才能全振り野郎が美少女に頑張れ頑張れされる話   作:不知火勇翔

7 / 10
『なぜ誰も僕の世界を覚えていないのか』の漫画版を読んで、シリアスが足りないなと思ったので投稿します。
次は学園編になる予定。話の展開がゆっくりになる筈です。多分。


6.5話 神条優香の回想

 6歳になった頃、私のイメージが暴走した。

 別に、特段才能があったとかでは無い。魔力の暴走、みたいなイベントでもない。

 本気で自分を傷つけたくなった時が、ある人にはあると思う。あれだ。

 私は私が分からなくなった。

 そんな時だ。

 シンク様が手を差し伸べてくれた。

「結局、人は求められた姿になるしかないんだよ?」

 差し伸べられた手に悪意が介在しているのは、シンク様の貼り付けたような笑顔から察してはいた。

 でも結局、私は私を捨ててシンク様の手を取った。

 イメージの勉強をし、予定の子である辻奏吏について勉強し、何もかも吸収して。

 私を捨てて私を磨いた。

 そんな私に満足したのか、シンク様は私に沢山の『死』を見せた。

 圧死出血死餓死etc.

 まさに地獄。

 最初は痛かった。苦しかった。

 しかし遂には、慣れてしまった。

 慣れてからは『死』を勉強した。

 シンク様が必要だと感じたから、私に見せたのだと。そう理解して。

 スプラッター映画が好きなのも、単純に『死』をどう表現したかに私は娯楽を求めているだけだ。別にグロが好きという訳ではない。そんなものは見飽きている。

 最強と呼ばれるようになってからは、退屈な日々が続いた。

 シンク様に勝つことは、早々に諦めていた。

 しかし周りは私の『死』に怯え、萎縮して、話にならなかった。

 つまる所、敵と呼べる相手が日ノ本にはいなかった。

 退屈だった。

 そして、ようやく例の王子様、奏吏さんと私は引き合わされた。

 彼の第一印象は、普通のボッチだった。

 トラベラーなのを隠して生きるボッチ。それだけ。

 私と彼がスタートしたのは同じ日の筈なのに、彼と彼の周りは至って平凡だった。

 寒いくらいに。

 だから私は自分が汚されるのだと思った。

 何故あんな男に迫って、キスして、押し倒さなければならないのか。

 吐き気がした。

 私にもまだプライドが残っていたことを初めて自覚した。

 私は任務を半ば忘れて、彼と喧嘩した。

 10年彼の勉強をした。彼が振り向いてくれるようにと、お洒落をした。

 その結果がコレ。

 逃げるばかりの彼。

 私は会ってすぐに彼のことが嫌いになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばらくして。

 カマキリがやって来た。

 当然、彼は見ているだけ。

 私はカマキリに喰われる彼らを黙って見ることしかできなかった。

 カマキリから逃げる彼について行って、色々な場所を点々とした。

 一緒の部屋で寝て、同じご飯を食べて、同じものを見て、語り合う生活。

 同じ時間を共有していく中で、おや?と思ったことがあった。

 突然物が倒れたりして大きな音が鳴った時。サイレンが鳴った時。

 彼の全身が反応した。

 何かに怯えるような、そんな反応だった。

 

 

 

 臆病?いいや違う。

 

 

 

 

 結論から言えば、彼はあの日のトラウマが強烈すぎたらしい。

 だから何もかもが怖い。触ろうとしなくなり、自分だけの世界を作って安心していた(そこに私が割り込んだ)。

 私と同じだったのだ。

 彼は、シンク様に拾われなかった私なのだ。

 あの日、沢山の破壊を見て。シンク様を見て。

 私は進んで、彼は止まった。

 それだけの違い。

 そこまで行って、私はようやく彼が分かった気がした。

 早い話、私の中に仲間意識と同情が生まれた。

 


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