。
一年前、トワが調査兵団に入って直ぐに立ち上げた『シエラ商会』の副会長を務め、余り顔を出さないトワを除けば実質的に1番上の役職に就く人物である。
スラム街出身であり、行き倒れていた所をトワに救われ、その活発的なアイデアを出す才能を買われ、トワの元で働く事となった。
「……聞いてない……何かしてるとは思ったけど……商会は全て任せてるし……嫌な予感もしなかったけど……」
まさか自身の商会が関わっている上に、自分には何も聞かされていなかった事に少し落ち込むトワ。
「そうだ……これ、エレノアちゃんから預かってたんだ」
「手紙……?」
ふとハンジが思い出しかの様に懐から1枚の手紙を取り出す。
トワはそれを受け取ると封を開け、中を確かめる。
『会長へ。恐らくとても嫌な表情を浮かべていらっしゃるとは思いますが、これもシエラ商会を大きくするために必要な事です。諦めて着てください』
「はぁ……分かった……着る……着ればいいんでしょ」
トワは手紙を見て、諦めた様子で呟く。
「てっきり、もう少し抵抗すると思ったんだけど」
「……ん」
トワが了承したのが意外だったのか、驚いた様子のハンジ。
そんなハンジにトワは手紙を渡す。
「……なるほどね~!いや~、愛されてるねぇ~!」
ハンジはトワから受け取った手紙、その後ろの方に書かれた言葉を見て納得した。
『……本音を言えば、宣伝とかは別にどうでもいいんです。出来れば、会長にも普通の女の子としての時間を過ごして欲しいと……烏滸がましくもそう思っています。勝手な事をした処罰はきちんと受けるつもりです。どうか、全てを忘れて今日と言う日を楽しんでいただきたいと……そう心から願っています』
「ハンジ、早く……行く……宣伝するなら今から行くべき……」
「おや?宣伝はしなくてもいいらしいけど?」
「どうせ着るなら……宣伝もした方がいい」
「じゃあ、これから食材の買い出しもしなくちゃいけなかったし、時間はかかっちゃうけど、どうせなら皆で着物着て行くことにしよう!」
「くっ……仕方無い……」
「……疲れた……」
「いや~、凄い盛り上がった!特にトワとリヴァイなんて凄い人気だったね」
宴会も終わった後、トワとハンジ達は着物から何時もの服装に着替えて、地面に突き立てられた笹の前に居た。
ハンジの言うとおり、着物を着て町中を歩くトワ達は、民衆の目を惹いた。
特に、トワとリヴァイはお互い異性の目をかなり惹くことになり、精神的にかなり疲れていた。
それでも、トワは着物を来たことに不思議と後悔は無かった。
「そう言えば、トワは何を書いたんだい?」
トワが短冊を笹に括りつけていると、トワの願いを気になったのかハンジが問いかける。
「……別に普通のこと……」
「『ヒストリアが幸せになれますように』……ヒストリアって子がトワの大切な人なのかい?」
「……そう」
「ほぉ……トワはこう言った話は余り興味無いのかと思ってたけど……いやぁ~、若いっていいねぇ~」
「そう言うハンジは何を書いたの?」
ニヤニヤするハンジに、トワは話題を変えようと、ハンジの願いについて聞いた。
「私かい?私は『巨人をたくさん捕まえれますように』って書いたさ!」
「……ハンジらしい……」
時を同じくして、クリスタは自室で短冊に願い事を書いていた。
「お、クリスタ。願い事を書いてるのか?」
丁度書き終わったタイミングで、扉が開き、同部屋のメンバーの1人であるユミルが入ってくる。
「うん。笹は無いから短冊に書くだけなんだけどね」
「へぇ……ちなみに何を書いたんだ?」
「トワが幸せになりますようにって」
「意外だな。てっきり、皆が幸せになりますようにって書くもんだと思ってたが……」
「確かに昔の私ならそう書いてたかも。でも、私の大切な人は決まってるの。……あ、皆が大切じゃないって言ってるわけじゃないんだよ?ただ、1番は決まってるってだけで……」
「焦らなくても分かってるって」
その時、再び扉が開き、サシャが入ってくる。
「クリスタ、ユミル?何をしてるんですか?はっ!?もしかしてお肉を隠し持ってるとか!?貸してください!教官に見つかったら大変です!私が隠しておきます!」
「お前は自分が食べたいだけだろ」
「あはは……ごめんね、サシャ。お肉は無いんだ。実はね──」
欲、丸出しのサシャに、ユミルは呆れ、クリスタは苦笑しながら説明する。
「成程!そう言えば今日は七夕の日でしたね!それならクリスタ、まだ短冊は残ってますか?」
「え?うん。まだ何枚かあるよ?」
「ミカサ達も呼んで、皆で願い事を書くのもいいかと思ったんです。あ、もちろん、クリスタが良かったらですけど……」
「もちろん良いよ!その方が楽しいもんね!」
「良かったです!それじゃあ、皆を呼んできますね!」
クリスタから話を聞いて、今日が七夕だと思い出したサシャは、皆も呼んで一緒に書こうと提案する。
クリスタの許可を貰ったサシャは急いで皆を呼びに飛び出していった。
それから少しして、サシャがミカサ達を連れて戻って来る。
「ミカサは何を書いたの?」
「……『エレンが幸せになれますように』って」
「ミカサらしいね」
「ミーナは?」
「私は『みんなが笑顔でいられますように』かな」
「ミーナは優しい」
「私は『お腹いっぱいお肉を食べたい』って書きました!」
「お前はブレねぇな」
「そう言うユミルは何て書いたんですか?」
「私か?そんなもん決まってるだろ。『クリスタが幸せになれますように』だ」
「だと、思いましたよ!」
「アニは何て書いたの?」
「……別に『普通の女の子になりたい』って書いただけ」
「普通の女の子……かぁ。普通って何なんだろうね。私は今のアニも好きだけど」
「なっ!?」
「そう褒められたら、照れて赤くなる所とかも可愛いよね」
「っ……!も、もういいから!」
各々が短冊に願いを書き終えた時、サシャが窓の外を指さして声をあげる。
「皆さん!窓の外を見てください!流れ星ですよ!」
「……綺麗」
窓の外を見ると、いくつもの流れ星が空を駆けていく。
「お肉をたくさん食べれますようにお肉をたくさん食べれますようにお肉をたくさん食べれますよう……」
隣で願い事を一心不乱に呟くサシャに苦笑しながらも、クリスタも空を駆ける流れ星を見ながら、流れ星に願いをかけた。
(トワが幸せになれますように)
「お!トワ、流れ星だよ!願い事をしないと!巨人をたくさん捕まえられますように巨人をたくさん捕まえられますように巨人をたくさん捕まえられますように……」
ハンジは空を駆ける流れ星を見ると、直様自身の願いを繰り返し呟く。
そんなハンジの横で、トワもまた、流れ星に願いをかけた。
(ヒストリアが幸せになれますように)
エレノア・コレクト
本編よりも先に登場することになった少女。
倒れていた所をトワに救われ、仕事まで与えてくれたトワに心酔している。