出遅れ★ダービー   作:ババネロ

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サポートカードイベントです。


#14「勝者、振り向かず」

 完全オフの日の朝でも、私は普通に朝目覚めてしまう。もはやほぼ一緒に寝ているタイキちゃんの体温はリトちゃんと一緒に寝ていた頃を思い出してなんだか心が温かくなる。タイキちゃんの寝顔を朝見るのが日課になりつつあるのはどうなんだろうなと思いつつ、寝ているこの子の頭を撫でずにはいられない。

「ン……ママン……」

 たった一人、日本にやってきて走るというのは寂しいし、怖いし、辛いと思う。タイキちゃんは明るいしスキンシップも激しいからそういうのとは無縁と思われがちみたいだけど、そんなことなくてものすごい甘えん坊で、むしろ周りがよく“見えすぎちゃう”ぐらい繊細な子だ。

 前に聞いてはいたけど、去年はそんなふうに周りを気にしすぎて、授業の模擬レース中に怪我をした子を見て減速してしまったり、場合によってはレースを投げ出してしまうこともあったらしい。けど、それはドーベル先輩と色々あって改善されたってドーベル先輩から直接聞いた。

 それが、何をどうしたのかは聞いてない。二人だけの思い出なのかなって思ってる。青春を感じちゃった。

「ふふっ…タイキちゃんはまだおねむなんですね」

 タイキちゃんをお世話するのはお母さん力を保持し続けるにはもってこいだった。どうにも学園での日々を振り返ると、周りの子に結構引っ張られて、わりかし精神年齢が下がってた気がする。夫に相談してみたら、別にいいじゃないか、と言われたけど。最近リトちゃんにも友達みたいに接しちゃって大丈夫かなって思っちゃった。

 それにしても、このままオフの日を布団の中で過ごすわけにはいかないので、起きなくちゃいけない。ただ、タイキちゃんはしっかり私をホールドしているので、抜け出せない。タキちゃんのフィジカルの強さはまぁ、すごい。

 デビュー戦から続いてのオープン戦は圧倒的だった。桐生院トレーナーは早くもタイキちゃんの素質を伸ばしてるのか、デビュー戦よりも瞬発力が上がってるように見えた。しかも、今度は芝の上。校内でもハッピーミークの後継者かなんて言われ始めてる。

 今の私じゃ、簡単に蹴散らされて終わり。それぐらい実力に開きがある。それでも、タイキちゃんの私への態度は一切変わらない。レースはレース、それ以外はそれ、とかなりオンオフがしっかりしてる。いい子すぎて泣けてきてしまう。

 どんなお父さんとお母さんに育てられたらこんないい子になるんだろうか。

「んむ………ぁ……プライズ…?」

「おはよう、タイキちゃん」

 タイキちゃんが目覚める。私なんかよりも遥かに澄んでて、子供の綺麗な瞳が眠たげな瞼から覗いてる。タイキちゃんの顔立ちは大きな身体に反して可愛らしい。これを狙わずに活かしてくるので、最近では結構人気が校内でもあるみたいだった。何より、気さくで優しく明るい先輩。人気が出ない方がむしろおかしい。

 それでもタイキちゃんは4月に出会った時から一切変わらないんだからある意味すごい。私だったらちょっと調子に乗るよね、絶対。

「ンン〜〜!グッドモーニング、プライズ」

「うん。それじゃあ、まずは離してもらえる?」

「ハイ!」

 ホールド状態から解放されて私は起き上がった。パジャマはタイキちゃんが抱きついてくること前提で半袖半ズボンにしてる。横にいるタイキちゃんもそう。青色に星柄のいかにもアメリカンなパジャマだけど、豊満なタイキちゃんがもろに見えてて、歳のせいかちょっと心配になっちゃう。

 二人してベッドから起き上がって背を伸ばす。立ち上がるとホントにタイキちゃんおっきい。見事に影に隠れちゃう。おかげでタイキちゃんは急ぎの時私を抱える癖がついてたりする。もはや最近は当たり前になってきたせいかドーベル先輩さえツッコミを入れてこない。

「タイキちゃんはおっきいですね、いつも思うけど」

「そうデスカ?きっとプライズも、もっと大きくなりマース」

「あはは…だといいけど」

 残念ながらもう伸びないんだよねぇ。

「それで、今日はタイキちゃんは何するの?」

「アオイと遊びに行ってキマース!」

「桐生院トレーナーと?」

「YES!担当ウマ娘と遊ぶのも大事、って言ってマシタ!」

 担当ウマ娘と遊ぶのが大事って、仲良くなって理解を深めるつもりなんだろうけど、そういうものなのかな?ルックさんはわりとビジネスライクなとこあるので、オフの日は会うことを意図的に避けてるんじゃないかってぐらい会わない。

 学園に休みの日もいるらしいけど、仕事してるのかな?うーん、気になってきた。

「プライズはどうするんデス?」

「特に予定はないんですけど、私もトレーナーさんを探してみようかな?学園にいるらしいので」

 休み日のも仕事してることを伝えたらタイキちゃんがありえないって顔をしていた。そこらへん、海外だとかなりオンオフの切り替えハッキリしてるとこもあるみたいだし、そういうものかな。

 タイキちゃんは私服に、私は制服に着替える。タイキちゃんの私服はラフなTシャツとジーパンだった。おおう…なんというか、すごい豪快なおねーちゃんって感じだ。ナンパ……はされないか。ウマ娘にナンパするのって命懸けだもんね。

「じゃ、行ってキマース!」

「いってらっしゃーい」

 手を軽く振って送り出すけど完全にこれ家にいた時と同じだよ。タイキちゃんはルンルン気分で部屋を出ていく。ドーベル先輩から甘やかすな〜って言ってるけど順調に甘やかしてる気がする。

「さて…私はルックさんのところに行ってみようかな」

 一人になった部屋を見渡せばなんだか妙に広く感じた。タイキちゃんがいるのが当たり前になって、もう半年以上も経過してるし、慣れてきてるな〜私。……この生活も、あと2年と少し、それしかきっと、続かない。

 部屋の中の鏡に映る制服姿の私はどこからどうみても十代の、中央のウマ娘にしか見えない。けれども、どうしても罪悪感が拭えない。この気持ちをリトちゃんに相談したらなんて言われたと思う?「傲慢だね、母さんは」はだって。

 私は、私の欲しい夢のためにレースに勝ちたい。

 でも、私が勝てば、大人が、子供のありえた、手にするはずだった栄光を奪ってることになる。

 こんなことを考えるべきじゃないのかもしれない。考えることすら、きっと、ひどいことだと思う。十代の頃は向こう見ずだったから、夫の言う通り、ひどく我儘だった。その時のままならきっと、こんな傲慢な気持ちを持たずにいられたのかもしれない。

「3年間…かぁ」

 3年間。最初に私が決めた時間設定。未来はわからない。途上で本格化が終わるかもしれない。だから、そう決めた。そのはずなのに、本心はどこかで、限界をそこに“決めつけた”。

 今、私の中にはタイキちゃんたちと走り続けたい、そんなウマ娘としての本能のような夢が生まれ始めてる。家族を放り出して、こんな身勝手が許されるのかとも考えてる。

 よくないね、一人になると、途端にこんな嫌なことを考えだしちゃう。

「早く、行こう」

 私は嫌な気持ちを振り切るように部屋の外へと飛び出した。

 

 

 

 結論から言うと、ルックさんは学園内のどこにもいなかった。トレーナー室にも、トレーナーの寮にも、どこにもいない。一体どこに行ってるのだろうか?

 休日の学園を歩いて、あてがなくなったので私は学園の隅っこにある小さな広場にやってきた。三女神の像とは別の、誰かの像が建てられてるけど、この学園の中にしては珍しく整備もされていなくて、風雨で削れてしまって誰のものなのかわからない。台座のほうも「………ル像」としか読めない。

 はぁ〜〜、困ったなぁ。実際学園の中にいるときってあんまりやることないんだよね。こういう時は家に帰って掃除したりコンビニ弁当にしがちな裕二くんのためにご飯を作ってあげたりするんだけど、裕二くん「いいから学園で楽しんでおいで」って言うし。不倫?いやないな。夫婦仲はずっと良好だからね。たぶん、高校生活をさせてあげられなかったから、ってことだろうね。

 しょうがないので、ぼーっと空を眺める。きれいな青空だった。

「あら?こんなところでどうしたんですか?」

「へぁ?」

 こんなところに私以外来る人いたんだ。声がした方を見れば緑色がまず目に入った。ついで、大人なボディーライン。優しげな表情と雰囲気を漂わせた学園の職員さん、たづなさんが立っていた。

「こんにちは、たづなさん」

「はい、こんにちは、プライズさん」

 たづなさんは遠慮なく私の横に座る。彼女はもちろん、私の年齢を知っている。たづなさん自身の年齢はわからない。私よりも年上のはず。けれども、すごく若々しくて、きっと制服を着て、髪型とか変えれば十分に十代で通用すると思う。その帽子の下にはウマ娘の耳があるんじゃないかと疑う…というか、たぶんこの人はウマ娘だ。

 じゃなきゃ、いくらデビューイヤーとはいえ、現役のウマ娘の全力疾走に追いつくなんて無理。そんなのヒトだと思いたくない。ちなみに、追いかけられたのは私を抱えたタイキちゃんである。フクキタル先輩と勝手に3人で占いの館テントを立てたら見つかって怒られた。あんな走っても落ちない帽子はなんなんだろうね?

「隣、ごめんなさい」

「いいですよ。それで、何をしていたか、といえばトレーナーさんを探してました」

「トレーナー…佐藤…じゃなくて、ルックさんですね」

「はい」

 ルックさんを「佐藤ォ!」って怒鳴ってたのは噂になってたけど本当にそうっぽいね。この感じだと。たづなさんが怒るのは見たくない…ルックさんも、こんな優しそうな人が怒るってこれまで何をしてきたんだか。

「ルックさんは週末、学園にはいないですね」

「やっぱりそうなんですね。どこに行ってるかわかります?」

「さぁ…危ないことはしていないと思いますけど」

「危ないことって…普段から危なくないです?」

 主にタキオンさんとの実験とか。

「光ってることを追及するのは…もう、やめてます」

 ひどく落ち込んだ様子でたづなさんは言った。うーん、苦労していらっしゃる!

「すいません…ウチのトレーナーとチームリーダーが…」

「プライズさんが気にする必要はないですよ。実際、最近は周囲への被害も何もないですから」

 実験室を爆発させたこともあるらしいので、そのことかな?教室を爆破させたら普通は懲戒免職や退学もあるとおもうんですけど、なんというか、この学園はやっぱり「強いウマ娘」であることが第一主義なのか、“その程度”ではどうにもならないみたいだった。

「たづなさんは、どうしてここに?」

「休みの日はこうして学園を歩いちゃうんですよね。仕事もありますけど、息抜きです」

「え、今日も仕事されてるんですか?」

「はい。理事長がお忙しいですから」

 秋川理事長って、私と違って年齢通りの小さい子なんだけど、本当に優秀な人で、たぶんあの子もウマ娘なのかな。幼いのに学園の運営をしっかり行ってて、たづなさんはその補佐をしてる。いろんなところ飛び回ってるらしいから、たづなさんも色々見てるんだろうね。

「あ、ちゃんと日曜日は休んでますよ?理事長からも無理はしないように言われてるので」

「……大変ですね」

「そうかもしれないですけど、私は楽しいですよ、今の仕事」

 くすくすと笑うたづなさん。すんごい大人だ…。

 しばらく無言の時間が続いたけど、たづなさんが「ところで」と言って話を切り出した。

「どうですか?デビューしてみて」

「複雑な気持ちです」

「複雑?」

 私はそのまま、寮を出る前に感じたことを話してしまった。たづなさんは私が話している間、何も言わない。真剣な表情で、時折頷きながら聞きに徹してくれた。

 そうして、今考えてしまっている新しい夢まで話したところで、たづなさんは少し考えたあとに口を開いた。

「確かに、傲慢な考えかもしれませんね」

 だよね。

「けれど、だから、どうなんですか?ここは一つ、先輩としてアドバイスしましょう」

 優しい笑顔で、人差し指を立てながらたづなさんは私を見て言い放った。

「勝ちなさい。勝てばいい」

「え」

 その声音は今まで聞いた優しいものとは異なっていた。

 途端に増す、たづなさんへの違和感と、重圧感。ちょうど雲が太陽にかかって、日差しが弱まった。私より座高の高いたづなさんの顔に影が落ちる。緑色の瞳が、燃えるように光っていた。

「――Eclipse first, the rest nowhere.」

 唯一抜きん出て並ぶ者無し。学園の教室のほとんどに掛けられている、ことわざ。授業で習った、大昔のウマ娘“エクリプス”がレース前の実況でそう紹介されたって聞いたっけ。

「勝者は後ろを振り向いてはいけません。前しか見ないでください。勝者が、光の影に隠れた敗者に同情を向けては、敗者はどこを向けというのですか?」

「それは…」 

「ふふっ…少し厳しく言い過ぎましたでしょうか…今の言葉は、受け売りなんですけどね」

 たづなさんから重圧が消える。太陽が雲から出て、明るさが戻った。

 それにしても、受け売りって……。

「………よく、私は人の気持ちがわからないって言われるんですよ」

「たづなさんが?」

 とてもそうは見えない。今の私への言葉だって、うじうじするなって、大人でしょう?と発破をかけてくれたような感じだったけど。たづなさんは優しく、みんなのことを見守っていて、時にはこんなふうに親身になってくれる。それなのに、人の心がわかってない?

 私のとてもそうは見えない、という顔にたづなさんは苦笑いした。

「負けるって、どういう気持ちなんでしょうね」

「はい?」

 どういう意味?負けたときの、気持ち?悔しい?次はこうはいかない?勝つためには…そんな、いろんな気持ちが私は負けた時に出てくる。たづなさんはそれが、わからない。そんなこと、ある?

 それに、こんなセリフが出てくるのはウマ娘以外、ありえない。私がどう反応すべきか悩んでると、たづなさんはごめんなさい、と申し訳なさそうな顔をした。

「こんな話されても困っちゃいますよね。いけないですね、プライズさんはお母さんですから、つい話しちゃいますね」

「いえいえ。そんな、たづなさんだって、色々あるでしょうし」

「その“色々”を聞いてこないんですね?」

「人にはそれぞれ、事情がありますから」

 大人だからこそ、踏み込まない。大切なのは今だから。

「ありがとうございます」

「ちなみに、今まで、その“色々”を聞いてきた人はいるんですか?」

「隠し切れるものではないですから。特に、とっても強いウマ娘たちには」

 ほんの僅かに、さっきまでの重圧感がまた滲み出していた。たづなさんの中にある滾りのようなものなのかな……鳥肌が立ちそうになるぐらい、恐ろしくもあり、私の奥深く、本能のようなものがうずうずする。走りたい、勝負したい。そんな気持ちが出てきてしまう。

 まるで極上の餌をチラ見せさせられてるような。

「シンボリルドルフ、シリウスシンボリ、マルゼンスキー、オグリキャップ――今の子達はとっても強いですから」

「聞かれて、どうしたんですか?」

「ご想像にお任せします♪」

 考えないでおこう。うん。絶対知らない方がいい類だ。

「あら、もうこんな時間。仕事に戻らないと」

 気がつけばそこそこの時間を話していたので、たづなさんが腕時計を見てそう言った。

「ありがとうございます。励ましてもらっちゃって」

「いいえ。プライズさんならきっと大丈夫です。応援してますっ」

「あはは、頑張ります」

 たづなさんがベンチから立ち上がって去っていく。応援してます、かぁ。私にも、デビュー戦以降少ないながらファンがついている、らしい。ファンレターも少しだけきていた。…そうだ、もう、引き返せない。前しか見ることしかできないんだ。

 勝って、勝ち続けて、みんなと走り続けよう。いけるところまで。

 

 

 

『――プライズ、見事に制しました!重賞はこれが初勝利!』

『ギリギリでしたが、しっかりと差し切って見せました!』

 後ろは振り向かない。前だけを見て、私は夢を掴みたい。

 背後からたくさんの視線を感じる。闘志、敵意、嫉妬、羨望、――畏れ。でも、振り向かない。勝てばいい。苦しい肺と酸欠の頭に大きく息を吸って、酸素を送り込んで、私はスタンドを見上げて、手を振った。歓声があがった。ドーベル先輩とルックさんが大きく手を振って喜んでいる。

 次はG1。私が挑むのは、朝日杯フューチャリティーステークス。ジュニア級の終わりが、すぐそこまで迫ってきていた。




????のヒントレベルが5上がった!
スピードが8上がった!
スタミナが5上がった!
パワーが5上がった!
根性が5上がった!
賢さが5上がった!
駿川たづなとお出かけができるようになった!

来年のエイプリルフールでたづなさんうまぴょいしてくれないかなぁ〜

今回はここまで、次回はジュニア級終わりまで書けたら
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