ソードアート・オンライン/コンプリート・ストラテジー 作:空素
後始末
《アインクラッド》第76層突入。
それは、新たな次元への突入を意味していた。
これまでも、“区切り”の階層を越える毎に、敵の強さが強化されていった。
それは、ステータス的な意味でもあり、AI的な意味でもある。
“区切り”とは具体的には、10層ごとであったり、100層のクォーターポイントである、25層ごとであったりだ。
特に、第50層は、10層と25層の区切りでもあり、ハーフポイントでもある事からか、層全体の難易度が49層と比べ物にならない程、段違いであり、金属の仏像のような多腕型のフロアボスもまた規格外の強さを誇っていた。
“区切り”を越えた先の階層は、当然ながら、“区切り”の階層を基準に難易度が上がっていく。
“区切り”を乗り越えたとしても、ひと段落とは行かない。
あの攻略組の精鋭14人を葬った《スカルリーパー》を越えるフロアボスが残り25体も待ち受けている。
そして、そこに辿り着くまでの道のりも、より険しくなっている事だろう。
そんな時に発覚してしまった、《血盟騎士団》団長、《神聖剣》のヒースクリフの正体。
攻略組全体は勿論、特に《血盟騎士団》の戦力の低下というダメージは相当大きい。
今後の方針について、この場にいるプレイヤー達で議論が行われていた。
「それでは、この場で起こった事のあらましを《聖竜連合》の上層部に公開する、という事で良いですね?」
アスナが全体を取り仕切り、円を組んだプレイヤー達が意見を飛ばす。
《聖竜連合》とは、現在のアインクラッドで《血盟騎士団》通称《KoB》と同程度の規模を誇る大ギルドだ。
《血盟騎士団》が最強の攻略ギルドなら、《聖竜連合》は最大の攻略ギルドとなる。
所属するプレイヤーに関して、攻略よりも自分達への利益を求めて手段を問わない行動を取る者が多い為、多くのプレイヤーに危険視されている。
だが、KoBも他人事ではない。
アインクラッド史上、最凶最悪の
だが、聖竜連合にしても、まだ公にされていないだけで、アインクラッドの闇の存在が潜んでいる可能性は十二分に考えられる。
木を隠すなら森の中であるように、プレイヤーを隠すならプレイヤーの中だ。
聖竜連合は油断ならない。
それでも攻略ギルドである事は変わり無く、攻略組の一角であるKoBの戦力が低下した今、今後の攻略について話し合わねばならない。
一応、この場にも数名が参加しているが、地位は高くないようで、仲介役を担ってくれるようだ。
「それで良いと思います。ですが、《KoB》の副団長であるアスナさんだけでは立場が悪い。この場にいる、ギルドのリーダー数名、そして《黒の剣士》が同行するべきだと思います」
聖竜連合に所属する、軽量タイプの金属アーマーに身を包んだ盾持ち片手剣使いの男性プレイヤーが付け足す。
彼はまだ良識がある部類の人間らしい。
《聖竜連合》に弱みを知られることにはなるが、隠して後々発覚して突かれるよりはよっぽどマシだ。
「それなら俺が同行するぜ!アスナともキリトとも顔馴染みだしな!」
クラインが意気揚々と立ち上がる。
すぐ暑くなってイノシシのように突っかかるクラインに一抹の不安を覚える。
「クラインで大丈夫だと思うか?」
俺は思わず、不安を口にしてしまった。
クラインが愕然とした表情で俺に振り向く。
俺はそっと視線を外した。
「クラインさんは立ってくれているだけで大丈夫です。こういうやり取りで大切なのは弱みを見せない事ですから。相手を威圧するにはクラインさんは適任かと」
完全副団長モードのアスナが汲み取った男性プレイヤーの真意を話すと、クラインは納得したように頷く
確かに、見た目だけなら野武士面で和甲冑を着たクラインは、側から見れば威嚇にもなる…のだろうか。
「基本的には、私が応対しますが、他者から見た視点の意見も求められると思うので、その時に他の方々に答えていただきたいと思います。特に、キリ…《黒の剣士》には、ヒースクリフーー茅場晶彦について、補足をお願いします」
今更、他人行儀になっても意味あるのか、などと考えながらも、俺は無言で頷いた。
議論の結果としては、先ず《聖竜連合》に赴き、上層部のプレイヤーに75層ボス部屋で起こった事を大まかに説明する。
後は向こうの出方次第ではあるが、予想されるのは《KoB》ひいては副団長であるアスナへの責任の追求だと予想され、知らずとは言え、茅場晶彦の傘下のギルドに入っていた事に対して全プレイヤーに対する裏切りや茅場との癒着など有る事無い事を様々な言い方で責めてくると思われる。
そして、向こうは賠償や口封じに金かアイテム、《KoB》が管理する狩場の譲渡などを求めてくるだろう。
最悪は、断罪として死刑が言い渡されることすら考えられた。
考えすぎとも思われるが、それ程までに、《聖竜連合》へのプレイヤーからの信用は弱かった。
説得、或いは言いくるめられれば良いが、最悪の予想ばかりが浮かび上がる。
「取り敢えず、今はこのような形で進めて行きましょう。後は、《血盟騎士団》の上位プレイヤー数名も同行して、詰めていきましょう。それでも余り猶予はありませんが…」
こう言った弱みとなる情報の報告は、遅れれば遅れる程、こちらの立場が悪くなる。
焦りは禁物だが、時間との勝負だった。
「一先ず、76層の《転移門》を《
議論が終わり、攻略組の面々が、ボス部屋の奥の上層の扉へ続く道へと歩き出した。
政治関係は難しいなぁ…。