異世界のブサイク男に転生してしまったショタコン腐女子は意中のショタと結ばれるためなら世界だって相手にできる! ~そうだ買国しよう~ 作:ゼルダ・エルリッチ
そして、いよいよ帰国(帰宅?)。
アントガダル領はナトラからそんなに離れてはいなかったけど、色々あったし、とにかく疲れた。
このままお風呂にでも入って、ゆっくり寝たいところだったけど……、
実際、そうもいかない事態なわけで。
屋敷の前庭に入る。
うっひゃー、こりゃすげえ。
さすが、金持ちの領主様だね。まるで宮殿だよ。
玄関に馬車が着くと、入り口には屋敷の者達や兵士の皆さんが勢ぞろいしていた。
おバカなゲラルトではあるけれど、やっぱりそれなりの地位があるのは確かだ。
今更ながら、それを思い知らされる。
実際、ウェイン王子やロワちゃんみたいな人達と普通(?)に会話ができるなんて、それこそ、このくらいの地位が無ければ無理な話だったんだよね。
そこのところは、あの女神様にも感謝ってことで。
馬車を降りると、列の中から一人の人物が現われる。
それは、アントガダルの当主にしてゲラルトの父である、グリナッヘだった。
「ただいま戻りました、父上」
そう言って頭を下げる。
『父上』だって。全くもって時代劇だねこりゃ。仕方ないけど。
「おお、心配したぞゲラルト! 全く、急にナトラへ赴くなどと、無茶をするでない!」
叱りながらも、その顔は息子が無事に帰ってきたことに心からホッとしている様子だった。
なんやかんやと政治的な策略にでも巻き込まれたら、と心配したのだろう。
やっぱり親なんだなあ、と思う。
こんなバカ息子であっても、自分の子はかわいいのだ。
「申し訳ありません。ちょっと、大事な用がありまして……。それでなんですが、急ぎ、父上にお話ししたいことがございます。お時間をよろしいでしょうか?」
「ん? それは構わんが……」
グリナッヘが、少しキョトンとした顔になる。
「ゲラルト、なんだかそなた、少し変わったような気がするな? どうかしたのか?」
う……、まずい。
不自然じゃないように演じたつもりだったけど、やっぱり実の親の目をごまかすのは難しいか。
でも、これからは私がゲラルトとして生きていかなくちゃいけないわけなんだし、グリナッヘさんの方にも、少しずつ慣れていってもらうしかないね。
「いえ、何でもありません。ちょっと、長旅で疲れただけです」
「そうか、ならば良いが」
何とかごまかしたけど……、
グリナッヘさんか。
頭によぎる。
いつか私がナナキきゅんと結ばれることになった時、親であるグリナッヘさんには、それを認めてもらわなくちゃいけないわけなんだよな。
貴族の結婚には政略的なものが多いらしいけど、ナナキきゅんとの結婚を、グリナッヘは認めてくれるのだろうか?
いくら親バカとはいえ、難しそうだな……。相手は14才の男の子だし。
でも……、
改めて、誓いを立てる。
愛に国境も性別も無いんだ!
私がその先駆者になれるように、頑張るよ!
グリナッヘさんを悲しませるようなことはしませんから!
本当の子を失ってしまったことには同情するし、可哀そうだとも思うけど、
私が精一杯、親孝行して、その代わりを努められるように頑張りたいよ。
玄関をくぐる時、居並ぶ出迎えの後ろの方に、オカッパ君がいるのを見付ける(おおー、オカッパ君だ!)。
ひっそりと、目立たないようにしてる感があった。
やっぱり工作員として、目立つ行動はまずいからね。
私は、すぐに視線を逸らす。
グリナッヘとの秘密の会合を、今、彼等に知られてはまずい。ここは自然に振る舞わなくちゃ。
(でも……、やっぱりオカッパ君、実物もカワイイなあ。悪役じゃなくて、できれば側で仕えてもらいたかった! お風呂の世話とかね。ふへへ……。って、いかんいかん。)
とにかく自然に振る舞うことを意識して、まずは自室で着替えをすることにする。
自室……、
そうだった!
テレビに、ゲーム機!
それをまずは、確認しないとね!
えーと……、っていうか、私の部屋って、どこ?
とにかく広い。あちこち部屋だらけで、わけわからん。
お付きに何気なく先導させて、ようやく二階の自室まで辿り着いた。
うっひゃー、
部屋も広い。
そして、下品! 趣味が悪い!
ゲラルトの部屋らしく、派手な壁紙に、派手な装飾。
なかでも、天蓋付きベッドの派手さが際立っている。
こんなベッドで寝られるかい!
こりゃ後で、全部模様替えしないとね……。
大丈夫、金はあるんや!(by しまリン)
それはそうと……、
あったーー!!
テレビ! そしてゲーム機!
うおお! ゲーム全部揃ってんじゃん!
プレステ1から5、全部あるし!
ソフトも充実!(私はパッケージ版が好き。)
何気に、スーパーファミコンやゲームボーイなんてレトロ機まである。
分かってらっしゃる!
人払いをして、早速ハードディスクを確認(ちなみに、電源コードが無いのに動く。魔法? 魔法は無い世界のはずだったけど。まあいいや)。
うおおー! 今までに見てきたアニメ、全部入ってるよ!
明日(あけび)ちゃん! また会えたね!
もちろん、「天才王子」も入ってる。
やったー! 6話も録画されてる!
私って、5話見た所で死んじゃったからね。
こりゃ、今後が毎週楽しみだ!
ホントは今すぐ見たかったけど、我慢。
今は、グリナッヘとの会合が先なのだから。
(いつか、ナナキきゅんと二人でゲームができたら最高だね。アニメも一緒に見たい! ナナキきゅんが「天才王子」のアニメ見たら、どんな顔するかな? へへへ)
着替えを済ませ、グリナッヘの執務室に入る。
怪しまれないように、使用人たちには、会合の内容はゲラルトの女関係の「与太話」という感じに伝えておいた。
ここは、おバカなゲラルトを演じておけば、オカッパ君達も油断するだろうからね。
しばらくして、グリナッヘがやってくる。
私は敢えてだらしなさを装って使用人を油断させ、「身内の会話だからもう行ってよいぞ」などと尊大な態度を取って人払いをした。
グリナッヘと二人だけになったのを確認し、念のため廊下にも人が居ないことを確認してからドアを閉める。万が一にも、オカッパ君の配下の者なんかに盗み聞きされないようにしないと(使用人だって怪しいもんだしね)。
さて、大丈夫みたいだ。
私は途端に背筋を伸ばし、礼儀正しく振る舞う。
少しキョトンとしたグリナッヘが、私の向かいのソファに腰を下ろした。
「なんだゲラルト、改まって」
グリナッヘが、紅茶をすすりながら軽い感じに言う。
さて、それじゃあいよいよ、肝心の話を切り出しますか。
気が重いけどね……。
「父上、配下の者の中に、オカッパみたいな髪型をした男がいますよね? さっき、私の出迎えの時にも居たあの男です」
「ん? ああ、オウルのことか? 奴がどうした?」
あのオカッパ君、オウル君っていうのか。確かアニメのエンドロールにも名前が出てたはずだけど、まだチェックしてなかった(オカッパ君とか言っててごめん!)。
「あのオウルという男は、西側の工作員なのです」
「なんだと!? オウルが!?」
ちょ、グリナッヘさん、声大きいよ!
「しー! 父上、お静かに。これは、極秘の情報なのですから」
「あ、うむ、すまん。しかしゲラルト、一体どうしてそんなことが分かったのだ?」
あー、と。そこのところはあんまり突っ込まないでほしいな。
まあここは、ウェイン王子に聞いたとでもしておくか。
「これは、ナトラのウェイン王太子よりの確かな情報です。オウルは複数の仲間と共に我が屋敷に潜伏し、父上と我がアントガダル領の動きを探っているのです。そして、」
さて、ここが一番肝心な所だ。
「父上に帝国への反乱計画をけしかけたのも、全て奴らの謀略なのです」
「なっ!?」
グリナッヘの顔が硬直する。
まさか、息子のゲラルトの口から反乱計画の追及がなされるとは思ってもいなかっただろうからね。グリナッヘにとっては、ゲラルトは本当に、ただの手のかかる子供に過ぎなかったんだろうから。
「な、なにを言っているのだ。私が、反乱などと。悪い冗談はよせ」
なるほど、ここは言い訳で通すってわけか。
事を起こす前に、口の軽そうなゲラルトに知られてはまずいからね。
でも……、もう遅いですよ、父上。
ウェイン王子も、アニメで言ってましたよね。
「父上、言い逃れが通る段階は、とうに過ぎているのです」
グリナッヘの顔が、驚きに歪む。
今相手にしているのは、他人のウェイン王子ではなく、実の息子(中身は私だけど)のゲラルトなのだ。そのゲラルトの口からこんな風に諭されてしまっては、そりゃ驚きもするだろう。
「今回私がナトラへ出向いたのも、そのことをウェイン王子やロウェルミナ殿下と話し合うためです。ロウェルミナ殿下は、父上の反乱計画を全てご存じなのです」
「なっ!!」
最後のトドメとも言える言葉に、グリナッヘが大きく後ろにのけ反った。はずみで、ソファから転げ落ちてしまいそうになったほど。
「ロ、ロウェルミナ殿下が!? 一体、なぜ、そのような……」
まあ、このことが知られて処罰されたなら、ヘタをすればお家断絶、良くて領地没収だろうからね。その前に、首が飛ぶかもしれないし。
「父上、私はロウェルミナ殿下と話し合い、アントガダルの未来をお願いして参りました。もはや独立などは、夢の話。今更、帝国に反旗を翻したところで、我らの身の破滅を呼ぶだけです。ここは、反乱計画の一部始終をロウェルミナ殿下に明かし、殿下の御慈悲を請うしかありません。そうすれば、我がアントガダルは制裁を受けるどころか、帝国に協力をしたという立場を取ることができます。その上、共に協力を成したナトラ王国とも、強い同盟関係を結ぶことができます。我がアントガダルの未来に向けて、悪い話ではないでしょう」
はー、また小難しい話だ。
だから私には、こういうの無理だって。
でもまあ、伝えることは伝えたわけだ。
あとは、グリナッヘの反応ってわけだね。
「し、しかし……、この計画は、他の諸侯達との連盟によって成されている……。我らが裏切れば、彼らを敵に回すことになるぞ……」
まあ、そう言うだろうと思ったけど。
だから、そこは事前に根回ししておいたんだ。
「その点については、ご安心して良いかと思います。今回の反乱計画は、全てオウル達、西側工作員たちの差し金によるものです。ですから、我らも彼らに騙されていたのだという立場を取れば、諸侯たちを敵に回すこともないでしょう。それはロウェルミナ殿下にも話を通してありますので、かえって諸侯たちも、自らが騙されていたのだということを知ることができて、我らアントガダルに感謝することになるかと思います」
さあ、これで断る理由は無いわけだ。
ここはウェイン王子ばりに、私も心で叫ばせてもらおうか。
『さあ! 乗ってこい! 乗ってこい!』
グリナッヘの顔が苦悶に歪む。両手で頭を抱え、悩み抜いている様子。
『何でこうなった?』いかにもそんな感じだ。
「父上!」
揺さぶるように叫んでやる。
グリナッヘは観念したかのように顔を上げて、「はあ……」と深いため息をついた。
「仕方あるまい……。ここは、ロウェルミナ殿下の御慈悲にすがろう……」
よっしゃー!!
ついにグリナッヘを説き伏せることができたよ!
しかも、アニメでは本来ウェイン王子の役割だったのに、それを私(ゲラルト)が成し遂げちゃうなんて。ちょっと不思議な感じだね。
ここはちょっと調子に乗って、またウェイン王子のセリフを拝借しちゃおうかな。
「父上、父上は素晴らしい決断を成されました。これで何もかもが丸く収まるでしょう」
そう言って、グリナッヘに手を差し出す。これもウェイン王子のマネ。
グリナッヘは私の手を取り、そして、優しく微笑んでくれた(まあ当然ながら、元気は無かったけど)。
「ゲラルト、そなた、やはり変わったな」
えっ!
グリナッヘの突然の言葉。
やっぱり、偽物だと見抜かれてしまったのか?
しかし……、
そうではなかった。
「今までのそなたは、領地のことなど考え無しなのではないかと思っていた。しかし、やはりそなたはアントガダルの長子。きちんと、家と領民のことを考えていたのだな。父は嬉しいぞ……」
グリナッヘがそういって、手で目を擦る。
その目からは、涙がポロポロとこぼれていた。
グリナッヘさん……。
なんだか複雑な気持ちだ。
本当のゲラルトは、やっぱり家や領民、そして父の気持ちなど考えなしに、好き勝手におバカをやっていたんだろうからね。そのせいで、帝国の悪評を買っていたらしいし。
本当はゲラルト本人が親孝行してくれれば良かったんだけど、もうゲラルトは死んでしまったのだ。後はやっぱり、私がゲラルトの悪評を少しずつ返上していって、グリナッヘさんのことも守ってあげたい――
心根は、凄く優しそうな人だしね。
ちょっと、優柔不断な感じだけど……。
そして翌日。
計画は速やかに実行されることになった。
これから何をするか? と言えば、こうだ。
私(ゲラルト)とグリナッヘは、朝イチで馬車に乗り込み、ナトラへと向かう。
ナトラで待っているロワちゃんの元へ、帝国への反乱計画の証拠書類を引き渡すためだ。
この書類を無事に引き渡すことができれば、帝国は一気に反乱の鎮圧へと乗り出すことができる。
それも、武力ではなく、話し合いによって。
無益な流血沙汰を起こすよりも、これが一番の方法だった。
「ゲラルトよ、本当に上手くいくのか? もし、事を仕損じれば……」
隣のグリナッヘが、そう言って顔を曇らせる。
グリナッヘさんは、やっぱり心配性というか……、ちょっと小心な所があるみたいだ。そのせいで、ウェイン王子にいいように操られてしまっていたわけだし。
「大丈夫です、父上。どうぞ私をお信じください。父上のことは、私が必ず守ります」
そう言って微笑み、グリナッヘの手を取る。
我ながら、ちょっと照れくさいセリフだったけど、
「おお……、ゲラルト……」
グリナッヘさんの方は、頼もしく思ってくれたみたいだった。
そして、いよいよ出立。
グリナッヘと私は、専用の馬車に揃って乗り込む。
貴族用の豪華な屋根つきの馬車で、中が個室のようになっている贅沢な造りだ。
側面には、アントガダル家の紋章が煌びやかに描かれていた。
前を行く護衛の2頭の騎馬に率いられ、馬車が動き出す。
馬車の後ろには、同じく護衛の騎馬が2頭、続いた。
そして、馬車が走り出して20分くらいが経った頃……、
周囲を木々に囲まれた森の道に差し掛かった所で、
私達の騎馬の駆ける音の他に、新しい音が加わった。
それは……、
「敵襲! 敵襲!」
護衛の兵士が叫ぶ。
見ると、私たちの馬車の周りを、騎馬に乗った者たちが囲んでいるのが分かった。その者達が、護衛の兵士たちに向かって剣を抜いて突撃してきたのだ。
がきーん! きん! きん!
剣と剣がぶつかる激しい金属音が響き、一瞬の内に、辺りは戦いの渦の中に呑まれていく。
「かかれ! 護衛は全て殺せ!」
襲撃者の一人が叫ぶ。
それは、まぎれもない。オウルだった。
アントガダルの兵士の格好をしてはいるけれど、その中身は、西側の工作員。
その工作員たちが、「グリナッヘ暗殺」のために襲撃してきたのだった。
だけど……、
それは先刻承知の上だった。
というより、彼らに「襲撃されるため」に、私とグリナッヘは敢えてこの危険な旅路に乗り出したのだ。
私とグリナッヘが反乱計画の証拠書類を全て持ち出してナトラへ向かうということは、配下の者たちにも伝わるようにしてあった。
もちろん、わざとだ。
つまり、工作員のボスであるオウルにそのことが伝われば、ナトラへの旅路の途中で必ず襲撃してくるだろうと踏んでのことだった。
ゲラルトがナトラから帰ってきて、その翌日に、反乱の証拠書類を持ってナトラへ取って返す。しかも、グリナッヘまで同行して。
それが示しているのは一つ。
アントガダルが帝国への反乱計画を全て明らかにして、帝国の軍門に下るということだ。
元々、反乱計画の証拠隠滅のためにグリナッヘを暗殺しようと計画していたオウル達にとって、これは非常にまずい状況だろう。
今、ここでグリナッヘをロウェルミナ皇女の元へ行かせてしまえば、今までの潜入活動が全て台無しになってしまうのだから。
これを阻止するための方法は一つだけ。
そう、グリナッヘがナトラへ行くその前に、今ここで暗殺してしまう以外に道はない。
屋敷にある証拠書類の全てを持ち出したのも、そのためだった。
書類と、グリナッヘ(&ゲラルト)。
その全てを一手に片付けられる舞台をお膳立てれば、オウルは必ず動くだろうから。
そして今、その予想はピタリと、はまったわけだ。
後は、計画通りに上手く事を運ぶことができるかどうか。
「馬車を止めるんだ! 御者を殺せ!」
オウルの命令を受け、工作員の一人が馬車の御者に襲いかかる!
馬車さえ止めてしまえば、後は丸腰の貴族二人を葬ることなど、たやすいことだからだ。
しかし……、
「ぐわあ!!」
襲いかかった工作員が、返り討ちに遭って落馬する。
私たちの馬車を操っていた御者が、その腰から剣を抜き放って、敵を切り伏せたのだ。
「な、なに!?」
オウルが驚いて叫ぶ。
そりゃそうだろう。
馬車の護衛の兵士達なら、その力量をはかることはできる。しかし、
貴族の馬車の御者など、普通は一般の使用人が行うものなのだ。
その御者に、訓練を積んだ工作員が返り討ちに遭ったのだから。
「おのれ!」
今度はオウル自身が、槍を握って御者に突きかかる!
しかし、御者は剣を振るって、その槍を易々と受け流してしまった。
「貴様! 何者だ!? ただの御者ではないな!? 顔を見せろ!」
オウルが驚いて叫ぶ。
「それでは、ご要望にお応えしよう」
すると御者は、被っていたフードを上げて、その顔を露わにした。
「お、お前は……!」
オウルの顔が、苦悶に歪む。
「ナトラの王太子、ウェイン・サレマ・アルバレスト!」