異世界のブサイク男に転生してしまったショタコン腐女子は意中のショタと結ばれるためなら世界だって相手にできる! ~そうだ買国しよう~ 作:ゼルダ・エルリッチ
…………
昨日の夜。
私はナトラを去るその前に、ウェイン王子と今回の計画のことについて密約を交わしていた。
「アントガダル家の中に潜む工作員達をあぶり出すためには、兵士や護衛はおろか、使用人さえも信用することはできません。工作員の内の一人にでも漏れれば、計画は全て台無しになってしまいます」
ウェイン王子が提案してくる。確かに、工作員たちを全て割り出して捕縛しようというのなら、アントガダルの者にこの計画を漏らすわけにはいかなかった。だって、誰が工作員なんだか? 分かりようもないからね。
そのために、ウェイン王子が考えた作戦は……、
ナトラへ向かう馬車の護衛、御者、その全てを、ナトラの者で構成するということだった。
護衛の者たちについては、アントガダルの鎧兜に身を包んでしまえば顔も見えないし、ごまかすことができる。
後は、お抱えの御者だけど……、こちらは、ちょっと強引な手段に出させてもらった。
いつもの御者さんには、今回、地下の一室でお留守番してもらうことにしたのだ(つまり、監禁。かわいそうだけど、事情を説明して納得してもらうしかない)。
その代わりに、変装したウェイン王子に御者を務めてもらったというわけだった。
いつもの御者は体調不良だということにすれば、そんなに不審がられることもないし。
まあ、オウル達には御者よりも、グリナッヘの方が重要だろうからね。
「私がこの手で直接、工作員たちを捕まえて差し上げましょう。そのためには、私が御者をするのが一番ですから」
「しかし殿下。それでは、貴方の身に危険が及んでしまいます」
言っても聞かないだろうなあ、などと思いつつも、一応警告する。
「危険な真似をするのは、貴方も同様でしょう? ゲラルト卿。それに……」
ウェイン王子がロワちゃんの方をちらりと見てから、私にヒソヒソと囁く。
「私はロウェルミナ殿下のために、ひと肌、脱がなくてはならないのですよ」
そう言って、ウェイン王子はニッコリと笑った。
…………
そして、現在。
ウェイン王子の思惑に、オウルたちは、まんまと乗せられてしまったというわけだった。
「ナトラの王太子が、なぜこんな所にいる! ……ま、まさか……!?」
「その、まさかだ。こうも単純に引っかかってくれるとは、お礼を言いたいくらいだな」
どうやらオウルたちも、これが罠だと気付いたみたいだった。
後は、彼らを一人残らず、捕縛できるかどうかだけど……。
「おのれ、小癪な! だが、貴様たちはたったの5人! 我らの手勢の方が勝っている! このまま貴様らを残らず殺してしまえば同じことよ!」
オウルの言う通り、私たちの手勢は、ウェイン王子と護衛を含めて5人だけだった(私とグリナッヘは、もちろん戦力外。グリナッヘさんは、剣の腕はダメみたいだしね)。
対して、オウルの方は15人くらいいる。アニメじゃ、ウェイン王子を襲撃したのは10人くらいしかいなかったけど、今回は、相手を全てあぶり出すのが目的だったから、このくらいの人数になるのは分かっていた(そのために、屋敷の書類を全て持ち出したのだ。屋敷にオウルの仲間を残しておかないために)。
普通だったら、たった5人で3倍の人数を相手にするなんて無茶というものだろう。
しかし、オウルたちが相手にしているのは、ただの人じゃない。
なにしろ、「天才王子」であるウェイン・サレマ・アルバレストなのだから。
オウルの槍を剣でかわし、ウェインが告げる。
「俺の手勢がこれだけだと、誰が言った?」
か、かっこいい~~~!!!
アニメで聞いたセリフ、そのものだ!
「な、なに……!?」
オウルの顔が、見る間に曇っていく。これもアニメのまま。
こうなったのなら、もうオウル達に勝ち目は無いってやつだね。
そして事態はそのまま、最後の展開へとなだれ込んでいく。
ドカカッ! ドカカッ! ドカカッ!
地面を揺らす、たくさんの足音……。
それは、道の向こうからこちらへと向かって駆けてくる、たくさんの馬の足音だった。
やがて姿を現した、その馬たちに乗っていたのは……、
鎧兜で完全武装した、およそ二十騎ほどのナトラの兵士たちだった!
もちろん、この襲撃をすでに予想していたウェインが手配していたものだ。
「おのれ! すでに仲間を手配していたのか!?」
オウルが忌々しげに叫ぶ。
「そういうことだ。お前たちの動きは、屋敷に潜入させていた俺の手勢が逐一把握していた。後は、エサに食いついてノコノコ暗殺に出かけていくお前たちの後を、つけていけばいいってわけだ。さあ、どうする!?」
これではもう、オウルたちに成すすべはない。
暗殺は失敗。証拠書類も奪えず。
そしてもはや、その身さえも危うい状況だ。
こうなってしまったのなら、彼らの取る道は一つだけだった。
そう、捨て台詞を吐いて、逃げるってこと!
「くそ! 全員、退避! ウェインめ! 覚えておけよ!」
そう言って、オウル達は追っ手と反対方向へと駆け出していく。
敵の居ない反対方向へと逃げれば、後はいくらでも追っ手を撒けると思ってのことなのだろう。
しかし……、
「もうじき森を抜ける! その後は、各々散開して追っ手を撒け! 合流地点で会おう!」
そう叫んだオウルが見たものは……、
森の先の平野に待機する、何百もの騎馬隊の兵士たち!
「あれは……、ま、まさか……!」
その「まさか」ですよ、オウルさん!
馬に乗った騎馬隊は皆、ナトラの鎧兜に身を包んでいる。
たくさんのナトラの旗印が、風になびいていた。
そう、待機していたのはもちろん、ナトラの兵士たち。
ウェインの指示によって、森を抜けるこの場所に待機していた者たちだった。
「全て予測済みだったということか……」
オウルが、観念したかのように力を落としてつぶやく。
オウルの言う通り、彼らの動きをウェインは全て予測していた。
アントガダルの屋敷からナトラへと向かう道を調べ、暗殺に最も適している森の道でオウルたちに襲撃させるように仕向ける。
そしてオウル達が敗走するルートも予測し、その先の平野に、とどめとなる兵士たちを待機させておいたのだった。
つまりウェイン王子の方が、オウルより一枚も二枚も上手だったわけ。
さすがはウェイン王子だね!
観念して力を落とすオウル達の元へ、ウェイン王子率いるナトラの騎馬隊が追い付く。
オウル達は武器を持つ手も下げて、ただ恨めしそうに、眼前に広がる光景を見つめているだけだった。
「チェックメイト」
ウェイン王子が、不敵な笑みを浮かべてそう告げた。
ひと騒動が終わり、オウルたち、工作員の者たちは全て捕縛された。
その数、全部で16名。
随分と潜り込まれていたものだね。やばいなアントガダル。
でもまあ、相手もそれだけのプロ集団だったってことで。
取り敢えず、オウル達はそのまま、ナトラで待つロワちゃんの元へ引き渡されることになった(アントガダルに戻されても困るし)。
アニメじゃ、オウルたちはそのまま逃げて行ってしまったけど、彼らはこれからどうなるんだろ?(6話以降にも登場するのかな?)
でもまあ、後は「頭の良い人達」がなんとかしてくれるのだろう。
私の役目は、これで終わったのだから。
もう、こんな危険な目に遭うなんてこりごりだよ。
オウル達がウェイン王子に連れて行かれる際、彼等が、馬車の前に立つ私(ゲラルト)の前を横切った。オウルが恨めしそうな目で、私とグリナッヘの二人を見てくる。
「命拾いしたな。とんだ邪魔者が入らなければ、今頃お前たちは我らに葬られていたものを」
オウルが、へらず口を叩く(仕方ないとはいえ、オウル君に嫌われちゃったのは残念。うう、かわいい子なのに……)。
「お前は勘違いをしているぞ、オウルとやら」
そんなオウルに、ウェイン王子が声を掛ける。
「今回の作戦は、元はといえば、全てそこにおられるゲラルト卿のご提言によるものなのだ」
「……なに?」
オウルが驚いて尋ねる。
「ゲラルト卿は、お前たちの存在に全て気が付いていたのだよ。その上で、ただの放蕩息子を装って、お前たちの計画に乗せられているフリをしていた。反乱計画に乗って諸侯たちをあおったのも、全てゲラルト卿の計算の上。お前たちは最初から全て、ゲラルト卿の手の上で踊らされていたのだ。力量を見誤ったな、オウル」
「ぐ……」
オウルが歯をギリギリとくいしばって悔しがる。
そのまま私の方を見て、何も言えずに引き渡されていった。
……って、
いやいやいやいや!
なんだか凄い担ぎ上げられちゃったみたいですけど!
ゲラルトに作戦なんてありませんでしたけど? ただの放蕩息子でしたけど?
でもまあ――
そういうことにしておこう。
ちょっと、悪い気はしないからね。
アニメで見た少しばかりの知識だけでも、随分と役立てることができるもんだ。
もちろん、それを活用してくれるウェイン王子やロワちゃんみたいな人達の助けは不可欠ですけどね。
というわけで……、
今回の騒動は、これにて大団円。
工作員たちは残らず捕まったし、諸侯たちの反乱も、帝国が食い止めてくれた。
グリナッヘさんの心配事だった諸侯たちとアントガダルとの仲だけれど、それもロワちゃんが上手くまとめてくれたみたい。
反乱計画は全てオウルたち工作員に乗せられたことが原因であり、アントガダルは帝国と協力して工作員たちを捕縛し、諸侯たちを救った側という立場になった。
このまま工作員たちに利用されたままでいたとしたら、諸侯たちもただでは済まなかっただろうからね。
そのため、アントガダルは諸侯たちに感謝されることとなった。私(ゲラルト)のことも一目置かれる存在になったみたいだけど、それはまあ、置いておくとしよう。
そして最後に、ロワちゃんとウェイン王子のこと。
今回の騒動はアニメの4~5話に相当する出来事だったけど、今回のウェイン王子の行動は、ロワちゃんとの昔の約束に基づくものだった。
ロワちゃんが困った時があったなら、力を貸してやる。
そのために、ウェイン王子はロワちゃんにとって一番理想的な結末をもたらしてくれたのだ。
反乱計画を食い止めるためだけなら、ウェイン王子はもっと簡単な手を使うこともできたはず。だけどロワちゃんが今後アントガダルや諸侯たちを取りまとめることがしやすいように、そのための手を尽くしてくれたわけなのだった。
なんだかんだ言うことは言うけれど、やっぱりウェイン王子はロワちゃんのことを大事に思っている。
ロワちゃんがウェイン王子に惚れてしまうのも、分かるよね。
(私はウェイン王子もロワちゃんも両方好きだよ!)
「それではゲラルト卿。私はこれで、ナトラへ帰るとします。貴殿には本当に助けられました」
一件落着の後、ウェイン王子と固い握手を交わし、私もしばしナトラの皆さんとはお別れとなる。
だけど、今回のことでナトラとアントガダルは、強い連帯関係を結ぶことができた。
近いうちに正式な書状をもって、ナトラとは同盟関係になることができるだろう。
この世界に転生してわずか2日ばかりのうちに、ここまでナトラに接近できるとは思ってもみなかったよ。
最初はどうなることかと思ったけど、やっぱりあの女神、やるね!
この分なら本当に、ナナキきゅんとの縁談話も夢じゃないかも。
うおおー! やっちゃるぜ!
そんなこんなで帰宅。
今日はとにかく疲れた。文字通り、命がけのミッションだったしね。
まずはゆっくり風呂にでも入ってから、ぐっすり寝よう。
屋敷に着いたら、アントガダル家に潜入していたナトラの皆さんが私達の帰りを待っていた。私とグリナッヘが無事戻るのを見届けてから、ナトラへ引き上げるつもりだったらしい。
そうだった、オウルたちの動きを偵察するために、屋敷にナトラの人たちが潜入してるってウェイン王子が言ってたっけね。そこまでは聞かされていなかったけど。
それはそうとして、ここはしっかりと、彼らに感謝の言葉を伝えてねぎらってあげなければ。
「アントガダル侯、ゲラルト卿、ご無事でなによりでした」
馬車から降りた私たちに、ナトラの人たちが声をかけて深々と頭を下げる。
「いえ、私たちが無事にいられたのも、すべてあなたがたのおかげです。改めて、心よりのお礼を申し上げたい」
グリナッヘが頭を下げて、それに応える。私も合わせて、頭を下げた。
と、その時……。
あれ……?
列の後ろの方に、なんだかちっちゃい人影が……。
え? え? もしかして……、
ナナキきゅん!!!???
白い髪、赤い瞳、
スベスベ肩露出の、激カワ・コスチューム!
間違いねえ!!
ナナキきゅんだーー!!
屋敷に潜入していたナトラの偵察員として、ナナキきゅんも来てたんだ!
それを先に言ってくれれば、私は屋敷でお留守番してたのに!(確かにアニメでは偵察員として屋敷に潜入していたけど、今回は状況が違うから来ないと思ってたんだよ! 状況違っても、やっぱり来るのかよ! それ、本当に先に言ってよ!)
「ナ、ナナキきゅん!」
これは不意打ち。
これは反則。
いきなり目の前に本物のナナキきゅん突き付けられたら、そりゃ叫んじゃうでしょ!
「きゅん?」
そんな私のことをいぶかしみつつ、ナトラの人たちがポカーンとして尋ねてくる。グリナッヘさんも、首をかしげて「?」といった様子。
「あー、いや、ごほん」
咳払いをしてごまかしたけど、不自然な反応をしてしまったことはごまかしようもなかった(取り敢えず、「きゅん」の意味が分かってないみたいだったので、それは良しとする。ショタだのショタコンだのって言葉も、この世界には無いみたいだしね。ほっ)。
「え、と、ナナキ・ラーレイさんですよね? まさかこんな所でお会いできるとは、光栄です!」
ここまで来ちゃったなら、少しくらい構わないだろう。いずれ正式に会合の場を設けたいとは思っていたけれど、どさくさに紛れて少しくらい、今ナナキきゅんとお話ししちまえー。
「はあ。え、と、俺のこと知ってるんですか?」
はあああーーー!!!
ナナキきゅんが私に向かって話しかけてるうぅぅぅ!!!
声、カワイイーー!!
幸せーー!!!
「あの、大丈夫ですか?」
ナナキきゅんが心配してくれた!
っていうか、私の「おつむ」のことを心配したのかもしれないけど……、この際それは置いておく。
「は、いや、申し訳ありません。つい、取り乱してしまって」
スハー! スハー!
まずは深呼吸して落ち着け私!
でも、ああ……、ナナキきゅんの香りが……!
髪の毛クンカクンカしてえ!!
ショートパンツから伸びる太もも、頬ずりしてえ!!
って、だから落ち着けショタコン!!
…………
…………
よし!
もう大丈夫(たぶん)。
「いえ、ナトラのウェイン王太子より、お噂はかねがね伺っておりまして。ウェイン殿下の補佐役であられるニニム殿には弟君がおられて、ニニム殿に劣らず、素晴らしく優秀な人物でいらっしゃると。ですから、以前よりぜひ一度、お会いしたいと思っていたのです」
よし。ちょっとは、まともなことが言えたかな。
まだ心臓はバクバクものだったけどね。落ち着け、落ち着け。
「ウェインがそんなことを……。彼はいちいち、言うことが大袈裟なんです」
うおー、ナナキきゅんが謙遜してる!
カワイイ!!
「いえ、私は、あなたの優秀さをとても高く評価していますよ。それで、もし良かったら……、是非とも一度、改めて場を設けて、私と会ってもらえないでしょうか? 色々と、お話を伺いたいことがありまして」
どさくさに紛れてデート(?)に誘っちゃえ作戦、発動!
もうナトラとは深い仲になれたわけなんだし、このくらい、いいんじゃないでしょうか?
いいよね、神様!
「はあ。えと、まずはウェインに聞いてみます。お返事は、追々、書簡でということで」
ですよねー。
そりゃ、いきなりそんなこと言われたら、そう応えるよねー。
やっぱり強引過ぎたかー。
でも、ナナキきゅんと会って話せるなら、私はいくらでも待つつもりだ。
それまで私は、自分を磨き続けるよ(ちなみに、ラーレイって名字も同じだし、ナナキきゅんはニニムちゃんの弟だと思うんだけど……、ホームページとかにはその説明が無い。でもまあ、たぶん弟ってことでいいんだと思う)。
「ありがとうございます。貴方と再び会える日を楽しみにしております。では、くれぐれもよろしく」
そう言って、下品にならないように気を付けながら笑みを浮かべて、手を差し出す。
ナナキきゅんの方は困っていたみたいだったけど、とまどいながらも握手をしてくれた。
やったーい!
ナナキきゅんと手つないじゃった!(語弊)
この手は一生洗わない!(いや、洗え)
それから、ナナキきゅんはナトラの皆さんと共に帰路に着いた。
思わぬ所でご褒美を貰ってしまった私は、一人浮かれたまま。
そんな私に、グリナッヘさんが心配げに声を掛けてくる。
「どうしたゲラルト? そなた、少し変だぞ?」
まずい。やっぱりどうみても、おかしな奴になっちゃってるよな。
しばらくはナナキきゅん熱は抑えて、冷静に過ごさないと。
そのためにも、まず……、
グリナッヘさんに今、きちんと伝えておかないといけないことがある。
それは元々、一段落が付いたら、きちんと伝えておこうと思っていたことだった。
「父上」
そう言って真面目くさった顔をして、グリナッヘさんの前にひざまずく。
「私は今まで、放蕩が過ぎました。父上に多大なるご迷惑をおかけしましたことを、ただただ恥じております。これからは自らを律し、アントガダルの名に相応しい名士となれるよう、努力してまいる所存です。こんな私ですが、どうぞ父上のご助力を賜りますようお願い致します」
突然、取って付けたようなセリフだったけど、これは至って大事なことだった。
今まで迷惑をかけてきたグリナッヘさんへの正直な気持ちであると同時に、自らに対しての生き方の宣言でもあったからだ。
私はこの世界で、ゲラルトとして新たな人生を送っていく。
そのために、これからは今までの悪評まみれのゲラルトを捨て去り、名士としての道を歩んでいかなければならない。
私にどこまでできるのかは分からないけれど、少なくとも、善の道を歩んで皆に好かれるような人物になっていかなければ。
そうでなければ、ナナキきゅんに対しても顔向けできないしね。
「おお、ゲラルト……」
グリナッヘさんが、感極まって応える。
「よし、分かった。困ったことがあれば、父に何でも尋ねるがよい。私はいつでも、そなたの味方だ」
そういって、私の両手を取って握りしめてくる。
やっぱりグリナッヘさん、親バカだ。
でも、何だかとっても心温まる親バカっぷりだ。
ナナキきゅんだけでなく、グリナッヘさんのためにも、私は頑張っていかなくちゃと強く思った。
「ありがとうございます、父上……」
はは、何だろうね……。
グリナッヘさんは、私の本当の親じゃないのに。
何だか私まで、涙が出てきたよ……。
「礼など、水臭いぞゲラルト。子の成長を願わぬ親がいるものか……」
グリナッヘさんがそういって、顔をそむける。
影に隠れて涙をぬぐっているのは、一目瞭然だった。