もう8月も終わりますが暑さも続きますし、コロナもまた広がってますのでお体にはお気をつけて下さい。
「5年ぶりだね」
「……アウラ」
トワの前に立つのは、トワと同じ銀髪銀眼の少女。
「……その力は使いすぎちゃ駄目だって言ったのに……じゃないと……」
アウラはトワを見て、悲しそうな表情になり、視線でトワの後ろを示す。
「貴方の心が先に壊れてしまう」
トワはそれに従い振り向く。
代わり映えの無い、星が煌めく世界が続いている……筈だった。
「……崩れてる……?」
トワの視線の先、遥か遠くの世界の端とも言える場所は、まるでガラスが割れるかの様に崩れ落ち続けており、その先は何も見えない暗闇が広がっていた。
「ここは貴方の精神世界。ここが崩れると言う事は、貴方の心が壊れると言う事と同じ。だけど、貴方がその力を使う度にこの世界は大きく崩れてしまう。だから……」
アウラは真剣な表情でトワを見る。
「調査兵団を辞めて」
「クリスタ!!っ……邪魔するな!!」
「くっ……!!」
立体機動装置の壊れたクリスタに巨人が手を伸ばすのを見て、咄嗟にミカサとユミルが動く。
だが、相対する巨人に邪魔され、向かうことが出来ない。
「トワ……」
巨人の手が眼前に迫るクリスタの口からトワの名前が溢れる。
トワを庇い、無防備に落下したことに加え、吹き飛ばされた事による衝撃に体は満足に動かない。
──死──
ふと、クリスタはその言葉が頭に浮かんだ。
しかし……
「……諦めて……たまる、もんか……!」
クリスタは唇を噛み締めて立ち上がる。
ここで死んだら二度とトワに会えなくなる。
いや、それよりも、今この巨人は自分に意識が向いている。
じゃあ、自分が死んでしまえば次は誰に……
そんなの決まっている。
それだけは認められない……それだけは嫌だ!
「っぅ……!」
痛みに顔を顰めながら、それでもブレードを向けて巨人を見据える。
「……トワは諦めなかった……あの日、あの絶望的な状況で、私を助けるためにたった1人で……!私は誓ったの……そんなトワを支えられるように……今度こそ絶対に1人にしないように……ここで諦めたら、私は、トワの横に立つ資格なんて無い!」
クリスタは自分を奮い立たせる様に叫ぶ。
「あぁぁぁぁぁ!!」
クリスタは迫る巨人の指を切り落とす。
巨人はその手を見て、まるで怒ったように叫び、もう片方の手でクリスタを弾き飛ばす。
「あぐっ……」
衝撃で体に力が入らず、クリスタは壁を背に地面に座り込む。
視界がはっきりしない中で、巨人の手が伸ばされるのが分かる。
しかし、クリスタの表情には焦りも恐怖も無かった。
何故なら……
巨人の手が閉じられる瞬間、クリスタは目を瞑るのと同時に浮遊感を感じた。
暖かい何かに包まれる様な感覚に目を開ければ、巨人が下に見え、その手は空を切っていた。
「……ごめん……遅くなった……」
何故なら……
「……信じてたから……」
クリスタが視線をずらせば、心配そうに自分を見つめるトワが居た。
「……トワ……」
「守ってくれてありがと」
トワはクリスタを抱えたまま近くの屋根に降りる。
「……少し待ってて」
トワは屋根の上にクリスタをゆっくりと寝かせると、ブレードを抜いて迫る巨人に向き直る。
巨人の首元にアンカーを刺し、巻き取ると同時にガスを噴射させ、一瞬の内に肩の上を通り過ぎ背後を取る。
振り向きざまに、アンカーをうなじに刺して巻き取り、巨人のうなじに向けてブレードを振る。
「トワ分隊長!」
巨人を討伐し、クリスタの居る屋根の上に降り立ったトワの元に、同じく巨人を討伐したミカサ達が駆け寄ってくる。
「クリスタは!?」
「……骨折はしてない……けど、体中打撲だらけ……今日は安静にすること。いい?」
「……私も……一緒に……」
「駄目……動かないで」
無理に立ち上がろうとするクリスタをトワは優しく抱き抱える。
「トワ……」
「後は任せて……私1人で大丈夫だから」
「っ……」
微笑みながら告げるトワの言葉にクリスタは悲しそうな顔を浮かべる。
「……任せてもいい?」
「それはもちろんですが……」
トワから声をかけられたユミルはクリスタの顔を見ながら答える。
「トワ分隊長」
そこに、ミーナに背負われたアルミンが降りてくる。
アルミンはミーナの背中から降りると、トワに作戦を語る。
「あの巨人を……ん、分かった」
普通なら信じられない様な作戦だが、トワは全く迷わずに受け入れる。
「アルミン、これ……」
クリスタは自身の立体機動装置からガスボンベを外すとアルミンに渡す。
「分かった。使わせて貰うよ」
「それなら、私がクリスタを背負うよ。私よりユミルの方が力になると思うし」
「……分かった。クリスタを頼む」
確かに、その方がトワの為に、ひいてはクリスタの為になるだろうと判断したユミルは、抱えていたクリスタをミーナに任せる。
「準備はいい……?」
「いつでも行けます!」
「ん……じゃあ、行く……」
全員の準備が出来たことを確認したトワは、本部へと移動を開始する。
ミカサとユミルもトワの後に続いて立体機動に移る。
「クリスタ、私達も行くよ」
「……うん」
クリスタもミーナに背負われてトワ達の後を追う。
「……っ……トワの力になりたくて……努力してきたのに……何も出来ない……」
ミーナの背中で、クリスタは巨人を討伐していくトワを見ながら唇を噛み締めた。
「悔しい……」
『なんだ……あの動き……』
『巨人を討伐しながらなのに……私達は追いつくので精一杯だなんて』
次々と、巨人を討伐しながら進むトワを見て、コニーとミーナが驚く。
『……無駄が無い……』
『無駄?』
『理想の動き……そう言っていいほど、1つ1つの動きに無駄が無い。だから、速い……けど、あんな動き……巨人の動きを完全に読んでないと……出来ない』
2人の前を進むミカサも、トワの動きに驚きを隠せない。
「『超感覚』……それがトワの力。普段は抑えているけど、『感じ取る』事に特化したその力は未来すら感じ取る」
そんなトワたちの行動を、アウラは精神世界から見ていた。
「だけど……感じ取る事に特化したその力は、周囲の人の感情や苦痛までも感じ取ってしまう」
トワの力の本質は異常なまでの感受性の高さ。
その強すぎる感受性は、抑えた状態でさえ人の感情を感じ取ってしまうほど。
そして、抑えるのを止めれば、未来を事前に感じ取り、災いを回避できる反面、周囲の感情や苦痛までも感じ取る。
「そして、その感じ取る感情や苦痛には生死は関係無い」
力を開放させた時、トワが感じ取る範囲は、街を半分を覆う程であり、そこに体の一部が僅かにでもあれば、生死は関係無い。
生きていれば、その時の感情や苦痛を、死んでいれば、死んだ時の感情や苦痛を感じ取る。
そして、調査兵団に所属するトワの周囲には死が多く、トワは力を使う度に、怒りや恐怖、憎悪に加え、死ぬ時の痛み等を体感することになる。
「いっそ、心が壊れてしまえば楽になれるのに、強靭な精神力のせいで簡単に壊れることすら出来ない」
遥か遠くまで広がる精神世界は、トワの精神力を表している。
その端は崩れ続けているが、全て崩れるまではかなり時間がかかるだろう。
(調査兵団を辞めて)
(……それは無理)
(……どうして?このままだと貴方の心が壊れるかもしれない)
(それでもいい……例え心が壊れたとしても……私は私の目的を果たす)
だが、それはこの先ずっと力を抑え続けていた場合。
巨人と戦う度に力を使っていればそう遠く無い未来にトワは心が壊れる。
だから、アウラは巨人と戦う機会の多い調査兵団を辞める様にトワに告げた。
しかし、トワはそれを拒否した。
「未来を変える事は出来ても運命は変えられない。世界の修正力が働く限り、運命は原作通りに進もうと辻褄を合わせ始める」
アウラは辛そうな表情をしながら巨人を討伐していくトワを見て呟いた。
「……未来を変えた弊害は直ぐに現れる」
アウラ「今回は超感覚について説明するよ。未来を感じ取ると言ってもね、未来視とか予知とは違うんだよ。どっちかって言うと、直感や予感、虫の知らせとかに近いね。後は感情とか苦痛を感じ取るけど、それ自体しか感じ取れないんだよ。つまり、心の声とか記憶とかは分からないってこと。例えば、クリスタが悔しいって感じている事をトワは分かるけど、何で悔しいって感じてるのかは分からないし、巨人に弾き飛ばされた時の傷みは体感出来るけど、何があったのかは分からないって事だね。更に感じ取るそれらは、1人づつって訳では無いから、範囲内に10人居れば、10人の感情や苦痛を一度に感じ取っちゃう事になって、トワはかなりの負担を負うことになる。まぁ、使い勝手は良くないね」