ソードアート・オンライン/コンプリート・ストラテジー 作:空素
楽しみに待ってくれた方(そんな人が果たして居るのか?)には本当に申し訳ないです…!
言い訳をするなら、慣れない引っ越しで慌ただしかったとか(事前に連絡しろ)、太陽をぶっ壊して王国を救ったりとか(ゲームしてるやんけ!)してました!すみません!
今後もボチボチとなるでしょうが、更新して行ければと思います…。
ー???Sideー
2024年11月7日午後5時前後。
ほぼ日も落ちかけ、夕闇に閉ざされつつある空を眺めながらふと我に返る。
窓側に向いていた体勢を正面に直し、目の前に横たわるベッドに目を向ける。
ベッドはシーツも掛け布団も枕に至るまで一切の柄の無い無地の純白のものだ。
それもそのはず、この場所は病院であり、目の前のベッドは医療用に使用されるものなのだから。
使用者は自分ではない。
ベッドには既に使用者ーー患者がいる。
点滴に繋がれており、仰向けの状態で寝かされている。
そして、その頭部には、ヘッドギアを思わせる電子機器が装着されていた。
寝ている人物は大怪我をしている訳でも、大病を患っている訳でもない。
《ナーヴギア》。
この悪魔の機械が装着された人物の意識を仮想世界に閉じ込め、昏睡状態に陥らせているのだ。
ナーヴギアの隙間からは、昏睡前から比べて随分と伸びた黒髪が垂れていた。
その黒髪を掻き分けてやり、顔を露わにする。
露わになった人物の顔はすっかり痩せこけ、肌も赤みを失っている。
掛け布団で覆われている首から下に関しても、寝たきりの状態が続き、筋肉が落ちてしまっている。
その姿を見ていると、不安に駆られてしまう。
このまま戻って来ない、そんな不安が。
「お兄ちゃん…」
目の前の人物は兄だった。
特別、仲が良かった訳では無かったが、悪かった訳でもない、と自身では思っていた。
しかし、兄の方は歳を重ねるにつれてだんだんと素っ気なくなり、最終的にはほとんど口を利かなくなってしまった。
そんな中起こった《SAO事件》。
兄も重度のゲーマーだった事もあり、《ソードアート・オンライン》の世界に囚われてしまった。
最初は事件を起こした《茅場晶彦》が許せなかった。
そして、兄を閉じ込めたSAO及び仮想世界を恨んだ。
更には、兄がのめり込む、自分に関わらなくなった原因であるゲームそのものを憎んだ。
しかし、そこでふと思った。
兄がゲームにのめり込むようになり、結果的にSAOに囚われてしまったのは自分のせいなのではないかと。
昔のように仲が良ければ、兄はゲームに没頭することなく、他の趣味に打ち込んでいたかもしれない。
そうすればソードアート・オンラインに興味を抱く事もなく、仮想世界に囚われてしまうこともなかったかもしれない。
わかっている。
そんなものは結果論に過ぎない。
過去は変えられない。
ならば信じて待つだけだ。
無事に帰って来てくれる事を。
でも、出来る事ならばーー。
ふと我に返ると、すっかり日が落ち、病室は暗闇に閉ざされていた。
電気を点けようと椅子から立ち上がると、窓に自分のーー桐ヶ谷直葉の姿が映り込む。
兄ーー桐ヶ谷和人が仮想世界に囚われてからというもの、常に気が気でなく、暇を見付けては足繁く病室に通っていた。
美容院に行く事も無くなり、兄と同じ黒髪はすっかり伸び、腰の辺りまで達していた。
自分も女子である為、最低限の手入れを欠かす事はなく、またヘアバンドで後ろでまとめてポニーテールにしてある。
また、成長期という事もあり、髪だけでなく色々と成長し、二年前とは容姿が大きく変化している為、もし和人が戻って来たら別人と見間違えるかもしれない。
そんなことを思い浮かべ、自然と笑みが溢れる。
窓側から電気のスイッチがある扉側へと歩き出す。
すると、扉が開き、人が部屋に入って来た。
「うわ、真っ暗じゃない!」
その人物は声を上げるなり扉近くの壁のスイッチを押し、明かりを点ける。
突然の光に、暗闇に慣れた目が細まる。
光に慣れた視界の先に立っていたのは、母ーー桐ヶ谷翠だった。
「えへへ…ちょっとボーッとしてたら真っ暗になってた…」
母を心配させないように、茶目っ気を出しながら頭を掻く。
「もう、ビックリするじゃない。…今日の和人はどう?」
母と共に、眠る兄のベッドに近付く。
母は近くの椅子にバッグを置くと、兄の顔を覗き込んだ。
「うん、今日もいつも通りだったよ。全く、寝坊助なんだから!毎日、起こしにくる身にもなって欲しいよね!」
あくまで明るくいる為に、そんな軽口を口にする。
「全く、ホントね!良い歳なのに妹と母親に起こしに来てもらうなんて!」
母も一緒に便乗してくれる。
しかし、その目元に滲む不安は拭い去る事は出来ない。
その後は無言のまま、二人で兄を見守っていた。
しばらくして、母が立ち上がる。
「さて、それじゃあそろそろ帰りましょうか」
無言で頷き、釣られて自分も立ち上がる。
毎日通っているが、この帰る間際が一番辛い。
今帰ったらもう会えないのではないか、明日同じように会えないのではないか、そんな考えが後ろ髪を引き、足取りが重くなる。
病室から出る前に振り返り、ベッドの和人を一瞥する。
「また、明日来るからね、お兄ちゃん!」
鼻の奥がツンと疼き、目尻に涙が滲む。
「大丈夫、お兄ちゃんは居なくなったりしない」「絶対に帰って来てくれる」と、自分に言い聞かせ、落ち着かせる。
「おや?」
扉を閉めたところで、そんな声が耳に入る。
母ではない、男性のものだった。
声のした方を見ると、メガネを掛けたスーツ姿の男性が立っていた。
和人の病室で何度か会ったことがある。
確か、SAO事件の対策本部に属しているという人だった気がする。
「あら、こんばんは」
母が気付いて挨拶と会釈をする。
それに釣られて自分も会釈する。
「こんばんは、お帰りですか?」
メガネの男性は穏やかに微笑みを返す。
その微笑みが、とても胡散臭く感じる。
「ええ、そちらはお勤めか何かで?」
前々から、どうしてもこの人は信用にならないと感じる。
「まあ、そのようなものですかね」
貼り付けたような笑みの裏に何か隠しているのではないか、そんな曖昧で不躾な勘が不快感を湧き上がらせる。
「我々のような現場にいない人間はどうしてもデータで物事を読み取りがちになって、本質を見失う。そうならないようにこうして現地に赴いて、自分自身の目で見て、物事を判断しなくてはならないと思うんです」
その不快感はいつしか不満となって溜まり、不満は怒りとなって込み上げてくる。
「それにこうして現地に赴けば意外なところに解決の糸口がーー」
抑え込むのもままならず、それは火山の噴火のように噴き出した。
「そんな事で本当に解決出来るんですか!?」
自分でも驚く程の声が出た。
母も男性も突然の大声に目を点にしている。
病室で大声を出してはいけない。
頭では分かっていても、止まる事は出来なかった。
「いつになったら犯人は見付かるんですか!いつになったらあの機械を外せるようになるんですか!いつになったらゲームはクリアされるんですか!いつになったらーーお兄ちゃんは帰って来るんですか!!」
言いたい事、腹の中の鬱憤を全て吐き出し、息を切らせる。
「ちょっと、スグ!」
母が諌めるように小さく叫ぶが、肩で息をしたまま、相手を睨み付ける。
男性は俯いたまま、頭を下げた。
その姿を見て、何だか自分が居た堪れなくなり、早歩きで脇を通り抜ける。
背後では、母が男性に謝罪している声が聞こえる。
申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
自分の鬱憤を晴らす為だけに喚き散らし、母にも周りの人にも、散々迷惑をかけ、足早に立ち去る。
自分が嫌で嫌で仕方がない。
でも、あの男性に謝罪しようとは到底思えなかった。
そこにもまた、自分の弱さが見えるようで自己嫌悪を感じる。
そのまま母を待たずに階段を下り、ロビーを通り、病院の外に出る。
顔を上げると、そこには雲ひとつない夜空が広がっていた。
「帰って来てよ…お兄ちゃん…」
その後、母と合流し、無言のまま、母が運転する自動車で帰宅し、無言のまま夕食を食べる。
せめてもの罪滅ぼしにと、洗い物は自分で二人分をこなし、その後、すぐに入浴を済ませると自室に篭る。
髪を乾かし、軽く肌を保湿すると、ベッドに腰掛ける。
ドッと疲れが込み上げ、そのまま仰向けに倒れ込む。
ふと顔を横に向けると、ベッドの頭の上の台部分に、円環状の機器があるのが目に入る。
《アミュスフィア》。
《ナーヴギア》の後継機に当たる、フルダイブマシンだ。
ナーヴギアの危険な部分を取り除き、安全性を考慮したデザインをしており、現在、SAO事件最中であっても多く普及している。
いや、既に多くの人はSAO事件を忘れずとも過去のものにしてしまっているのだ。
《アミュスフィア》の普及に伴い、少なくない新規タイトルが世に出回るようになっている。
自分のプレイしている《アルヴヘイム・オンライン》もその一つだ。
最初は単なる好奇心からだった。
兄が事件に巻き込まれ、最初は大きく取り乱した。
しかし、徐々に落ち着き、物事を前向きに考えられるようになった頃、ふと思った。
兄を魅了したゲームとは、仮想世界とはどんなものなのだろう、と。
そして、その頃、話題になっていたのが、妖精の世界を舞台にしたファンタジーゲーム《アルヴヘイム・オンライン》通称《ALO》だった。
最初は当然、不安も恐怖もあった。
アミュスフィアは安全性を売りにしているとは言え、同じ仮想世界を創り出すフルダイブマシンなのだ。
だが、その不安も、恐怖も、新しい世界への好奇心の前に霧散していった。
その時初めて、兄と同じ立場に立ち、少しだけ兄の気持ちを理解出来たような気がした。
手を伸ばしてアミュスフィアを取り、頭に装着する。
仰向けに寝転んだままゆっくりと目を閉じる。
ダイブしている間だけは、現実の不安や恐怖から解き放たれる気がした。
ーーだからあたしは、今日もあの妖精郷に飛び立つ。
「リンク・スタート」
今回は、前回で本来ならゲームをクリアしていた筈の日が終わったので、現実の様子を直葉視点で描いてみました。
本時空のスグちゃんは髪が伸び、パッツンなのは変わらずですが、ロングポニテになっています!
理由は、作者はリーファの容姿が好きなので、現実でもスグにロングになって貰いたかったからです(性癖)!
次回からこそ階層攻略に踏み出して行こうと思います!
スグ(ついでに名前が明かされなかった胡散臭いスーツのメガネ)の出番もまだまだあるのでお楽しみに!