自分の体がなんかおかしいな、むずむずするな、と思ったのが実に一年前のこと。いつも通りの、なんでもない夕方、夕食を作っていた時にそれが起こった。
「ただいま、母さん。牛乳買って来たよ」
「おかえり、リトちゃん。ありがとう。お夕飯作ってるところだから、牛乳はちょっとそこにおいとい」
――て、と帰って来た娘であるリトちゃんこと、リトルカンパニーに言おうとしたところ、とんでもない大音量でお腹の虫が鳴いた。は?誰から?いやどう考えても私からですよねぇ、これ。誰に似たのかとってもクールなリトちゃんは珍しく目を見開いて私を見ていた。うん。お母さんもびっくりだよ、こんな音鳴るの。
「……ふふ、お母さんもお腹減っちゃったみたいだから、できたらすぐたべちゃおっか」
「そ、そうだね」
努めて冷静に、いつもの母親としての姿を崩さないようにしながら、私は言った。ごまかしようないし!しょうがない!お父さんはまぁ後で1人で食べてもらおう!今日のお夕飯は唐揚げで後は揚げるだけ。とっとと油に唐揚げを投入しよう。
「うっ」
投入しようとしたところ、えげつない空腹感が襲い掛かる。なぁにこれぇ!?私、ウマ娘だけど割と少食で、普通の人間並のはずなんだけど、こんな気持ち悪くなるぐらいお腹減るの絶対おかしいって!?
「母さん!?大丈夫!?」
「ごめん、なさい、なんでも、ないから」
「そんなわけないでしょう!全く、いつもそうやって痩せ我慢して…!どこか痛いところがあるの?」
お腹が減って気持ち悪いんだけど、これそのまま言っていいのかな。いや、言おう。誤魔化すと余計にリトちゃん怒っちゃう。再来年中学生なのに、私よりリトちゃんおっきいから怖いんだよねぇ。
「痛いとかは、ないけど、お腹が、すごく、減って」
「お昼抜いたりした?」
「ううん、ちゃんと、食べたよ」
しんど。喋んのもしんど。
「わかった。それならあとこれ、揚げてしまうだけでしょ。母さんは食卓で待ってて」
「ごめんね…」
「いいよ」
リトちゃんはひょいっと私のことを抱えて食卓までやってくると椅子を引いて座らせてくれた。同じウマ娘とはいえ、私はすんごい小柄なので、リトちゃんからすると相当軽いらしい。元トレーナーの夫が言うには私はヒト並にしか食べないのでウマ娘としての筋肉量がすくないんじゃないかとも言っていたっけ。
それがなんで、今更こんな、死ぬほど、というか本当に死にそうなぐらいお腹減ってるの?
十数分後、リトちゃんは食事を用意してくれて私の前に並べてくれた。ご飯は炊けてるし、サラダも用意済だったので、すぐに済んだのだ。
並べられた料理に、私は今まで感じたこともないぐらいそれらが美味しそうに見えた。今すぐにでも食べたい。けれども、娘のいる前で、母親であることをかなぐり捨ててしまうにはまだ理性がギリギリ残ってる。
「うっ、い、いただき、ます――っ!」
なんとかいただきます、して私は一気にご飯を食べ始めた。ものすごい勢いで私の小さいはずの体にご飯が入っていく。お茶碗は瞬時に空、すぐにおかわり。それを続けて6杯ぐらいおかわりしてようやく落ち着いたところで我に返った。
「…っ!?わ、私、なんでこんなに食べ…!?」
おそるおそるリトちゃんの方を見れば、てっきり引いてるのかと思いきや…だいぶ難しい顔をしてる。
「り、リトちゃん?」
「母さん」
「はい」
「病院行こう」
「……うん」
これが、一年半以上前に起きた事件だった。病院に行って、後から合流した夫の話を纏めるとこうだ。
どうやら私、プライズというウマ娘は齢28歳にして『本格化』を迎えたらしい。
あり得ないことだった。本格化はウマ娘という種族の身体能力がその人生の中で最も高くなる期間を指す。大抵は十代前半、遅くても十代の後半までに起こることだ。娘であるリトちゃんも本格化の兆候が見られて、今は小学生なのに160cmを超す身長になってしまっている。私は十代の頃に出産してリトちゃんを産んだりしていたせいか、本格化は来ないとも言われていたが、病院の先生の話では最近の研究でそれは関係ないとのことだった。
つまり、単純に私が超遅咲きだそうで。
――ライズの、母さんの身体は僕の見立てでは、若返っているよ
病院から帰って来たあとに、夫である裕二さんはそう言った。それは普段老けているとでも言いたいのかと思ったけれど、そういうことではなく、身体の中が若返ったらしい。筋肉のつき方が十代のウマ娘相応の強靭なものになってきているそうな。
夫はトレーナーとして、特にウマ娘の素質を見抜くのが得意だった。出会った当初、私のことも見てはいたが、当時は素質0だった。
しかし今は、G1ウマ娘になれるだけの素質はあるという。
――叶うことなら、君を担当したい、そう思ってしまうほどに、今の君は競争ウマ娘としても魅力的だ
今はトレーナー、いいえ、ウマ娘に関わる職業の権利を「全て剥奪」されている夫がそこまで言うほどの素質が私には備わった、らしい。実感がないのでなんともいえないけれども、異常なまでの食欲はあの日以来改善されることはなく、明らかに自らの体力が上がって来たのも感じる。
どうすればいいのか、私は悩む…には短い時間だけれども結論を出した。
単純な話だ。リトちゃんは府中にある“日本ウマ娘トレーニングセンター学園“を受験することが決まっていた。そのために、リトちゃんはクラブにも所属している。ならば、私も受験してデビューしてしまえばいいのだ。
それを夫に伝えれば猛反対された。私たちが結婚をする上で起きた様々な事件もそうだし、それを抜きにしても、府中のトレセン学園“中央”と呼ばれるそこは日本国内でも最上級の才能を持つウマ娘たちがいる場所だ。
レースに関わってない私だってそれぐらいよく知ってる。そこに入るまでに様々な努力を、それこそ、私たちの娘であるリトちゃんが重ねて来た努力をせずに入ることなど不可能。万が一入っても、なんのタッパもなしに生き残れるほど甘い場所ではない。
「でも、君ならできるよね?」
だけど、私は“また“ワガママを言った。お父さんの――裕二の夢を知っていたから。それを壊したのは私だから。今まで、のうのうと、専業主婦をしてこれたのも、全部、君の夢を犠牲にしたから。
「G1、取りたかったよね、ゆうくん」
「ライズ…!それは…!」
「君が後輩に託したあの子は、あのあとG1を取れたんだよ?そして、取った時にね、彼女こう言ってたんだ『私を見出してくれた人が言っていたことを守り抜いてここまで来た』って」
「しかし、僕は何も」
「リトちゃんにこっそり特訓つけてたのは知ってるよ。それでクラブ内でも一番強くなれたのも」
「…だが、あと一年しかない…!それで最低限のことを教え切れるとは」
「やってする後悔としないでする後悔、それに、何事も遅すぎることなんてない。だから、私をいかせて」
――君の夢を叶えるために。
それがトドメになった。その話の翌日から、私がトレセン学園を受験するための準備が始まった。色々あって中学が最終学歴になっている私は高等部を受験することになる。
私のような特殊なウマ娘は前例がないと夫は言った。つまり受験する上での縛りは特にない。中央のトレセンは残酷なまでに実力主義とのことで、つまりようは、誰よりも早ければ入学できる可能性があるんだよね。
ただし、推薦とかそういうのはまず私と夫の諸々で無理なので一般受験で受かるしかない。勉強したのも数年ぶりという状況で、トレーニングもこなす。こっそり、夫と娘、たまに娘の友人たちも交えて模擬レースなども重ねる。そんな日々を目指すと決めてからずっと続けて、その結果――。
「――失礼しました」
生徒会室を後にし、私は入学初日生徒会長、この学園の頂点に君臨する“皇帝”シンボリルドルフとの面会を終えた。結果として、私は娘と一緒にこの学園に入学できたわけだけど、早々に釘を刺されてしまった。活躍すればするほど、おそらくバッシングや中傷などが起こると。
シンボリルドルフさん曰く、夫にされたあらゆる処分はなんでも、全て現在は撤回されているようだ。
が、そんなこと周囲は知らない。G1で勝利すれば、きっと賞賛と一緒に好奇に紛れて心無い言葉をかけてくる人もいるだろう。
リトちゃんになんかする人がいたら、それは私が許さないので、覚悟してほしい。
とまぁ、色々と小難しいことはそれとして、これからのことだ。
「とにかく、すぐに担当さん見つけてデビューしなくては」
入学してすぐ、一年目で私はデビューしたかった。前例がない奇妙な時期での本格化。加えてそもそも私の年齢もあって、本当にどこまで万全の肉体でいられるかわからない。もしかしたらすぐに本格化が終わってしまうかもしれない。長く続くかもしれない。誰も読めない。
なので、今年デビューして三年間。32歳までにG1を取る。医者と夫から言われたとりあえずのリミットだ。
「忙しくなります、ね」
独り言が止まらないけれど、口調は他所行き用だ。リトちゃんの前ではお母さんらしくありたいというのは、ここまで来ても変えたくない。
こんな見てくれで頼りない母さんだから。けど、これからは娘もライバルだ。リトちゃんは完全に本格化を迎え始めている。このままいけば来年にデビューするだろう。私は先輩として、しっかりとした姿をリトちゃんに見せたい。
私が進むべき路線についても決めてある。クラシック三冠と呼ばれる路線だ。皐月賞、日本ダービー、菊花賞。この3つのG1を取る。夫が目指していた夢の一つだ。当面は年齢のこともリトちゃんが娘であることも明かすことはないけれど、どれか一つでも取ればいずれバレてしまうだろう。
日本トゥインクルシーリズ史上最高齢のG1ウマ娘。それが栄誉なことなのかはよくわからない。
「寮に行きましょう」
ともかく、学生寮に行かなくちゃね。今日から私は寮生活。娘ほどに歳の離れてる子と3年間一緒なわけだ。夫は大丈夫だろうか。週末帰るよ?とは言ったけど「大丈夫だから頑張ってきてね」と断られている。心配だ…あの人割とズボラなとこあるし。
生徒会室のある学園の校舎から出て真っ直ぐに私の住むことになる寮へと向かった。4月の1日ということで校内にはまだ親を連れた子たちもいるし、生徒の数も多い。夫やリトちゃんが言うには結構な数が辞めていくらしいけど。いや、2人とも脅しすぎ…慎重なところは結構似てるのよね。
「ここが寮…」
しばらく歩いて辿り着いたのは学園の寮のうち「栗東寮」と呼ばれている寮だった。パッと見、小綺麗な団地みたいで流石だなぁとなる。…ここの学費はまぁ高かった。元々、リトちゃんの分しか入学金は用意していなかったので、私は補助金とか色々利用した。そのせいで、実利的にもG1やその他重賞を取る必要が出来てしまった。勝てなければ破産なので、これ結構崖っぷちなんじゃないかな?
「………いや、ヤバいよね…?」
「なにがだい?」
「わひゃい!?」
「おっと、驚かせてしまってすまない。ポニーちゃん」
突然背後から声をかけられたので飛び上がって振り向いたらなんかもんすごい綺麗なウマ娘さんが立っていた。なんて言えばいいんだろうね?ヅカ系?女の子なんだけど、ものすっごいイケメンだ。あとスタイルもはちゃめちゃにいい。黒毛で、しなやかで…。
いや見惚れちゃダメ!私、既婚者!
「んんっ。すいません。大きな声を上げてしまって」
「ううん。こっちこそすまなかったよ。それで、君はこんなところで何をしていたんだい?」
なんかナチュラルにナンパっぽいのはやめてほしい。私、既婚者!!
とにかく、名前を聞こう。
「私は今日入学したプライズと言います。先輩のお名前は?」
「私かい?私はフジキセキ。この栗東寮の寮長を務めているよ」
ふふっ、と名乗るだけでキメてくれるフジキセキちゃん。ちゃん、って呼びそうになるから気をつけないと。
「そうなんですね。私、今日から栗東寮でお世話なりますので、よろしくお願いいたします」
軽く頭を下げれば、優しげな笑みを浮かべてフジキセキちゃん、もとい先輩は頷いていた。まぁ、容姿通りの子だと思ってくれたかな。
「うん。よろしく。ところで…マダムには少々、失礼でしたか?私の言葉遣いは」
あるぇー?なんでバレてるん?
「…えっと?」
「会長から話は聞いていますよ、プライズさん」
なんで言ってるんでしょうか。シンボリルドルフさんは。あれ秘密にしとく流れだったよね?いやいずれバレるけど。
「あぁ、大丈夫ですよ。このことを知っている生徒は私と、あともう一つの寮の寮長、ヒシアマゾンだけです」
「そうですか。――フジキセキさん、私への対応は一後輩としてお願いします」
ほんとにね?色々恥ずかしいからね?やっぱり、年齢がね。いずれバレるけどさ!
「了解しました…いや、わかったよ、ポニーちゃん?」
「それも、やめてください」
顎クイとか人生で始めてされました。ゆうくん、私これから三年間あなたの夫でいられるでしょうか?私、とっても心配になってきました。とりあえず、フジキセキ先輩からは目を逸らすことにした。
フジキセキからして、プライズというウマ娘は不思議な子であった。子、というにはもはや母と娘ほどに歳が違うが、その容姿はどう見ても小柄な、フジキセキからするとライスシャワーやアグネスデジタルなどが想起され、愛らしい。栗毛の髪は瑞々しく明るく、瞳も他の入学生と同様に希望に満ち溢れている。一見、可愛らしいポニーちゃん、とフジキセキは触れてしまう衝動を抑えられない。
だが、その瞳を深く覗こうとすると、底が深い。まるで深海のように。なのに、暖かくも感じる。この温かみがなんであるかはすぐに理解する。
「(そうか。私は彼女に、子供として見られているのか)」
当たり前だ、とフジキセキは内心苦笑した。十歳以上も離れた女性に対して、こんな態度は遊びも程々にとあしらわれるのはわかりきっている。落とそうとか、そんな火遊びをするほどフジキセキは軽率ではなかった。
しかし、とはいえ、この“後輩”は気に留めておかなくてはならない。会長から言われたからとか、学園からも特例の生徒だから、などの話を全て横に置いて、寮長として。
「(まるで君は籠から飛び出して来たばかりの小鳥のようだ。よほど、大事にされてきたんだね)」
他の入学生と同様に希望に満ち溢れている、というのは異質なのだ。彼女は間違いなく大人だとフジキセキは理解したのに、そんな澄んだ瞳をしているのがありえなかった。ウマ娘の、こと、競技に少しでも関心のある大人であればそんな瞳はできない。
もっと、様々な輝きを屈折させているとフジキセキは知っている、
「(だから私は、君をただ1人の可愛い後輩としてしっかり見守ろう)」
これまでもそうして来たように、迷い、立ち止まってしまった時に支えるのがフジキセキの役目だ。大人だからと肩肘を張り続けて倒れそうになった時は支えてあげようと、フジキセキは思うのだった。
それはそれとして、顎クイをしたのはフジキセキの個人的な、正直な欲求であった。
「それも、やめてください」
「おっと失礼。あまりに可愛らしかったので」
「……私、既婚者ですよ」
「ん〜〜〜、その言い方、人によってはだいぶ危険だからやめた方がいいと思うよ、プライズ」
不倫という言葉が過ぎったので、フジキセキはなんとも言えない、彼女にしては珍しい冷や汗をかきながら言うのだった。
寮長さんにあわや惚れる、となる前に解放された私は寮へと入っていた。一階には既に生徒たちがそこそこいて、みんな入学初日ということもあって浮き足立っていた。
「きゃっ!?」
「わっ!?」
なのでちっこい私は見えづらいせいか背後から誰かにぶつけられてしまった。ただ、そんなに相手が重くなかったのか、ちょっとよろめくだけで済んだ。
「ご、ごめんなさい…!」
「いえ、大丈夫ですよ」
振り向くと、そこには私よりも幾らか背の高い、随分と明るい栗毛の…というかだいぶオレンジ色に近いぐらいの髪色で、なんというかスレンダーな子が申し訳なさそうに立っていた。メンコとか緑で、なんとなく緑のイメージがすごいする。瞳も澄んでて綺麗。
というか、トレセン学園の子、そこらのウマ娘よりも更に美人な子多いね!?
「プライズと言います。初めまして」
「あ、え…えっと、初めまして?サイレンススズカです…」
手を差し出すも、なんだか…人見知りっぽい子なのかな。大丈夫だよ、と笑顔を浮かべつつ私は手を引いた。たぶん先輩?なのかな。今日入学式の子は胸元に花をつけてるけど、この子はつけてない。
「先輩ですよね?サイレンススズカ先輩、すいません。ぼーっとしてしまって」
「ううん…こっちこそ、ごめんなさい…プライズ、さん」
絶対人見知りだ。謝罪合戦になりそうだから早めに切ってあげよう。
「大丈夫ですよ。というか、邪魔ですよね、どうぞ」
「あっ…ごめんなさい。ありがとう」
道を譲ると、申し訳なさそうに彼女は歩いて行った。綺麗な人だな〜って思ってしまう。走ったらもっと綺麗なのかも。
「よし、部屋に行きましょう」
指定された部屋に行かないことにはどうにもならないので、これから過ごす部屋を目指すことにした。階段を上がって3階にある私の部屋の前にやってくる。部屋のネームプレートには何も書かれていない。相手は私と同じ新入生かな。
ノックをすると、部屋の向こうから返事が返ってきた「開いてマース!」なんか随分、いや、外国の人かな?
「失礼します」
ドアノブを回して扉を開けた瞬間、私はなんかすんごい質量に押しつぶされた。
「ようこそ!トレセン学園に!ワタシ、タイキシャトルデース!」
「んむぐっ!?」
「オゥ。スイマセン!大丈夫デスカ!?」
「だ、大丈夫、大丈夫ですよ」
いきなりおっきな胸に包まれて窒息しかけたのは初めてだ。改めて、私を出迎えてくれたのは如何にもアメリカンなウマ娘だった。金髪碧眼、ダイナマイトボディ、そしてめっちゃ明るい。なんか抱きしめられた時に若干焼肉の匂いがしたけど食べていたのかな。
タイキシャトルと名乗った彼女、どうみても先輩である。室内はもう半分が既に使い慣れた感じになっている。
「初めまして、プライズといいます。今日からよろしくお願いします」
「プライズ!ハジメマシテ!さぁさぁ、中に入ってクダサーイ!」
「わわ」
勢いのまま引っ張られて部屋の中に入った。私が送った荷物は段ボールで部屋に届いていて、タイキシャトル先輩?のスペースの向かい側に置かれている。
「えっと、先輩、ですよね?」
「イエス!まだデビューはシテないデスけどね!」
「そうなんですね。私は今年、デビュー目指してます」
「ソウナンデスカ!?プライズは頑張り屋サンみたいデス!」
「ふふ、ありがとうございます。タイキシャトル先輩は「タイキでイイデース!」タイキ先輩はまだデビューしてないって言ってましたけど」
「デスから、ワタシも今年デビューを目指してマス!」
「なるほど。頑張りましょうね!」
「モチロンデス!」
タイキ先輩は両手でサムズアップした。とっても素直でいい子そうなのでちょっと安心した。あとなんか、失礼だけど、大型犬みたいというか、ゴールデンレトリバー?
それにしても、なるほど、ある意味彼女は同期らしい。だから同室にされたのかな。けどふと気になった。どうにも私が使う予定のスペース誰かがいた形跡がある。具体的には壁に画鋲刺していた跡がある。しかもつい最近。
「あの、もしかしてですけど、タイキ先輩。この部屋、別の人が異動しました?」
私がそう問いかけた瞬間、なんかタイキ先輩がものすっごい落ち込んだ。あっ、これ地雷だ!
「……ウゥ…ソウナンデス…ドーベル…」
話を聞くと、どうもメジロドーベルというクラスも一緒の子とルームメイトだったらしい。なんだけど、私が入ったことでどうやら部屋割りを変えられたようだった。おまけに、なんでもタイキ先輩はわざわざ寮まで移動したらしい。この部屋はまた別の人が使ってたそうな。普通は変わらないらしいけど、なんで変えたのか。
「なんか、ごめんなさい」
「いえ、プライズがアヤマルことはないでス。今日からたっくさん、プライズと仲良くなれば問題ないデース!」
「ちょっ、わっ」
またハグされる。スキンシップ激しくない?人懐っこいワンちゃんかな?
「そ、それで、そのドーベル先輩はどちらへ行かれたのですか?」
「ドーベルですカ?ドーベルは――」
「ワ…ワッ、アッ!?まさか、その御本は…どぼめじろう先生のッ!?」
「み、見ないで!?見なかったことにして!!」
なんでも、アグネスデジタルという子とメジロドーベル先輩は一緒になったらしい。
アグネスデジタル「まさか同志とは…」
やったねベルちゃん!仲間が増えるよ!