才能全振り野郎が美少女に頑張れ頑張れされる話 作:不知火勇翔
紅い液体が、固いアスファルトの上にを流れている。
血は汚泥と雑草ばかりの側溝を流れ、少しして流れを止めた。
その血は街灯の光を反射していて、さっきまで生き血だったのか色が鮮やかだった。
「つまんねえな」
男が立っていた。足元には、紅い血を垂れ流すだけの動かなくなった骸。
男の人差し指と中指は紅く濡れていて、骸を見れば心臓の辺りが月のクレーターのように陥没していた。
春風学園のある都市『雅留羅(がるら)』の路地裏。
怪獣の虐殺が頻発するためしばしば命が軽く考えられるこの世界であっても、その状況は異質だった。
路地裏での殺し合いなどは特段珍しくないということはない。
イメージが形を成し、それを司るトラベラーがいる。つまり何でもアリの世界だ。
それでも異質と呼べるのは、立っている男の存在だ。
男は、背丈が2mを越える偉丈夫だった。
口元には大きな傷跡があり、犬歯が人並みより大きく、額からは角が生えていた。
男は平安時代から存在する『鬼』だった。
元々盗賊として平安時代に暴れ回った彼とその仲間は、朝廷から『鬼』と呼称された。
朝廷がただの盗賊に手を焼いているとあってはメンツが立たないための、朝廷の策だった。
それだけなら事態は簡単だったが、この世界ではイメージが現実となる。
『世界の敵』とされる怪獣を大衆意識、大衆認知が作り上げたように。
『鬼』とされた彼ら盗賊達の身体は、日を重ねるごとに変質し始めた。
犬歯が大きくなり、平安時代の平均身長より少し高めぐらいだった背丈が1.3倍となり、額からは角が生えた。
そして超人的な膂力を手に入れ、不老,中には不死の能力すら持つ盗賊も現れた。
雅留羅に立つこの『鬼』は不老の鬼で、平安時代からずっと生き長らえている強者だった。
そんな彼が足元の骸を見下ろして、溜め息を吐いた。
「捨て駒か。俺に喧嘩を売るたぁいい度胸だな。それとも、俺を知らないのか?」
『鬼の男』は骸を蹴り上げて仰向けにすりと、綺麗なままの顔を見た。
その顔は、いや、顔が無かった。
皮膚が存在せず、眼球も無い。しかし髑髏と言うには多めの肉が張り付いていた。
誰がこんなことをしたのか。
こうさせた奴は、人の倫理観を冒涜して楽しんでいるんじゃないかと『鬼の男』は疑った。
それぐらい、無駄に人とはかけ離れた面貌をしていた。
`^`)/ in春風学園。
これを読んでいる読者も、一度はグループ学習というものをやったことはあると思う。
机を移動させて円形(もしくは四角形)にして、それを囲んで座って議題について話し合うアレだ。
オリエンテーションと言われたりして出会いの場のように扱われる会議だが、陰キャにとっては、どれだけ話せるかのテストみたいなものだ。
辻奏吏の場合は大会優勝→入学のルートをとったため注目度が高く、不知火吏音以外で奏吏に能動的に話しかけた人数は0人。引き籠もっていたため挽回する話術も奏吏には無く。
つまり奏吏はボッチだった。
つまり今日はテストの日だ。
しかし、奏吏の不安は杞憂に終わった。
担任の土御門甘菜考案の『死のくじ引き』で不知火吏音と同じ班になれたのだ。
・・・吏音がいるから奏吏はボッチじゃないのかもしれないが、奏吏は吏音を友達と思っていないため、心境的にはボッチなのだ。
現に、隣の椅子に座っても奏吏と吏音の間に会話は無かった。
「あー、議題は『怪獣の新しい可能性』ですね。どんな怪獣の進化が予想できそうですか?」
突然仕切り出す人がたまにいるが、そういう人を奏吏はポジティブな意味で尊敬している。能力と言うよりは、自分には無い勇気に対してだが。
今回の議題は『怪獣の新しい可能性』。
カマキリなどがそうだが、文明が発展するにつれて怪獣も進化してきている。
平安なら百鬼夜行だったが、江戸時代は巨大鯨になったり。近代だと怪獣だ。
そんな時代を重ねるごとにスピリチュアルが失せ、より現実的になっていったのは人類が色々な研究を進め、平均的に裕福になって教育がある程度行き届いたためなのだが、そこから更に怪獣が進化するとなったらどんな進化か。またどんな理由でか。
そういうことを話し合うのが今回の議題だ。
「天下の辻奏吏様なら何か思い付いたんじゃないか?」
悪意を持ったキラーパスを投げたのは、あからさまに敵愾心を剥き出しにして奏吏を睨み付けるクラスメイト『五次郎』だ。
五次郎は凡庸な顔をしていて、『顔相応の才能』とバカにされた過去を持つ悲しい少年だ。
奏吏は優香と特訓した社会性を行使して、微笑んだ。
「ごめん。何も思いつかないかな」
あくまで下手に。ここで上から言うと反感を買うだけだ。
奏吏の言葉に五次郎が鼻で笑う(ちょっと嬉しそう)と、五次郎の隣に座っていた人が口を開いた。
「ゴージー君。発表があるんだから辻さんにはあまり刺激しないでよね」
発表があるんだから。
利用しようという魂胆を隠そうともしない言動に、奏吏は、引き籠もろうかな?と真剣に考えた。
それを言った女の名前は『草木』。
彼女も平凡な顔。所謂モブ顔だった。
・・・平凡とか凡庸と言っているが、筆者の顔は中の下以下なので許してほしい。平凡なのだから筆者よりも顔は良い。だから許してほしい(二度目のウザさ)。
「だってよ、優勝されたんだぜ?あの吾郎幻様を倒してだぞ?思いついて、むしろ当然でなくちゃならないよな?辻さんよ」
「ゴージー君。」
「へいへい。唐木は何かあるか?」
『唐木(からき)』と呼ばれた少年は考え込むと、的外れなことを言った。
「頭が2つになるとかか?」
「は?バカだろお前。2つに進化ひて何になるんだよ」
「なっ!可能性の話だろ!」
「唐木も草木も止めて。不知火さんは?何かある」
今まで黙っていたツインテールの少女『不知火吏音』に草木は振った。
すると吏音は笑顔を作った。
「ある。とっておきの」
成績上位者である吏音のとっておき。
他の4人は黙って吏音に耳を傾けた。
「怪獣がいる。なら、次は怪人」
「怪人?」
「・・・」
「・・・確かに、一理あるかも」
草木と五次朗と唐木が三者三様の反応を見せる。
吏音は奏吏を見て、言った。
「奏吏は証明した。イメージが人型の生命体を作れるって」
奏吏は眉をひそめた。
また僕のせい?という顔だ。
「怪人が出たらお前の責任だな」
本当の意味での『責任』を知らずに、五次朗は悪意を込めて言った。更に奏吏が眉をひそめた。
「五次朗君。そういう言い方は、」
「事実だろ?」
「そうだけどさ」
鬼の首でも取ったかのように自慢気に語る五次朗だが、彼が怪人の存在を思いついた訳ではない。しかしこういう言い方をするのが大衆なのだと、奏吏は身に染みて感じた。
「怪人、ね」
草木が纏めると、ふと思いついたように言った。
「そう言えば、最近雅留羅で連続殺人事件が起きてるのって知ってる?」
五次朗と唐木が知らないと言うと、草木が続けた。
「私も全部は知らないんだけどね?最近変死体がジャンジャン見つかってるんだって。顔が抉られてるのだったり、脳味噌だけ抜き取られてたりで、結構凄惨な死体みたい」
「ニュースで流れて無かったぞ?」
「そこなんだよね。もしかして、犯人は怪人なんじゃない?怪人の存在を認めたくないから報道を規制してるんじゃないかな」
「怪人がいるのか?」
「かもね。ちょっと探しに行かない」
「えぇ・・・。危なくない?」
「大丈夫よ。天下の辻奏吏様がいるんだから」
奏吏と吏音を置いて、3人の話はどんどん転がっていった。