狂兵でしょうか?いいえ、漂流者です   作:三途リバー

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狂兵(バーサーカー)でしょうか?いいえ、漂流者(ドリフ)です

拝啓、お父さんお母さん。

世界の終末まっさかりの今日この頃、如何お過ごしでしょうか。街を包む大火に逃げ惑っているでしょうか?思考放棄してフリーズしてらっしゃるでしょうか?っていうかここ過去の世界だっけ。ということはそちらはごく普通の日常を送っている…?いや、人理だかなんだか忘れたけどそれごと吹っ飛んじゃった…?

いずれにせよ、大変な時にそばにいられない親不孝の娘が言えた事ではありませんがお二人の無事を願って止みません。

 

……私ですか?いや、まぁ、なんというか……その…

 

「サンジェルミ!あなた仮にも2000年前から名の知れた化け物を名乗るなら、あのサーヴァントくらいどうにかしなさいよッ!!」

 

「ぶっ殺すわよクソガキ。大体アタシは魔術師とは言ってもどちらかと言えば外交とか調停役とかそっちらへんのフォーマルなところの担当なの!そもそも本業は錬金術(口八丁手八丁)!か弱い乙女にメドゥーサなんて大物どうにか出来るわけないでしょッ!」」

 

「もう突っ込む気力もないっ!なんでアンタみたいな役立たずがいて、レフがいないのよぉっ!!」

 

「うっさいわね!と言うか、なんでアンタこそちゃっかりレイシフトしてんのよ!適正ないから虐められてたんじゃないのォ!?」

 

「いいい虐められてないわよ!!たたたた単に気の合う友人がいなかっただけで私は別に」

 

「所長!語るに落ちています!と言うか落ち着いて下さい!サンジェルミ伯も、火に油を注ぐような真似は…くっ!!今は下らない小競り合いをしている場合ではありません!」

 

………終末世界ぶらり旅、オカマを添えて???

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバイト気分で出向いた先が爆発でぶっ飛んで、知り合った後輩の女の子が命を失う寸前で。だからせめて、彼女の隣に…手を握っていてあげようと思って。

そうしたら、レイシフトだかタイムスリップだかに巻き込まれて。それで、後輩がデミサーヴァントで、私がマスターで……。

 

「何一つ分からない…」

 

しかもカルデアのDr.ロマンと通信が繋がったと思ったら、急に敵性サーヴァントに襲われるし。しかもなんか、明らかに怪しさ満点のオカマが助けてくれるし…

 

「あなたが分かろうが分かるまいが、そんなの関係ない!これはカルデアの、引いては人類の危機なの!まずはこの男女をぶちのめして、その後さっきのシャドウサーヴァントに反撃!やりなさい、マシュ!」

 

「誰の資金援助のおかげでカルデアの所長続けられてっと思ってんだ砂利ガキ!」

 

「それはそれ、これはこれ!!そもそも、時計塔からも独立した勢力であるあなたがカルデアに出向ということ自体が意味不明!それに到着予定時刻を大幅に過ぎても姿を見せず、その間にカルデアは爆発!かと思ったら特異点Fにいるし、もう誰がどう考えても黒幕でしょう!」

 

「お、お化粧とかいろいろ時間かかるのよッ!いいでしょオカマの粗相の一つや二つ、笑って受け流すのが女の器量ってもんでしょ!」

 

そんな軽口(?)を叩く間にも、先程退けたサーヴァントの攻撃がビュンビュンと飛んでくる。束ねた鎖を槍のように唸らせ、こちらの命を刈り取りに来ている。

 

「はぁっ!!」

 

しかし明確な殺意を孕んだそれらの攻撃は、マシュに…私のサーヴァントだという後輩によって尽く弾き飛ばされていく。

 

「マシュ、ありがとう!あのビル街まで頑張って!路地に入り込んで、できる限りあいつを撒くっ……!」

 

「はい、先輩(マスター)!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無数の鎖や道を塞ぐ骸骨騎士達を何とかやり過ごし、私達は廃ビルの中へと逃げ込んだ。

一息ついた途端、あまりの怒涛の展開で感じることすら忘れていた疲労が一気に身体にのしかかる。

 

「はぁっ、はぁっ………」

 

「大丈夫ですか、先輩?」

 

荒い息を吐く背中を、マシュが心配そうに摩ってくれる。敵の猛勢にその身を晒し、命を張っていたのは彼女だというのに優しい子だ。

 

「あり、がと……でもやっぱ、この間どころかついさっきまで一般人だった可憐な少女に、この修羅場はキツいかな……」

 

「あまりご無理はなさらずに。私は周囲の警戒を行っていますので、何かあればすぐに呼んで下さい」

 

そう言ってまた駆けていくマシュの背中は、大きくも何ともない。

ただの年頃の、華奢で可憐な女の子だ。

 

「おセンチになってるとこ悪いけど、今のうちに話を済ませるわよ。さっそくだけどオルガマリー・アニムスフィア。デミサーヴァント一体とド素人マスター一人、それにチキン一羽で特異点をどうにかするとか抜かしてたわね、アンタ?手柄欲しさに自殺行為とか、アホなのアンタ?そう言えばアホそうな面してるわね、アンタ」

 

そう言って服に着いた埃を払い落とす紳士…淑女……いやオカマ。

そう、オカマ。金髪にやたら派手な化粧、言葉と裏腹に落ち着き払った声音という、何から何まで全部怪しいオカマだ。

 

彼はサンジェルミ伯爵。またの名を、サン・ジェルマン。

中世ヨーロッパから近現代アジアまで、はたまた遥か過去のソロモン王の時代までその名を知られた、歩く世界ふしぎ発見大図鑑である。魔術のまの字も知らず今日まで生きてきた私でも聞いた事がある超大物だ。

 

なんでもこの人はカルデアや時計塔?とかいう所には所属しないフリーの魔術師らしく、かなり自由な行動で有名らしい。

 

「じゃあどうしろって言うの!文句があるなら代替案を出しなさい、代替案を!!私は、手ぶらでここから帰る訳には……!大体、さっきも言ったけどあなたが黒幕なんでしょそうでしょう!?こんなところにまんまと私達を連れ込んで、纏めて始末しようと……」

 

代替案を出せと言ったり黒幕だと断じたり、未だパニックから戻ってこれていないのはじんりほしょーきかんかるであのえらいひと、オルガマリーちゃん。名字いれると長ったらしいので私は所長と呼んでいる。

 

「カルデア潰してアタシになんの得があるの?100年後には途切れる人類、その中には当然アタシも、アタシの領地の人間も含まれる。それを是正し救うためのカルデアに、アタシがいくら注ぎ込んでやったと思ってんの?大枚はたいておまんま食べさせて、あやし育ててきたカルデア潰して、なんの意味があるの?アタシが援助してやんなかったら、シバだのカルデアスだのあんな金食い虫が今の今まで息してる訳ないでしょバァカ!ほっといても潰れる代物を、わざわざ育ててから台無しにする必要ないでしょバァカ!!少しは考えてから物言いなさいバァカ!!!」

 

「ぅっ…ぐぐぐぐ……」

 

100年後の人類に自分を数えてたり、領地とか現代じゃ的外れな単語が飛び出したり、言葉だけ聞けばとんだ詐欺師かイカレと思う。だがその声音は妙に力強い。不審なオカマに違いはないが、何故かこの人の言葉は胸にすとんと落ちていく。

 

「アタシがこの特異点にいるのは、我が唯一の魔術のおかげ。世界を渡る無二の秘術、アタシをサンジェルミ(アタシ)たらしめるノウブル・ファンタズム・第七光線の──」

 

「あなたの大ボラはもう良いわっ!あぁもう、とにかく!サンジェルマン伯爵!あなたは我々カルデアの味方で良いの!?」

 

「だからさっきからそう言ってんでしょ!カルデアに到着した時にはもうあの爆発騒ぎが起きてて、ヒョロガリポニテ医者からアンタらの引率頼まれたから来てやったのよ!このアタシが直々に!それを全く、礼儀がなってないったらありゃしない!」

 

「じゃあ、ジェルミさんはDr.ロマンに頼まれて来てくれたカルデアからの援軍ってこと?」

 

「じぇ、ジェル……一般ピーポーの癖に肝座ってるわね、橙頭…。リツカ・フジマルとか言ったかしら?そういう認識で構わないわ。ただひとつ、援軍と言ってもアタシはアンタらの為に命捨てられるようなやっすい立場じゃないの。駄々こねてるそこのバカをふんじばって、一刻も早くカルデアに帰還したいのが本音ね。この特異点は異質すぎる。行き当たりばったりで解決出来るような甘っちょろいモンじゃないのよ。でもま、放っておく訳にもいかないのも事実ではある…」

 

つまり、こういう事だ。

ジェルミさんは今日カルデアに出向することになっていたが、たまたま遅刻。そのおかげで事故に巻き込まれずに済み、無傷の状態でカルデア職員達に合流した。

そこで私達の置かれた状況を知ったDr.ロマンに頼まれて、わざわざここへ来てくれた。

 

「めちゃくちゃ良い人じゃん!!サンジェルミ伯万歳!」

 

「オホホホホホ!そうよ!崇め奉り平身低頭で有り難がりなさい!」

 

「ありがたやーありがたやー」

 

「そんなオカマの肩持つな藤丸ゥ!!……はぁ、不本意ながらあなたが味方だということは理解しました。こんなゲテモノに借りを作るロマンの神経はまっっっったく理解できないけど」

 

相変わらず所長の毒は止まらないが、ひとまずジェルミさんと対立するとかそういう事態にはならずに済みそうだ。

だが最悪は回避すれど、状況が悪いことには変わりない。そもそも鎖をブンブン飛ばす上に鎌担いで追いかけてくるナイスバディなおねいさんに為す術がなく、マシュに守ってもらって這う這うの体で逃げてきた訳だし。

ジェルミさんは戦闘要員ではないらしいので、戦力的にはマシュ一人におんぶにだっこなのは変わらない。

よしんばアレを撃破したとて、この特異点をなんとかしようにも成すべきことすら分からない。

 

「いつまでもここに隠れてる訳にもいかないしなぁ…うーん、なんか良い打開策がパッと降ってこないかなぁ…」

 

「んー…………んんんんん〜〜〜……」

 

唸るジェルミさん。だがそれは知恵を振り絞るというよりかは、どちらかと言うと迷っているといった様子である。何かを天秤にかけているような、一世一代の賭けに打って出る直前のような。

 

「…………無い……こともないわよ。打開策。というかこれをアテに、アタシに救援頼み込んだんだろうし。ん〜…でもやっぱ、ねぇ………」

 

たっぷりの沈黙の後、絞り出されたのは苦渋に満ちたそんな言葉。

 

「な、あなたねぇ!そんな策があるなら始めから言いなさい!何勿体ぶってるのよ!」

 

「なに、こと自体は単純な話だわさ。召喚すんのよ、英霊(サーヴァント)を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンクリートの地面に、ジェルミさんが魔法陣をガリガリと描きこんでいく。その右手に握られているのは真っ赤な口紅、床とジェルミさんが間接キッスである。

 

『何か描くもの……ちっ、アレスタもフラメーも、肝心な時いないわねッ』

 

悪態を吐きながら口紅を取り出したジェルミさんを、ゴミを見る目で所長が見下ろしていたのはまた別の話。

 

「上手く、いくでしょうか…」

 

私の隣には、盾を手放し不安そうに手をにぎりしめるマシュ。先程まで骸骨どもをぶん殴って散らしていた獲物は、ジェルミさんが描く魔法陣の中心部に突き刺さっている。

 

「ジェルミさんを信じよう。ここはもう、彼…いや彼女?あぁもうめんどくさい、とにかくジェルミさんの策に乗るしかないよ。いつまでもマシュにだけ戦わせる訳にはいかないしね」

 

落ち着かせる為にそっと頭を撫でると、僅かにその体の震えも収まり始める。

 

「先輩…私、強くなります。召喚される英霊の方と共に、先輩を、皆さんをお守りできるよう、必ず…」

 

「…うん。私も、強くなるよ。マスターとしての強さってイマイチ分かってないけど、それでもやっぱり何か出来ることをしたいから。私は、マシュと、これから来てくれる人に恥ずかしくないマスターになる」

 

 

知らずのうちにマシュと固く手を握りあいながら、私の意識はつい数分前に立ち戻る。ジェルミさんが提案した、打開策の事に。

 

 

 

 

 

 

『いやね、私今持ってるのよ。確実に狙ったお目当てのサーヴァント引ける触媒。そりゃもうこれで来なかったらうそでしょアンタってレベルの縁深いやつを』

 

『ならさっさとそれ出しなさいよ!そのサーヴァントと契約して、少しでも戦力を…』

 

『ただし!かーなーり怪しい部分がある!!』

 

ジェルミさんいわく、()は日本において実在し、それなりの偉業を成し遂げたひとかどの英霊であるらしい。有名所には二、三歩劣るがそれでも貴重な戦力には変わりない。それに、多少英霊として格落ちだとしても本人の力量自体はサンジェルミのお墨付きだと言う。

 

『なんであなたがそんなもの持ってるのかはともかく…何を迷う理由があるの!とっととその格落ち英霊を呼びなさい!!』

 

『急かすな馬鹿!問題はここからなのよ馬鹿!良いこと!?私が今持っている触媒は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!』

 

ここではないどこか。

今ではないいつか。

()()世のだれもが知ることの無い、分かたれた世界に飛ばされたその男は、文字通り世界を救い、そして英雄として祭り上げられたらしい。

 

『つまり、異世界転生…?しかもそれって、その男だけじゃなくてあなたも異世界に行ったってことよね?あなた、格好だけでなく頭の中もイカれてるの…?』

 

『だァレが面白い格好のイカれたオカマだクラァ!!聖杯だの英霊だの人理だの、そんな面白ワード連発してる世の中で異世界如きでグダグダ言ってんじゃねぇぞクラァ!!』

 

そりゃまあ、確かにその通りである。

 

『アタシはあのおバカな王様を間近で支えてたのよ。ったくあの首狩り大将、散々人を往生させといて戦争終わって暫く経ったら安らかな顔でぽっくり逝って、後処理含めてアタシらがどんだけ苦労させられたと………ま、ともかく。ここまで言ったらそこの頭硬そうな鼻水垂らしでも分かるでしょッ』

 

『だ、誰が泣き叫んで鼻水垂らして若干漏らしかけてる頭硬そうな女よッ!!』

 

『語るに落ちてるよ、所長…』

 

『ぬぐぐ……ふんッ!大体察したわよ!召喚に成功したとして、この世界での一英霊として顕現するのか。それとも向こうの世界の大英雄として顕現するのか、見通しが立たないんでしょ!』

 

通常、英霊というのはその知名度によって規格付けがなされ、世界的に高名であればあるほど強力な力を引っ提げてこの世にやってくる。らしい。だが件の彼は不確定なのだ。

 

こちらの世界で事を成したから英霊なのか。

それともあちらの世界で伝説になったから英霊なのか。

 

『いやでも、こっちで召喚するんだから、こっちの世界の人に知られてる状態で来てくれるんじゃないの?』

 

『そうとも言いきれないのよね、これが』

 

そう言いながらサンジェルミがゴソゴソと懐から取り出したのは、飾り気の一切ない武骨な鉄の塊だった。

 

『日本刀の…鍔?』

 

それは私にとっては見慣れた…とまではいかないが、写真やら創作物やらでよく見かけるもの。王様の遺品というから相当派手な装飾がされてるのかと思ったが、全くそんなことは無い。黒一色の鉄地に刻み込まれた大小無数の傷からは、優美さとはかけ離れた実用性が見て取れる。

 

『これはあの子を狂信的に慕っていたドワーフ族が後生大事に保管していた、云わば伝説の証明。物語の英雄が、自分達の祖先と戦場を共にしたという絶対的な確信の元300年以上保管されていた特級遺物よ』

 

込められた想いの桁が違う。

それこそ世界の違いなんていとも容易く乗り越えるくらい、多くの人が彼を慕い崇めて憧れたのだという。

 

 

 

 

「アオハルしてるとこ悪いけど準備出来たわよ。後はリツカ、アンタが()()()を呼び出して」

 

ジェルミさんの言葉で、急速に意識が浮上する。手渡されたのは、虹色に光る綺麗な小石と例の鍔。

 

「これは最終警告よ。ここから先、()()()()()()()()()()()()あの子がいつの状態で召喚されるのか…こちらの世界の彼か、あちらの世界の彼か、はたまた歪に混ざりあった、可能性としての彼か!それらのうちどれを召喚したとしても、この特異点の修復を保証するものではないわ。彼ほど馬鹿で、阿呆で、素直で愚直で、そして芯の通った人間をアタシは知らない!世界がどうなろうが彼は彼の道を行く。敵味方が誰であろうが彼は死地へと突っ込んでいく!御して見せなさい、リツカ・フジマル。私が知り得る限り最高に空気の読めないお馬鹿さんを」

 

「うん。やってみるよ。人類の未来とか、そんな大仰な実感は湧かないけど…私は、ここにいるみんなと一緒に帰りたいから」

 

(ま、ホントは向こうの彼を呼べば9割問題解決なのよねぇ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()じゃなくって?変に期待させて後からギャーギャー言われても面倒だから黙っとくけどネ)

 

深呼吸を繰り返し、精神を統一させる。大丈夫、私は大丈夫。なんたってじんりほしょー…しゅうふくだっけ?とにかく魔術を扱ってるカルデアに、補欠とはいえお呼び出しをもらったのだ。

大丈夫、大丈夫。

 

「藤丸」

 

と、後ろからトゲトゲしいお声。

 

「これだけは言っておくわ。私は、あなたの死を背負うなんて真っ平ごめんよ。そんな重荷、私に投げておっ死んだら一生許さないから」

 

「ぷッ……くくくくっ…」

 

「な、何笑ってんのよ!とっとと戦力引いてきなさい、この補欠枠!」

 

なんて乱暴な気遣いか。誇りや責務なんかじゃない、不格好でぶっきらぼうな優しさが、確かにオルガマリーにはあるということか。

 

(あぁ、勿体ないなぁ)

 

マシュも、所長も、それにジェルミさんも。

こんな終末世界だからこそ出会えて、一緒にいれるだなんて。

 

(いや、なにが勿体ないもんか)

 

これからだ。ここからなのだ。

友達になって、馬鹿やって、腹の底から笑いあって。

そんな未来は、今から自分達で掴み取るのだ。

 

魔法陣の中央に聳え立つ盾に、手をかざす。石をはめ込む。そして、鍔を強く握り締める。

 

「っ……ぐぅぅぅっっ………!」

 

途端、荒れ狂う光の奔流が尾を引き出した。

嵐のごとき激しさで、乱気流のように光が周囲へ散っていく。

鍔を握った手は焼けるように痛み、弾き飛ばされそうになる。

 

「ま、だ、ま、だぁ……!!」

 

マシュは一人戦ってくれた。今日知り合ったばかりの私を信頼し、たった1人で戦場に突っ込んで守ってくれた。

所長は半狂乱になりながらも自分に出来る限りの指示を飛ばし、恐怖を抑えて立ち上がってくれた。

 

「お、願い…………答えて…応えて……!!私に、応えろォッッ!!!」

 

吼えた、刹那。

 

()()()()()()()()()()()

 

「なッ!?ちょ、ちょっとサンジェルマン伯!これはどういうこと!?カルデアにあった史料では、召喚時にこんな現象は…!」

 

「あらヤダ来たんじゃない?来たわよねコレ?星5すっ飛ばしてそもそもステータス表記ごと違うような別世界からUR来たんじゃない!?」

 

「なにをブツブツとわけわかんないことを!こ、これじゃ藤丸が…!」

 

「先輩、危険です、この魔力反応は…!」

 

痛い、痛い痛い痛い熱い熱い苦しい辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い!

 

でも、それでも退くわけにはいかない。

ここで退いたら、諦めたら。それは即ち、負けなのだ。

負け。

そんな、そんなものは認められない。私達の(いくさ)は、始まってもいない──!

 

脳みそが焼き切れそうな痛みの中、1つの単語が私の思考を支配した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来い!!ドリフタァァァァァァッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光が収まった時、そこにいたのは1人の男。

血よりも赤く、緋よりも紅く、生命が形を成したのかと思うほどに力を漲らせる眩しい武者。

 

「なぁんが、美事な口上ち思うたら年端もいかぬおなごでなかが!じゃっどん良か!良か面魂ぞ!おなごじゃろうがなんじゃろうが、棒でん槍でん担いで疾走るち心地よか気勢ぞ!」

 

私達の旅はここから始まった。

幾つもの絶望が待ち受けて、数え切れない哀しみに包まれて。

 

「共に征くもんに()()はなんでんしちゃる。おいの命ばくれちゃる。おまぁは良か、良か兵子じゃ!おいの命ば預けるにたる、良か大将じゃ!」

 

それでも、そんなもん知ったことかとばかりに全部蹴散らして捻り潰してぶちのめす、そんな滅茶苦茶な私達の旅が。

 

「島津中務少輔豊久、推参!!………といあえず、首じゃ。功名首ば奪らんでは、おいのいる意味なぞなかろ?」

 

「えっこれ大丈夫?話通じるタイプ???」

 

いやほんとマジで。泣きたくなるくらい滅ッッッッッ茶苦茶な旅が。

 

 




もし黒王の正体が例のアレだったら、もし豊久がそれを討ち取ったら、もう無敵もいいとこじゃないっすかね???
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