なお、
・時空が歪んでます
・オリ主です
・勢いで書いてるのでそこそこ矛盾点とかあると思います
・自己解釈マシマシです
等が注意点となりますので、よろしくお願いします。
#0「叶う夢」
ウマ娘の容姿は通常の人間よりも衰え辛いとされている。
また「本格化」のピークを過ぎてもなお、人間とは比較にならない膂力やスタミナ、瞬発力を持っており、警察官や消防士など強靭な肉体を求められる職業に競争ウマ娘を引退後優遇される職種まである。
それほどまでにウマ娘はヒトと隔絶した肉体を持ち、未だに全容は解明されていない。十代前半の華奢な肉体に何故収まるのかわからない異常な筋肉量や、何故ウマ娘となると例外なく絶世の美貌を持って生まれるのか。現実としてそこにあっても科学で証明できないことが多過ぎた。
ゆえに、ウマ娘特有の肉体の問題は誰もわからないのだ。病であればヒトと共通した部分もありどうにかなってしまうことも多い。だがしかし、ことウマ娘の中でも神秘的なものとされる「本格化」は、そういった時期があり、ウマ娘の能力がピークを迎え、やがて終わる。大まかにはこの程度しかわかっていない。異常に食欲が増えるといったこともあるが、本当にそれ以上に詳しいことはわかっていないのだ。
だが、一つだけ誰しもが知っていることがある。不可思議な存在であるウマ娘はどんな娘も本気で“勝利”の二文字を追い求めているということを。
『二連覇をかけサイレンススズカ、大欅の向こうへ躍り出た!二番手以降との差は7バ身差以上!差を広げていく!』
碧いターフを駆けて行く、異次元の域に達した1人のウマ娘は実況の勝利を確信したかのような言葉とは裏腹に焦り、掛かっていた。背後から、よく知った、知りすぎた者たちのプレッシャーを感じていたのだから。
『さあ最終直線に入――っと!?二番手につけていたタイキシャトルが上がってっ来た!更に後方からメジロドーベルとマチカネフクキタルも信じられない脚で伸びてくる!』
逃がさない。そんな執念にも似た気迫。追われる少女は全てのウマ娘が夢と思うような走りを体現した。夢はいずれ叶うと、彼女は知っている。だからこそ、圧倒的な相手へいつか、いつかは届くということも。
『まだ来るッ!最後方から!信じられない豪脚!その身体のどこにそんな力を秘めていたのかっ!』
『グングンと伸びてくる!どうなっているんだ!?メジロドーベルとマチカネフクキタルを追い抜き、まだ加速する!』
『トップスピードが違いすぎます!これは届くかもしれませんよ!』
予感がした。届くだろう。間違いなく。ここまでくるだろう。距離適正を押して強引に出場を果たした友人の悲鳴のような声が届いた。最強とまで言われ、異次元の逃げ切りの速度についてこれていた筈なのに。
残り250。振り返る。映り込んだのは水色と白の勝負服。
――届いて、この先へ!
――ここから先は、私だけのッ!
“領域”へと突入する緑と水色の2人のウマ娘。勝負を決めるのは僅か200m。
『サイレンススズカ、そして――プライズ!最後は2人の一騎打ちだッ!!』
2人の影は200mを切った時点で完全に重なり合った。
私は目の前の光景を見て首を傾げるしかない。
「えっと、そんなに見つめられても困るというか…」
眼前にいるのは身長150cm弱程度で、肩までの長さの明るい栗毛を持つウマ娘だった。深く蒼く、それでいて暖かさを感じさせる不可思議な瞳は困ったように私を見ていて、幼さを感じさせる顔は同じく困惑に染められていた。身に包む真新しい中央トレセンの制服は春に入学する生徒にしては珍しくピッタリと合わせられている。普通は通常の学校と同様、ある程度は成長を見越して大きめの物を買うのだが彼女はそうではない。
「失礼しました。無礼を承知でお聞きしたいのですが、もう一度年齢をお聞きしても?」
女性に年齢を伺うのは同性としても失礼と思いながらも私は彼女にもう一度問いかける。信じられないからだ。今、私の耳に聞こえた数字が。
「いえ、正直そう思われるのもしょうがないかと…私は今年で29歳になりました。なんでしたら娘もいますよ?」
可愛らしい、容姿通りの鈴を転がすような声から出てきた数字は聞き間違えがなかった。なかった上に、追加で確認したかった情報も出てきた。この容姿で彼女は一児の母でおまけに、
「ご息女も今年中等部で入学されていらっしゃるのですね。おめでとうございます」
彼女は高等部、そして御息女は中等部への入学。親子揃って同時に本格化を迎え始めて同時入学など前代未聞だ。
「ありがとうございます。あの子、早く私と走りたいって昨日の晩は大騒ぎで…それと生徒会長さん。敬語でなくても大丈夫ですよ?今日から私、ぴちぴちの高校一年生ですし」
その表現がどうにも友人の顔が過ぎってしまうが、彼女がそう言うのであれば敬語は止めるべきだろう。気遣われていると分かった。やり易いようにしていいと言外に言われている。
なるほど、この容姿から考えられないほど、彼女はやはり私のような小娘と違って大人なのだ。
「では失礼…改めて言わせてもらうと、君ほどの年齢で中央に入学したウマ娘は前例がない。そして、本格化を迎えたということも」
「もちろん知ってます」
「しかし、前例がないからこそ制限もなく、君は必要な試験を全てパスして、今私の前にいる」
前例がない。誰も未踏の道を通るのは険しく、通った後は自身の足跡が規範や誰かの夢、希望、絶望にもなる。彼女がこれから進むのはそういう「世界」だ。
「故に問いたい。君はこれからあらゆる苦難が待ち受ける。当面はその年齢も経歴も、明るみには出ないだろう。だが君が脚光を浴びればそれらは影として君にいずれ牙を剥く」
耐えられるのか?と蒼を射抜く。年齢からは考えられないほどに彼女の素質は高い。この年齢だからこそ同時期入学のウマ娘達よりも判断力もある。いずれ彼女は間違いなくG1で栄光を掴むだろうという確信がある。
人は時に愚かだ。ウマ娘も同じく。彼女が栄光を掴めば好奇の視線が降り注ぐ。競争ウマ娘の世界は残念ながらターフの上でただ最速であれば良い…そんな状況からはかけ離れている。
私の問いかけに、彼女は僅かな間、目を閉じて考えたようだ。
再び開かれた瞳は輝いていた。ゾクゾクとした。下品だなと、自身の現金さに呆れて笑いそうになる。
彼女は間違いなく、いずれ、私に剣を突き立てにくる。
現代社会、時に国を企業が脅かすように。
「生徒会長さん。私にも夢が出来たんです。夫が成し得なかったG1の制覇が一つ。娘と競い合うことが二つ」
指を一つずつ折って彼女は述べていく。
「高校生活も楽しみたいですね。何せ中卒でしばらくしてデキ婚でしたし?あぁ、寮生活も楽しみです。家事しなくていいの最高ですし」
――ん?
「これから3年間は自由にしていいんですもんね~えへへ。年甲斐もなくちょっとはしゃいじゃいますね」
先程まで感じたウマ娘としての闘志はどこへ行った。
漂わせていた大人としての余裕はどうして雲散した。
急激に容姿相応の挙動を見せた彼女に私が今度は困惑した。
「あっごめんなさい。何はともあれ、これからよろしくお願いします。シンボリルドルフ先輩」
「あぁ…よろしくお願いするよ、プライズくん」
圧倒的歳上の後輩、プライズ。史上最高齢となる競争ウマ娘はこうして私たちの前に現れた。