出遅れ★ダービー   作:ババネロ

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長いので2話に分割しました。

ここ好き、評価等、いつもありがとうございます。


#18「露見」

 11月末日。年末に向け、トレセン学園内も忙しさを増している時期であった。そのような状況の中にも関わらず、学園内の理事長室には錚々たる者たちが集まっていた。

「突然呼び立ててすまない!」

 扇子をバッと広げて豪快でありながら申し訳なささを出すという器用な真似をしてみせたのは十代前半という幼さにしてここ府中トレセン学園の理事長を務める秋川やよいであった。帽子の上に乗せた子猫が一鳴きすることで、理事長室内の空気はこれから始まるであろう話し合いの空気を穏やかなものへと変えている。

「いいえ。秋川理事長の呼び出しとあれば、そのような」

 次いで、口を開いたのは生徒会長であるシンボリルドルフであった。彼女の輝かしい功績や生徒会長の枠に収まらない働きはやよいよりも学内の頂点に立っていると言っていい。それでもなお、彼女はやよいを立て、首を垂れている。

 やよいとシンボリルドルフ、この二人にはそれぞれ、支えるものたちがいる。やよいの隣には穏やかな笑みを湛えて、静かに駿川たづなが控えている。シンボリルドルフの背後には生徒会副会長であるエアグルーヴ、ナリタブライアン。生徒会のオブザーバー役であるマルゼンスキーが従っている。目指すものが違う二人故か、付き従うものの立つ位置は対照的であった。

 常人がこの面々が揃う一室を並みのウマ娘が見れば目を疑うであろう。たづなの正体を知るものが知れば、もはや理事長室は魔境と称していいものと化していた。

「それにしても、君も来てくれるとは思わなかったぞ!ナリタブライアン!」

 意外、と扇子にやよいの心情が出てくる。ナリタブライアンは舌打ちを隠しもせずに、バツが悪そうな顔をする。クラシック三冠ウマ娘でありながら、学内では生徒会に何故いるのか疑問視されるほどの風来坊とされる彼女はこうした呼び出しに応えないことがほとんどだ。

 ブライアンの様子に、苦笑いしながらルドルフは代わりに答えた。

「理事長、彼女もまた、生徒会のウマ娘だった、ということです」

「なるほど!納得!」

「チッ……」

「ブライアン、舌打ちはやめろ…!」

 二度目の舌打ちに流石にまずいとエアグルーヴが注意するが、やよいは「気にするな!」と言い放つ。懐が広い、などという話ではない様子にエアグルーヴは頭が痛くなりそうだった。

「それにしてもたづなちゃん?こんなみんな揃えて、なんのお話するの?」

 純粋な疑問と、普段は生徒会室にいないためか、今回呼ばれた理由をよく知らないマルゼンスキーが年を超えた友人であるたづなに問い掛ければ、たづなはやよいに目配せする。やよいも長い前置きをするのは好きではないため、すぐに本題に入ろうという姿勢に入った。

「うむ!マルゼンスキー!時間がない中集まっているからな!手短に話そう!」

 そんなことはないが、といった顔をブライアンとマルゼンスキーが浮かべた。エアグルーヴは胃が痛くなる。相手はこの学園のトップだ、という意識がない二人に。

 やよいは話を始めると、まずは机の上に置かれた雑誌を掲げた。それはやよいが読むには少々過激すぎる、ゴシップ誌であった。

「わぁーお。たづなちゃん、こんなのやよいちゃんに読ませていいの?」

「私はやめるように言ったのですが……」

「問題ないッ!職業柄読まないわけにはいかないのだ!」

「そのようなところまで目を通して頂ける理事長には頭が下がるばかりです」

 ルドルフの賛辞に、やよいは気にするなと言わんばかりに笑いながらも、表情をスッと切り替える。年不相応な学園経営者としての顔つき。その場の空気が和やかなものから一気に豹変する。

「(………これで競争ウマ娘でないだと?巫山戯ているな)」

 ブライアンはやよいの持つ競争ウマ娘のウマソウルの滾り方とよく似た気配に、惜しく感じると共に、それをレースへと向けていないことに対して憤りにも近いものを感じていた。しかし、それを口に出すほど、彼女は子供ではなかった。

「さて、今回呼び出した理由がこれだ」

「ゴシップの類はこれまで数度ありましたが、悪質なものは抑えてきました。ですが、今回は……」

 やよいの持つ雑誌の表紙の隅に「家庭放棄!?年増のウマ娘が学園生活を謳歌!!」と文字が踊っていた。

「やぁねぇ、また私のこと?」

「マルゼンスキーさんではないですし、マルゼンスキーさんはまだ十代でしょう」

 過去に、とても中学生とは思えないスタイルの良さと言葉遣いから本当はかなり年齢がいっているなどと週刊誌に書かれた経験のあるマルゼンスキーが憤慨した様子で言うも、たづながそれを否定する。

「となれば、彼女しか考えれられませんね」

「うむ。――プライズ。彼女のことをとうとう嗅ぎつけたようだ」

 プライズ。その名を聞いた各々の反応は別れた。ルドルフとエアグルーヴはやはりか、といった表情をし、マルゼンスキーは「あぁ!」と手のひらをポンと叩き、ブライアンは「誰だそれは?」と首を傾げた。

「お前は…ブライアン、会長が春先に話していただろう!」

「…………………思い出した。アイツか。栗毛の、根性バカな」

「全く…!」

 ブライアンは記憶の底から春先にあった説明と、そういえばG3で一勝を挙げた根性“だけ”は面白いと感じたプライズの姿を思い出す。

「だが、何が問題なんだ。ヤツもただのウマ娘だろう」

 ブライアンの言葉はこの会議をさっさと抜け出したいという気持ちから出た言葉であるが、この場にいる全員が思う結論であった。週刊誌に悪く書かれようと、結局のところプライズ本人は必死に走っているトレセン学園の一生徒にすぎず、家族からも了承得ている。学園からすれば何ら問題がない生徒だ。

 ルドルフはブライアンの言葉にやはり志は共にできると嬉しく思いながらも、否定の言葉を出さなくてはならない。

「ブライアン。だがな、世間というのはどうにも、君のように本質を捉えられないんだ」

「くだらん。言わせておけばいい」

 ブライアンもかつて、その態度からバッシングを僅かながら受けたことがあるが、そんなものはレースが全てである彼女にとって、取るに足らないものであった。だが、今回のプライズの件はそうもいかないことであるというのが、ブライアン以外にあった認識だ。

「……理事長」

「エアグルーヴ!挙手は不要だぞ!」

「では、失礼ながら。今回の件はこれまでのバッシングの記事とは質が違うということでしょうか」

「うむ!いかにも!これまで、心無い記事は幾つもあったが、今回のプライズの記事は“本人”だけではなく“家族”までを対象にしている!」

「なるほどね〜。確かに、今までって、私たちのこと“だけ”言ってくることあったけど、このタイプは初めてかも」

 ウマ娘に対する心無い記事は大抵、本人に向けられることが多い。アイドルに対するゴシップ記事が内容としては一番近いというのはその場にいる全員が知っており、標的になったこともある。だが、今回のプライズの記事は本人だけでなく、家族も標的としているような記事であった。

「ここにいる皆さんはご存知かと思いますが、プライズの旦那さんである下田裕二元トレーナー、御息女であるリトルカンパニーさんにまで被害が及ぶことは非常に厳しい問題に直面します」

「然り!たづなの言う通りである!記事がこれまでの個人標的と違い、家族にまで及ぶことに加えて!彼女の家族に関してはこと、パンドラの箱だ!」

 危険!とやよいの扇子が語る。この部屋にいる全員が苦虫を噛み潰したようになるほどに、プライズ本人というよりは、彼女の家族、そして、過去は非常にデリケートであることを理解していた。ブライアンでさえ、言われてから同じような表情になるほどのことであった。

「そして、内容自体も問題だ!年齢詐称をして入学したと書かれている!」

「真っ赤な嘘じゃない!」

「うむ!プライズは入学時にしっかりと正式な書類を提出しており実年齢も学園側、理事会、URAそれぞれ把握している!」

 入学後に年齢を言わないのは咎めることではない、ともやよいは付け加える。病欠で一年留年ということも学園では珍しくなく、そういった生徒たちが歳下の生徒たちと円滑に生活を送るためには年齢を告げないというのは致し方ないことである。

 ただでさえ、アイドルのような扱いを受ける子供たちが在籍する以上は裏口入学などと言われれば何を言われるかは想像に易く、やよい――理事会側としてはここが一番の懸念であった。

「理事長。しかし、どこからこの話が?生徒たちから話すものはいないと思いますが」

 生徒への過大な信用を持っているルドルフは思わずそのように言う。その信用は裏切られることはなく、たづなが答えた。

「……一部、トレーナーが記者の取材に応えたと聞いています」

 その答えに、生徒四人は絶句した。ウマ娘たちを導き、その未来を輝かしいものとしようとするはずの大人たちからそのような話がされたなど。

「特定は?」

「出来ていません。彼女の担当トレーナーは容疑者でしたが、今は外れています」

「ルックアップミー!彼女は確かにプライズを恨むに足る事情があるが、たづなの調査で彼女はそんなことは絶対にしないトレーナーであるとわかっている!」

 最も疑わしいとされたプライズの担当トレーナーであるルックアップミーは早々に容疑が晴れていた。プライズを本気で育てようという気概に加えて、この記事が出回る前後に出ていたプライズにまつわる“噂”を跳ね除けて普段通りに振る舞っている。そして、普段から、そんな暇が彼女にはなく、常時担当のアグネスタキオンと奇行に走っているため、記者らも近づきたくない存在のようだった。

「まぁ、あの子はそうよねぇ」

「そもそも、アグネスタキオンの担当ともなれば、記者も近づき難いかと」

 マルゼンスキーとエアグルーヴの評に、全員が頷いた。

「ただ、遠因はルックアップミートレーナーにもあると私は考えますが、理事長」

「シンボリルドルフの言う通り!私もそう思っている!」

「どういうことだ?」

「そうだね、ブライアン。君の言葉を借りるならば“くだらん”と、唾棄すべき感情によるものだ」

「……嫉妬か、羨望か?」

「如何にも!いわゆる、やっかみというものだ!」

「ルックアップミートレーナーはアグネスタキオンという類まれなる素質を持つ名家のウマ娘を腐らせているにも関わらず、その上でメジロ家の次世代まで担当し、異常な成長をしているウマ娘までも引き入れて結果を出している……と、嫉妬している人もいるようです」

 やよいの断定とたづなの補足に、ブライアンは今度こそ退室しそうになる。慌ててエアグルーヴが止めた。

「何故止める」

「お前は、副会長としての、自覚が、ないのかッ!」

「ない」

「堂々と言うな…」

「ならば言ってやる。理事長、こんなくだらない、犬にも食わせておけばいい話で私を呼んだのか?ヤツは恐らく、そのうち、我々の喉笛を食い千切ろうとしてくる類だ」

 無礼極まりない発言にさしものエアグルーヴも、口を開いて顔を真っ青にする。マルゼンスキーはあらあらと笑い、ルドルフは苦笑いだ。このような物言いをされても、やよいは気分を害されたとは思わず、むしろ嬉しいぐらいだった。

「そうだな!そもそも、彼女は強い!故に、これは心配のしすぎなのかもしれない!」

「それでも尚、呼んだ意味は?」

「皆が、ブライアン、君のように強くはあれないッ!だからこそ、君たち生徒会には生徒たちのケアをお願いしたい!」

 生徒たちのケア。ブライアンはそんなものが必要なのかと首を傾げる。ルドルフも弱肉強食の世界である以上は個人の、競争ウマ娘としてはブライアンに同感であったが、“生徒会長のシンボリルドルフ”はそれを許さない。

「……理事長、了解しました。確かに、プライズの年齢が明らかになれば、それを薬にも毒にもなるでしょう」

「そうね。私も同感よ。プライズちゃんの歳でもあれだけ走れるって私も希望持っちゃったけど、余裕のない子は絶望しちゃうかも」

 マルゼンスキーはかつて、もう本格化も完全に終わり、あとはゆるやかに終焉へと向かうはずだったところをもう一度、今のように走り続けられるように燃え上がらせてくれた大切な後輩を思い浮かべる。今の彼女はそんなことはないと思うが、もし、余裕のない頃であったのならば、と。

 若くて、今が一番いいはずの自身が身体能力で劣るはずの歳上に負けた。屈辱から這い上がるか、ありもしない差を意識して絶望に打ちひしがれるか。極端に言ってしまえばこの二つに反応が別れるとマルゼンスキーは感じている。

「そもそも、年齢など今更気にすることか?」

 ブライアンは挑発的な視線をたづなへと、否、たづなの瞳の奥へと向ける。これには流石にルドルフが止めに入った。

「ブライアン」

「……フン」

「失礼しました。たづなさん」

「いいえ、全然」

 たづなの気にしていない様子に内心冷や汗をかきながら、ルドルフは小さくため息をつく。今の行為だけはこの部屋の中でタブーであった。

「こほん!話は以上ッ!理事会も記事元に声をかけ、外は我々が引き締める!内は君たち生徒会、頼んだぞ!」

「お願いしますね、皆さん」

「お任せください。我々生徒会、言行一致で動きます」

「うむっ!」

 

 

 

 朝教室に着くと、なんかみんな私のこと遠巻きに見てひそひそ話してた。なんでぇ?タイキちゃんは朝いつも通りだったし、他の先輩たちも特には……あ、いや、ドーベル先輩はなんか微妙に居心地悪そうだったけど。

 私が視線を周りに向けると、みんな目を逸らす。これ、まさかいじめ、ってやつ?

「おはよう」

「あ、シチーさん」

 そんな変な空気の教室の中に、シチーさんが入ってきていつも通り私の横に座った。あ、いや、いつも通りじゃないな。朝はすっごく眠そうで無言でいること多いけど、なんか今日目が冴えてるのかな。

 私のことを少し見てから、周りを見て呆れたような様子だった。

「くっだらな」

 い、いきなり喧嘩売ってる!?

「ど、どうしたですか?シチーさん、急に」

「あんたが気にしてないなら別にどうでもいいことだよ」

 話が全く見えてこないけどなんかあったのかな……?ううん、一つだけ可能性があるとすれば、まさか、私の年齢のこと?

「あの、もしかして…私の歳…のことですか?」

「あんなどうでもいいゴシップ記事、気にする必要はないって」

「見せてもらってもいいですか?」

「はぁ?」

 週刊誌か何かにずっぱ抜かれたようなので、シチーさんにそう言うと、持ってないだろうなぁと思ったら、通学鞄の中からそれが出てきた。シチーさんが弁解するかのように「昨日、撮影現場で渡された」と言っていた。

 内容を見れば、私が年齢を偽って学校に入ったことや、家庭を放棄して母親失格などと書かれていた。うーん、ひどいことたくさん書かれてるけど、年齢のあたりや子供がいるのはは事実なんだよねぇ。ただ、夫の話に触れないあたりはさすがにタブーだとわかってたのかな?このぐらいは正直想定の範囲内だった。

 朝日杯の後にこういうの出るかなーって思ったけど、思いのほか早かったね。

「よく平気な顔でいられんね。そんなの読んで」

「まぁ、年齢と子供がいる以外の部分は全部事実無根ですし」

「あんた意外とずぶと……ん?」

「えぇ。私が29…来年で30なのは本当ですよ」

 どうせバラすなら自分からの方がいいので、ハッキリと言い切った。そうしたら教室の中がザワッとした。シチーさんは「マジか」といった顔で、本気で驚いてる。………流石に引いたかな……この歳で制服は。

「マジ?」

「はい、マジです」

「ほんとに?」

「ほんとです」

「………マジか」

 シチーさんが頭を抱える。

「ごめんなさい。気持ち悪いですよね。こんな三十路前になる女が「いや反則でしょ」はい?」

 ガッ、とシチーさんがいきない肩掴んできた。顔、近い。すっごい綺麗なモデルさんがこんな顔を近づけたら恥ずかしいというか、どきどきしちゃうんだけど…!

「ありえない…化粧もほぼなし……なのに皺なんて全くない…肌の張りもあたしよりいいし……」

「え、えぇっと」

「それに加えてめっちゃ走れるし、あんたすごいよ、プライズ」

 そう言ってシチーさんは私の肩から手を離し、頭を撫でてくれた。ちょっと雑な感じだけど、あったかい。これは、うん、シチーさんはなんとも思ってないのかな?

「シチーさんは、私のこと知っても、平気なんですか?」

「別に、どうでもいいでしょ。あんたが必死にやってるのは皆わかってる。それに、重賞を取ったんだから、文句言うヤツがおかしい」

 モデル業というある種、とことん実力主義な世界に生きてる彼女は私の年齢だとか背景とかはどうでもいいらしかった。

 正直、ものすごく嬉しい。受け入れてくれるんだ、彼女は。シチーさんはクラスをまた見回すと、四方に散っていた生徒たちも、ちょっとおどおどしながらも席に戻っていく。近くの席の子たちは「ご、ごめんなさい、プライズ、さん」と今まではタメ口だったのを敬語に直して謝ってきた。

 そうだよね、いきなり今まで通りには無理だよね。

「あたしも敬語の方がいい?」

「いいえ、そのままで大丈夫ですよ、シチーさん」

「そっ」

 この子が隣の席でよかった…と入学してから初めて思った。美人な上に性格も美人なの…すごい憧れちゃうな。

 

 

 

「Wow!プライズは本当にマザーだったんデスね!」

 お昼休み。みんなに私の歳を明かしたら、タイキちゃんは何にも変わらなかった。むしろ、いつもより更に抱き締めてきた。

「ドーリで、ママンの匂いがすると思いマシタ!」

「うぐっ、ちょっ、タイキちゃん、くるし」

「し、締まってます!タイキさん!プライズさんが締まってます!」

「オゥ!ソーリー!」

 フクキタル先輩の一声でなんとか解放された。いや、タイキちゃんのハグ、入学初期と比べて力が増してる。トレーニングで力ついたせいもあるけど、なつき度に比例でもしてるのかな?

 ちなみに、スズカ先輩は私の歳のことは「そう」と一言だけ反応してもどうでも良さそうで、フクキタル先輩もあんまり気にしていないようだった。むしろ「すごいですね!」と全力で褒めてきた。育ちがいいな…と感じさせるフクキタル先輩だった。

 で、問題は……。

「ぅ……」

「ドーベル?どうしたんですか?」

 ドーベル先輩だけは私の歳のことをかなり気にしていた。真面目すぎるし、今の今まで、タイキちゃんの次に一緒にいた子だ。おまけに、ドーベル先輩は私のことを歳下の後輩と見ていたわけだから。

「なんで、みんなそんなにいつも通りなの……?」

 ごもっとも。素直に言ってしまうと、タイキちゃんたちの順応が早すぎる。クラスメイトはシチーさん以外みんな私から一歩引いてるし、他の生徒たちも明らかに私を気味悪がる人もいた。なのに、ドーベル先輩以外のいつものメンバーはなんの変化もない。

 あ、いや、スズカ先輩からの視線が若干いつもより攻撃的なのは関係あるのかな?ないかな?この前の勝負服を着た時からだから関係ないか。

「ドーベル先輩」

「……その、ごめんなさい。今の、あなたから先輩って、つけられるのは、その」

 先輩呼びを拒否されてしまった。どうしよ。

「じゃあ、ドーベルさん、でいいですか?」

「まぁ、それなら」

 本当はベルちゃんって呼ぶのもアリかなと思った。ドーベル先輩、かわいいからね。

 それにしても、正体がバレた時はみんなとこれまで通りにいられるか心配だったけど、この様子なら大丈夫かな?むしろ、私が朝日杯の後でタイキちゃんに向かい合えるのか心配だ。

「ドーベルさん。私は私のままですから、ドーベルさんもドーベルさんのままでいてください」

「それは…うぅ……」

 ドーベル先輩は身悶えていた。どうしてだろう?私がわからないでいると、スズカ先輩が珍しく会話に割り込んだ。

「ドーベルは恥ずかしいのよ」

「ちょっ!?」

「今まで、プライズに先輩風を吹かしていたのがね」

「なんで言っちゃうの!?」

「だって…」

「だってもない!」

 あ〜〜〜、なるほど。確かに、私がドーベル先輩の立場だったらそれはあるかもしれない。そりゃそうだ。

「スズカ先輩はその、もう一回聞きますけど、私の歳のことはどう思ってるんですか?」

「どうでもいいわ。だって、あなたはそれでも走れてるでしょう?」

 即答だったし、本質というか、その通りだった。そう、私は今、トゥインクルシリーズを走れている。目標に向かって走っている。……歳のことは気にしてたけど、スズカ先輩の言う通り、どうでもいいのだ。

「私も驚きはしましたが、プライズさんはお強いですし、歳を感じさせな…あ、いや、これ、失礼では!?」

「あはは、いいですよ、フクキタル先輩」

 重賞で勝ってたのが良かったのかもしれない。やっぱりここ、超実力主義なんだなぁと改めて感じる。

「プライズはプライズデス!なーんにも、変わりまセン!」

 タイキちゃんの言葉に、少し、私は目頭が熱くなる。彼女は本当に、私のことを全て肯定してくれているのがわかる。

「タイキちゃん」

「What?」

「私、あなたがルームメイトでよかった、って今思ってる」

「ワタシもでーす!」

「わっ!」

 今度は容赦無く抱き上げられた。私、そんなに軽いっけ!?

「プライズさんがお人形さんみたいに持ち上げられています!」

「軽いのね…」

 足がぷらぷらしてて落ち着かない。いつもならこのあたりでドーベル先輩がタイキちゃんに注意してくれるけど、ドーベル先輩はまだ何か、躊躇している感じがした。タイキちゃん、降ろして、と目を向ければ、一瞬、タイキちゃんと目があって、彼女がドーベル先輩へと目を向けているのがわかった。――もしかして、3人とも。

「ドーベル!」

「な、なに!?」

「このあと二人はトレーニング、デスヨネ!」

「そ、そうだけど」

「じゃあ、プライズは今日、トレーニングお休みシマース!」

「はぁっ!?」

 私の体がタイキちゃんの脇に抱えられた。そのまま、景色が急速に流れ始めた。

「た、タイキちゃん!?」

「プライズ!今日はワタシと遊びマショウ!」

「いや流石にそれは」

 まずい、と言おうとして、後ろから猛スピードで迫る存在がいた。ドーベル先輩か?と思ったらスズカ先輩だった。

「タイキ、私の方が早いわ」

「デモ、スズカじゃ抱えられないデース!」

「それもそうね…」

 私のこと拉致する気満々だこの先輩方!フクキタル先輩はどうしたんだろうと思えばさっきまでいたカフェテリアでお達者で〜と手を振っていた。そこは参加しないんだ!?絶対なんか面倒なことになると思ったでしょ!?

「プライズを返して!タイキ!」

 そして、ドーベル先輩が遅れて駆け出した。流石の加速力で、あっという間に近づいてくる。なんだか、いつもの調子に戻った気がする。

「フフン!捕まえられマスか!?」

 私を抱えたまま、とんでもない速度で走るタイキちゃん。うっ、これ、ちょっと酔うかも。

「それにしても、どこに向かうの?タイキ?」

「ワカリマセーン!」

 これテキトーに走ってるの!?思いつきでやってるの!?アテもなくタイキちゃんたちが走っていると、あっという間に学園の正面門が見えてきた。周囲の生徒たちは何事かと私たちを見ている。

「た、タイキちゃん!?このままだと学園の外だよ!」

「ノープログレム!」

 ほんとに!?絶対ダメでしょ!止めようにも抱えられてるのでどうしようもなく、タイキちゃんとスズカ先輩は学外へと飛び出してしまった。

「嘘!?二人ともどこまで行くつもり!?」

 学園前のウマ娘レーンに出て、タイキちゃんたちは爆走する。ドーベル先輩も追ってきた。いやほんと、タイキちゃんのフィジカルどうなってるの?というかマイラー寄りなのに随分体力ある気がするんだけど?

「このまま行けるとこまでゴー!」

 本当に、どこまでいくんだろう…。




シチーさんは性格も美人。
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