ユニクロン戦争が終わった直後の、サイバトロンたちのお話。

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ザ・ムービーとTFCC#43の要素を含みます。
"KEEP…GOING…"



炎の色

 瓦礫と化した鉄屑が、峩々としたゴミ山を形成していた。地球人とサイバトロンとの協力関係のシンボルだったここ、サイバトロンシティはトランスフォーマーたちの死骸と建造物の破片の隙間から硝煙がのぼっていた。

 建設から数年の事だった。トランスフォーマーは勿論、人間の目から見ても、完成から壊滅までの時間は短く感じられた。

 

「酷い有様だな。これを再建するとなると、まったく骨が折れる」

 

「あのモンスター惑星が地球に来なかっただけマシさ。そう考える他ないでしょう」

 

 ウルトラマグナスは廃墟同然のこの軍事施設を一瞥して溜息をついた。ブロードキャストは、誰にも険しい表情を悟られぬようにしながら、軽口を叩いていた。

 地球歴2005年──デストロンの襲撃、そしてユニクロンという災厄によってサイバトロンは、これまでにない大打撃を受けた。辛くも、運命的な勝利を収めたといえ、被害は被害として現実にあらわれていた。

 

「インフェルノ、まずは鎮火を……おおもう取り組んでいたか」

 

 シティコマンダーの命令を請ける数サイクル前から、彼は消火活動に勤しんでいた。消防車に与えられた役割を本能的な部分に取り込み、身体が勝手に動いたであろう日常茶飯事を仲間たちは知っていた。

 

「もうやってますよっと。そら、どいたどいた! 辛気臭ェ顔してっと、消化液ぶっかけちまうぜ」

 

 一見、ただ縦横無尽のように、しかし効率的にインフェルノは鎮火を行なっていた。必要に応じて梯子車にトランスフォームしたり、ロボットモードで精密な「射撃」を繰り返したり……とどのつまり、周囲をじれったく思うくらいには忙しそうにしていた。

 

「ウオッ、と。やれやれ、あれだけ熱心に片づけるほうがいいのかもな。落ち込むのは後、後!」

 

「そうだね。オイラもそう思うよスプラング。ここは墓場じゃないんだ」

 

 鋼鉄の道に溜まった、もはや何の部品か分からない物体を回収しながら、バンブル、スプラング、それから後ろに続くマイスター、パーセプター、サンストリーカー、アーシー、チャー、ブラー、ダイノボットたち、……オメガスプリームやエアーボットたちのように負傷した戦士までも、廃墟同然のここをサイバトロンシティに戻そうと再建に尽くした。

 

「通信機器の状態を見てくれ! ま、見るまでもないと思うが」

 

「メトロフレックス、痛いところは? ああ動くんじゃないぞ、君が動いたらすべて台無しだ」

 

「地球人の被害は?」

 

「こいつァインセクトロンが食い破った痕か」

 

「おいおい、河川にオイルがだだ漏れじゃないか」

 

「二度とこんな事はしたくないね……」

 

「負傷者は無理をせず申し出ろ。足手まといになる前に、治療を受けるんだ!」

 

「日が沈んできたぞ! おい、どうするよ!」

 

 ……次第に大半のサイバトロン戦士たちが、戦死者を想ったのかここへ集った。口々に、彼らは日常へと帰ろうとしていた。

 

 誰もが、悲劇が不可逆でないのを証明しようとしていた。そういう使命を受けているかのように。

 

 

 

 

 照明が全体の数割以下になったサイバトロンシティの暗夜、殆どの戦士たちはエネルギー不足を理由に休息をとっていた。それこそ死体みたく横たわっているサイバトロンが転がっていても、誰も咎めはしなかった。

 

 勝利の陰で、誰も勝者であることを、少なくともこの場では喜ばない。そんな中で、ひとり溌剌と作業にあたるトランスフォーマーがいた。

 

「おいインフェルノ! もういいだろ。そろそろ休もうじゃないの」

 

 ブロードキャストが痺れを切らし、彼の行動を静止しようとした。疲労しきった心身に、仕事の音はセンサーに響く。

 

「まだだ。オレぁボーっとしていられねえんだよ。元気のある奴だけやりゃいいだろう!」

 

 インフェルノがすでに本能に取りつかれている訳ではないのをブロードキャストは知っていた。だからこそ、あの赤い救急隊員を言葉だけでも遮った。

 

「こんな事は、よりによって今言いたかないが──そんな誰かを殺すような目をして『捜し物』をしたって、見つかりっこないぜ」

 

 威勢のいい返事が期待されたが、インフェルノの発声回路からは何も絞り出されなかった。ただ何かを破壊するように、震えた拳で何かの破片をどけている。

 

「なあ、ブロードキャスト。私に任せてくれ。大丈夫だ」

 

「……はい」

 

 新司令官として目醒めたロディマスの手が通信員の肩に置かれた。そのままロディマスは変形した梯子車に、態度だけでも悠然に歩み寄った。

 

「ご苦労インフェルノ。作業しながらでいい、話をしようじゃないか」

 

「ホットロ……いや、ロディマス司令。オレは止まりませんぜ」

 

「ああ構わないよ、そのままで。むしろ、手伝わせて欲しいくらいだからな」

 

 ロディマスは、彼の捜し物が何なのかを理解していた。皮肉にも、その理解の道は自らの経験に由来するものであった。

 

 ──それは、前司令官の死。

 

「大丈夫、すぐ見つかるさ。見当はつかんがね」

 

「…………………………」

 

 ゴング。プロール。ラチェット。アイアンハイド。トレイルブレイカー。リジェ。ホイルジャック。チャージャー。ドラッグ。

 

 コンボイ司令官──

 

「私だって……もし、もしも私のせいで撃たれたコンボイ司令官の死に目にあえなかったらと思うと」

 

 途中まで言い放って、言葉を失っていた。いつだって、喋ることをすべて決めてから会話している心算ではないにしても、着地点が見つからない話題だった。それは、インフェルノも共感していた。

 

 その時である。

 

「! アラート」

 

 アラートの遺体は、背部を除けば「美品」といって差し支えなかった。火花を散らしていたであろう、黒焦げの背中は、以前よりも頼れるトランスフォーマーに思えた。

 

「そこにかッ!?」

 

 ロディマスの思いがけない発見に、彼はただちに作業を中断し駆け付けた。人目を憚らず、インフェルノはアラートだった金属の肩を抱き寄せた。ロディマスは自ずと二歩、彼らから退いていた。

 

「…………………………」

 

 アラートの両の目は曇っていなかった。ただ光だけが、損なわれていた。インフェルノは沈黙を守っていた。ロディマスは、ただ目を伏せているだけだった。

 

 遠くで仲間たちの会話をする声が時折聞こえていたが、すぐ日の出が近づき、それと共にサイバトロン戦士らの殷賑は高まっていった。それでも、インフェルノは微動だにせず、アラートの目だけを直視していた。

 

 ロディマスは向き直って──臆見だと判っていたが、我慢ができなくなって口を開く。

 

「……ウルトラマグナスから聞いたんだ。彼は、最期に『立ち止まるな』とみんなを鼓舞してくれたんだと」

 

「英雄だったと?」

 

 久しぶりに言葉を紡いだインフェルノは、回路が錆びたような声色で質問をした。だが、難しい問いではなかった。それが正鵠を射るかどうかは別にして。

 

「言うまでもないさ」

 

 踵を返しながら、ロディマスは顔を見ないよう、見られないよう、去っていった。その先には、未来へ臨むサイバトロンたちが待っていた。

 

 インフェルノはひとりになった。

 

「アラート、……」

 

 誰もがそうするように、彼は涙を流し、思い出に惑溺しようとしていたが、インフェルノにはまだ早かった。そんな、思い出を、今を、感情を美しくする作業を、この何百万年もの間、実践したことはなかった。

 

 迂遠な感情を持っていないからこそ、弔いを知らず、他者を想えたのかもしれない。

 

「これから、苦しまないでいいんだ。戦いは終わったさ。もう、何にも悩まなくていい。オレが傍にいなくても、もう大丈夫なんだ」

 

 アラートに張り付いたサイバトロンのインシグニアを、痕がつくほど強く摩って、インフェルノは呟いた。

 

「なあ、アラート……英雄になんてならなくて、よかったろうに……」

 

 

 また、赤々とした太陽が昇る。

 

 

 


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