才能全振り野郎が美少女に頑張れ頑張れされる話 作:不知火勇翔
次は学園編になる予定。話の展開がゆっくりになる筈です。多分。
6歳になった頃、私のイメージが暴走した。
別に、特段才能があったとかでは無い。魔力の暴走、みたいなイベントでもない。
本気で自分を傷つけたくなった時が、ある人にはあると思う。あれだ。
私は私が分からなくなった。
そんな時だ。
シンク様が手を差し伸べてくれた。
「結局、人は求められた姿になるしかないんだよ?」
差し伸べられた手に悪意が介在しているのは、シンク様の貼り付けたような笑顔から察してはいた。
でも結局、私は私を捨ててシンク様の手を取った。
イメージの勉強をし、予定の子である辻奏吏について勉強し、何もかも吸収して。
私を捨てて私を磨いた。
そんな私に満足したのか、シンク様は私に沢山の『死』を見せた。
圧死出血死餓死etc.
まさに地獄。
最初は痛かった。苦しかった。
しかし遂には、慣れてしまった。
慣れてからは『死』を勉強した。
シンク様が必要だと感じたから、私に見せたのだと。そう理解して。
スプラッター映画が好きなのも、単純に『死』をどう表現したかに私は娯楽を求めているだけだ。別にグロが好きという訳ではない。そんなものは見飽きている。
最強と呼ばれるようになってからは、退屈な日々が続いた。
シンク様に勝つことは、早々に諦めていた。
しかし周りは私の『死』に怯え、萎縮して、話にならなかった。
つまる所、敵と呼べる相手が日ノ本にはいなかった。
退屈だった。
そして、ようやく例の王子様、奏吏さんと私は引き合わされた。
彼の第一印象は、普通のボッチだった。
トラベラーなのを隠して生きるボッチ。それだけ。
私と彼がスタートしたのは同じ日の筈なのに、彼と彼の周りは至って平凡だった。
寒いくらいに。
だから私は自分が汚されるのだと思った。
何故あんな男に迫って、キスして、押し倒さなければならないのか。
吐き気がした。
私にもまだプライドが残っていたことを初めて自覚した。
私は任務を半ば忘れて、彼と喧嘩した。
10年彼の勉強をした。彼が振り向いてくれるようにと、お洒落をした。
その結果がコレ。
逃げるばかりの彼。
私は会ってすぐに彼のことが嫌いになった。
それからしばらくして。
カマキリがやって来た。
当然、彼は見ているだけ。
私はカマキリに喰われる彼らを黙って見ることしかできなかった。
カマキリから逃げる彼について行って、色々な場所を点々とした。
一緒の部屋で寝て、同じご飯を食べて、同じものを見て、語り合う生活。
同じ時間を共有していく中で、おや?と思ったことがあった。
突然物が倒れたりして大きな音が鳴った時。サイレンが鳴った時。
彼の全身が反応した。
何かに怯えるような、そんな反応だった。
臆病?いいや違う。
結論から言えば、彼はあの日のトラウマが強烈すぎたらしい。
だから何もかもが怖い。触ろうとしなくなり、自分だけの世界を作って安心していた(そこに私が割り込んだ)。
私と同じだったのだ。
彼は、シンク様に拾われなかった私なのだ。
あの日、沢山の破壊を見て。シンク様を見て。
私は進んで、彼は止まった。
それだけの違い。
そこまで行って、私はようやく彼が分かった気がした。
早い話、私の中に仲間意識と同情が生まれた。