出遅れ★ダービー   作:ババネロ

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本当は書き溜めてからと思ってたのですが、どうしてもジュニア級のラスボスを出しておきたかったので投げます…。

※今回多くの自己解釈があります



#15「領域」

 トレーナー執務室で画面に齧り付いていた桐生院葵は、流れていたレースが終わったところで目を離した。何百回とレースは見てきた。それでも新鮮な発見は尽きない。ウマ娘は星の数ほどいて、似通ったとしても一人一人違うからだ。

「………やはり、最後は根性、ですか」

 画面の中の動画は停止している。勝利した栗毛の小柄なウマ娘は朗らかに手を振っていた。直前までのスタミナを限界まで使って根性で最後は押し切り、肩で大きく息をしているにも関わらずだ。

 強い精神力。それがトレーナーの目から見れば一目瞭然だ。

「やっぱりプライズはグレートデス!4月の時とは全然違いマース!」

「シャトル、彼女は転入組でしたが、4月の時よりやはり伸びているのですか?」

「YES!」

 担当ウマ娘であるタイキシャトルからの話は聞いていた。画面に映る彼女――プライズの成長は著しいと。葵から見ても、確かにプライズの成長速度は異常と言ってもいい。本格化が早送りされている…という事例が過去にはあったが、それでもピークはクラシック級になる。彼女はもうピークなのかと言わんばかりに一気に成長している。

「(けれど、きっと、まだ彼女は伸びる)」

 青天井。ハッピーミークという過去に類を見ない素質を持ったウマ娘を育て上げた葵だからこそ、プライズの底が全くわからなかった。筋肉のつき方は合理的を体現したかのように葵には見えた。得意な走法、得意な作戦、得意な展開。それらに全て焦点を当てた、一点特化のように見えて、高水準で纏め上げようとしている。葵はプライズのトレーナーのことをよくは知らない。だが、現役時代に彼女を担当したトレーナーの実力は知っていた。

 “悪評”を抜きにすれば、“彼”の育成手腕は驚嘆に値するものであった。ハマってしまえばもう誰も勝てない。ただし、そうでなくても凡走はさせないほどの実力を持たせる。ウマ娘が望む“強さ”をしっかり味合わせることができた。

 それが、今、プライズへ施されているものであると簡単に葵はわかった。

「(ハイスピードのレースは、今はダメでも、そのうち対応してくる。デビュー戦で見せてきた早仕掛け。あれが出来るようになったら、後半の足はプライズに分が出る。だからといって遅いペースじゃスパートの根性で押し切ってくる。あの様子じゃ揺さぶりも効かない。追込の子だから、囲もうなんて思えば、レース展開を逆支配される。なら、対策は一つしかない)」

 逃げ、追込。葵が相手にするのが一番苦手な相手だ。最初の担当であるハッピーミークも、負けたレースはやはり逃げと追込の処理に失敗してしまった。万能ゆえに、逃げにも追込にも振り切れない。だから中途半端で先行と差しで走る。心無い、そんなコメントを雑誌に書かれたこともあった。しかし、本当にそうならば、“白い悪夢”などと呼ばれるまでに強くなれていない。

「(フィジカル。結局、これなんだ。どこまで行っても…最後に決めるのは体と心の強さ。プライズは心の強さがきっと、このシャトルたちの世代で一番。なら、こっちは――)」

 隣に立つタイキシャトルを葵はよく見る。恵まれた肉体は全く隠されれることなく、見せつけるようにそこにあった。ハッピーミークは偶然にも“体も心も”強いウマ娘であった。だからこそ、根気強いトレーニングの結果、持ち味である万能性をクラシック後半から発揮することができた。サクラチヨノオーとの最後の決戦で敗れたのはそれを相手が上回り、もっと強い“想い”を相手が持っていたからだろうと、葵は思っている。

 タイキシャトルは間違いなく、“体”は今一番強いと葵は断言する。天性の瞬発力と、高い適応力を併せ持ちきめ細やかなハッピーミークとは真逆の、全てのバ場を踏み均し征服するようなパワー。ある種、荒っぽいとも言えてしまうような力強さがタイキシャトルの走りにはあった。

 精神は肉体を凌駕するが、その逆は自明であると葵は思っている。肉体が強ければ、自ずと精神もついてくるのだ。こと、タイキシャトルはレースを楽しんでいる。レースを楽しむ、という感覚はウマ娘の中でも珍しい。つまり、心はいつでも、どこかで余裕を持っている。

 本気になれていない…とも言えるかもしれないが、葵はまだ、今はいいと考えている。思い詰めて潰れてしまったウマ娘を葵はここ数年間で何度も見ているのだ。

「シャトル、朝日杯FSではきっと彼女と戦うことになります。ルームメイトだからって、作戦とか、話しちゃダメですよ?」

「オフコース!プライズにも話しチャイケナイの、分かってマース!」

「お願いしますね。それじゃあ、朝日杯に向けてやっていきましょう。一番大事なスタート練習から――」

 タイキシャトルに指示をしながら葵は担当の仮想敵を脳内で描き続ける。タイキシャトルの弱点である、周囲が見えすぎてしまうこと。これは気迫で押し切るプライズとの相性はいいと言えない。まだ本気のレースで彼女と対峙したことがなく、寮ではまるで母に甘えるかのような仲の良さであるというのに、本番でそれに触れれば、どうなるか簡単に葵は予想できた。

「(シャトルのフィジカル、パワーを最大限に生かしつつ、彼女が楽しいと思える走りをさせる。プレッシャーなんてかけさせませんよ、プライズ、ルックトレーナー)」

 影をも踏ませない。強く、優等生な走りを担当にさせるのは、葵の十八番であった。

 

 

 

「うん。すごいね。弱点は補わない……よく言ったものだ」

 葵の同期であるトレーナー…サクラチヨノオーの担当であり、今はサイレンススズカの担当でもある男性トレーナーは、同期である桐生院葵と同じようにプライズのレースを動画で確認していた。

 ルックの育成方針は彼も聞いていたが、実際に目にしたのはプライズとメジロドーベルが初めてだった。一目して、“厄介だ”と彼は感じた。強みを特化する。ハマった展開になったときの強さはまさに規格外と言っていい。それを呼び込む術もウマ娘自身が理解している。プライズとメジロドーベル、この二人をルックがスカウトしたことに彼は納得する。サイレンススズカの同期たちの中では精神のタフさが桁違いであった。

 今の画面の中で見たレースも、ひたすらに最後尾、その一人前の子にぴったりと張り付き続け、風避けに使い足りないスタミナを温存。最後に、一呼吸分だけ早くスパートをかけ、根性で押し切る。最後尾からの豪快な差し足を止めるのは難しい。縦長の展開となれば別だろう。プライズのOP戦を彼も観戦したが、その時は縦長の展開となりトップには届かなかった。

 しかし、今のレースはそうはならなかった。縦長とならなかったことに加えて集団から離されていなかった。そこへ強烈な追い上げを見せたプライズ。

 トレーナーでさえ画面越しで感じ取れるほどの気迫は馬鹿にできず、さながら、八方にらみとでも言えばいいのか。怯んだ子たちから落ちていった。狙っていたとみるべきだ。最後はプライズの十代の子供とは思えない異常なまでの精神力が勝り、勝ててしまっている。

 彼は苦い顔をする。かつて戦った、気迫の欠片もなく、夢幻のようにふわりとしていたハッピーミークとは真逆の相手だ。

 それが、プライズだけでなくもう一人、メジロドーベルも。

「この気迫…それに、最後はきっと根性。あんな必死な子は私も初めて見たかもしれません」

 画面越しに、格下の相手であるはずのプライズからサクラチヨノオーも気圧されていた。それほどまでに「後が無い」「絶対に勝つ」という気迫が伝わってきていた。サクラチヨノオーまでもが感じるということは本物だろう、と彼は思った。

「……………」

 一方、現在の彼の主担当であるサイレンススズカは静かに画面を見つめ続けていた。

「スズカ?」

「…あっ、すいません。トレーナーさん。見続けてしまって」

「いや、いいんだ。今回は君と対戦しないけれど、クラシック級では当たると思う。それを見越して、彼女の走りはどうだい?」

 ホープフルステークス。サイレンススズカの出走はそこに決まっていた。故に、ジュニア級ではプライズとぶつかることもない。メジロドーベルともぶつかることはない。いずれはクラシック級で当たることとなる。

 スズカはトレーナーに問いかけられ、目を閉じて想像する。浮かぶのは彼女が認めた“速さ”を持つ者たち。追ってくる者たちの中で、プライズは一番遠い。しかし、タキオンによって楔のように打ち込まれた言葉が、イメージをブレさせる。

 ――ククッ…生き急いでるねぇ。まるで明日にはもう死んでしまうと言わんばかりに

 命を削ってまで迫り来るような相手。それでもスズカは、その迫る影を一蹴する。

「まだ、私の方が速いです」

「すごい自信…!」

 確固たる速さへの自信にサクラチヨノオーは思わず感心してしまう。しかし、スズカの中にある速さへの絶対の自信に影が落ちる。影はまるでスズカの足を絡めようとするかのように、気持ちの悪い感覚を残す。

「(追い付かせない。プライズも、タイキも、ドーベルも、フクキタルも。私だけの景色に誰もいれさせない)」

 それらを振り切るかのようにスズカは強く心を持つ。余裕がないことにトレーナーは気が付いたが、今は何も言わない。成長に必要なことであると彼は考えていた。

「よし。じゃあ今日もやろう、伸び伸びとね」

「はい!」

「えぇ」

 

 

 

「ラスト一本、気合いれてけっ!」

「はい!!」

 目の前でフクキタルが必死に走る姿を担当トレーナーである強面の男は見守っていた。マチカネフクキタル。確かな素質はあれど、今はどこか勝ち切れない彼女。その理由を彼は“本人”に聞くまでもなく知っていた。

「難儀なもんだ……」

 どこからか、彼の呟きに合わせて「申し訳ないとは思ってる」と届く。脳裏に言葉が走るという常人には理解できず、あまり気持ちのよくないその感覚に彼は慣れていた。マチカネフクキタルを担当に迎えてからは余計に慣れざるえなかった。

「いや、謝らなくていい。結局、どうするかはアイツが決めることだ」

≪けど≫

 脳裏に届いた声は、今度は彼の横から確かに耳に届いた気がしていた。チラリと横を見れば薄ぼんやりとした、マチカネフクキタルによく似た、巫女服姿の少女が立っていた。

 そんなこの世のものでない相手に彼はただ、舌打ちする。

「死者に引っ張られるとはよく言うけどな、あれは自分で自分を落としてる。お前はむしろ支えてる。あいつが落ちないように」

 シラオキ、そうフクキタルが呼ぶ声の正体である彼女にトレーナーは悪意がないのを知っている。怨霊であればまだ、どれだけよかったことか。今の彼にできるのはただ、フクキタルを走らせることだけだった。強引な解決は既に彼女の友人たちが試みて失敗しているから余計にだ。

「センシティブな内容だ。だから、今は、あいつが気がつくのを待つしかない」

 自信がない。ただ、それだけが大きく影を落として、フクキタルのことを縛りつけている。負ければ運がなかった、勝てれば運がよかった。そうではない、と否定することは一番やってはいけないと彼は知っている。

 だから、見守り、彼女がもしその呪縛から抜け出せる時が来たら、引っ張り上げる。その時まで彼は見守り続けるつもりであった。

≪優しいんだね≫

「いいや、ただ見えすぎるだけだ」

 男はお人好しであった。お人好しすぎたが故に、色々と見えすぎてしまっている。周囲の強いウマ娘たちに押し潰されそうになっていたフクキタルも、そんな彼の瞳の中に映ってしまい、放っておけず神社まで追いかけてしまった。

 何よりも、このフクキタルに取り憑いている少女に連れられたのもある。

「最後まで付き合うさ。担当したウマ娘に後悔はさせねぇ。それが俺の心情でな」

≪それをフクに真正面から言えばいいのに≫

「言えるか」

 彼の言葉の足りなさは恥ずかしさのせいもあった。

 

 

 

 無事!重賞勝利!いえーい!

 ということでG3の一角を私はついに獲った。無茶苦茶ギリギリだったけど。今回挑んだのもマイル戦で距離は1600m、スパートの一呼吸分の早仕掛けが効いて1着に届いた。スタミナは最後にピッタリと切れて、色々と計算が上手く行った気がする。

 そういえば、ドーベル先輩もしっかり勝って、駒を阪神JFに進めた。私も出走権は獲得できそうだし、ルックさんはいきなり二人のG1挑戦ウマ娘を抱えることになった。

「成長曲線を見ると君は異常だねぇ、プライズ」

 そんなわけでG1に向けてのミーティングをしていたらタキオンさんがタブレット端末を使用しながら言ってきた。ちなみにこのタブレット、いつの間にかルックさんが購入してトレーニングとかに活かしてるもので、色々と私やドーベル先輩のデータが入ってる。タキオンさんが言う成長曲線って確か、タイムのやつかな?

「異常って、どういうこと」

 ドーベル先輩がタキオンさんの言葉に噛みつき気味に問いかける。相変わらずこの二人の相性が微妙に悪い。タキオンさんは若干棘のあるドーベル先輩の声には引っかからずに「見ればわかるさ」と画面を見せてきた。

 そこにあったのは、4月の頃の速さを0とすれば、現状の秋口の頃には2倍近いものになっていることが示されていた。

「………こんなに速くなってたの!?」

「気が付かなかったのかい?」

 私も実際にここまで4月時点と差が出てるとは思わなかったので、内心すっごい驚いてる。大丈夫だよね?ジュニア級で本格化終わらないよね?いや、本当に怖いんだけど。

「まぁまぁタキオン。毎日一緒にいると案外気にならないものだよ」

「それもそうか。ふむ、しかし、ここまで早いともう本格化が終わっていても良さそうだが、まだ伸びているね…多少の波はあれど伸び方が一定だ」

 タキオンさんが私の不安を見抜いてかそんなことを言う。確かに、線は上へ一定の角度で伸び続けてる。本格化が終わるとこういうのは緩やかになっていくそうなんだけど…。

「ねぇ、もしこのままプライズが速くなり続けたら」

 ドーベル先輩が不安げな声を出す。自分が負けそうだから?って感じではない。なんで不安なんだろう。

「このまま速くなり続けたら死んでしまうねぇ」

「え!?私死ぬの!?」

「ちょっと!?どういうこと!?」

 いきなり怖いこと言わないで!?なんで死ぬの!?

 タキオンさんは取り乱す私とドーベル先輩に苦笑いしながら話を続けた。

「まぁ、流石に体格とかフォームの関係もある。どこかで頭打ちになるだろう。ただ、それを度外視して…ウマ娘の限界の先に辿り着くと仮定した場合、端的に言えば足が自力に耐え切れずに崩壊するね」

「なんだ…脅かさないでよ…そんなのありえないよ」

「あぁ、そうだね。しかし、ありえない、と断言できる材料もない」

 脅すようにタキオンさんは言う。何なの…?

 ルックさんも流石にタキオンさんの物言いが気になったのか、視線を向ける。

「トレーナー君もそんな怖い目を向けないでおくれよ」

「簡潔に言おうよ。“領域”の話をしたいんでしょ?」

 領域…ゾーン?なにそれ。

 ドーベル先輩もどういうこと、と首を傾げてる。タキオンさんはドーベル先輩のその様子に意外そうな顔をした。

「おや、君は知っていると思ったんだけどねぇ。メジロなら“領域”に達しているものはそれなりに居ると思うが」

「ううん…知らない…“領域”って何なの?それが、さっきの話とどう、関係があるの?」

 タキオンさんは座っていた席を立ち上がると、近くにあったホワイトボードに、ペンをとって走らせる。簡潔なウマ娘の図がサッと描かれた。やっぱり研究者なだけあってこういうのは得意なのかな。上手だ。

 その図の、胸のあたりに赤いペンで丸を描き、ウマソウル、と書き加えた。

「なんですか、これ?」

「さて、ちょっとした授業だ。ところでプライズやドーベル。君たちは心の奥底から闘志が湧き出るような感覚になったことや、胸の奥に炎があるような感覚になったことは?」

 タキオンさんからの質問に、私もドーベル先輩も胸元に手を当てて考える。無い胸…ではなくて、胸板の奥にそんなものを感じたことは……いや、ある。たづなさんと二人きりで話した時に。

「プライズは心当たりがありそうだね」

「ほんと?」

「えぇ、まぁ」

 たづなさんのことは言えないのでどこでそれを感じたか言えないけど…まさか、この感覚が?

「感じたことがあるなら話は早い。それがウマソウル…と一部のものが呼んでいる私たち、ウマ娘の力の根源だよ」

 オカルトだねぇ、と笑うタキオンさん。だってそれ、魂ってことだよね?データ第一なタキオンさんからは出てこなさそうな話だ。

「ウマ娘の力の根源って」

「そのままの意味さ。本格化、というものはこの“ウマソウル”の活性化と私は睨んでいる。どう計算しても現実で出ている数字だけでは説明のできない成長をするウマ娘がいるからね。変数として考慮できるのがこれだったのさ。いわば、我々は2つのエンジンがあって動いている」

 図が書き足される。ウマソウルの横に“自分の魂”と。

「我々ウマ娘は“ヒトとしての魂”と“ウマ娘としての魂”のツインエンジンというわけだ。本格化はその片方のエンジン、ウマ娘の魂が最大稼働することができる期間であり、それがピーク、ないしは一定の稼働量を超えると、ウマ娘は“領域”を手にすることができる」

「よくわからないけど……なんでタキオンはこんなことに気が付いたの?」

「夜眠れなくなってもいいなら教えてあげてもいいが、聞くかい?」

 なんとも意地悪な顔をするタキオンさんにドーベル先輩は顔を青くして慌てて断った。一体どうやってこんな話、というか、仮説?まで辿り着いたんだろう。

「残念だ。かなり面白い…ククッ……ウマ娘の本質に迫った話なんだがね。まぁいい、話は逸れたが、では“領域“とはなんなのか。私は、この”ウマソウル“に内蔵された”願い“の具現化と見ている」

 願いの、具現化?

「もっと言えば、人々がそのウマ娘に“こうあってほしい”という“願い“がなんらかの形とってウマ娘に理外の力を与える。具体的な例を上げれば、スパートの限界速度が自身の想像よりもすごく上がったり、レース中に上手く息を入れられて体力が整ったり、もはや魔法にも近い。科学では証明できない、ふざけた力だよ」

 なんだかよくわからないけど……。

「えっと、つまり、なんかすごい力がウマ娘には秘められてて、それが発揮できるようになるとものすごく速くなるってことでいいですか?」

「雑だが端的に言えばそうなる」

「じゃあ、その力が使えれば…!」

 私も、G1でいっぱい勝てる…と思ったらタキオンさんがとっても悪い顔をした。

「そう言って、これまで何人のウマ娘が倒れてきただろうねぇ」

「ねぇ、待って」

「なんだい?」

「それがさっきの話に繋がるってことは、領域を使えても、体がついてこれない可能性があるってこと?」

 ドーベル先輩の言葉にハッとする。そうだ。いわば、ひどい言い方をすればズル、というか鍛えてきた力とはまた別の力が加わるわけだから、体にはその分負担がかかっちゃう。想定外の力が加わったものがどうなるかなんて簡単に想像できる。

 タキオンさんの良い笑顔が答えだった。

「うん。本当に君たちの理解力はいいね。トレーナー君の見込み通りだ。そうだ、ドーベルの言う通り…時に、ヒトの力は想定を超える。身体がついてきていないのに何度も“領域”を使えば足は耐え切れず折れるだろう」

 それは私たちウマ娘にとって、死にも等しい。この世界に、ただ強くなれるなんて都合のいい話、あるわけなかった。

「しかし、G1ウマ娘となってくると当然“領域”に至っている者も出てくるし、身体もついてこれる者がいる。なんでこのような話をしたかは……うん、疲れた。トレーナーくん、あとは任せたよ」

「えぇ?ここまで話して!?」

 ルックさんに思わず同意しちゃう。ここまで話したなら最後まで話すものかと思ったよ!

「うーん、まあいいけど。早い話、もう次の二人のレースで出てくる可能性があるんだよ。“領域”使えそうな子が…特に、プライズの方」

 そう言われて、すぐに――あの子の顔が浮かぶ。

「タイキシャトル……あの子の強さは今の君たちを遥かに超える。フィジカルもしっかりしてるから、もしタイキシャトルが“領域”に至ってたら担当トレーナーの桐生院トレーナーは使ってもいい、と言ってくると思うんだよね」

 差があるとは思ってた。けど、そこまで、私とタイキちゃんの間に隔たりがあるの?

「プライズの戦法はバレてる。そして対策は単純明快にフィジカルと速さ……今、ジュニア級で真正面から君を叩き潰せるのはタイキシャトル。ハッピーミークの綺麗な走り方を見た君たちならわかるよね?」

 間違いなく、きっと、タイキちゃんは私を真っ直ぐに潰しにくる。全力を以って、油断なんてものはきっと存在しない。

 ドーベル先輩の息を呑む音が、嫌に大きく聞こえた。

 ……私は勝てるの?タイキちゃんに。

 




ジュニア級のラスボスはタイキちゃんとなります(クライマックスシナリオのジュニア級におけるタイキちゃんの強さは異常)。ラスボスといっても今後もやりあいますが…。

本当にここまで!またしばらく書き溜めます。

ウマソウルのあたりはカフェのノーマルエンドのあたりを見ると「ウマ娘世界のウマ娘本人の魂」と「こっちの馬の魂(ないしは願いの塊)」があるのかなと思うのでそうしました。
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