異世界のブサイク男に転生してしまったショタコン腐女子は意中のショタと結ばれるためなら世界だって相手にできる! ~そうだ買国しよう~ 作:ゼルダ・エルリッチ
「う……、うーん……」
目が覚める。
気が付くと、私はどこかの地面の上に倒れていた。
どこだ、ここ?
時間は夜。少し肌寒い。
周りを見渡すと、目の前に巨大な建造物がそびえていた。
まるでお城みたいだ。
石造りの壁に、たくさんの窓。見上げた場所には、バルコニーがある。
私が倒れていたのは、その建物の中庭のようだった。
えーと、確か私、貴族の男性に転生したってことなんだよね?
ああ、そうか。ここは、その男性が死んじゃった所なんだ。
そこに私が転生したってわけね。理解できてきた。
それにしても……(自分の服を眺める)。
なんか、いかにもっていう服だね。貴族といえば貴族らしいけど。
でも、貴族っていうと、もっとお上品なイメージだったんだけど、この服は、何ていうか……、
ダサい!
もっとはっきり言っちゃえば、下品!
ピンク色とか、ヒラヒラとか、まるでピエロだよ。
それに、指には大きな宝石の指輪がいくつもはまってる。
高価なものなんだろうけど、これもやっぱり下品。こんなに付けなくてもいいのに。
なんか、変な人に転生しちゃったのかな? 私。
身体を改めて見渡してみる。
うわー、太ってる……。
もっと、白馬に乗ってやってくる王子様、みたいなのを想像してたのに!
その辺りは言わなくても理解してくれるだろうと思ってたのに、あの女神め!
それはそうと……、
やっぱり股間が気になる……。
何か付いてる感がスゴイ……。
こっちの方は、少しずつ慣れていくしかないね……。
それにしても、私って何者なんだろ?
それと、やっぱりどこ? ここ?
そんなことを考えていたら、
「あの、大丈夫ですか?」
急に声を掛けられる。女の人の声。やや低め。
目線を向けてみると……、
ええっ!? ニニムちゃん!?
透き通るような白い髪、赤い瞳。
実写版ではあったけれど、一目で分かった。
服装も、アニメと全く同じ。
すっごく美形な子が、クオリティ高すぎなコスしてるって感じ。
それに、顔も馴染みやすかった。アニメの世界とはいえ、さすがにアニメそのままの映像ってわけじゃないから実写ではあったんだけど、いわゆる外人の顔じゃなくて日本人に近い感じの顔。私はこっちの方が好み。
それと、当然だろうけど言葉は日本語じゃない。でも不思議と、日本語であるかのように聞き取れたし、理解もできた。まあこの辺は、お約束ってことなんだろう。
「あ、あの、ニニムさんですよね? どうしてこんな所に?」
恐る恐る聞いてみる。アニメの世界のニニムちゃんと、初おしゃべり! いぇい!
やっぱり私、転生したんだなあ。すげえ!
「いえ、どうしてと言われても……、ここ、ナトラのお城ですから、いるのは当然で」
え? ナトラのお城?
その瞬間、背筋に冷たいものが走る。
ナトラのお城で、最近死んじゃった、貴族の男性……。
それって、もしかして……。
「す、すいません、鏡持ってませんか?」
「え? ありますけど……、どうぞ」
ニニムちゃんが手鏡を渡してくれる。
慌てて手に取って、自分の顔を眺めた。
「え、ええええ~~~~!!!!」
間違いねえ!
これ、ゲラルトだ~~!!
第4話で、いきなり出てきたと思ったらあっさり死んじゃった、あのブッサイクな男!
よりにもよって、あいつに転生しちゃうなんて!!
確かにナトラにも影響力はあるだろうけど、それ以前の問題でしょ!
あ、の、駄女神め~~!!
訴えてやる!
「あの……、どうかしましたか? それと、おケガは大丈夫ですか? バルコニーから落ちたんですけど……」
そうだった。私……、ゲラルトって、酒に酔ってウェイン王子に剣の試合を挑んで無様に負けて後ろから卑怯に不意打ちしようと突っ込んでいってそのまま勢い余ってバルコニーから転落して首の骨折って即死したんだった……。
いわゆる、最・低なキャラ……。
でも、そんな最低キャラを気遣ってくれるなんて、ニニムちゃんは優しいなあ。
まあ、立場上仕方なく、っていう所もあるんだろうけどね……。
「大丈夫です。ケガはしていません。お気遣いありがとうございます」
にっこり笑う。でも実際笑ったのは、ブサイクな酔っ払いのゲラルトオヤジなんだよね。
「そうですか。それは、良かったです」
笑って返してくれたけど、やっぱりニニムちゃんの顔がちょっと引きつってた……。
とにかく、こうなってしまったのなら仕方がない。
せっかく転生したんだし、こんなキャラでも受け入れて頑張るしかないね……。
落ち込んでたって何とかなるもんじゃなし。
それなら、前向きに進んでいかなくっちゃ!
取り敢えず、お城の中に戻らないと。
まずはウェイン王子に謝罪して、少しでも評判を取り戻していかないとね。
それにやっぱり、ナナキきゅん!
お城には今、ナナキきゅんも居るんだ!
さすがにパーティの席には同席してないだろうけど、何とか接触が持てるといいな。きっかけくらいは掴んでおきたい。
ナナキきゅんって、ウェイン王子の妹のフラーニャちゃんの護衛だから、その線から話を持っていくのがいいだろうね。いきなりナナキきゅんに会いたいなんて言ったら、怪しさ全開だろうし。
少しずつだ。
少しずつ、問題を解決していこう。
それからニニムちゃんに案内されて、お城の中に入る。向かうのは、ウェイン王子の待つ酒宴の席。
会場に入ると(戻ったわけだけど、私はもちろん入るのは初めてなわけで)、居並ぶ面々が皆、私のことを凝視してくる。
まあ、酔っぱらってバルコニーから落ちたわけなんだし、こうして無事に戻ってきたことが驚きなんだろう。
「殿下、大丈夫ですか!?」
「どこかおケガは!?」
お付きの者たちが数人、私の元へ駆け寄ってくる。
えーと、ゲラルトの領地って確か、アントガダルっていうんだよね。だからこの人達も、アントガダル家に仕えている人達か。
こんなおバカな子息に仕えてるだなんて、同情するよ全く。
「えーと、大丈夫です」
いや待て、お付きに敬語で話すのはやっぱおかしいか。ここはまあ、この世界の流儀にならって、貴族っぽくいっとくか。
「……いや、ごほん。大丈夫だ。ケガはしていない」
「それは何よりです!」
「我ら一同、心配致しました!」
本音なのかどうかは知らないけど、立派な人達だな。この人達のためにも、私が変わっていかないとね。
それに……、ちょっと若くてイケメンな子もいるし。うへへへ、こういう楽しみがあったとは、追加ボーナスだねこりゃ。
……おほん。それはいいとして。
「ゲラルト卿、心配致しました。おケガがなくてなによりです」
そう言って頭を下げてきたのは……、
やっぱりウェイン王子だ。
うっひゃー、超イケメン!
確か16才なんだよね。見た目はもっと、大人な感じだけど。服装のせいかな?
でもやっぱり、顔立ちにあどけなさが残る。ショタっ子大好きな私だけど、ウェイン王子なら全然ストライク!
……って、今はそういうことじゃなくて。
今やるべきことは、ウェイン王子への謝罪だよ。
最低なオヤジの印象を、少しでも拭っておかないと。
「ウェイン王子」
そう言って、その場にひざまずく。
私のお付きたちは皆驚いていたけど、気にしないで続ける。
「数々の非礼をお詫び致します。いきなり無礼にも押しかけてきたかと思ったら、酔っぱらって空気も読まずに剣の試合挑むとか、最低な行いでした。恥をもって、謝罪申し上げます。どうかお許し下さい」
言い方はヘタっぴだけど、誠意は込めたつもり。まあ、実際は私がやったことじゃないんだけどね……。
顔を上げてみると、ウェイン王子がポカーンとしてる。
『なんだこいつ? 頭でも打っちゃったのか?』って感じ。
そりゃそうだろう。完全に、ゲラルトのキャラじゃ無くなっちゃってるしね。
でも、これでいいんだ。このオヤジは、もう死んじゃったんだから。
後は私が、気合入れて新しい人生を吹き込むよ。
ナナキきゅんに相応しい、誠実な人物になるんだ!
「どうか頭を上げて下さい、ゲラルト卿。私は全然気にしていませんよ」
ウェイン王子が、にっこり笑う。
まあ、この笑顔が本心じゃないってことは、アニメ見てれば分かるんだけどね。
でもいつか、本心から笑ってもらえるように頑張るよ!
「さあ、宴の続きを致しましょう。今宵はゆっくり楽しもうじゃありませんか」
ウェイン王子が、そう言って席を促す。
私は頭を下げて、それに従うことにした。
「感謝します。ウェイン王子」
それから、私(ゲラルト)は主賓の席に戻った。そして隣には……、
うわー、ロワちゃんだ!
ニニムちゃんに負けず劣らず、チョー美人!
確かゲラルトって、このロワちゃんが自分に好意を抱いてて結婚したいとか勝手に勘違いして、ナトラに乗り込んで来たんだよね。全然違う手紙読んで。
アホだー。
でもまあ、そんな所も解消していかないとね。
「ゲラルト卿、ご無事でなによりでした。さあ、どうぞ」
ロワちゃんがにっこり笑って、私の盃にワインをついでくる。
でもまあ、この笑顔もやっぱり本心じゃないわけで。
あー、色々ややこしいなこりゃ。
「ありがとうございます。ロワちゃ……、いえ、ロウェルミナ殿」
危ない危ない。いきなりロワちゃんとか言ったら、不審がられちゃうよ。
えーと、確かロワちゃんって、帝国の帝位争いをしてる兄達に変わって自分が帝位を取るために、ウェイン王子に結婚話を持ち込んだんだよね。
それでウェイン王子と一緒に、帝国に反旗を翻そうとしてる諸侯たちを洗い出してやっつけちゃおうとか、そういう感じだったはず。
うーん、その辺り、話がややこしくて良く分からんな。
頭の良い人達の考えることだし、私にはちょっと難しい……。
まあ、それはいいとして。
やっぱり今は、ロワちゃんにもしっかりと謝罪だ。
アニメじゃ、ゲラルトってロワちゃんにもだいぶ尊大な口の利き方してたしなあ。
そんなんじゃ、やっぱり好かれる要素ゼロだよね。
「ロウェルミナ殿下」
改まって、頭を下げる。
「私はあなたに対して、あまりにも無礼でした。あなたは、帝国の帝位をも継がれようとしていらっしゃる身です。とても、私などの手の届くお方ではありません。私のバカげた勘違いのせいで、こんな席まで用意させてつきあわせてしまって、本当に申し訳ありませんでした」
誠心誠意、お詫びしたつもりだったけど……。
まわりが皆、シーンとしてしまった。
え、え? 私、何か変なこと言ったかな?
そんな中、最初に口を開いたのはロワちゃんだった。
「私が、帝位を? おほほ、ゲラルト卿、御冗談を。兄達を差し置いて、私がそんなことをするわけがないじゃありませんか」
あっ、そうか。ロワちゃんが帝位を狙ってるってことは、ウェイン王子とニニムちゃんくらいしか知らない、極秘の計画だったんだ!
私(ゲラルト)が、それを知ってるわけがないんだよね。まずかったな。
ここはロワちゃんの言葉通り、冗談ってことにしておくか。
……いや、待てよ。
急に思い付いた。
ここは、私がロワちゃんの計画を知ってるってことで話を進めれば、私の身を売り出すことができるかもしれないね。
アントガダルに帝国の強い後ろ盾が得られれば、帝国と協力しようとしているウェイン王子やニニムちゃんとも連携が生まれるし、ナトラ王国とも仲良くなれるかもしれない。
いや、それ以前に……、
ウェイン王子はナトラを「売国」して悠々自適の隠居生活を送りたいってことなんだし、上手く事を運べば、それに乗っかってアントガダルがナトラを「買国」しちゃうことだってできるかもしれない。
まあ、それは極論だけど、それに近いことはできるはず。
そして、ナトラにもっと接近することができれば……、
必然的に、ナナキきゅんとも急接近だ!
これは……、やるしかないのかも!
ナナキきゅんのためならば、私は世界だって変えてみせるよ!
私なりの、アントガダル領、再生術!
「えと、とにかくですね。私がロウェルミナ殿と結婚などというのは、私のただの勘違いでした。お詫びいたします。ロウェルミナ殿は、ウェイン王子と結婚するおつもりなんですよね?」
取り敢えず、取り繕ったつもりだったけど、
「え!? ご存じだったんですか!? それではゲラルト卿は、なぜ今日こちらへ……?」
あー、そうだよね。結婚相手のロワちゃんと対面したくて乗り込んできたんだから、その大義名分が無くなっちゃったら、ゲラルトがここに来た意味がよく分かんなくなっちゃうわけか。
でもまあ、ここは押しの一手で話を進めちまおう。
アニメで得た若干の知識しか無いとはいえ、帝国とナトラとの密約に、一枚噛ませて貰おうじゃないの。
「そのことなのですが……、おほん。実は私は、ロウェルミナ皇女殿下とウェイン王太子との秘密の『計画』について、一つの提言を持って参ったのです。今日、ロウェルミナ殿下がナトラにいらっしゃると聞いて、ぜひともお話に参加させて頂きたくて」
どうだ。ゲラルトオヤジがまさかこんな提案をしてくるなんて、思ってもみなかっただろうね。
天才ウェイン王子の真似事って所かな? ふっふっふ。
「私とウェイン王子の、秘密の計画? 一体、何の事でしょう?」
ロワちゃんがにっこり笑う。
なるほど、ここはごまかしで通すってわけね。
でもまあ、当然か。
帝位を狙ってるなんてことがもし兄達にばれたら、それこそただじゃあ済まなくなるからね。
ロワちゃんも色々大変だ。
「ゲラルト卿、少々お酒が過ぎたようですね」
ウェイン王子も、そう言って笑う。
って、うわー、目が全然笑ってなーい。
仕方ない。ここはもう一つ、踏み込んでしまおうか。
そうすれば二人共、話をせざるを得なくなるだろうしね。
「ロウェルミナ殿、申し訳ありませんが、ちょっとお耳を拝借願います」
そう言って、ロワちゃんにヒソヒソ。
「私は、我が父であるグリナッヘが諸侯を束ねて帝国へ反旗を翻そうとしていることを突き止めています。今日私が来たのは、そのことをあなたへ伝え、反乱を阻止するべく帝国のお力をお借りしたいと考えたからです」
ロワちゃんの顔が驚きに包まれる。
ようやく、冗談事じゃないってことが分かってもらえたみたい。
まあ、いよいよマジな話になっちゃったしね。
ロワちゃんがウェイン王子に耳打ちし、ウェイン王子も驚いた顔に。
おおー、真剣な話でゲラルトがこの二人を動揺させるなんて。ちょっと面白い。
「ゲラルト卿、どうでしょう? ちょっと酔い覚ましがてら、お城の中を散歩しませんか? ご案内しますので」
ウェイン王子が誘ってくる。
なるほど、散歩ね。
三人で、『計画』のご相談ってわけか。
「はい、ぜひともお願いします」
席を立つと、私のお付き達が「おとも致します、殿下」と言って付いて来ようとする。でも、
「いや、いい。護衛はナトラの者に任せる。私一人で大丈夫だ」
お供の制止を振り切って、宴会の部屋を後にした。