ソードアート・オンライン/コンプリート・ストラテジー 作:空素
そして、第一章のメインシナリオはこれにて終幕となります。
実質的には、攻略していないので、序章も良いところなんですがね…。
最後に談議されたのは、今後の方針について。
とは言っても、実質的には全体のまとめのようなものだ。
一先ず、情報屋ーーアルゴからの下層の情報待ちと言うことで、攻略は一旦、保留とし、この76層主街区《アークソフィア》で、準備を整えると言う事になった。
準備と一言で言っても、やらなければいけないことは山積みだ。
各種消耗品アイテムの在庫と店舗の確保、装備品の管理(生産・強化・修繕等)可能な店舗の確保、そして、拠点となる自室の確保などだ。
ギルドの複数名で来ている者については、ギルドの拠点となる場所も確保しなければならない。
状況が安定し、下層の状況含めて、不確定要素が解消してから、攻略に乗り出す、と言うことに決まった。
否を唱える者はいなかった。
当然だろう。
74層のボス部屋では転移結晶が使えない結晶無効化エリアとなり、そして先の75層のボス部屋では、戦闘からの退避・離脱が不可能となった。
どちらもボス部屋限定だが、今後は迷宮区や他のダンジョン、フィールドでも同様の仕様変更がサイレント実装されるかもしれないのだ。
状況を逆手に取って抜け駆けしようとすれば、他プレイヤーの支援も望まれないまま、絶望的状況に陥るかもしれない。
この場に立っている者達にそれが理解出来ない者達はいなかった。
「では、他にこの場で話しておくべきことがある人はいますか?」
聖竜連合のプレイヤーが会議のまとめに入る。
75層での会議でも進行役を担っていた、盾持ち片手剣使いのプレイヤーだ。
始まりはアスナからだったようだが、進行役を担ってくれたようだ。
軽量の金属鎧を身に付けた上で顔の上部を覆うタイプの兜を被っており、口元しか見えていないが、その声の物腰は柔らかく、とても聖竜連合所属のプレイヤーとは思えない。
声色からは、かなり若いことが窺える。
少なくとも、俺やアスナと同世代のはずだ。
体格にしても、恰幅が良いわけでも無く、やや痩躯寄りの中肉中背と言ったところだ。
何処と無く親近感を覚える。
「いないようですね。それでは、アスナさんの方から何かありますか?」
話を振られ、少し考え込む素振りの後、アスナはこの場にいるプレイヤー達の前に立った。
「特にはありません。円滑な会議の進行の為、ご理解とご協力頂きありがとうございます」
既に日は落ち、街中は街灯の灯りに照らし出されていた。
今日は波乱の一日だった。
この場にいるプレイヤー全員は既に精神的に限界を迎えているだろう。
しかし、度重なる異常事態に見舞われても、動揺はしても発狂する者はいなかった。
今回の会議に関しても、我欲に駆られて暴走することは無く、皆真剣に取り合ってくれていた。
そのお蔭もあり、会議は円滑に進行した。
「明日も明後日も、まだまだ事態は収束しないでしょう。ですが、不安と恐怖に囚われること無く、また攻略出来るようになる日を目指しましょう!」
アスナは強い想いの篭った声を放つ。
その声に勇気付けられたのか、攻略組の面々の表情が僅かに和らいだ気がした。
「アスナさん、ありがとうございます。それでは最後に、今日一番の功労者である、《黒の剣士》キリトさんに一言お願い出来ますか?」
急すぎるフリに、一瞬、思考がフリーズする。
「お、俺!?」
何故、俺なのか…。
その思いを視線に込めて、片手剣士に向ける。
「ヒースクリフの正体を見破り、そして、退けたのは貴方ですからね。ここは一言、攻略組全体に喝を入れて頂きたい」
ふと、周囲を見渡すと、他プレイヤーからの期待の眼差しが弾幕の如く俺に殺到していた。
これが実弾であれば俺は今頃、蜂の巣だろう。
そしてその中には、ニヤつくクラインとエギルの顔もある。
取り敢えず、あの二人は後で泣かす。
そして、アスナからは最早眼差しに七色のライトエフェクトを伴っていそうな程の視線が迫っていた。
もうこれは逃れられそうにないな…。
俺は腹を括り、意を決して口を開く。
「先ずは、ヒースクリフのーー茅場の正体を暴いたのに、倒し切れなくて済まなかった。あそこで倒せていれば、今こうして異常事態に見舞われることはなかったと思う」
俺の言葉に、攻略組の面々の表情がやや曇る。
だが、俺は立ち込める不安の霧を振り払うように言葉を続ける。
「けど、俺は諦めない。次こそは、第100層では、絶対に決着を着けてみせる。だからーー」
俺は勢い良く頭を下げた。
「頼む!ゲームクリアの為に、みんなの力を貸してくれ!!」
暫しの沈黙が流れる。
俺は地面を見詰めたまま、顔を上げられずにいた。
薄汚いビーターと罵られ、嘲られ、蔑まれた。
75層ボス攻略前に、転移門広場に集合した時も、良い顔はされなかった。
それらの過去が、俺の頭を押さえ付けているようだった。
ふと、パチパチと手を叩く音が耳に入る。
それは次第に大きくなり、響き渡る。
俺が恐る恐る顔を上げると、攻略組のプレイヤー皆が、俺に向かって拍手をしてくれていた。
「キリトさん」
聖竜連合の盾持ち片手剣士が声を掛けてくる。
「確かに貴方の過去には侮蔑と罵倒があったかもしれない。それは決して変えることが出来ないだろう」
拍手喝采の中で、目の前のプレイヤーの声がハッキリと耳に届く。
それは、紛れもない、嘘偽りの無い本心だからだろう。
「だけど、今この場で貴方をそのように非難する者は居ない。だから、胸を張って欲しい。貴方は欠かす事の出来ない、攻略組の一員だ。こちらこそ言わせて欲しい。キリトさん、改めて、“これからも”僕らに協力してくれないだろうか」
そう言って、手を差し出してくる。
俺の中にあった、他者への凍て付いた心が、少しずつ解けていくような気がした。
ふと、脳裏に過ぎる。
第1層ボス攻略、その最中で唯一、命を落とした元ベータテスターのプレイヤー《ディアベル》。
“頼む…ボスを倒してくれ…。みんなの為に…。”
俺が中途半端に関わったせいで分不相応な迷宮区に挑み、トラップに掛かってしまい命を落とした、ギルド《月夜の黒猫団》のみんな。
そして、《サチ》。
“生きてこの世界の最後を見届けて。この世界が生まれた意味、私みたいな弱虫がここに来ちゃった意味、そして私と君が出会った意味を見つけて下さい。それが私の願いです。”
「勿論。“これからも”共に戦ってくれ」
俺は、差し出された手を力強く握り締めた。
俺はずっと“独り”で戦い続けなければいけないと思っていた。
全てを背負い、この身朽ち果てる最期の時まで。
そうしなければ、彼らに報いることが出来ないと思っていた。
だが、実際は、それはただの独り善がりだった。
“一人”で戦うことはあっても、俺の後ろには、多くの人々との関わりがあった。
それは決して、“独り”ではない。
俺は、“孤独”ではなかった。
俺は、“独り”では戦えない。
これまでも、そして、これからも、俺は多くの人との繋がりを持って戦い続けなければならない。
そうやって初めて、俺は死んでいった人たちに対して、本当に報いることができる。
そうやって初めて、俺は死んでいった人たちの“願い”を叶えることができる。
ーーこんな俺でも、また、やり直せるかな、サチ。
ふと見上げた夜空には、淡く光る三日月が浮かんでいた。
やけに存在を主張する聖竜連合の盾持ち片手剣使い…。
彼に関しては今後をお楽しみに!
そして、次章からはついに76層攻略へと踏み切り…出来ると良いなぁ…。