狂兵でしょうか?いいえ、漂流者です   作:三途リバー

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みんな違ってみんないい

 

私達の前に現れた青いサーヴァントは自らをキャスターと名乗り、共闘を申し出てきた。彼はこの冬木の街で行われていた本来の聖杯戦争の参加者で、唯一の生き残りだと言う。

 

「おかしくなった連中を介錯してやるためにあちこち駆けずり回ってたんだが、小一時間くらい前から隠す気もねぇ馬鹿でかい殺気をまき散らす奴が現れてな。気になって様子を見に来たわけだ」

 

物騒なことを言いながら心底楽しそうに肩を揺らす様子は、キャスターと言うにはあまりにも獰猛だ。杖よりも槍とかの方が似合う気がするこの人…。

 

「それで、今の今までコソコソと私達の後をつけていたと?随分と品のないサーヴァントだこと」

 

いつにもまして所長がとげとげしいが、それも無理はないだろう。

キャスターの言葉が真実ならば、この人は私達がサーヴァントに襲われ、豊久さんを置いて逃げるところを高みの見物していたことになる。

傍らに控えるマシュが、僅かに身を固くしたのが伝わった。

 

「おめぇらが従えてるもう一騎のサーヴァント…ありゃエクストラクラスか?ま、なんでもいいがよ、とにかくあのあんちゃんがビシビシとガン飛ばして来やがったもんで中々出づらくてな。サーヴァントだからって問答無用で首もがれちゃ堪んねぇや。いつもの槍か、せめて剣でも持って現界してりゃあそれも一興だったんだがな」

 

魔術は本業じゃねぇんだ、などと冗談混じりに首をさするキャスターだが、私は全く笑えなかった。

会話を把握できるほど付かず離れずで尾行され、尚且つ豊久さんはそれに気付いて警戒してくれていた。

不甲斐なさここに極まれり、豊久さんにおんぶにだっこであったと否が応でも突き付けられ、無力感と彼を見捨てる形になった罪悪感が一気に押し寄せてくる。

 

「私は、()()…」

 

「先輩?」

 

そうだ。またお前()はそうやって守られ、庇われ、長らえる。

 

「気に病むことはないわよ。今敵サーヴァントとまともに戦えるのはバーサーカーもどぎだけ、私達がいた所でサンジェルミが言うように足手まといが関の山よ。キャスターの言い分も理に叶って「駄目だよ」…藤丸?」

 

思わず零れた言葉は、自分でも驚くほどに低く、そして冷たかった。

 

「ちょっと、アンタホント少し落ち着きなさい。パンピーがいきなり特異点に投げ出されてパニクるのは分かるけど、さっきまで平気そうだったじゃない。疲れでも出た?ひとまず霊脈の安定した場所探してベースキャンプ作りましょ。あのモヤシヤブ医者と連絡取らなきゃいけないしね」

 

ジェルミさんの言葉が頭に入ってこない。いや、周りの景色さえもう見えなくなっている。

どす黒い絵の具を心の内側にぶちまけられたかのように、負の感情が際限なく湧き上がって私を塗りつぶしていく。

 

「ねぇ、駄目だよそれは。それだけは言っちゃいけない。それだけは許しちゃいけない。だってそんなことしたら、認めちゃう。くそったれの運命を受け入れちゃう」

 

「せん、ぱい…?」

 

そうだ。駄目だ、駄目なのだ。そんなことしたら、()()の死は────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──おいは所詮は戦餓鬼。功名求めて這いずる回るが関ん山の、英霊ですらなか一匹の阿呆よ

 

 

───じゃっとん奴は違う!人理継続保障機関、フィニス・カルデアマスター藤丸立香は違う!

 

 

───おいが貴様相手にがまりばすれば、立香は必ず事を成す

 

 

───おいが貴様の首に届かずとも、立香が必ず食いちぎる

 

 

───おいがここで死んでも、立香は必ず立ち上がる!

 

 

───じゃっで良か。こいで良か、こいが良か

 

 

 

────命捨てがまるは、今ぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ」

 

なんだ、今のイメージは?

記憶?いや違う、私は豊久さんとそんな会話は交わしていない。豊久さんとは今日初めて出会ったんだ、あんな記憶があるわけない。でも知っている、私は知ってる、あの絶望と巫山戯た終わりを私は知っていて、でもそれだけは絶対に認めちゃいけなくて。

 

「先輩ッ!?!?」

 

そこまで思い至った時、脳みそをヤスリで磨かれるような痛みと共に私は限界を迎えた。シャットアウトされていく意識の中で、最後に浮かんだのは私が()()()()()の声。

 

 

『殿は、おいが。カルデアん()()()()、島津中務少輔豊久が務めもそ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

極度の疲労からか突如倒れた立香をよそに、オルガマリーとキャスターの話し合いは続けられていた。

 

マシュは立香の肩を支えながら、いつでも逃走状態に移行できるよう重心を落とす。

キャスターの口ぶりは友好的なものだが、このまま共同戦線構築とはいかないだろう。

 

事実、彼を見るオルガマリーの目は相変わらず厳しい。

 

「確かに言い分は理にかなっているとは言ったわ。詠唱の隙が大きい後衛向きのキャスターが、この至近距離まで近付いてきたことと合わせてそれなりに信用はできる。けれど、あなたを全面的に信頼したわけじゃない。それだけの根拠で人類の未来をあなたに賭け(ディールす)るわけにはいかないのよ」

 

「おー辛辣。で、その心は?」

 

「はん!英霊ともあろうものが、聖杯を求めていつでもどこでも殺し合うような存在が。殺し合いの準備もせずノコノコ出てくる訳がない。共闘話がご破算になった瞬間に、私達を殺す準備くらいはあるんでしょう?」

 

言うが早いか、オルガマリーは素早くマシュの前に立ち塞がった。

両手を広げ、キッとキャスターを睨みつける姿は先程まで泣き喚き、当たり散らしていた少女のものとは思えない。

 

「所長!!」

 

「マシュ!気を抜かず藤丸を守りなさい!これは行儀の良いお話会なんかじゃないのよ!人を容易く殺める兵器、サーヴァントとの()()なの!」

 

「震えを我慢して健気なこった。嬢ちゃんの思いやりにあてられたか?それともあんちゃんの気迫が燃え移ったかい?」

 

「好きに言うが良いわ。私はここで退くわけにはいかない。ここで過つわけにはいかない。人理継続保障機関フィニス・カルデアが長として──!!」

 

時間にすれば5秒にも満たない睨み合い。しかし、その一瞬だけで、これまでとは比べ物にならない密度の殺気が総身に叩き付けられた。

 

「っ、ぐッ…!!」

 

内臓をひっくり返され、胃の中身を全部吐き出したくなるほど気分が悪くなる。だが今この瞬間、オルガマリーが感じている恐怖はマシュのそれを優に上回るだろう。

 

これまでの人生ではまず経験のない殺気の源に相対し、それでもオルガマリー・アニムスフィアは立っている。マシュを、立香を、人類の希望を守らんとその身を投げ出している。

その姿は紛れもなく人理の守り手。誰がなんと言おうとも、勇者の姿そのものである。

 

「ふーん…90点てとこかねぇ」

 

重苦しい沈黙を破ったのは、キャスターだった。

杖で肩を叩きながら彼は口笛を吹き鳴らす。

 

「っ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!!」

 

途端に呼吸を乱し、崩れ落ちるオルガマリーとマシュ。その顔は脂汗にまみれ、死人と見紛うほど青白い。特にオルガマリーなど、歯の根は合わず、過呼吸を起こしてもう大惨事だ。

しかしキャスターは決してそれを笑わない。

 

「ぴぃぴぃうるせぇお荷物かと思ったが、お前さん中々やるな。気の強い女は嫌いじゃねぇぜ」

 

「なに、えら、そうなっ………」

 

「落ち着いて深呼吸でもしろって。ま、そりゃ偉ぇからな。なんたって俺は」

 

「クランの猛犬」

 

唐突に、サンジェルミがキャスターの言葉を遮った。その一言を聞いた途端、笑っていたキャスターの声が一段低くなる。

 

「なに?」

 

「なにって、そこの小娘の回答に10点分加点してあげようと思って。詠唱の隙を考慮しない、しかも常に片手を開けているところから見てその魔術はルーンかそこら。ケルト系の魔術ならフィン・マックールあたりもまぁあったかもしんないけど、槍メインで剣にルーンとそんな多彩な変態って言ったらもう、ねぇ?」

 

「てめぇ…」

 

蒼き英霊の眼光を前にしても、サンジェルミは涼し気な態度を崩さない。慣れっこだというように、余裕たっぷりに指を鳴らした。

 

「マスターも失い、因果逆転のチート武器も持たないんじゃあそりゃあ聖杯戦争を勝ち抜くなんて出来ないわよねぇ」

 

彼我の戦力差は分かっていように、サンジェルミは挑発的な態度を崩さない。その奇っ怪な姿形から失念されがちだが、彼は恒久の時を生きると噂され、事実異世界にて島津豊久と邂逅している正真正銘の怪物。人智を超えた存在に、片足どころか腰までどっぷり浸かっているのだ。

 

「あなたはアタシ達を試してる口ぶりだけど、その実そうじゃない。あなたはアタシ達と手を組みたくて仕方がない!さぁどうするのアルスターのクー・フーリン!アタシ達と手を組むか!それとも勝ち目のない戦いにノコノコ出向いて玉砕するか!あなたのお話、聞いてあげてもよくってよ!?」

 

錬金術師、サンジェルミ伯爵の面目躍如。

芝居がかって、自信たっぷりに言い切るその姿からは確かな威が滲み出ていた。

 

「ぷっ………ははははははは!!!申し分ねぇ!満点だ!こりゃあ一本取られちまったなぁ!」

 

先程までの殺気を霧散させて、楽しくて堪らないといった風に笑うキャスター。その姿はに、マシュとオルガマリーも呆気に取られるしかない。

 

「偶にはマトモな戦いに呼ばれねぇかと思っちゃいたが、こいつは思わぬ僥倖だ!真っ直ぐなマスターにそれに応えるサーヴァント!恐怖を抑え込めるケツ持ちに得体の知れねぇオカマと来た!いいねぇ、是非ともあんたらと()()()あがりてぇもんだ!」

 

「げ、言質取ったわよォ〜………」

 

へたり込むサンジェルミと笑い続けるキャスター。眠りに落ちるマスターに代わり、マシュの口から例の言葉が溢れ出る。

 

「なんですかこれ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見ていた。

 

遠い過去の夢。どうしようもなく苦しくて辛くて、それでもそれを容易く上回るくらい楽しかった、まさに夢のような日々のこと。

 

彼はいつも1人で暴れて、自分のやりたいことを貫いて、やりたくない事は梃子でも動かずやらなくて。仲間たちもそれに呆れながら、時には激怒して武器を振り回しながらもそれを心地よく思っていて。

 

皆、彼が大好きだった。勿論私も。

誰もが彼に助けられ、守られ、その暖かさに救われていた。

そう、最後の最後まで。

 

「目が覚めた?」

 

「……うん。護衛ありがとね」

 

「しかしだらしないわね、寝ながら泣きべそかいて目を真っ赤にして。とんだザマだわ」

 

「ふふ、ごめんごめん。でもなんだかんだ言って付いてきてくれる■■■■好きー」

 

「当たり前でしょうが。あの時アイツに付いていき損ねた私が、今度はあなたの元からも離れたら……あぁ嫌だ、考えただけで頭蓋骨が痛んできた。って、そんな事どうでも良いのよ。ほら行くんでしょ、()()()()

 

「そうだね、征こう。征って、全部を否定しよう。彼を犠牲に守られた世界を、ひとつ残らず丁寧に壊して、そうして彼に教えてあげよう」

 

この世界も、私達も。あなたに守られるだけの価値なんてなかったんだよって。

 

 





こんにちは、先日のピックアップで無事に邪ンヌをスナイプしたものの、欲しいサーヴァントが限定ばっかで血涙を流す新米マスターです。

土方歳三ピックアップ来てぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!

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