才能全振り野郎が美少女に頑張れ頑張れされる話   作:不知火勇翔

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カマキリ怪獣

人のイメージが現実となる世界。

大衆が持つ得体の知れない恐怖心や負の感情が集積して自然発生する怪物に、人類は手を焼いていた。

怪獣のイメージと言えば、核以外の人類兵器の悉くが効かないのがお約束だが、大衆のイメージから発生した怪獣もその設定を引き継いでいて、近代兵器の殆どが奴らの肉体に傷すら入れられないのが現状だ。

 まぁそんな訳で、今日も今日とて怪獣警報が発令された。

 怪獣は海底の奥底で発生するのが一般的なので、基本海から突拍子もなくやって来る。

 そのため軍の人は海岸線を最終防衛ラインとしていて、怪獣警報というのは海岸付近の地域一帯に発令されるもので、とりあえず海岸からできるだけ離れとけ、みたいなものだ。

 ガチものの怪獣はシェルターすら無意味なので、とにかく距離を作ることが僕みたいな一般人のできることだ。

 

 

 

 

 

 

 

 整然と並ぶ車両から颯爽と降りる彼らは軍人だ。

 彼らの面持ちは皆硬いもので、死を覚悟した表情をしていた。

 軍人達が集まって並ぶと、壮年の偉丈夫が列の正面に立ち、マイクも使わず声を張り上げた。

「現在!『複合怪獣』はここから西に8キロの地点を高速で飛行している!数分、怪獣の気が変われば数十分の内に奴はやって来る!今回の怪獣は間違いなくこの防衛ラインを突破してくる!今集まった者達は全員海岸線から1キロ離れた位置に展開せよ!これ以降の追加の隊はその1キロのラインの補充に向かってもらう!各員、死ぬなよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 海岸線に沿うようにして展開している軍人さんを近くの高台から見下ろしながら、僕こと『辻(つじ) 奏吏(そらり)』はサッカーの試合前のような気持ちで怪獣を待っていた。

別に参戦しようとかじゃない。コッチに来たら速攻で逃げる。対峙するのは軍人さんの仕事だ。

逃げる気満々な上で怪獣が来ても逃げられる実力はあるので、完全に観客のつもりだ。

あー早く怪獣来ないかな。

今回の怪獣がどんなものか知らないが、多分展開している軍人さんの3割は死ぬ。それが遅いか早いかの違いだ。どうせ補充要因も少ないだろうし。

あー早く怪獣来ないかなー。

「こんな所で見物ですか?最悪ですね」

 後ろを振り向くと、天下の『都の閻魔』様がいた。

 黒髪のショートカットで星形の髪飾りをしている美少女と見かけは可愛らしいが、中身は殺戮マシーンなので僕は結構苦手な奴だ。実際仲も悪い。

 名前は『神条(しんじょう) 優香(ゆうか)』。『都の閻魔』というのは首都での渾名だ。閻魔、というのは強すぎるあまり付いたもの。つまり僕とは別世界の住人ということで、正直話しかけてもらいたくもないのだが。

「才能ガン振りの『辻 奏吏』様は軍人が無惨に殺されるのを眺めて何がしたいんですか?笑うんですか?」

 神条さんは軍人さん寄りの人なので、結構お怒りになられていた。

「別に。見に来ただけだけど」

「まさか彼らが怪獣を押し込めるとか思ってます?実践レベルの『トラベラー』は彼らの中に今いませんよ?」

 怪獣を生み出せるように、人類の中には意識的にイメージを具現化できる人間がチラホラいる。僕とか神条さんがそうだ。『トラベラー』というのはそういう人の総称だ。

「そういう神条さんは?『都の閻魔』様こそ前線に立って戦うべきじゃないの?」

 怪獣との戦闘は生還率が極端に低く、前線に立つということはほぼ死ぬことと同義だ。

 それにカチンときたのか、神条さんは僕の胸倉を掴んで引き寄せると、思いっきり頬を殴りつけてきた。

「分かってるクセに何を言ってるんですか!」

 そう。彼女は僕の監視役なのだ。僕が戦わなければ、彼女も動けない。ようするに僕の言葉は嫌味な言い方だった訳だ。怒るのも分かる。僕だって軍人さん側だったなら怒っていたと思う。

「痛った・・・・・」

 言い返してやろうと言葉を選んでいた所で、遠くの方から羽音が聞こえてきた。

 海岸線の方を見ると、無数の巨大な影がコッチに迫って来ていた。

 よく見れば、その一つ一つが巨大な羽虫の怪獣だった。

イナゴの大移動をイメージしてもらったら分かりやすいかもしれない。

「アレが今回の怪獣です。『群れで一つの怪獣』。数という純粋な強さを分かりやすく表現していますね」

軍人さんの装備を見れば戦車とか銃火器ばかりで、あの数を処理するような火力がある武器は1つも無かった。

「既にスクランブル発進した殆どがヤられているので、援護は期待できないですね」

「・・・・・・軍人さん詰んだね」

「だから加勢を・・・」

「嫌だ」

「もう一発殴りますよ?」

「やってみろ」

 神条さんが殴り掛かる前に、怪獣が海岸線に突っ込んだ。

 始まったのは虐殺だった。

 大衆が思う恐怖の象徴として生み出されたのが怪獣だ。映画のように人類との共存ルートは絶対に歩まない。

 虐殺するのが行動理念であり生きる意味。

 それがこの世界の怪獣だ。

 なので、一匹一匹がカマキリのようなその群体は手当たり次第に軍人を食べ始めた。

 肉が裂け、骨を剝き出しにして内臓を啜られる兵士は無惨だったが僕は目を逸らさず眺めた。

 あの軍人さん達は明らかに無駄死になのだが、命令した奴は誰なのだろうか。

「シンク様ですよ」

「・・・・・・・・・・・・・何の話?」

「明らかな無駄死にと思いましたよね。今」

「・・・・・」

「彼らに命令したのはシンク様ですよ」

 『シンク』というのは神条さんの上司で、僕を戦わせるために神条さんをよこしてきた張本人だ。

「つまり、つまりこれを僕に見せるために彼らを並べたの?貧弱な兵装で」

「はい。」

「・・・・・・・・・・・・そこまで」

 言いかけて、言葉を止めた。カマキリの一匹が僕に気づいたからだ。

「逃げるんですか?あのカマキリを殲滅する力が奏吏さんにはあるんですよね?」

「無いよ」

「あのカマキリを放置していたら日ノ本の半分がなくなりますよ?」

「関係ない」

「奏吏さん!」

僕は迫って来るカマキリに背中を向けると、走り出した。

神条さんも監視役なため、僕を追ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カマキリ怪獣は、日ノ本を蹂躙した。

一体一体は並みの『トラベラー』で対処可能だが、群体になると話は変わって来る。

並列意識を持っているカマキリ達は人間を越えた連携を見せ、並み以上のトラベラーすら手を焼かせ、また最強のトラベラーである『神条 優香』の不在がトラベラーに重く伸し掛かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 カマキリによって蹂躙された首都のオフィスビルだったものの屋上に、僕と神条さんはいた。

 トラベラーなのでお湯をイメージして創造できるためカップラーメンには困らないが、神条さんは不機嫌そうだった。

「・・・・・・私は、別に人類がどうとかそういうのは興味が無かったんです」

 神条さんが意外なことを言ってきた。

「へー?」

「あの日私が怒ったのは、奏吏さんが後悔しないようにと思って言いました」

屋上から首都を見渡せば、まさに廃墟そのものだった。

 西の方は善戦していてトラベラーがカマキリを押し込んでいるみたいだが、東にそれだけの戦力は無かったのでこのザマだ。

「安心しました。あんまり気にしていないみたいですね」

「そりゃあね」

 敵ばっかりだったし。

 『トラベラー』は基本才能頼りな世界だ。だから高校生の神条さんが最強をやれたし、僕だって例のカマキリには負けない力を持つことができた。頭の中で図形をイメージできるかできないか、みたいなものだ。

 才能頼りだからこそ、色々と対立が多かった。

 トラベラーの中には人を惑わす使い手もいたし大量虐殺して処刑された人もいる。

 個人が極端に力を持ってしまう存在なのだ。

 僕も偏見の目で見られ、変な言いがかりをつけられ、石を投げられたりした。

 多分、神条さんも。

 僕は物語のヒーローではないし博愛主義者でもないので、正直こんなになっても「ざまぁ」しか言うことは無い。色々やってきて、いざ有事になれば助けて貰えるなんて思っているほうが普通じゃない。

「嘘」

「ん?」

「やっぱり気にしてるじゃないですか!」

「は?」

 何の話を・・・・・・。

「自分の顔を見てください!どんな顔しているか・・・」

 手の平をヒラヒラさせた神条さんの手元に鏡が現れ、それを見せられた。

 僕の顔は、酷いものだった。

「後悔、してるんですね」

 カマキリに殺される母子を助けたことはあるが、あの日から基本的に人と関わることを避けて生きてきた。

 だからまぁ考えないようにしていたのだが。

「・・・・・・・・どうなんだろうな」

 多分、後悔している。

 今日初めて首都の廃墟を見渡して、それが実感できた。

 多分じゃない。震え上がるぐらいに後悔していた。

「奏吏さん」

「・・・・・・・」

「もう、逃げるのは止めましょう。アナタのためにならないです」

「それで戦えてたらこんな事にはならなかったよ」

「友人として!!!私は助言します」

「」

「奏吏さん、アナタは優しい人です。あの日みたいにちょっと酷いこともできますけど、私は奏吏さんの良い所を沢山知っています」

 優しいのは神条さん限定なんだけどな。

「胸を張って、生きていいんですよ?」

 僕の両肩を掴んで至近距離で説得してくる神条さんの表情は優しいものだった。

 僕が一歩踏み出すのをずっと待っている顔だった。

 ・・・・・・普通に可愛い。

「じゃあさ、お願いにゃん、って言ってみて」

「はい?」

「ほら。今まで頑張ってきたんだからさ、最後最後」

「・・・・・・・・・・・お願い、にゃん?」

「ぷっ」

「ちょっ!?奏吏さんがやれって言ったんじゃないですか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

覚悟は決まった。

突き通せなかった自分は案外ちょろいものだなと思ったが、それは置いておく。

今は何故か、なんでもできる気がした。

 

 

しばらくして日ノ本からカマキリ怪獣は駆逐され、また幸いなことにカマキリが出現中の間に別の怪獣が出現することもなく、事後処理までキチンと日の本は終わらせることができた。

日ノ本の人口が半分になったが、それを乗り越えるしか日ノ本には無いため、国民の殆どは前を向いて歩き始めた。

一番の功労者である『辻 奏吏』『神条 優香』の両名は表彰を辞退し、また神条優香にいたっては国軍を辞めた。

最初の上陸の時2人が現場にいたと噂が立ったこともあったが証拠も何も無く、噂は風化していった。

かくして、怪獣『カマキリ群体』による事変は幕を閉じた。

 

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