ソードアート・オンライン/コンプリート・ストラテジー   作:空素

3 / 18
この物語は、基本的にキリト視点でお送り致します

たまに、別の人物視点もあります


世界の深淵で

空間が震え、揺らぎ、至る所で構成するポリゴンが浮かび上がり、全域にノイズが走っていた。

漆黒の石材で包まれたこのボスフロアには不釣り合いな極彩色が空間を彩る。

 

加えて、この場にいる全てのプレイヤーが、止まっていた。

あのヒースクリフですら、剣を突き出す姿勢で静止している。

その様はさながら、バグで固まった映像のようだった。

 

意識はあるし、辛うじて視線も動かせるが、アバターはまるで時が止まったかのように動かない。

否、実際、この場所、或いはアインクラッド全体でゲーム内の時間は停止しているのかもしれない。

 

そして、今度は揺らぐ空間の至る所で裂け目が生じる。

それは俺とヒースクリフの間にまで発生し、その裂け目の中の虚無の暗黒が大きく広がり、俺たちを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付けば、俺は真っ暗な空間に立っていた。

見渡す限りの闇。

ゲームに良くある裏世界のような場所に紛れ込んでしまったのか。

呆然とそんなことを考えていると、ふと目の前に光が生じた。

 

それは映像だった。

プレイヤーが映っている。

そのプレイヤーを俺は知らない。

少なくとも顔見知りではないだろう。

だが、そのプレイヤーに俺の視線は引き付けられた。

 

そのプレイヤーは泣いていた。

悲しみからか、苦しみからか、憎しみからか、怒りからか。

或いは、その全てか。

 

その映像の横に、また映像が浮かび上がる。

その映像にもプレイヤーが映っており、同じように涙を流していた。

 

映像は徐々に増えていき、虚無の暗黒を埋め尽くす勢いだ。

だが、それと反比例するように、俺はその空間から遠退いていく。

そして、ふと気が付く。

 

俺が立っていた場所に、誰かが立っていた。

 

その人物は、肩越しに振り向く。

 

顔は良く見えなかったが、薄紫色のウェーブがかった肩ほどまでの髪の女性のようだった。

 

純白のワンピースに身を包んだ紫髪の女性は、僅かに微笑み、その頬を涙が伝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付くと、俺は再び第75層フロアボスの部屋にいた。

 

闇に飲まれる直前と同じ位置で、同じようにヒースクリフが正面。

離れた場所に、他の攻略組のプレイヤー達も同じ状態でいる。

 

ーーさっきの場所は?

 

思考を深めようとするが、ふと視線を周囲に向けると、空間の歪みが消えつつあった。

そして、間も無く、アバターの硬直が解け、俺は反射的に後方に飛び退いた。

 

先程の事象が何なのかは分からない。

他のプレイヤー達も同じ光景を目撃したのかも分からない。

だが、あの映像は紛れも無い本物に違いないだろう。

今、この瞬間にも、この世界の何処かで涙を流している人達がいる。

 

この悲しみを食い止める為にも、俺は戦わなければならない。

《二刀流》を持つ者として、《神聖剣》のヒースクリフを打ち倒さなければならない。

 

己を鼓舞し、両手の剣を強く握り締める。

 

「おおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

石床を強く踏み締め、ヒースクリフへと駆け出した。

 

ヒースクリフは俺を仕留めきれなかった悔しさからか、顔を歪ませ、大盾を構えている。

防御体勢のヒースクリフへと肉薄しすると、ヒースクリフは大盾による打ち付け、シールドバッシュを繰り出して来た。

 

以前はまんまと直撃したが、今回は見えている。

咄嗟に両手の剣を交差させ、大盾の面を受け止める。

だが、衝撃は強烈で、両手の剣は弾かれ、俺は大きく退け反ってしまった。

 

今の俺は、首から腹部まで正面がガラ空きだ。

奇しくも、先程と同じ状態だ。

 

だが、不思議と焦りも恐怖もなかった。

ただただ、負けられないという想いが脳内に満ちている。

 

ヒースクリフが勝利を確信したような笑みを浮かべる。

上に掲げる長剣が血のような深紅の輝きを放つ。

 

俺は輝く長剣から目を離すことなく、その軌跡を見据えていた。

 

「さらばだ、キリト君」

 

深紅の長剣が振り下ろされ、俺のアバターを深々と斬り裂く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、俺のHPは一切、減らない。

 

ヒースクリフの表情が驚愕に染まる。

 

斬られた状態で硬直する俺“だった”アバターが白み、歪み、ノイズが走る。

虚像と言うべき偽のアバターとズレて重なるように、本物の俺は立っている。

 

斬られたと思ったら、斬られていなかった。

何を言っているのかわからないと思うが、俺自身、何が起こっているのかわからない。

 

だが、今それを追求している余裕はない。

浮かび上がる疑問を脳の片隅に追いやる。

虚像のアバターを突き破るように、俺はヒースクリフへと再び疾駆した。

 

「はあぁぁぁぁあああああああああああああああああああッ!!」

 

スキル硬直中のヒースクリフへと、右の剣を突き出す。

 

間一髪で解放されたのだろう。

突き出した切っ先はヒースクリフの頬を掠めるに終わる。

だが、無理に回避したせいで、足元が覚束ない、不安定な体勢だ。

 

押し切るには、今しかない。

 

反時計回りに身を捻り、平行に揃えた両手の剣を右上から左下に振り下ろすように斬り付ける。

大盾で防御されるが、揺さぶっている感覚がある。

 

矢継ぎ早に、連撃を叩き込む。

振り下ろした両手の剣を水平に薙ぎ、左の剣を斬り返し、両手で突き、斬り払う。

 

ヒースクリフがたたらを踏んで後退する。

その顔に余裕は無く、苦痛に歪んでいる。

 

畳み掛けるように、二刀による上段からの振り下ろし、手首を捻り、斬り上げる。

 

ヒースクリフが大きく仰け反り、大盾の防御が剥がれる。

 

「これで決める!!」

 

両手の剣が、青白い煌めきを放つ。

 

「《スターバースト・ストリーム》!!!」

 

《二刀流》上位技、16連撃のソードスキル。

 

《二刀流》のソードスキルの中で最も熟練度の高い、切り札とも言える技だ。

 

その名の通り、斬り付ける度に星屑が爆ぜるかのように光芒が弾け、その攻撃速度はまるで流星の奔流の如く大盾を押し流していく。

 

ヒースクリフは、流石と言うべきか。

あの状態から、殆どの攻撃を防御している。

 

だが、全てを完璧に捌き切ることは出来ず、徐々に全身に傷が増えていき、HPもそれに応じて減少して行く。

 

そして遂に、ヒースクリフの大盾を弾き上げる。

だが、こちらも、残り一撃。

これを防がれれば、大技直後の大きな硬直により、隙を晒す事になる。

HPは、向こうは既に《瀕死域(レッドゾーン)》達し、こちらは《半減域(イエローゾーン)》とは言え、硬直中に攻撃を受ければ、敗色濃厚だ。

もう後はない。

 

最後の一撃、左手の剣による全霊の突き攻撃。

 

「らああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああッ!!!」

 

喉が張り裂けんばかりに叫び、左手の剣《ダークリパルサー》をヒースクリフへと突き出す。

 

青白い星光の煌めきを纏う、透き通った青碧の刀身が真紅の甲冑の胸元へと吸い込まれて行きーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫色の障壁に弾かれた。





キリトVSヒースクリフの75層の決戦、次回完結!!(予定)

後、前回、茅場、死すと言ったが、スマン、ありゃ嘘だった
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。