才能全振り野郎が美少女に頑張れ頑張れされる話 作:不知火勇翔
『春風学園』の寮は何不自由無いぐらい、設備が充実していた。
トラベラーなので基本お金に困らない人達の寮なのだから、当然と言えば当然かもしれない。
「奏吏。学校案内してあげる」
そして、転校した翌日。
昼休みに不知火さんが話しかけてきた。
ここまでくると、思ってしまった。
「不知火さんってさ、シンク側の人?」
出会ったばかりの時の優香と、奏吏には不知火吏音が重なって見えたのだ。
すると不知火吏音は、当然のように頷いた。
「ん。優香が死んだら、次は私」
「」
優香は前に言った。
人質を目の前で殺して楽しむのがシンクのやり方。何度も何度も人質を送って殺せば、奏吏は否が応でも動かざるをえない、と。
そういう話だった。
つまり、不知火吏音もシンクの被害者という訳だ。
「ッ・・・」
強烈に、奏吏は胸を痛めた。
「・・・奏吏。今更心を痛めるのは遅すぎ。私の失敗例は他に沢山、「分かってる」・・・」
実際に現場を見るのは別だが、伝え聞く範囲で奏吏はちゃんと自覚していた。
「それで。学校を案内してくれるんだっけ。お願いできる?僕はまだ学校のこと知らないし、甘菜先生はノータッチの方針みたいだし、」
「優香とも仲直りしたい?」
「それは別日でいいかな。何故か無視してくるし」
「押し倒したら万事解決」
「は?」
流石に奏吏は聞き流せなかった。
「優香、待ってるよ?」
「ないから。はい、終わり。案内して」
奏吏が吏音の小さな肩を押すと、吏音は奏吏の目を見て聞いた。
「・・・・・・・・・放置して大丈夫?優香、スッゴいモテモテ。離れてたら誰かに取られるかも」
「」
「想像した?」
ニマニマする吏音。
奏吏はこの瞬間に、自覚した。
「・・・・・・不知火さんには一生慣れないかも」
「それだけミステリアスな女ってこと」
「そうだね」
`^`)/場所移動。
「優香」
夕焼けのオレンジが差し込む、放課後の廊下。
1人で歩いた優香の腕を掴み、奏吏はそのまま壁ドンして拘束した。
「うぇ!?そ、奏吏さん!?」
突然の蛮行に慌てる優香だが、身動ぎ1つせず奏吏の様子を窺っていた。
「優香。どうして無視するの?」
奏吏がズイッと顔を近付けて問い詰めると、優香は目を逸らした。
「・・・・・・私の任務はここまでですから」
しおらしく言う優香だが、内心で奏吏の反応を見て楽しんでいた。
「嘘をつかないで。ちゃんと答えて」
「嘘じゃありませんよ?」
「優香の仕事は僕の人質でしょ?このままじゃ俺が不知火さんに流れるかもよ?」
「それは・・・・・・」
「人質としては失敗でしょ?」
「・・・」
価値の落ちた人質を、シンクは放置しておかない。
必ず楽しんでから処分する。
この場合、奏吏が優香から離れた瞬間、優香は奏吏の目の前で殺されることになる。少しでも奏吏に情が残っているのなら効果は見込める。
2人とも共通して、シンクならやると確信できていた。
「・・・優香は、死んでほしくない。だから一緒にいて」
「むぅ・・・・・・」
「いや、シンクを理由にするのはアレだよね。ちゃんと言う。僕は、僕は優香が欲しい。ずっとずっと一緒にいて欲しい。お願い。何がしたいのか知らないけどさ、」
不知火吏音と話して自覚した、奏吏の中に渦巻く黒い感情。
それは支配欲だった。
「離れないで」
奏吏が優香に対して初めて吐いた、心からの叫び。
それが優香の想像より1,2歩先だったため、優香は一瞬言葉を失った。
「その後、2人はラブラブちゅっちゅを・・・」
「「しないから!」」
近くで盗み見ていた吏音が割り込み、雰囲気をぶち壊した乱入者に2人が怒鳴った。
「おー。熟年夫婦の被り」
更に煽る吏音。
「というか吏音ちゃん!どうしているんですか!?」
優香が1人になるのを待っていた奏吏ならまだしも、この時間帯まで校内に吏音が残っているのは不自然だった。
「それは勿論、優香の痴態を眺めるため」
堂々と言う吏音に、優香は頭を抱えたくなった。
「変態じゃないですか!」
「痴態になることは否定しない・・・」
「なりませんから!」
今度は奏吏。
「する?」
「する?じゃありませんよ!何考えてるんですか!!」
「いや、、キスぐらいでそこまで騒がなくても、(笑)」
笑いながら茶化す奏吏。明らかに悪意があった。
「変態」
追い討ちの吏音。
「ちが、もう何なんですか!私が悪いみたいじゃないですか!」
集中放火をくらった優香の声が、オレンジ色の廊下に響いた。
`^`)/おまけ。
廊下での会話の後。
優香は謝罪と共に放置プレイの理由を語った。
いわく、奏吏は優香無しでは生きられないと知っているから、反応を楽しみたかったのだと。
あまりにあんまりなやり方に、奏吏は決心した。
絶対にやり返そうと。
そして翌日。
「どいて」
「は、い?」
「聞こえなかったの?」
「・・・ちょ、奏吏さん」
袖を掴んで引き止める優香に、奏吏は冷たい表情をして言い放った。
「あのさ、優香」
「は、はい」
「僕はもう優香に興味無いんだよね。さっさと視界から消えてくれないかな」
ポカンとした優香は、すぐに申し訳なさそうな顔をした。
「・・・・・・昨日のこと、怒って、ますか?」
「・・・・・・」
「その、あれは、ほんの出来心、」
「(キッ)・・・」
「・・・・・・・・・ごめんなさい」
奏吏が睨み付け、優香の声が更に小さくなる。
この段階になって、奏吏は終わりが分からなくなっていた。
確かに仕返しはしたかったが、ここで終わるべきなのか、仕返しはできたのか分からなかったのだ。
結果、謝罪を無視して奏吏は背中を向けた。
すると。
「グスッ「(あ、やべ)」・・・・・・・・ぅぇぇぇん」
嗚咽は小さいものだったが、優香がガチ泣きした。
クール系の涙に、奏吏は2秒で頭を地面にこすりつけて謝った。
「ご、ごめん!ごめん!冗談だから!冗談!優香は大好きだから!大好き!大好きだから!!!」
泣き止まない優香に、奏吏はジレて抱きついた。
「ごめん。ホントごめん。嫌いじゃないから。違うからさ」
奏吏が優しく語りかけるが、優香は何も返さなかった。
そして抱き締めために、奏吏からは優香の顔は見えなかった。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・ごめん。仕返しのつもりだったんだけど、本当にごめん」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・優香」
「・・・・・・・・・」
奏吏の背中に腕を回した優香は、今までに無いくらい強い力で抱き締めた。
そしてか細い声で、言った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もう、しないで下さい。絶対に」
「・・・・・・ごめん」
後で黄金色の和服を着こなす黒髪の美女にドツかれる奏吏が、目撃されたとかされなかったとか。