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#12「隣の芝は青く、私たちのトレーナーは黄緑色に発光する」
「二人のトレーナーさん…その、色々大丈夫ですか…?」
「ダメだと思う」
フクキタル先輩の心配する言葉にドーベル先輩が呆れたような表情で答えた。
デビュー戦後、学園に戻ってからルックさんは無茶苦茶搾られた挙句、1日自宅謹慎を言い渡されていた。この処分かなり重いらしくて、噂によればあの温厚なたづなさんがルックさんを呼び捨てで説教したらしい。あのたづなさんが…?
ちなみに、その処分を下したたづなさんはそれはそれで私とドーベル先輩に申し訳ないということでなぜか1日代理トレーナーをしてくれたけどものすごいわかりやすい教え方だった。一応、教員免許も持ってて人手が足りない時は教官も兼任してるらしい。
にしたって、まるでレース出たことあるような言い方だったり、あの人もウマ娘だったりするのかな?
なお、タキオンさんはルックさんのそんな有様に爆笑した上で容赦無く詳細不明の液体を飲ませて蛍光色にルックさんを発光させていた。謹慎だしいいだろ、ってことらしい。色々ひどい。
「もう、謹慎は解かれているのよね…?」
「はい、スズカ先輩。ただ、今後二度とこういうことを起こさないようにって、私たちも申請関連の書類は目を通すようにしました」
「余計な仕事が増えてアタシもプライズも困るよ…」
「Oh…」
悪いウマ娘じゃない…とは正直言えないけど、悪人ではないのは間違いない。実際ルックさんのおかげで私たちはデビュー戦勝てたし。ここで勝てなくて諦めてしまう子たちもいるらしい、というかいた。私のクラスではもう1、2人消えてしまった。シチーさん曰く、まぁこんなものだよ、ってことなので珍しくはないらしいけど、寂しいよね。
そして、私たちの中だとフクキタル先輩だけがデビュー戦で負けしまった。しかも、よりにもよって相手はスズカさんだったらしい。
「それにしてもまさか、私だけ負けてしまうとは…!」
「大丈夫だよ、フクキタル。デビュー戦に負けてもG1で勝ってる人もいるんだから」
「そうですがぁ〜〜〜!幸先が悪いと言いますか〜〜〜!」
フクキタル先輩はかなり気にしているらしい。いやそりゃそうだよね。負かした本人は特に気にせず、というより何を言っても喧嘩を売ってる状態になるので黙って学食の紅茶を飲んでいる。フクキタル先輩が集合する前にこれはドーベル先輩に小言を言われていたからだった。
いや、流石に私も「だって私が速かったから」って負かした相手に言う勇気はないよ!スズカさん、悲しいことに私たち以外ほぼ話してるの見たことない。本人は気にしてなさそうだけど…大丈夫かなこの子。
「ぐぐぐっ、かくなる上は御百度参りを更にして運気を上げて…!」
「オーバーワークでぶっ壊れるぞ」
「んぎっ!?」
……どなた様?なんかどうみても、自営業な、真っ黒スーツにオールバック、サングラスかけたヤバそうな男の人がフクキタル先輩にチョップしてるんだけど!?え、本当なに!?なんか周りもざわざわしてこっち見てるよ!?
「ワォ!プライズ!?アレはジャパニーズギャングというヤツデスカ!?」
「タイキちゃん!シッ!目を合わせちゃいけません!」
思わずテンプレートな親子会話しちゃったよ!
「誰がギャングだ。俺はこいつのトレーナーだよ」
全員驚いた。トレーナー?嘘でしょ?
「うそでしょ…」
「いい度胸してんな。胸元よくみろ」
「あ…ほんとだ。バッジがあるね…」
ちゃんとスーツにトレーナーバッジがついてた。よかった。不審者じゃなかった。いや、でも、なんでこんなトレーナーさんにスカウトされたのフクキタル先輩。やっぱりなんかやっちゃった?
「いひゃい…トレーナーさん!頭を叩いては運気がっ!」
「下がるのはお前のIQだけだ」
「それは尚悪いですが!?」
「五月蝿い。とにかく、馬鹿みてぇな理由でオーバーワークはやめろ。わかったな」
「うぐぐ…」
「返事」
「はい…」
フクキタル先輩のトレーナーさんはそのまま立ち去っていった。歩いて行った先を見ると、なんか冴えない感じだけど、優しそうなトレーナーさんと同じ席に座った。あー、同僚さんとご飯食べる予定だったのかな。
「あら…?トレーナー?」
「え?もしかしてあの人、スズカのトレーナー?」
「そうよ。けど、まさかフクキタルのトレーナーと知り合いだったなんて」
「いやはや、世間は狭いですなぁ〜」
もう復活したフクキタル先輩がしみじみと言った。ほんとにね。ルックさんはお昼どうしてるんだろうと気になったけど、あの人思えば、結構トレーナー室に缶詰っぽいんだよね。あとはタキオンさんの実験に手を貸してたり。
「それで、なんでフクキタルはあんな…怖そうな人がトレーナーに?」
男性が苦手なドーベル先輩は心配だったのかやっぱりフクキタル先輩に聞いた。いやほんとね。私も心配だ。タイキちゃんは興味津々で、スズカ先輩は逆に興味全くなさそうだった。
フクキタル先輩は「うーん」と話すか何故か悩んでるけど、なんかその様子がなんかおかしい。脅されたとかそういう感じで躊躇ってるわけじゃない。なんか、こう、恥ずかしがってる?
「フクキタル?」
「えぇっと…トレーナーさんとは運命が結びつけてくれたのです」
なんか微妙に頬を染めてるのはどういうことなんだろうか。ドーベル先輩が軽く引いてる。え?そこ引くの!?
「えぇ…なんであんな人と?」
「それは、その、あの日の占いで神社で朝一番に来た人が運命の人と…」
「つまり!フクキタルはトレーナーサンにフォーリンラブ!ってことでOK!?」
「アッ!?いえ、そういうわけではっ!」
いや、たぶんそういう意味じゃないけど、そういう意味に聞こえるから恥じらってたのだというのはわかったけど、タイキちゃんがややこしくしちゃった!訂正するの面倒だからもういいかな!ツッコミ要員のドーベル先輩もこういうときは機能しません!
「アタシが言えたことじゃないけど、フクキタル、ちゃんとトレーナーは選んだほうが…」
「あっ、トレーナーさんとしてはしっかりされてるので大丈夫ですよ。トレーニングしてるとなんか運気上がる感じしますし!」
「どういうトレーニング!?」
「え?普通のトレーニングですよ、ドーベルさん?やだなぁそんな特別なことなんて何も」
「プライズ…助けて…」
「よしよし…」
ツッコミできる許容量を超えたのかドーベル先輩が寄りかかってきた。あのデビュー戦の一件以降はドーベル先輩との距離が短くなったのか、ちょっとずつ気安くなった気がする。タイキちゃんはそんな私たちを見て頬を膨らませていた。赤ちゃんかな?かわいいね。
「Boo、ドーベルだけズルいデース!」
「別にプライズはタイキのものじゃないでしょ」
「ワカッテマース」
まぁじゃれてるだけだから良いとして、若い子のスキンシップの近さは大人にはちょっと苦しかったりする。タイキちゃんはまぁいいけど、ドーベル先輩は変にドキドキしちゃう。まぁ気にするほどじゃないけど。
「それにしても、フクキタルのトレーナーは濃いし、アタシとプライズのトレーナーもアレで、タイキはタイキで桐生院トレーナーが担当……普通そうなのスズカのトレーナーじゃない?」
確かに。平凡そうなのはスズカ先輩のトレーナーさんだけだ。もう一度ちらりと見れば本当に穏やかそう。
「そうかしら?」
「そうでしょ。だってスズカのトレーナーはいきなり発光しないでしょ」
「………愉快なのね、ドーベルたちのトレーナーは」
流石のスズカさんも怪訝な顔をしていらっしゃる。そりゃ発光するってそもそもウマ娘、というか人間なのか?ってなる。タキオンさんになんで発光するのか聞いたけど、あれはワザと発光させてるらしい。なんでも、効果が強いところを光度で判別するためとのこと。
発光させなくても機械で調べればいいのでは?とも言ってみたけど「いやいや、そんな機器を買う金を流石の私も実家から持ってこれないよ」とそれっぽい理由を言っていた。ほんとかな?怪しいぞ。
そんなおかしなトレーナーとチームリーダーによって愉快な光景が広がるのと比べればなんと他の人たちのトレーナーがまともに見えることか。
タイキちゃんの桐生院トレーナーはまさに人格者って感じで、話を聞くだけでも無茶苦茶優しい人だと言うことがわかった。比較的聞き分けのいいタイキちゃんとの相性も結構いいみたいで、デビュー戦の映像を後で見たら肩車してあげたりで仲が良さそうだった。
あと、ハッピーミークさんとも仲がいい(?)のか、メッセージアプリに二人でぬぼーっとした表情をしている写真を投げてきたこともあった。何かの練習らしい。なんの?
「スズカさんのトレーナーさんはどんな人なんですか?」
気になったので聞いてみると、スズカさんは「そうね」と少し考える素振りをし、後に口を開いた。
「私の自主練も好きにさせてくれるし、練習も効率的で無駄がないかしら。今の私に足りてないところもわかりやすくて、何より併走相手にも困らないし」
優秀そうに思える。最後のはどういう意味?
「えっと、併走相手に困らないというのは?」
「私のトレーナーさんは私で担当二人目なの」
「へぇ、そうなんだ。スズカ、ちなみにそっちの先輩誰なの?」
「サクラチヨノオー先輩よ」
ドーベル先輩が転がりそうになった。サクラチヨノオーってどちら様……?
「じゃ、じゃあ、待って?スズカのトレーナーって、あのファイナルズ中距離初代チャンピオンの…!?というか、あの“スーパーカー”とか“大地震わすウマ娘”に勝った、あの!?」
「……そうね。その子を育てたトレーナー、ね」
そこからドーベル先輩は熱く語ってくれた。
サクラチヨノオー先輩。ちょっと前に活躍したウマ娘で、日本ダービーを制覇、そのあともG2や幾つかのG1をもぎ取り、一時期成績が低迷するもシニア級5月から奇跡の復活を遂げ、憧れの相手、もはや今は伝説級ともされる生徒会のオブザーバー役の先輩、マルゼンスキー先輩を打ち破り、更に同じく生きる伝説級とされるミスターシービーから逃げ切ってみせたという、とんでもない人だった。
それに、ハッピーミークさんとはトゥインクルシリーズにおいては何度もやりあったライバルらしくて、トレーナーさんも新人同士ということもあって当時は色々とあったんだって。知らなかった。
今は半ば引退して、サブトレーナーのような立場で公私に渡ってトレーナーを支えていて、恋愛的な面でも色々今も話題に事欠かないらしい。
「で、併走に困らないってことはチヨノオー先輩と走ってるからってこと?」
「えぇ。流石に本人も現役時代みたいにはもう走れないって言うし、本当に本格化が完全に終わりきってる速さだけど、気迫とか、そういうものはかなりのものね」
「そりゃそうでしょうね…」
話を聞くだけでもものすごい強かったウマ娘みたいだし、プレッシャーは凄そう。気にしないスズカ先輩が言うってことは相当なものなんだろうね。
「なるほど…やはり負けたのは必然…」
「フクキタル!ファイト!」
そんなすごい人なんだ、ってとこでまたフクキタル先輩ががっくりしちゃった。本当に頑張ってほしい。流石にレースの結果はおいそれとあぁだこうだと言えない。
「それでフクキタルのほうはどうなの?」
「え?」
「トレーニングとかは」
「先ほども言いましたが、普通…ですね。普通に鍛えてますね」
話題を逸らすためかフクキタル先輩にトレーニングなどのことをドーベル先輩は聞くも、返ってきた答えがそれだった。普通。もはや普通がなんなのかわからなくなるこの学園での普通とは一体。
「えぇっと、今私に足りないのはとにかく練習だと言ってましたね、トレーナーさんは」
「………なんだろう、ものすごい、引っかかる」
「はて?確かに今の私は実力もないですし、その通りかと思うんですけど」
本人が疑問に感じてないからいいんだろうけど、なんだろう。ドーベル先輩と同じ私もなんか引っかかる。致命的に何かが足りてない気がする。それが何かがわからないけど。
「まぁ、いいや…隣の芝が青く見えてるだけだから」
「ドーベル、疲れてマスカ?」
「ごめん愚痴って。いや、本当にね」
重症だ…ルックさん相手のツッコミはドーベルさんに控えさせないと。
「ふぅん、少し間違えたかな」
「ほい、じゃあミーティングやるよ〜」
「なんで頭光ってるの!?」
言ったそばからこれだった。ルックさんの顔がぼやーっと光ってる。漫画かな?タキオンさんは熱心にメモを取っていた。なんかこのチーム、色々と間違ってる気がする!
フクキタルトレーナー「今お前に足りないのは練習(という努力の末の成功体験からくる自信)だからとにかく鍛えろ」
フクちゃん先輩「はい!わかりました!」