狂兵でしょうか?いいえ、漂流者です   作:三途リバー

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Call me!?

 

無機質な白い壁、白い床。

まるで生命を感じさせないような通路の前に、豊久は立っていた。

()()()と、何も変わらぬ不気味な通路である。

 

「お、前………」

 

そして眼前の男も、記憶の中と何一つ変わらない。

関ヶ原の大戦さ、烏頭坂での捨て奸の後にまみえたその時ままの姿である。

 

「…薩摩に帰すち、そげん訳ではなさそうだの」

 

不思議なことに、それだけは確信を持っていた。

なぜなら豊久は死んだからである。戦場でではない。火矢に囲まれた寺ででも無い。

廃城の近くの長閑な丘の上で、戦友に看取られて穏やかに死んだのだ。

 

「お前は誰だ。なんだったのだ。おいを、何故(ないごて)()()へ呼んだ。捨て奸ではなかったのか。おいが戦場で命ば捨てがまるんは、運命(さだめ)ではなかったのか」

 

豊久は、マモン間原の戦いで『理由』を、己が果たすべきことを悟ったと思ったのだ。だがその実、彼は生き残った。土方(さぶらい)に救われ、(あほう)に拾われ、生き残って黒王を討った。それが成すべきことだったのか?

 

「………」

 

男は答えない。ただあの時と同じように、手元を素早く動かすのみだった。

 

「!」

 

やがて、豊久の身体から光の粒子が立ち上り始めた。いや、少し違う。豊久の身体が、粒子になっているのだ。

身体が軽くなっていく感覚と共に、思考もだんだん霞んでいく。 これが死の感覚…いや、それは一度経験した。兎にも角にも、己がここで終わるのだという事だけは分かる。

 

呼吸を2つ3つするうちには、もう豊久の意識はほとんど消えかけている。ぼんやりと、ついぞ果たし得なかった伯父との約束が頭にチラつく。

 

『待っておるぞ豊久ぁっ!!待っておるぞ、薩摩で!!死んだら許さぬぞ、豊久ぁっ!!』

 

(こいが走馬灯か。………骨の一本でん…いや、鎧兜の一部だけでん薩摩に帰れれば、伯父上にも申し訳ば立つんだがの。仕方(せんかた)なか。化け物ん総大将が首級で、勘弁したもんせ)

 

深い眠りに落ちていくように、頭に漆黒の帳が落ちる、その直前。

 

「君()()は何を望む。島津家久が子ではなく、島津義弘が甥でもなく。島津豊久自身は、何を願う」

 

何を戯けたことを。

決まっているだろう、そんなもの。

 

「おい、は────────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまらん!遠当てされてはなんもできん!与一がおったら話ば違ったんじゃが…」

 

珍しく愚痴を吐きながら、豊久は霰の如く飛来する文字通りの剣雨を躱し続けていた。

 

ランサーを打ち倒して情報を聞き出そうと歩みよった矢先、視認も難しい遥か彼方からの狙撃で彼女は周囲の瓦礫ごと消し飛んだ。

 

地形を変えるほどの大爆発に、直や提督が操っていた未来の時代の産物かと思ったがどうやら違う。

 

視認する限り、次々に撃ち込まれてくるのはどうやら弓矢…いや弓剣である。

 

「鬱陶しか!」

 

通常の剣に混じって、どろりとした不快な殺意…魔力、というべきであろうか。ともかく違和感を感じる剣が降り注ぎ、時折大爆発を巻き起こす。持ち前の直感でそれらを尽く判別・回避する豊久であるが、出来ることはそれまでである。

 

サーヴァントとしていくら素の能力が向上していようと、流石に見えもしない敵を逆狙撃するのは至難の技だ。

そもそも豊久の遠距離攻撃手段は、腰に据えられた命中精度の低い馬上筒のみ。生前も狙撃というより至近距離で瞬間火力を押し付ける形での運用が主だった。

鷹の目を誇る弓兵相手には些か以上に分が悪い。

 

「シィッ──!!」

 

故に、豊久は迷わず撤退を選択した。

 

波平を振るって手近なビル群を切り倒すと、もうもうと撒き上がる土煙の中へ身を踊りこませる。

 

障壁と煙幕を作り出し、敵に狙いを絞らせないことを意図した行動である。

前しか向かない頭薩摩隼人だのなんだの言われる豊久だが、その実冷徹なまでに引き際を弁えている。

敵に背を向けることを恥とも思わぬし、必要ならば飛んで跳ねて逃げ回る。そうしてやがて、来たる勝利への布石とするのだ。

 

(面倒な敵兵(やつばら)じゃっどん、そいでこそ首ん掻き甲斐ばあっど)

 

爛々と眼光を輝かせ、素早く建物の影に身を潜らせる豊久。その覇気は、どこからどう見ても撤退真っ最中とは思えぬほどに獰猛だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……馬鹿な」

 

爆心地から5km以上離れた、一際高いタワーマンション。

その屋上に弓兵が立っている。

()を番え、いつでも獲物を撃ち抜ける態勢のままで撒き上がった目眩しを注視する。

 

(それで姿を隠し、あるいは身を守ったつもりか?だが、甘いと言わざるを得んな)

 

煙幕を焚いたとて、それは空気の流れを視認できるようにする。

建物の残骸を盾にしたとて、今以上の威力をもって撃ち抜けば事足りる。

 

逃げたつもりが、袋小路に飛び込んだも同然。

事実、既にアーチャーの双眸は惑うことなく敵の影を捉えている。

 

それでも弓兵…シャドウサーヴァント・アーチャーは慢心を起こさない。

 

我が骨子は捻じれ狂う(I am the born of my sord)

 

それが引き起こす最悪の結末を身をもって知るが故に。それを突くことこそ己の領分であるが故に。

 

そう、油断や慢心など存在しなかった。

付け入る隙を与えず、己の間合いで完膚無きまでに封殺するという戦略を、何の支障もなくアーチャーは遂行していたのだ。

 

彼に誤算が、もしくは不運があったとすればそれはただ一つ。

 

敵対者(ドリフター)が、窮地を覆す専門家であったことだ。

 

(っ、煙が晴れる?いや、晴らしている?今更姿を晒して、何を…いや待て、奴は何かを言っている!)

 

類稀なる視力を持つが故に、アーチャーはそれをはっきりと視認した。視認してしまった。

 

物陰から出で、ぎらりと笑う戦餓鬼の口元を。

 

 

 

(そ こ に お れ)

 

 

 

「ッ!?!?」

 

戸惑いも恐怖も、感情の類を覚える前に身体が動いた。

赤い光を迸らせ、魔力を込めて練り上げた必殺の矢が宙を裂いて飛んでいく。

だがその必殺は敵を貫く事はなく、唐突に()()()()()()()()にぶちあたって大爆発を巻き起こした。

 

偽螺旋剣(カラド・ボルグII)を防御だと!?増援かっ!!」

 

光に飲まれて周囲の状況が目視できない中、宵闇をつんざくのは咆哮。

 

「ぉぉおおおおおおおッッッ!!!」

 

光と煙の中を突っ切り、5kmはあろう距離をぶち抜いて眼前に現れたるは猩猩緋の武者。

 

「な」

 

「大技には必ずある、そん派手な鬨の声ば待っとったど!」

 

(偽螺旋剣の魔力の放出から、こちらの位置をっ…)

 

だとしてもどうやってあの攻撃を凌いだ?

増援ならどこに隠れていた?

そもそもどうやってここまで飛んできた?

 

次から次へと疑問が湧いてはアーチャーの頭を埋め尽くすが、敵はそんなものを待ちはしない。

殺人的な加速を得た飛び蹴りが腹にめり込み、堪らず血反吐をぶちまける。

 

「ごぼッ…がっ、ぁ……!」

 

飛びかける意識の手綱を必死で手繰り寄せ、受身を取るがアーチャーの身体は既に屋上の柵を破り、中空へと投げ出されていた。

 

「ぜぇぇい!!」

 

「!」

 

殺気に反応し、咄嗟に双剣を交錯させたアーチャーの腕に凄まじい 圧力が伸し掛かる。

鉄塊で押し潰されたかと思う程の重さだが、()()が単なる斬撃だと気が付いたのは、殺しきれなかった威力により地面に叩き付けられた後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーチャーに肉薄し、一撃を喰らわせた豊久は瞬時に次の行動に移行した。

 

(まだぞ!奴ん目ば死んどらん!)

 

交した刃ごしに突き合わせた敵の瞳からは、戦意の炎が消えていなかった。それを証明するように空中を落下する豊久を狙って無数の剣が殺到している。

 

それら全てを弾きながら、左腕を腰に回す。掴んだのはかの猛将、徳川四天王が一人、井伊兵部少輔直政を撃ち落とした馬上筒。

目当ても付けずぶっ放すが、その時地面を覆うように華の天蓋が咲き誇った。

 

熾天覆う七つの円環ロー・アイアス!」

 

展開された8枚の花弁を3枚散らしたところで、豊久の放った銃弾は打ち消された。

だがアーチャーが全意識を防御に集中した隙に、豊久は既に得物に魔力を込め終わっている。

豊久の体重、落下速度、そして魔力(殺意)を載せた野太刀の切っ先は容易く残りの盾をぶち抜いていく。

 

「ぐ、おぉぉぉぉおおおおお!!!」

 

だが敵もさるもの、掲げた左腕から血をまき散らしながらも右腕には既に剣が握られていた。

 

最後の花弁が砕け散るのと同時、豊久とアーチャーは再び交錯する。

 

 

 

ずるり────

 

 

 

「……不快だな。功名を得て何が変わる。首級を挙げて何になる?貴様は一体、何がしたい。あの小娘に付き従い、世界を救うか?」

 

刀を振り抜いた姿勢のまま、背中越しに問いかけられる疑問。

 

「おいは所詮は戦餓鬼。寝てん覚めてん、何処に行ってん()()しかなか。首級を奪らねば、只の木偶よ」

 

「はっ…愚かを通り越し…憐れ、だ…な…

 

背後で肉が崩れ落ちる音を聞きながら、豊久は今度こそ血糊を払い刀を納めた。

 

 

 

 

 





島津豊久、色んな見方があると思いますが、なんだかんだ彼を一言で表すとしたら、狂奔でも王の器でもなんでもなく『純粋』だと思っています(個人の感想)。

それはそうと、FGOのキャラ育成頭おかしくないですか???
アズールでレーンなエロゲに慣れた私には苦行が過ぎる…
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