狂兵でしょうか?いいえ、漂流者です   作:三途リバー

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YATTA!

 

マシュは、襲撃者であるシャドウサーヴァント…恐らくはアサシンとの戦いを有利に進めていた。それもその筈、アサシンクラスとは元来真正面からの戦闘を得手としない。

陰に隠れて不意を打ち、知らずのうちに命を刈り取るからこそのアサシン。

 

それが豊久の直感によって奇襲を妨げられ、乱戦でもない1対1の戦場に引きずり出された今、その実力の殆どは発揮できていない。

 

「はぁぁっ!!!」

 

「ぐ、ギ…」

 

それを考慮しても、マシュの実力は賞賛に値するであろう。

今日初めて、サーヴァントとしての戦闘どころか戦場そのものを初めて経験した少女である。それが巨大な鉄塊を振り回し、叩き付け、戦局を有利に運んでいるのだ。

 

「マシュ、あまり距離を開けないで!投げナイフでアウトレンジに逃げられる前に、一気に距離を詰めて叩こう!」

 

「はい!」

 

そしてその主、藤丸立香の戦屋としての力は更に驚嘆に値しよう。

瞬時に敵の行動パターンを読み、特性を考察し、対処法を組み立てる。能力もさることながら、その精神性は尋常のものではない。

 

「せいっ!!」

 

マシュの鉄盾が、アサシンの体をビルへと押し潰した。黒い粒子が飛び散り、ビルにも亀裂が入る程の一撃だがはまだその動きを止めない。

ならばとマシュも力を緩めず、アサシンを壁にめり込ませる勢いで盾を圧していく。

やがてもがいていたアサシンの力が抜けていき、空に溶ける粒子の色も濃くなっていった。

 

 

そこで勝利を確信したのが、マシュ・キリエライトの現時点での限界だった。

 

 

「宝具、展開」

 

「っ!?」

 

背に走った悪寒に、咄嗟に盾を引いて守りを固めたマシュ。

しかし覚悟した衝撃はどれだけ待ってもやってこない。

 

はっとして敵の顔を見やれば、黒い影に浮かんだ純白の仮面が侮蔑に歪んでいた。

 

「しまっ──」

 

気付いた時にはもう遅い。

黒い包帯で戒められていた巨腕が、マシュの背後に佇む主目掛けて解き放たれている。

わざわざ宝具の発動を宣言したのはマシュに防禦姿勢を取らせるため、硬直時間を取らせるためのブラフであった。

 

(傍に駆け寄って守る!?いや間に合わない、今から腕を殴り付けても先輩はもう間合いにいる、どうするどうするどうする、どうするッ……)

 

 

 

「なんもかんも一撃に込めい、ましゅ!!!」

 

 

 

 

刹那、戦場に轟いたのは雷鳴だった。

迷いの思考に呑まれ、空白となっていた本能を叩き起こす撃鉄の如き雷鳴である。

 

「っ……ぁぁぁああッッッ!!」

 

そうだ。

何を迷うことがある、何を日和ることがある。一秒でも速く、一瞬でも迅く()()()()()()()()()()()()()()ではないか。

 

守る為の盾を頭上に掲げ、それだけでなくマシュはその()()を刃のように縦へ向けた。

 

「なにッ!?」

 

刃の付かぬ盾のへりとて、サーヴァントの全力をもってすれば断罪の剣と何ら変わりはしない。

 

「ちぇす、とぉぉぉぉぉぉぉぉおおぉっっっ!!!!!!!!!!!」

 

漏れ出た叫びは雷鳴の加護か、はたまた畏敬の現れか。

 

狂奔に背を押された()()は、アサシンの頭の天辺から股の下までを切り裂いた。

 

「お……ぁ……」

 

「先輩には指一本、触れさせません…!」

 

今度こそ霊核が砕け散り、アサシンは粒子となって消滅していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ははぁ、荒削りじゃっどん、良か太刀筋、良か性根ぞ。ますたぁと言いましゅと言い、こん御世にはおなごにも兵子もんがおっどじゃな」

 

一度は不覚を取ったとは言え、見事な機転(力技)を見せたマシュに豊久は惜しみない賛辞を送る。

駆け寄って自らのサーヴァントを抱きしめる主の姿を視界の端に収めながら、豊久は肩越しに問いかけた。

 

「お前もそうか、あぁ?」

 

「あら、気づいていたのね」

 

言葉と共に虚空から姿を見せたのは、紫艶の髪を揺らす魔女である。

ライダーとアサシンをけしかけ、必殺の機を伺っていたランサーは目論見を潰されたにも関わらず楽しげに笑っていた。

 

「見知らぬ顔が増えたと思えば、あなたもあの小娘の使役するサーヴァントですか?お手並みは見事だけれど、主があんなゴミ溜めのような魔力量では底が知れるわね」

 

くるりと鎌付き槍を扱くうち、鉄鎖が豊久と彼女を取り囲む。まるで闘技場のように、戦場を構築していく。

 

「オカマ、2人ば連れて逃げい。こいはおいの首級…と言いたかが、おなご首は手柄にならんの。気乗りせん」

 

「言われなくったって逃げてるわよ!!あとアンタ、もう男だ女だ言ってらんないからねッ!!英霊と認められて顕現してるんだから女だろうが一級品の手柄首よ!!しっかりバッチリ仕留めなさいよっ!廃棄物の時と同じなんてやめてちょうだい!良い!?フリじゃないからね!」

 

答えたサンジェルミは既に遥か後方、近くにいたオルガマリーどころかもう立香達を回収している。見事な逃げ足としか言い様がない。

 

「島津、さん…!」

 

「豊久さん!気を付けて、そいつの槍は…」

 

サンジェルミの小脇に抱えられながら、必死に声を上げるマシュと何かを口走る立香。豊久の身を案じているのが見て取れるが、直ぐにその声は聞こえなくなった。

 

「ふふ、自ら捨て石になるなんて健気なサーヴァントだこと。その忠義に免じて教えてあげましょう。我が槍は不死殺し。これで受けた傷は、例えどんな傷も癒す魔術でも決して元に戻る事は無い……。一撃でも受ければ、サーヴァントとしては死んだも同然。泣き喚いて許しを乞うなら今のうちですよ、哀れな捨て石」

 

嘲笑うライダーだが、豊久は興味無さげに鼻を鳴らすのみである。

 

「槍ば引くなら見逃すど。オカマはあぁ言っちょったじゃっどん、やはりおなごの首はいらん。そげなもん誇っては親っ父と伯父上に()られるわ」

 

豊久には挑発の意など皆無なのだが、ライダーにとってその言葉は侮辱以外の何物でもない。

女であることを理由に侮られた(無自覚)上にまるで自分が格上かのように見逃してやると言ってのけられた(無自覚)のだ。端正な額に青筋が走るのも無理はないだろう。

 

「あぁそう、お優しいこと。でもその減らず口、いつまでもつかしら…ねぇ!」

 

満身の殺意を乗せた刺突が一撃にて脳天を貫かんと地を走る。

だが豊久はそれをバックステップで難なく躱し、追撃の体勢に入ったライダーの土手っ腹に前蹴りをぶち込んだ。

 

「ぅガッ!!」

 

「話の通じんおなごじゃな!嫁ん貰い手ばいのうなるど!」

 

ライダーの身体が凄まじい速度で瓦礫に突っ込み、土煙が舞い上がる中ようやく豊久が刀の鯉口を切る。あくまでも首を奪るためでなく、襲い来る鎖を迎撃するためである。

 

「貴、様は……私のコレクションにはいらないわ。生きたまま手足を捥いで皮を剥ぎ、その臓物を未熟なマスターの前にぶちまける!」

 

『もう聞いてらんない、本人にはその気ないかもしれないけど豊さん相手を怒らせる天才だわ…』

 

その場に居るはずのない導師(ニーハイソックス銀髪ツインテオッパイ眼鏡)の声が、剣戟の音に混じって響いたとか響いていないとか。

 

いずれにしても、開戦の号砲は打ち上げられた。

 

冬木の街に、再び猿叫が轟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

背後からは剣戟と、建物が崩れる轟音。

時折爆風がこちらへも届く程の激戦だが、その闘争の気配は徐々に遠ざかっていく。

その現状が認められずに、ジェルミさんに抱え込まれた私はあらん限りの力で暴れていた。

 

「おろしてジェルミさん!!豊久さんを1人で置いてくなんて、そんなのあんまりだよ!!私がいないと魔力の補給だって出来ないのに…!」

 

「おだまり!!アンタが居ても足手まといどころかモロに弱点にしかならないわ!サーヴァントと正面切ってやるより、マスター叩く方が遥かに楽でしょ!それに何、トヨちゃんの実力疑ってんの?この期に及んで?」

 

残酷な正論に返す言葉もないが、理解と納得は別である。私が足手まといという点については申し開きようがないが、豊久さんがいくら強かろうが『絶対』はないだろう。

 

「でもぉっ…!」

 

「申し訳、ありません…!私がもっと強ければ…!宝具を使いこなせれば、先輩も島津さんもお守りすることができたのに…!」

 

血を吐くように言葉を絞り出すマシュの手のひらは、あまりに強く握りしめたせいか朱に染まっている。

マシュは責任感の強い子だ。短い付き合いだとは言え、危ない所を叱咤激励してくれた恩人を見捨てる要因(自分)が許せないらしい。

 

「マシュ、やっぱりあなた宝具が使えないの!?今の今まで見てなかったからまさかとは思っていたけど!」

 

豊久さんの殺気に充てられ、放心してジェルミさんに担がれていた所長もいつの間にか復活している。宝具がないサーヴァントなんて、だのなんだの喚いているが正直今はそれどころではない。

 

「兎に角!離してください、ジェルミさん〜〜!!」

 

「イッッッダ!手ぇ噛んだわねこのガキャ!!アンタほんと一般人枠!?その我の強さ魔術師向いてるわよ!」

 

「お陰様で今はマシュと豊久さんのマスターなんで!いーかーせーろー!!」

 

 

 

『なんだいなんだい、とんだじゃじゃ馬娘じゃねぇか。ま、それでこそ手の組がいがあるってモンだ、気に入ったぜ』

 

 

 

「「「!?」」」

 

突然響いた声に、驚きでジェルミさんとマシュの足が止まる。ついでに力が緩んで私は地面に落とされた。

 

「ぅごっふぇ!?」

 

離せとは言ったけどもうちょっと丁寧に扱ってくれませんかね!?これでもピチピチの乙女なんですけど!?

 

「あっはっは、とち狂ったサーヴァント共を同時に相手取るたぁ中々見込みがある連中だとは思ったが、こりゃ面白ぇ!どうだい嬢ちゃん達、オレと契約しねぇか?」

 

そう言って姿を見せたのは、蒼天のような青さの装いに身を包んだサーヴァント。

 

「いわゆる共同戦線って奴だ。悪い話じゃねぇだろう?」

 

牙を幻視するほど獰猛に笑うその顔を見て、私は豊久さんと気が合いそうだなぁどと場違いな感想を持つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不死殺しを振るいながら、敵を攻め立てながら、それでもライダーは湧き上がる恐怖を抑えることが出来なかった。

 

(なんだ、なんだ、なんだこいつは────!!)

 

四方八方からの()の攻撃を切り払い、跳ね回って回避し、槍を弾き飛ばす。こちらの攻め手を尽く潰される。()()()()()()()。それなら普通だ。ごく普通の攻防だ。恐れることなど何も無い。

 

だが、この阿呆は今、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(不死殺しだぞ!?不治の傷だぞ!?何故恐れない!何故守らない!!)

 

かの大英雄、ヘラクレスとて完全耐性を付けるには至らない我が宝具を前にして防御をとらないなど……最早言葉もない。理解が出来ない。

 

(こいつは本当に…………)

 

生きた英霊か。

 

突っ込んできた豊久の頭目掛けて、ランサーは全力の突きを放つ。頭で理解出来ずとも、恐怖で心が雲ろうとも、英霊たる彼女の身体は最適解を弾き出した。

 

だが、一瞬でも迷ったランサーとハナから命を捨てた豊久との間には、埋めることの出来ない絶対的な差がある。

 

「チィエオオオオオッッ!!!!!」

 

不死殺しが豊久の頭蓋を刺し貫くより、袈裟に振るわれた野太刀がランサーへ叩き込まれる方が一瞬速い。

 

人外の膂力、瞬発力、そして死を恐れない…いや、死を受け入れている豊久の袈裟斬りに、ランサーは為す術なく吹き飛ばされた。

 

「不治の傷ち言っとったかのう。治る傷の方が珍しか、南蛮人の言うこつはやはい訳ん分からん」

 

事も無げに言い放ちながら、豊久は刃を返して納刀した。

まさかの峰打ちである。この男、サンジェルミに釘を刺されたにも関わらず徹頭徹尾自身の倫理を貫いている。どこぞの陰陽師が見たら憤死しかねない。

 

「…………」

 

最も、峯とは言え全身全霊の一刀を喰らったランサーはビルを3つほど突き抜けた先で物言わぬ屍同然と化しているが。

 

「あぁとんだ骨折りぞ。こうなれば残りのさぁゔぁんとの居場所ば吐かせ、そん首取って行かねばますたぁに顔向けできん!」

 

自らの身体を、生命を的にして敵の首級をとりにいく。

かつてそう評された男の在り方は、英霊となっても何一つ変わらない。

 

どこに行っても結局、島津豊久は島津豊久だった。

 

 

 

 

 

 




正直長年の願望をどうにか形にしたくて書き殴ったこの小説ですが、思いもよらず沢山の方に読んで頂けて嬉し恥ずかし、ちゃんと書きたいと欲が出てきました。

そ ん な 訳 で F G O 始 め ま し た


槍トリア美しいよ槍トリア…
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