異世界転生モノを読んでいて強烈な違和感を覚えることはあるだろうか?
そういう人は異世界の設定に稚拙なものを感じるかもしれないし、登場人物の性格に気持ち悪さを感じるかもしれない。自分としてはそこまで異世界転生モノが嫌いなわけではないが、どうしても首を傾げるところがある。
それは転生者たる主人公の性格だ。往々にして主人公は現代においてコミュ障だったり、ニートだったりする中(勿論そうではない主人公もいる)そんな人間が異世界に転生して活躍なぞ出来るだろうか?ということだ。
勿論そういう部分に違和感を感じさせない為にチートなどの設定があるのだろうが、仮に自分が転生したとしても小説や漫画の主人公のように仲間と協力して強大な敵に立ち向かうなど出来ないと断言できる。
だから自分が転生したことに気付き周囲が日本語ではない言葉を喋っていたことに焦りはしても、それがただの英語だったことに安心したし生まれた場所が現代のイギリスだったことにも安堵した。
顔がとんでもない美人だったことに驚きこそしたがとんでもない不細工よりはマシだろうと思い、この2度目の人生を平和に暮らしたいと思っていたのだ。如何にも魔女という言葉が似合う、前世で見た覚えのある老齢な女性が目の前に現れる日までは。
(うわぁ、ハリーポッターだったかぁ...)
思い返せば違和感はあった。周囲の人間には聞こえない声が聞こえたり、ギャラリーが集まるほどの事故が起こったと思ったらその事故の痕跡や野次馬の記憶が無くなっていて、自分もそのことに不自然なものを感じていなかった事もあったりした。ここがハリーポッターの世界ならこれらのことにも説明がつく。
前者のことなら魔法生物やゴースト等のマグルには認識出来ないものの声が聞こえたのかもしれないし、後者のことは魔法使いがマグルの目の前で魔法を使うなどのガバをやらかしてそれを隠蔽したと考えられる。
まあ結局のところ違和感の答え合わせをしたところで状況が良くなるわけではないし、今大事なのは目の前の変身術の先生に着いていって魔法界に入るか否か、そもそもホグワーツの入学を断ることは出来るのかということだった。
原作を知っているであろう人ならご存知の通りであるが、ホグワーツは普通の学校、もしくは他の魔法学校に比べて間違いなく危険な学校であり、自分の年齢と時期を考えればラスボスであるヴォルデモートが復活して主人公であるハリーポッターに倒されるまでは生命の危機は間違いなく存在するだろう。
仮に自分が純血の魔法使いならラスボスから狙われず問題無かったかもしれないがその様な話は聞いたこともないし、目の前の先生もマグルから魔法使いが生まれることもあると言っていた。こう言った状況を加味すれば間違いなく魔法界に行くことはリスクがあるし、もし自分1人でこの話を聞いていたなら間違いなく断っていた。だが自分を取り巻く状況はそうでは無かった。
両親が他界し孤児院に拾ってもらっている身という、身寄りの無い子供の元に表れた学費の要らない学校への入学許可。これを断れる程自分は恩知らずではなかったし、孤児院の先生もマクゴナガル先生の説明から魔法の存在とそれを制御する必要性を理解しており、ここで自分が嫌ですなんて言える訳が無かった。仮にここに現れたのがハグリッドだったら説得に失敗して入学を断ることが出来る可能性があったのかもしれないが。
そう考えるとハリーの義父母の元にハグリッドを遣わせて対立を引き起こし、ハリーを虐めていた彼らの鼻っ面をへし折ったのはダンブルドアの計画の内だったのかもしれない。というかそう考えると虐待を放置していたのも魔法界に希望を持たせる為の自作自演だった可能性も微粒子レベルで存在する…?
まあそんなつまらないことを考える以外で自分に出来ることと言えば、今後の魔法生活に計画を立ててそれが上手く行く様に祈ることのみであった。
ーーー
「私が付き添いに行かなくても大丈夫と?」
「ええ、ただでさえ学校側には金銭面の援助をして貰ってるのに、その上に先生に苦労を掛けるのは嫌なんです。買い物には慣れてますし、魔法界で勝手が違うと言っても入学の準備に専門的な知識が必要な訳でもないのですよね?」
長期休暇中のホグワーツの教師の仕事には次の学期の授業の準備以外に大切な仕事があります。それは新たなホグワーツの生徒を迎えるというものです。
魔法使いの子ならその家に入学許可証を送り届けるだけで良いのですが、そうでない場合は入学許可証を貰っても何のことか分からないでしょう。なので新入生がマグルの子だった場合はこちらが直接出向いてホグワーツへの入学をサポートする必要があります。
これまで何人も新たにホグワーツに入学する子を見ていた私でしたが、目の前の少女はそれらの誰とも違う雰囲気を持っていました。
「正直に言ってしまえば、正規のお店で買うよりも中古品にすればお金を節約できるかなと思ってまして...」
「確かに貴女の立場からすればお金の節約をしたい気持ちは理解できますが...まぁ良いでしょう。ただし杖はきちんとオリバンダーで購入することを勧めます。他人の杖では魔法が発動しないのも珍しくないので」
「ありがとうございます。マクゴナガル先生」
マグルにとって魔法使いは空想の存在であり、自分がそうなれると言われて胸を躍らせない子は居ませんでした。勿論先程の少女が喜んでいないとは限らないし、今年見た生徒には魔法使いになれることよりも魔法の教科書を読むことが出来ることに興奮していた少女もいました。
ただその少女も年相応に喜んでいたのに対して先程の少女、イレナは落ち着きを払っていて此方への気遣いをする余裕までありました。
長く教師を務めて来た故の勘に過ぎませんが、目の前のイレナもその前に見たハーマイオニーも恐らくは才能溢れる魔女になるでしょう。願わくばその才能が闇に堕ちないことを祈って私は次の生徒の元へと向かいました。
ーーー
こうして私は1人でダイアゴン横丁に向かった。古着屋と古本屋で中古のローブと教科書を買い、残すは杖とペットのみとなった。
(それにしても、一年生は必修科目のみで教科書も変わらないから中古で買えたが、二年からはそうはいかないんだよな。はあ、ロックハートの教科書は一体いくらになるのやら...)
まだ入学してもいないのに来年のことで頭を抱えながら、魔法動物ペットショップに入る。魔法使いのペットショップも普通に獣臭いというどうでもいい事実を確認しつつ店主と話す。
「おや、嬢ちゃんはホグワーツの入学生かい?」
「どうして分かったんですか?もしかして魔法を使ったり?」
「ははは!そうだと言いたいが、そんなことしなくてもこの時期に小さな子供が来れば誰だってホグワーツの新入生だって分かるわい」
「確かにそうですね」
小粋なジョークで場を温めつつ(コミュ障の限界)聞きたいことを店主に尋ねる。
「ホグワーツの手紙にはフクロウ、猫、カエルが望ましいって書いてたんですけど、別に他の動物でも良いんですか?」
「そうだな。凶暴だったり大型過ぎるのは駄目らしいが、そうではない奴なら大丈夫だ」
原作ならロンウィーズリーがネズミのスキャバーズを連れてたな。ただそのネズミの中の人は死喰い人のおっさんだったんだが。
「ということはお嬢ちゃんは飼ってるペットがいるのか?」
「いえ、そういうわけではないのですが...ただ人の言葉を理解できるような動物だったら良いなって思っただけで...」
「それならかなり頭の良い猫がいるぞ。ニーズルの血を継いでて人の言う事をよく聞く良い子だ。どれ、持ってきてやろう」
「あ、ありがとうございます」
そう言って店主は奥に引っ込んだ。親切にしているのは私がここに1人で来ていて、先程の会話で魔法に詳しく無いと思われたからだろう。善意につけ込んでいるようで悪いが、こっちとしても此方の言葉を理解して命令を忠実に実行するペットは必要不可欠だった。
暫くして戻って来た店主だったが、彼が抱えていたのは猫ではなくネズミだった。
「すまねぇ嬢ちゃん。猫の方は先日他のお客さんに売ったんだった。その時の女の子も嬢ちゃんのような別嬪さんでなぁ」
「えーと、そのネズミはなんですか?」
「あー、こっちのネズミも人の言葉を理解してて、言うことも聞くんだが...見た目に人気がなくてなぁ」
そう言って見せたネズミは見るからに痩せこけていて、此方をじっと見つめる目の片方は白く濁っていた。この見た目では買い手がつかないのも然もありなんだろう。
「大丈夫です!見た目は気にしないので」
「嬢ちゃんは優しいなぁ」
「それに...猫よりもネズミの方が都合が良いかも」
「?」
そういうことで私はこのネズミを購入した。仮に猫の場合は金額の都合上買えないかもしれなかったので、寧ろ見た目で買い手がつかなかった分安く買えて助かった。
(まあ、コイツが必要になるような切迫詰まった状況には陥りたくは無いのだが...だけど身を守る為には力を付けないといけないしなぁ。仮に私がハッフルパフだったらハリーポッターのサポートがしやすくて闇の勢力から狙われにくい環境でやりやすいんだけど...)
ホグワーツには4つの組があり、これらに配属されると卒業までずっと同じ寮となる。それぞれはグリフィンドール、レイブンクロー、ハッフルパフ、スリザリンという名前なのだが、問題はその寮間で軋轢があることと肝心の組の決定が組み分け帽子とかいう意味不明なシステムによるものだ。
それらのクラスの内ハッフルパフは平等主義であり、他の3寮に比べ個性や才能に乏しい分他の3寮との対立が無い。それはハッフルパフが他の寮に軽んじられているのもあるのかもしれないが、まあ自分の様な人間が軽んじられるのも自然なことだ。
更にハッフルパフは魔法界が最も闇に傾いたヴォルデモート全盛期に闇の魔法使い(平たく言えば犯罪者)を輩出したことがないという、教育機関に於いて素晴らしい実績を持っている。こんな素晴らしい寮が落ちこぼれの寮とか言われるのは魔法界の歪な教育環境の賜物としか言いようがない。他の3寮は見習え。
(次善は...うーん、グリフィンドールかレイブンクローのどっちかだな...ハリーポッターに接触しやすいという観点から見れば間違いなくグリフィンドールだけど、彼らに近付き過ぎるのは必然的に物語の表舞台に立つことになる。そのリスクを考えればあまり歓迎できるものではないし、そもそも私の気質的にグリフィンドールは合わないだろう)
グリフィンドールは原作の主人公であるハリーポッターが所属する寮であり、勇気を持つ生徒が入れるという特徴がある。主人公が居る都合上なにかと持ち上げられるが、その分危険も多い。その最たるものはスリザリンとの対立だろう。
レイブンクローは知恵ある者が入れるという特徴があり、その生徒は個人主義的な考えが目立つものの才能に関しては素晴らしい物を持つ生徒が多い。原作ではルーナという狂人が居たがあれは例外だろう。ハリーポッターの友人である天才ハーマイオニーはこの寮に入る資格があったがそれを蹴ってグリフィンドールへと入った。個人的には寮の位置が遠いのがマイナスポイント。
(まああり得ないとは思うが...最悪はスリザリンだな。主人公のハリーポッターとは対立する上、マグル生まれの自分は寮内でも浮くことだろう。なんならスリザリンとグリフィンドールの両方から虐められることもあるかもしれないな。まぁ私とは関係ないだろう)
残るスリザリンはいろんな意味で教育機関にあるまじき寮だ。狡猾な者、魔法使い同士の子である純血の者が入る資格を持つとされていて、その実態は貴族社会である。純血の中でも歴史ある聖28一族の子が寮内の実権を握り、それらに近しい者が周囲を囲むという馬鹿げた寮だ。真面目に勉強しろ。
更に魔法界には純血主義という考えがあり、スリザリン生はそれを重んじている。その為に尊い血の聖28一族を信奉し、穢れた血であるマグルやマグル生まれの魔法使いを排斥する。まあこの考え自体は悪いものではないと思うが、自分がマグル生まれなら話は別だ。この寮に私が入るということを例えるなら、貧乏人がお金持ちの進学校に入学し高校デビューに失敗するという3年間虐め確定の救いのない話だ。まあこの話は私とは間違いなく一切の関係も無い話なんだけど。
更に更にスリザリンからは闇の魔法使いが生まれやすく、ラスボスであるヴォルデモートの全盛期には彼の部下である死喰い人の多くがスリザリンから輩出された。スリザリンいる?
そういう訳で私はハッフルパフに入れますようにと願ってオリバンダーの店に入った。因みにオリバンダーは爆速で私に合う杖を見つけてくれた。ハシバミにドラゴンの心臓の琴材の20cmだった。
教材の購入を終えた私は魔法道具の店などで冷やかしをしながら初めての魔法界の見物をしていた。帰りの遅い私に孤児院の先生が心配したのはまあどうでもいい話だった。
ーーー
そして9月1日、ロンドンのキングス・クロス駅の9と4分の3番線の壁を通り抜けた(というかこれに気付けば一瞬でハリーポッターの世界だと分かったじゃん)私は誰に見送られることもなく列車に乗り込んだ。
早い時間に来たのもあって列車に生徒は少なく、その中でも誰もいない個室に入る。正直言って誰かが居る個室に入る勇気は無かったし、コミュ障にとっては後から来た子と喋るのも嫌だったので席に座ったらローブを被って眠った。前日まで予習を頑張ってたのもあり目を閉じれば眠れるかと思いきや、これからのことに気が昂っているのか全然眠くならない。
取り敢えず目を閉じたままでいると、扉がノックされる。寝たふりをしたい欲求を抑えて目を開けると、そこにはおどおどとした様子の男の子がいた。
「あ、あの。座ってもいいかい?他に席が空いてなくて...」
「いいですよ。私はイレナ・アーシュです(先制攻撃)」
「あ、ありがとう。僕の名前はネビル・ロングボトム」
そう言っておっかなびっくりと席に座るネビルを横目に見つつ、私は彼をコンパートメントに入れたことを少し後悔する。彼、ネビル・ロングボトムは原作の主要キャラの1人でハリーと同じグリフィンドールに所属する男の子である。性格は気弱で能力は低いが、内に秘めた勇気は誰よりもあるドラえもんののび太みたいな人物だ。
舞台に上がるということは彼らのような主要キャラと否応がなく関わりを持たないといけないことは重々承知していたが、確かネビルはこの時点でハリー達と接触するはずで…
「ねぇ!ここ空いてるでしょ?座ってもいいかしら?」
いかにも勝ち気そうな声に振り向くと先程抱いた悪寒が現実になったことを察した。目の前にいたのは超がつくほどの美少女であり、見るからに利発そうな子だった。
その子がコンパートメントに入って捲し立てるように自己紹介を済ませて自分の話を続けるのを横目に見ながら私はこれからの計画に早速修正を入れるかどうかを考えていた。
隣に座った少女の名前はハーマイオニー・グレンジャー。マグルが産んだこの世界のバグみたいな魔女である。性格は頭でっかちで好奇心旺盛、その能力は沢山あるホグワーツの教科をほぼ全て優秀な成績を修めるまさにパーフェクトな魔女だ。
これだけ聞くとよくいる頭良いキャラでしょ?と思われるかもしれないがホグワーツの授業は高学年になると大学のように選択科目が基本となり全ての授業を受けるのは不可能になる。彼女は裏技を使ったとはいえその授業を全て受講しその上で一教科を除き優秀な成績を修めたのである。
それにホグワーツの授業はその殆どが実技科目であり、筆記ができればという話ではない。つまるところ彼女はただ勉強ができるという言葉では収まらないレベルの才女ということである。
そんな彼女はハリーともう1人の男子を加えた3人で主人公トリオを結成し、様々な苦難を3人で乗り越えるまさに勇者だ。ネビルはその時々で出番があるくらいだが彼女は登場しない場面の方が少ないというレベルだ。彼女と接触するということは必然的にハリーと接触するということで…
「あれ!?トレバーがいない!?」
それぞれのペットの自己紹介をしている内にネビルが自身のペットであるヒキガエルとはぐれたことに気づいた。ちなみにハーマイオニーのペットが私がペットショップで買おうとしていた頭の良い猫だったらしい。そういえばシリウスと協力してピーターを探してたんだったな。
「それなら一緒に探しましょう?イレナもどう?」
「あ、はい。ただ私は1人で探しますよ。カエルならウチのジャンが探せると思うので…」
「た、食べないでよ!絶対だからね!」
「ネズミじゃカエルは食べられないでしょう。大丈夫ですよ、多分」
そう言って彼らの行く方向とは別方向に向かって歩く。あのまま2人についていったらめでたく主人公とのご対面だ。主人公との接触は最悪これからの危険に巻き込まれることに繋がるから遠慮したい。
ネビルには申し訳ないが適当にヒキガエルを探しつつ、コンパートメントを周って時間を置いて自分の席に戻るのだった(結局ヒキガエルは見つかったらしい。ハリー・ポッターとその隣にいた冴えない男子の話をハーマイオニーから聞く間にネビルから聞けた)
「うーむ、巨悪を打ち倒したいという思いからは勇気と高潔さを感じるが、その為には手段を選ばない狡猾さや誰も頼ろうとしない孤独を感じる…」
頭の上でペラペラと喋る帽子は組み分け帽子といい、ホグワーツのクラス分けを担うシステムだ。この帽子には被った者の内面を覗き込み、その者に相応しい寮を叫ぶと言われる。
「ただ君はハッフルパフに行きたいと。その理由は?」
「ハッフルパフには平穏があり、闇が付け入る余地がないからです」
持ってるのが不自然な知識を思い浮かべないようにしつつ(効果があるのかは分からんがしないよりはマシだろう)組み分け帽子への質問に答える。
「確かにハッフルパフは闇の魔法使いを生み出さないということで有名だ。だがそれはハッフルパフ生の努力の積み重ねであり、ハッフルパフに行けば無条件で享受できるものではない。それは平穏にしても同じことが言えるだろう」
なんで組み分け帽子と哲学的な話をしなきゃいけないのかとうんざりしながら話を進める。
「勿体ぶらずに言えばどうでしょうか、私に平等や誠実を愛する気持ちが無いと。それならグリフィンドールかレイブンクローでお願いします」
「ふむ、スリザリンは嫌だと?先程の少年もそうだったし他の多くの生徒も思い込んでいることだがスリザリンは決して嫌な人が通う組ではない。むしろ君がスリザリンに行けば彼らは君に優しくするだろう」
「それは純血や少なくとも半純血までの話でしょう?マグル生まれにあの寮の居場所があるとは思えない」
「確かにスリザリンに血を尊ぶ思想があるのは間違いではない。ただサラザール・スリザリンのマグル生まれを排斥する思想の根底には魔法界への想いがあった。彼はマグルと魔法使いに大きな線引きをして互いに不可侵とすることで魔法界を守ろうとしたのだ。それを考えると…」
組み分け帽子は間を開けて話を続ける。
「君の考えは私にも全て読み取ることはできないが、そのような考えの持ち主をサラザール・スリザリンは拒絶しないだろう」
「いや…それでもスリザリンは…」
「君に必要なのは利用できる駒や1人で暴れる場所ではなく、隣に立つ仲間だ。その仲間を見つけられる場所はここしかない」
組み分け帽子が大きく息を吸ったのを感じて私は絶望しつつ耳を塞ぐ。
「スリザリン!」
俺の学校生活…終わっちまったよ…
ーーー
「スリザリン!」
長い時間を掛けて組み分け帽子に組を決められた少女は静かに帽子を置いてスリザリン生の集うテーブルに向かって歩く。
その姿はまだ入学も終えてない子供とは思えないほど堂に入ったもので、最後の入学生、組み分けの時間に5分を超える組み分け困難者、そして何よりも本人の超然としたものを感じさせる美貌も相まって多くの視線が彼女の元へ集う。
彼女は静寂の中、スリザリン生に囲まれる1人の少年の元に向かう。少年は場の雰囲気に多少の困惑を浮かべつつも彼女を迎え入れる。
「真っ先に僕に伺いを入れるとは中々礼儀を知っているね。顔を見たことはないから聖28一族ではないだろうが、どこの家だい?」
「いえ…私は…」
イレナは少年、ドラコ・マルフォイに対して頭を下げて膝を地につける。その異常な行動に多くの視線を集めつつも朗々と申し上げる。
「私は何の魔法族の血も引いてない卑しき女です。私のような下賎な人間がスリザリンという気高き集団の末席に座ることをお許しください」
イレナがホグワーツやスリザリンのことを割とボロクソに言ってますがこれはあくまで現実世界の日本人としての考え方であり、魔法界には魔法界の考え方がある前提で話してます。というかそれだけ深く魔法界に根を張ってる思想とそれを育む土台を恐ろしく思ってます。