ソードアート・オンライン/コンプリート・ストラテジー 作:空素
「転移門が使えねぇって…どういう事だよ!」
クラインの声が上がる。
それに呼応するように周囲の騒めきも大きくなる。
俺とアスナも、一先ず主街区内へ足を踏み入れる。
クラインが人混みを掻き分け、転移門の台座まで登る。
転移門は、円形の広場の中心に、四方から階段を登った先に一台高くなって設置されている。
転移門の上には天蓋があり、九本の柱で支えられている。
周囲には水路や花壇、ベンチなどがあり、地面が白亜の石造りなのも相まって、美しい景観を呈していた。
しかし、その景観とは裏腹の転移門の使用不可という悪夢のような出来事。
それは、攻略の根本を揺るがす重大事変だった。
「転移!アルゲード!転移!アルゲード!」
クラインが必死に転移門で叫ぶ。
通常の転移門であれば、このように転移先の街の名前を口に出すことで移動出来る仕様なのだが、クラインはその場に居たままだ。
転移出来ないと言う事は、自分達のマイハウスに帰れないと言う事だ。
この場に居る多くのプレイヤー…否、全てのプレイヤーはマイハウスを75層以下の階層に所有しているだろう。
マイハウスに帰れないと言う事は、アイテムの補充が出来ないと言う事だ。
また、鍛冶屋のプレイヤーも75層以下の階層に店を構えており、装備品のメンテナンスを行うことも出来ない。
一応、この街にもNPC鍛冶屋は居るだろうが、プレイヤーの鍛冶屋に比べれば月とスッポンだ。
仕上がりはプレイヤー鍛冶屋の方が断然良い。
命を託すと言っても過言ではない装備品を預ける鍛冶屋の腕は高い方が良いし、信用と信頼出来る馴染みの鍛冶屋の方が安心なのだ。
また、武器強化はより顕著で、NPC鍛冶屋の鍛治スキルは固定で、成功率も高くはない。
序盤の下層であれば、装備品の強化可能回数も少ない為、ある程度は許容出来たが、今となっては、強化一回が生死を分ける。
とてもNPCで安心できるものではなかった。
「おい、どうすんだよこれ…」「戻れないとか嘘だろ…」「嘘だこんなこと…」など、疲弊し切って満身創痍なプレイヤー達は、更なる絶望に見舞われ、混乱していく。
脅威の75層ボス、攻略組14人のゲームオーバー、ヒースクリフの正体、そして、転移門の不能。
悪夢のような出来事の連続。
いや、このデスゲームと言う地獄の中で言うならば、更なる責め苦と言うべきなのかもしれない。
アスナが言った通りだ。
何が起こるか分からない。
これまでの当たり前が唐突に奪われる。
言葉として受け入れる事は出来ていても、真の意味での理解は全く及んでいなかった。
だが、恐らくこんなものは序の口だろう。
この先、残る25階層の攻略を進めて行く中で、この転移門使用不可以上の、更なる絶望が待ち受けているに違いない。
本当にクリア出来るのか?現実に帰れるのか?俺達はこのアインクラッドと言う怪物の腹の中で、溶かされるのを待っているだけなのではないのか?
違う。
俺は心に決めた筈だ。
必ず帰ると。
生きて、仲間達を、アスナを現実に帰らせると。
ならば、こんなところで挫けている場合じゃない。
どんな絶望が起ころうと、どんな絶望が待ち受けていようと、俺達は今この一瞬に生きる。
そして、為すべき事を為す。
それだけだ。
ふと、右手を温かいものが包み込む。
アスナの手だ。
アスナは不敵な笑みを浮かべて頷いた。
俺も同じく頷き、その手を優しく握り返す。
「キリト君には75層に戻る扉が開くかどうか確認して来て欲しい。その間に私がこの場を収拾しておくから」
その目には一切の不安や迷いはない。
頼もしい限りだ。
「分かった。俺の方でも、知り合いにメッセ飛ばしてみるよ」
アスナは頷き、手を離すと転移門の方へ、俺は街の外へと駆け出した。
今日という一日は、まだ終わりそうにない。
アスナさんには普段は強くいて欲しい
そして時折見せる弱った部分が良い(性癖語り)